605
1282
「悪いが俺たちは先行して街に戻らせてもらう。お前たちは、その馬車を運んでくれ」
アレクは冒険者たちに指示を出すと、続けて、部下の兵たちにも指示を始めた。
「街に戻ったら、装備の点検と小休止をしたら北の森に入るぞ。行けるな?」
朝から討伐任務に出ずっぱりだったのに、さらに北の森にも入るのか。
大変過ぎないか……と兵たちを見るが。
「……仕方ないな」
「ああ。どうせしばらくは暇になるんだ。もうひと働きするくらいはいいさ」
決して乗り気ってわけじゃないが、少なくともやる気自体はあるようだ。
タフだな……と思うが、まぁ、この問題を放置したら、雨季の間中ずっと街の外を警戒し続けないといけなくなるもんな。
ここは彼等に頑張って……。
「セラ」
「ぉぅっ!?」
「何だ……変な声を上げて」
「いや、大丈夫。ちょっと気を抜いてただけだから……。んで? オレは何をやったらいいのかな?」
今の俺の状態で、アレクが頼み事か。
……伝令かな?
「先行して街に戻って欲しい。本部でリックが町に残っている2番隊を集めているから、そこで俺が出動に了承したと伝えてくれ」
やっぱりか。
「なるほど……了解。それだけかな?」
「いや。その後お前はオーギュストの指揮下に入ってくれるか? 戦闘は無いと思うが、街の各所への伝令等で力を借りたいはずだ」
「ほぅ……別に魔物の討伐でもいいんだけど……まぁ、わかったよ。それじゃー、もういいね?」
「ああ。任せた」
「はいはい!」
俺は皆に手を振ると、【浮き玉】の高度を上げて、街目指して一気に加速させた。
◇
「お? 副長か」
「戻って来たな。隊長はどうした?」
領都に戻った俺は、真っ直ぐ騎士団本部に向かったが、中に入った途端2番隊の兵たちに質問攻めにあう。
普段はコイツ等はここにはあまり居つかないんだが……リックが集めたのか。
「はいはい……質問は後ね。それよりも、リック君は……」
俺は、質問を投げかけて来る兵たちを適当にあしらいつつリックを探していると、ホールの奥で何人かで集まって話をしている一団の中に、武装したリックの姿を見つけた。
「セラ副長か。早かったな」
俺が近づいていくと、リックはすぐに気付いたのか、話を中断してこちらを向いた。
合わせて、他のメンツもこちらを見て来るが……皆そこはかとなく見覚えがある顔だ。
支部長のカーンはいないが、冒険者ギルドのお偉いさんたちだな。
「アレクシオ隊長は何と言っていた?」
「引き受けるって。同行した冒険者たちに荷物を任せて、アレクたちはこっちに向かってきてるよ。外の見回りでは、あんまり消耗は無かったみたいだったし、少し休憩してから森に入るってさ」
俺の言葉にリックは頷き、お偉いさんたちは「ホッ」と息を吐いていた。
アレクたちが朝から討伐任務に出かけているのは彼等も知っているし、流石に断られるとは思っていないだろうが、それでもすぐに動けるかどうかはわからなかったんだろう。
「それで……オレは団長の指揮下に入ってって言われてるんだけど、どうしようか?」
と言うか、まだ北門での戦闘が終わってからそんなに時間は経っていないし、上にはどこまで話が伝わってるんだろう?
「領主様や団長には既に報告している。状況に応じて、団長から何か指示が下るだろうが……そうそう忙しくなるようなことは無いはずだ」
「……ほぅ」
リックの言葉に、思わず喉を鳴らしてしまった。
まぁ……討伐任務中のアレクをわざわざ呼び寄せるほどだったし、それなりに大事なんだろうなとは思っていたが、どうやら今回の件は、街への魔物の襲撃と同じくらいに警戒しているようだ。
確かに群れの数も、群れを率いるボスの種族も未だに判明していないし、厄介と言えば厄介なんだが、少なくとも魔王種だとか、魔境の強者だとかっていうことは無さそうなんだ。
そこまで警戒しなくても……って気はするが、とりあえず、これだけ気を付けているのなら街に心配は無さそうかな?
