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「すまんな呼び立てて」
「いや、いいよ。それよりも何かわかったの? 尋問とか言ってた割に随分早いけど」
尋問するって言って、商人たちのもとに行って10分も経っていないのに、もう終わったんだろうか?
……見れば商人も、その護衛らしき者たちも随分と怯えた様子だけれど、何したんだろう?
それに、先程までは持っていなかった、手紙らしき物を手にしている。
今の間に書いたのかな?
「何が起きたのかは粗方な」
リックは俺の問いかけに、商人たちを睨みつけて吐き捨てるように答えた。
リックだけじゃなくて、商人連中を守っていた兵たちも何やらお怒りの表情を浮かべている。
その様子に、「ひっ!?」とさらにビビる商人たち。
……何したんだ、こいつら?
「コイツ等は北の二つ先の村からやって来たらしい」
「……二つ先? それは随分急いだみたいだね」
二つ先と言っても、やたら土地だけは余っているこのリアーナで、あまり開発が進んでいない領都北側の二つ先は、ちょっと訳が違う。
馬の単騎駆けならともかく、馬車に護衛付きでとなれば、半日以上はかかってもおかしくないだろう。
今の時刻を考えたら、仮に早朝に出発したとしても、間に休憩を挟まずにずっと歩きっぱなし……でどうにかってところか?
それにしたって、そんな無理をしなくても……と思うんだがと首を傾げていると、リックが話を続けてきた。
「リアーナは主要街道ですら、街と街を直線で繋いでいる訳ではない。領都の北ともなれば尚更だ。丘や川を迂回したり、森の中を通ったり……。もちろん整備された街道が通っているだけでもマシなんだろうがな。まあ……街道を利用すると、実際の距離よりも移動する距離は増えるだろう」
「まぁ……オレみたいに空を飛びでもしなければそうなるよね」
基本的に俺はどこに行くにも空を一直線に向かっているから、街道の湾曲や勾配は関係ない。
しかし、この商人たちはそうじゃないよな?
ってことは?
「街道を無視して来たの?」
「そうだ。足場がマシな場所を選りすぐり、可能な限り直線に進んで来たそうだ。……道中で遭遇した魔物は、適当に傷を負わせて追い払いながらな」
呆れたような声でそう言うと、またも商人たちを睨みつける。
……そりゃそうだよな。
足場がマシな場所ってことは、比較的街道に近い場所を抜けてきたんだろうな。
その辺に現れる魔物はまだまだ弱いし数も少ないだろうから、弓なり魔法なりで軽く攻撃したら、追い払うことは可能だろう。
ただ、その追い払った魔物が街道から離れていったとして、その魔物がどこに行くかが問題だ。
「自分たちでは追い払っていたつもりでも、結果は、人を恐れぬ魔物をここまで延々連れてきたという訳だ。魔境の魔物ほどではないが、狩場の奥に生息する魔物の中には侮れない強さに育った魔物もいるからな。今回の群れを率いているのもそういう類だろう。アレはまた来るぞ」
「街壁程度じゃ諦めないかな?」
街の側までつけてくるほどだ。
あの程度で諦めるとは思えないが、念のため訊ねると、リックは首を横に振っている。
「ああ。中に人がいることは今回でわかっただろうし、必ず襲ってくるはずだ。それで……だ」
リックは「これを」と、手にした手紙を差し出した。
「ことのあらましを記したものだ。コレをアレクシオ隊長に届けて欲しい。今夜中に片を付けなければ、雨季の間だろうが関係無しに、外を警戒し続けなければいけなくなるだろう」
「なるほど……」
アレクは今日も魔物の討伐に出ているが、一応危険なエリアは昨日までに回り終えていて、今日見ているのは念のため気を付けておきたいって程度の場所らしい。
放置していいってわけじゃないだろうが、こちらの問題の方が重要度は上だろう。
「今彼等がどこにいるか正確にはわからないが、セラ副長なら領都の北西を見て回れば見つけられるはずだ」
「わかった……それじゃー、こっちのことはお願いするね」
時刻を考えたら急いだ方がいいだろうし、後のことをリックに任せると、とりあえずアレクを探すべく、西に向かって飛び立った。
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「…………いた!」
