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ジグハルトを連れて執務室に帰って来た俺は、それまでと同様にセリアーナの側に浮いていて、ジグハルトはソファーに座りながら、何かの資料を見ていた、
部屋を訪れる者たちは、部屋にいるジグハルトに気付くと、自分たちの話をしながらもチラチラとジグハルトに視線を向けていたが、彼はそれを無視して黙々と書類を片付けていた。
しばらくその状況は続いていたんだが、しばらく時間が経ったところで部屋を訪れる者もいなくなってきた。
時折入って来る者もいるが、騎士団関係者らしき恰好をしているし、彼等はお客扱いじゃなくてもいいだろう。
外の声から、屋敷を訪れるもの自体はまだまだいるようだが、この部屋にまで人を寄こせる層は打ち止めかな?
「部屋に来る人は落ち着いたみたいだね」
「ええ。そろそろ日が落ちる頃だし、仮に来たとしても明日に回されるでしょうね。ジグハルト」
俺と一緒に窓の外を見ながら喋っていたセリアーナは、ジグハルトの方に顔を向けると、彼にこちらに来るようにと手招きをした。
「ん? どうした?」
「人が減ってきたことだし、少し貴方の意見を聞かせて欲しいの。冒険者ギルドにも顔を出してきたんでしょう?」
「僕たちも聞かせてもらうよ。騎士団の伝令を通して大まかな進行状況は入って来るけれど、現場の様子まではわからないからね」
セリアーナの言葉に、机を並べているリーゼルも乗っかってきた。
ついでに、オーギュストや、テレサにエレナもやって来る。
俺はこの部屋まで来る間に色々聞かせてもらったが、彼女たちは知らないままだったし気になるよな。
「まあ……そうだな。大したことはないが……話すか。俺も現場には出ていないし、冒険者ギルドの方だけでいいんだろう?」
ジグハルトはそう言うと、ソファーから立ち上がりこちらにやって来た。
「冒険者は……あまり乗り気じゃ無かったな」
「そうなのかい?」
「ああ。元々腕が立つ連中が例年よりも休暇に入るのが早かったから、纏め役が不在だってのが大きいかもな。それに、俺が行った時にはまだ詳しい情報が伝わっていなかったようだったからか、まだどれ程の状況かも碌に把握出来ていないし、大半が様子見する構えだったな」
騎士団がどれくらい戦力を用意するかだとか、周りの冒険者で誰が参加するかだとかは、ソロや少数パーティーを組んでいる冒険者にとっては大事なことだよな。
ジグハルトも言ったように、魔物の規模だとか危険度がわからないうちは、率先して参加するようなことじゃないだろう。
俺だけじゃなくて、聞いていた皆も「なるほど……」と言った様子で頷いている。
「まあ……ただ、場合によっては参加する冒険者が増えるかもな。アンタたちが王都から連れてきた冒険者たちがいただろう?」
「ルイさんたちのことだね」
「……名前は知らないが、その護衛の冒険者たちだな。俺が奥で報告をしている間にギルドに来ていたが、参加するんだろう?」
「ええ。彼女たちにとっては丁度いいアピールの場でしょう?」
一応登録しに行った時も顔を売れはしたが、あの時は騒動の方がインパクトあったし、改めて騎士団にも冒険者にも顔を売るには、今回の件にしっかり参加しておいた方がいい……ってことで、セリアーナが参加させたんだ。
「確かに顔を売れるのは間違いないだろうが……ちと目立ち過ぎていたな。参加する連中は増えるかもしれないが、その分統制がとれるかどうかはわからないな」
「たった数日なのに、大人気だよね……」
俺の呟きに「だよな」とジグハルトが笑っていると、逆に呆れた様にテレサが口を開いた。
「森に入る騎士団の兵たちでは冒険者の面倒までは見切れませんね。わかりました。オーギュスト団長、私が冒険者たちの指揮に入ります。いいですね?」
一応オーギュストに許可を貰うようなことを言っているが、有無を言わさない雰囲気だ。
オーギュストも一瞬言葉に詰まっている。
「……わかった。どの道冒険者たちを率いる者が必要だったし、テレサ殿に任せよう。少し待ってくれ」
そう言ってオーギュストは自分の席に戻っていった。
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オーギュストが用意しているのは、冒険者ギルド宛ての指令書だ。
冒険者たちの指揮をテレサに任せるためだな。
「姫」
さて、俺たちはセリアーナの机の周りで、オーギュストが指令書を書き終えるのを待っていたんだが、ふとテレサが声をかけてきた。
「うん? どうかした?」
「はっ。姫の【赤の剣】をお借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「アレを? いいけど……使うほどかな? 【小玉】も持ってく?」
部屋に置いたままの、実質テレサ専用の【赤の剣】は強力な恩恵品ではあるけれど、北の森の魔物程度なら普段のテレサの剣だけで十分だろう。
それよりも、森での機動力を補える【小玉】の方がいいんじゃないかな?
