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「むっ!? コレは戦闘中か?」


 そろそろ森に入って10分ほど経っただろうかって頃に、微かに人の声のようなものが聞こえてきた。

 女性の声だし……ルイたちかな?


 邪魔にならないように気を付けて近付くか。


 そう決めると、俺は高度を上げて音が聞こえてきた方向に向かうことにした。


 ◇


「無理に攻める必要はありません。こちらに引き付けて囲みますよ!」


「おおっ!!」


 俺が上から近づいていくと、ちょうど戦闘は佳境に入っていた。

 周りに魔物の死体が転がっていて、ルイたちを中心に迎え撃っている。


 どうやらこれまでは普通に戦っていたようだが、今はルイたちが壁になって魔物を引き付けるつもりらしい。

 冒険者たちは横に広がって魔物を包囲するように動いているし、側面や背後から仕掛けているんだろう。


 面子はルイたち4人と、彼女たちについて来た冒険者10人ほど。


 ルイたちが照明の魔法を使ったらしく、木や地面のあちらこちらに明かりがあり、視界はしっかりと確保出来ているし、その十数人がルイの指示に従って上手く戦っていた。


 魔物の種類は小型種ばかりだが数は多いし、もし壁を抜けられたり包囲を破られると面倒なことになるが……これだけ統制が取れているのなら、俺が援護に入らなくても大丈夫かな?

 むしろ、今この状況で俺が加わると、バランスを崩してしまうかもしれないしな。


 そのまま上から戦況を眺めていたのだが。


「っ!? 上にサル!!」


「セラ様っ!?」


 ルイたちの後ろに生えた木の上に、数匹のサルの魔物の姿があった。

 そして、そのサルたちが今まさに、飛びかかろうとしている。


 強さはゴブリンより少し強い程度で、ほぼ大差は無い。

 だが、ただでさえ正面に多数の魔物を抱え込んでいるんだ。

 頭上から不意打ちを食らえば、流石に彼女たちでも厳しいだろう。


 邪魔になるかもしれないから手出しはしまいと決めていたが、ここは俺も参加させて貰う。


「ふっ!」


【浮き玉】を加速させて一気に距離を詰めた俺は、まずは樹上のサルたちに尻尾を振り抜いた。


 当たったのは一匹だが、他のサルのバランスを崩すことには成功している。

 奇襲は防げたな。


「構いません! 貴方たちはそのまま続けなさい!!」


 下も、魔物たちを包囲している冒険者たちが、俺の声に一瞬気を取られはしたものの、すぐに出た指示によって立て直している。

 さらに。


「セラ様! 魔物を落とされても下で対処出来ます!」


 サルたちの処理をする余裕もあるようだ。


「りょーかい!」


 それなら、俺は無理をせずに下の連中に任せよう。


「よいしょっ!」


 俺はサルたちが掴んでいる木の枝目がけて右手を振り抜き、その枝を切断した。


 ◇


 サルたちを落下させてから間もなく、下の戦闘は終了した。


 まずサルたちは、自分たちがいる枝ごと落下したことにパニックにでもなったのか、キィキィ叫びながら逃げようとしていたが、待ち構えていたルイたちに即座に仕留められた。


 そして、包囲されている魔物たちもジワジワ数を減らしていき、今は深手を負わされて後回しにされていた魔物たちが、止めを刺されている。

 まだ暴れる力が残っている魔物もいはするが、全滅は時間の問題だろう。


「お疲れ様。アレクのところに行く途中に戦闘音を聞いてこっちに来たんだ。邪魔になったらどうしようかと思って、手出しは控えてたんだけど、無事倒せてよかったよ」


「いえ、助かりました。地上の魔物には、動きを見逃さないように注意を払っていたのですが、頭上までは及ばず……。もし奇襲を受けていたら、負傷者が出ていたかもしれません」


 助かったとは言っているが、結構余裕そうだな。


「魔物はあんまり強くない?」


「本格的な戦闘は今のが初めてですが……正直なところ、数は多くても強さそのものは脅威ではありません。もちろん、今のような奇襲をしてくる魔物が増えれば面倒ですが……」