北門側での戦闘があった場から飛び立った俺は、まずは北の森沿いに西に移動していたんだが、領都より西側まで来たところで、アレクたち一行の姿を見つけることが出来た。
どうやら魔物の死体を積んだ馬車を曳きながら、街に向かって移動をしている。
パッと見た感じ負傷者はいないし、距離があっても雰囲気が明るいのは伝わって来る。
あんまり領都の西側はそんなに他の場所と変わらないだろうし……余裕だったみたいだな。
「まぁ……いいや! おーい!」
俺は大きな声で皆を呼びながら、アレク一行のもとに向かって行った。
◇
「セラ? どうかしたのか? ……街からじゃなくて森の方から飛んできたようだが……」
俺に気付いたアレクは馬の足を緩めると、何があったのかを訊ねてきた。
まぁ、わざわざ俺が領都から出てアレクのもとに来るようなことはそうそう無い。
何があったんだろうって思うよな。
「うん。とりあえずコレを。リック君からね」
「……リックから? わかった」
リックから預かった手紙を渡すと、封をすぐに開いて読み始めた。
内容は、北門側での魔物の件についてなんだろうが、どこまで書いているのかはわからないし、とりあえず読んだ反応を待つか。
さて、アレクは待つとして……。
「副長、何かあったのか?」
「リックからウチの隊長に手紙だなんてなぁ……」
「ああ。それもセラを使ってだなんて、余程のことだろう?」
俺がリックからの手紙を手に唐突に現れたことに、何事かと周りの兵たちは驚いている。
さらに、この任務に罰で同行している、1番隊と2番隊との関係を知らない他所の冒険者も、ただ事ではない何かが起きたのかと、興味半分不安半分でこちらの様子を窺っている。
「…………」
どうしようかな……とアレクの方をチラリと見ると、手紙を読みながらもこちらのやり取りも聞いていたらしい。
手紙から顔を上げると「構わない」と短く答えた。
それじゃー……一応アレクにも聞こえるように話すか。
俺は一度小さく咳ばらいをすると、何があったのかの説明を開始した。
◇
「……なんつーか、とんでもない馬鹿がいるもんだな。この辺の奴等なら、街道を無視することはあっても、魔物は可能な限り仕留めるもんなんだが、やはり外の連中だとそんなもんか」
一通り説明をすると、兵の一人が呆れるようにそうぼやいた。
ついでに、他の者たちも深く頷いている。
冒険者たちは……半々くらいかな?
頷いているのが、リアーナの冒険者だろう。
土地によって魔物への対処の仕方が違うってのはわかってはいるが、あの商人たちは、リアーナ東部の魔物を甘く見ていたのかもしれないな。
困ったもんだ……と、ウチの連中たちと顔を見合わせていると、手紙を読み終えたアレクが「聞いてくれ」と口を開いた。
「今セラが話していたように、北の森から魔物が現れた。長い距離を引っ張り続けただけに、群れの規模がどれほどになっているかはわからない。俺たちが昨日あの辺りの魔物を一掃していたからな……。縄張りが無くなっていたから素通りで、群れが減少することなく森を抜けてこれたんだろう」
「街への襲撃は大体縄張りの消滅が理由だし、別におかしいことじゃねぇが、人の手で起きるってのが面白くねぇな」
「その商人たちはどうするんだ? リックが捕らえているんだろう?」
初めの一人が言ったように、森の勢力図の変化……とりわけ浅瀬の縄張りの消滅が理由で、森の奥で集まった魔物がそのまま街まで流れて来るってことがあるにはある。
自然に起きたことなら「仕方がない」で片付けるが、今回のように、故意ではないが人が原因で起きてしまうと……今の彼等のように怒りの矛先がモロに向いてしまうようだ。
「切っ掛けになった者たちは既に捕らえているし、後はオーギュストに任せればいい。それよりも、セラ」
だが、アレクはそれを一言で流すと、こちらを見た。
「うん?」
「お前は上から索敵を行っていたそうだが、それでも群れのボスを捕捉出来なかったそうだな?」
「うん。何かがいたのはわかるけど、オレが見える範囲までは近付いてこなかったね。撤退する時も一番にだったし、随分慎重だよね」
そう言うと、アレクは「そうか」と小声で呟いた。
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