だが、テレサは「ありがとうございます」と礼を言いつつも、首を横に振った。
「冒険者たちの士気高揚のために、数体派手に倒す必要があるだけですから。それ以外は馬上で指揮に専念するつもりです」
「……あぁ。一の森の側だと、あんまり魔法とかは使わない方がいいしね」
騎士団の指揮ならともかく、冒険者相手ならとりあえず派手に一発ドカンとやっておいた方が、指示の通りは良いだろう。
それに、指揮を執るなら足並みをそろえた方がいいだろうし、【小玉】よりも馬の方が向いているか。
テレサの言葉にふむふむと頷いていると、どうやら指令書を書き終えたらしいオーギュストが、席を立ってこちらにやって来た。
「テレサ殿、待たせて済まない。コレを……。そちらの話はもう終わったか?」
「ええ。それでは、姫、奥様。行ってまいります」
オーギュストから指令書を受け取ったテレサは、スッと礼をすると足早に部屋を出て行ったが、それを見送りながらふと思いついたことが一つ。
「オレもついて行った方がいいかな?」
テレサが出るのは冒険者の指揮を執るためだが、どうしても騎士団と冒険者との連携も必要になるだろう。
アレクがいるし、2番隊は元冒険者の集団だからそれなりに合わせる事は出来るだろうけれど、参加する冒険者たちのメンツ次第じゃ動きが読めないかもしれないかも知れない。
仕事は出来るかも知れないが……なんといっても、舞い上がってる連中だらけの可能性もあるしな。
場合によっては、テレサですら手に余るかもしれない。
それなら、連絡役として俺も行った方がいいと思うんだ。
どうかな……と皆の顔を見ると、オーギュストが即座に首を横に振って答えた。
「いや、まだ外がどう動くかはわからない。恐らくセラ副長にも出てもらうことになるだろうが、今はまだ待機した方がいいだろう」
「む、そう?」
オーギュストの言葉に首を傾げると、ジグハルトがさらに続けてきた。
「そうだな。必要になればテレサが人を寄こすさ。それに……起きるかどうかは微妙だが、俺が出るような事態になった時に、お前がここにいる方が各所に伝達が手早く出来るだろう?」
「……それもそうだね」
ジグハルトが出るってことは、街が魔物に直接襲われるか、一の森の魔物がつられて出てくるか……。
どちらにせよ、ただ事ではないような事態だ。
ジグハルトが言うように、そんな事態が来るかどうかはわからないが、それでも一応備えておく方がいいだろう。
俺は二人の言葉に頷いた。
◇
テレサが出動してからしばらくすると、下の研究所に籠っていたフィオーラが、疲れた様子で執務室にやって来た。
「お疲れ様。ポーションの配給は済ませたし、下での仕事は終わったわ。……私もここで待機させてもらうわよ」
フィオーラは研究所で、今回の件で必要になるであろうポーションの作成はもちろんだが、配給の手配もやっていたらしい。
普段とは違う仕事をしたんなら疲れてもおかしくないかな?
「ご苦労様。今のところ貴女に出てもらうような報告は入っていないわ。ゆっくり休んでいて頂戴」
「僕たちのことは気にせず楽にしていてくれ。……フィオーラ殿、素材は大丈夫だったかい?」
「ええ。ここ数日の魔物の討伐で、想定していたよりも消費しなかったから足りないなんてことは無かったわ」
フィオーラは、セリアーナやリーゼルに短く答えると、そのままジグハルトの隣にドサッと座り込んだ。
……これは大分お疲れっぽいな。
【祈り】を使うのは控えているけれど、肩くらいは揉んであげようかな?
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