 まぁ、彼女たちはこっちに来たばかりだから聞かれても困るか。

 それなら……と、俺たちの声が届いていたであろう冒険者たちに視線を向けるが、彼等は肩を竦めて魔物に止めを刺して回っている。


 ……どうやら、油断は出来ないがそこまで脅威ではない、ごく普通の魔物で間違いはなさそうか。


1293


「我々のもとに来たと言うことは、外のテレサ様とはお会いになったのですね?」


「うん。と言っても、アレクを探すついでなんだけどね。ところで、戦闘になったのは何組目? オレも森に入ってから何組か倒したんだけどさ、何かアレクたちが追ってるはずの群れとは違うみたいなんだよね。強さは大したことなかったし、この辺の魔物なんだろうけれど……なんか変なとことかなかった?」


 返事がてらに、一先ず森に入ってからの気になったことを訊ねることにした。

 彼女たちはこの森での狩りはまだ初めてだろうけれど、冒険者としての経験は豊富だろうし、同行している冒険者たちだって腕は悪くない。

 ルイたちに舞い上がって参加したって割には、結構まともな戦力が集まっているよな。


 ともあれ、何か気付いたことがあるかのしれない。


 そう思ったんだが。


「先程の群れよりは少ない数でしたが、3度ほど魔物の群れと遭遇しました。構成はも強さも大差は無かったですね。特に戦って違和感は感じませんでしたが……それらは違う群れの魔物だったのですか?」


 俺の言葉にルイはどうにもピンと来なかったようで、不思議そうな顔をしている。


 まぁ……普通だと、それが別の群れの魔物なのか、別動隊だったりはぐれただけなのかだったり、判別出来ないもんな。

 俺だって、今回はたまたま聖貨をゲットしたからわかっただけだし、彼女たちがわからないのも無理もない。


 俺は「気にしないで」と言うと、続きを促した。


「はっ。我々はテレサ様に命じられて森に入り、真っ直ぐ西に向かいました」


「浅瀬より少し奥を西に横断する感じかな?」


「はい。全ての魔物を倒しているわけではありませんし、中には森の外に逃げ出した魔物もいるでしょうが、決して多くはありません。そちらは森の南側に布陣している隊が始末しているはずです」


「なるほどー……」


 彼女たち一行が、少々強引ではあるが森の浅瀬の東側からダーッと西に突っ切って、とりあえずこれ以上奥の魔物が流れてこないように分断するんだな。

 んで、外に逃げた魔物は外にいる連中が倒す……と。


 彼女たちの言ってる言葉通りなら、外の連中が戦っていた魔物はまた別なのかな?

 もうちょっと数が多かったよな?


 ふむふむと頷いていると、さらに話を続けた。


「今は……行程は半ば程でしょうか? 横断しきったところで、我々は一度外に出て外の隊と合流する予定です。申し訳ありませんが、アレクシオ隊長の現在地はわかりません」


「そっか……。まぁ、この辺にいないってことがわかっただけいいかな? それじゃー……結構奥にいそうだよね」


「恐らくは」


 アレクがどんな編成で行ってるのかはわからないが、少なくともこの辺に彼等の気配は伝わっていないってことは、もっと奥だよな?

 これはもう、悠長にのんびり飛んで行くよりも、上から一気に移動しながら探す方が効率いいか。


 わざわざ俺が森の中を調べたり魔物を倒して回らなくても、これだけ備えているんなら大丈夫だろうしな。


「ありがとう。それじゃー……オレは奥に行ってみるよ。大丈夫とは思うけど、皆も気を付けて」


「はっ。セラ様もお気をつけて」


 挨拶をすると、俺は高度を上げて一気に頭上を覆う木の枝を突破した。


 ◇


 森の上空に出た俺は、一旦周囲の様子を探ってみた。


「森の外には変化は無し……と。ついでに森の奥も変わりはないね。魔法を使う連中を連れているのかはわからないけど、とりあえず派手な戦闘にはなってないか。それとも、まだ遭遇していないとか?」


 どうにも変な感じだ。


 これが街への襲撃なら、後ろに群れのボスが控えることはあっても、部下はどんどん襲ってくるもんなんだが、そんな素振りは無いし……。

 やっぱり、本来ここまで来るような魔物たちじゃないから、ちょっと違う動きをしているのかな?


 それならアレクが早い段階で俺を呼ぶのもわかるな。

 あんまり時間を与えても、何をしてくるかわからないし……。


 アレクたちを探すついでに、魔物の群れの位置も探ってみるかね。


「よし! 行こう!」


 腕と尻尾で掴んでいる枝に再度照明の魔法をかけると、俺は一気に森の上空を北に向かって飛んで行った。

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