俺はリックにここでの後のことを任せると、とりあえず屋敷に向かうことにした。
1283
「ただいまー! って……皆お揃いで」
騎士団本部での報告を終えた俺は、一先ずリーゼルたちの元に向かうために、屋敷に向かって飛んでいくと、執務室の窓が開いていた。
ってことで、久々にそこから入ると、中ではオーギュストたちを始めとした騎士団から来ている者たちが、待ち構えているかのように、窓のすぐ前に立っている。
普段は、俺が部屋に入る際に窓際に立っているのはエレナかテレサなんだが……このメンツ。
わかってはいたけれど、中々の迫力だ。
「セラ副長、街の巡回並びに、1番隊の伝令ご苦労だった。リック隊長から説明を受けているか? 我々も簡単にだが報告を受けている。外を移動して来たばかりで申し訳ないが、改めて君からも聞かせてくれ」
オーギュストはそう言うと、文官たちに机の上を片付けさせた。
代わりに、地図が広げられる。
「はいはい……」
あそこで説明をしたらいいんだな。
俺は、返事をしながらそちらに移動した。
◇
俺が報告と説明を始めると、セリアーナのもとにいたエレナとテレサも、説明を聞きに来ていた。
エレナは、万が一の際のセリアーナの護衛のためだろうからか、特に質問をしてきたりはせずに、静かに聞いているが、テレサは場合によっては指揮を執ったりするのかもしれないし、むしろこのメンツで一番質問をしていた。
「アレクシオ隊長も、森に入るのだな?」
「うん。街に戻って来て、ちょっと休憩したらすぐに行くって。下の本部にはもうウチの兵が揃ってたよ。オレはリック君への伝言のために先に飛んできたけど、そろそろアレクたちも街に着いてる頃だね」
俺がアレクたちと別れてもう30分近く経っているし、そろそろアレクたちも街に到着しているはずだ。
下の本部まで真っ直ぐ行って、装備を整えて馬を替えて……出発するのはもう少し後かな?
皆も大体同じ予想なのか、「確かに」と言った様子で頷いている。
「そうか。まだ日が落ちるまで余裕はあるし、無理をする必要は無い。彼等もわかっているだろうし……ここで私が言うまでもないか」
ここまで何かと急いで進めはしたが、そう考えると思ったより余裕はあるのかもしれないな。
しっかりと準備も出来ていそうだし……。
「そう言えば、アレクは呼びに行ったけどジグさんはよかったのかな?」
「ジグハルト殿か。リック隊長が特に言及していないのなら、恐らく彼は街の守りに残ってもらうんだろう」
「ジグさんを残すの……? 勿体なくない?」
戦いの場は森になるし、ジグハルトが本気を出すわけにはいかないだろうけれど、それでもあのおっさんなら適当に加減をしながらでも、十分過ぎるくらいの活躍は出来るはずだ。
むしろ、逆に本気を出して、火災すら起きないレベルの消し炭にすることだって可能だろう。
ジグハルトも討伐隊を率いて外に出ているとはいえ、アレク同様に、そこまで離れた場所には行っていないだろうし、今のうちに呼び戻してもいいと思うんだが……。
「そうだな。姿を見せた魔物の群れを倒すだけでいいのなら、彼の力を借りるのが一番早いだろうが、最も警戒する必要があるのは、北の魔物ではなくて、魔境の魔物だ」
「……東の?」
「そうだ。討ち漏らしが森伝いに魔境に逃げ込んだり、あるいは派手な戦闘に刺激されたり……。切っ掛けは何であれ、大きな戦闘をして魔境の魔物たちを刺激でもしてみろ。この時期だ。下手をしたら、北に戦力を割かれているにもかかわらず、東からの魔物にも対処しなければいけなくなってしまう」
「……それは避けたいね」
俺の言葉に深く頷くオーギュスト。
「だろう? 両隊長もそのことをわかっているから、北の森と一の森との境から西に隊を進めていくだろうな」
魔物が東に逃げないようにってのと、ついでに一の森の魔物たちの警戒も兼ねて、そう動くんだろうな。
納得して、俺は「なるほどー」と口に出そうとしたのだが、その前に自分の席に座って黙っていたセリアーナが、「テレサ」と名を呼んだ。
「ちょうどいい機会だし、連れてきた彼女たちも参加させなさい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます