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1264 side アレク その3
騎士団本部に到着したアレクたち一行は2番隊の部屋に集まると、残っていた文官たちも交えての簡単な報告会を行っていた。
もっとも、報告会といっても魔物を倒してきた……と言うくらいで、すぐに終了した。
倒した魔物の詳細だったり遭遇位置だったり、討伐隊の損耗具合などいくらでも話すことはあるし、長引かせようと思えばいくらでも長引かせられただろうが、隊長のアレク自身が討伐隊に参加しているため、そこは省いても問題無いと判断したんだろう。
「今日はこれで終わりにしよう。明日もまた朝から外で狩りに回ることになるし、お前たちも酒を飲みに行ったりせずに、家に帰って休んでおけよ」
アレクは手を叩いて、会の終了を宣言した。
そして、子供に向けて言うような言葉を言い放った。
今日の空模様だと、明日はまだ天気が持つだろう。
そうなると今日のように一日中出て回ることになるし、そのためにはコンディションを整えて貰わないと困るからだ。
そのことは皆もわかっているんだろう。
アレクの言葉に兵たちは苦笑しつつも、それぞれ適当に返事をしていた。
そして、彼等は部屋を後にしようとしたが、その中の一人が足を止めて振り向くと。
「アンタも今日はこれで上がりなのか? 相当動いてただろう」
まだ動こうとしないアレクに向かってそう言った。
皆には休むようにと言ったが、今日も昨日も討伐で一番体を動かしているのはアレクだ。
セラが普段のように動けるのなら、帰宅後に彼女に加護を使用してもらえばどうとでもなるだろうが、今はそうもいかない。
連日の任務が負担になっていないか危惧したんだろう。
だが、アレクは何でもないといった様子で笑っている。
「俺は残って少しリックと話をしてくる、外の件も気になるしな。まあ……疲れは大したこと無いし、問題無いさ」
「そうか。無理すんなよ」
アレクは、そう言って部屋を出て行く男に「おう」と答えた。
そして、文官たちにいくつかの指示を出すと、アレクも席を立ち部屋を後にした。
◇
「これは、アレクシオ隊長。こちらに何か御用でしょうか?」
1番隊の部屋や隊長室が並ぶ一画にアレクが姿を見せると、その通路を歩いていた兵たちが緊張の面持ちで姿勢を正した。
「ああ……リックはいるんだろう? 少し聞きたいことがあってな。大したことじゃないし、そんなに構えなくてもいいぞ」
「はっ……失礼します。隊長は隊長室で仕事をされています」
アレクは、兵の一人が「こちらへ」と案内しようとするのを制止すると、彼等に「行っていいぞ」と伝えてリックのいる隊長室へと向かう。
ドアの前に着くと、ノックしながら中へ呼びかけた。
「リック、俺だ……お? 悪いな」
すぐに中から開けられて、中に入るように言われた。
部屋の中では、入室したアレクを無視して、リックの他に彼の副官や文官たちが仕事をしている。
その様子を見て、アレクは溜め息を吐きながら口を開いた。
「……いつも思うが、わざわざ隊長室でやらなくてもいいんじゃないか? 隊室の方が広いだろう?」
2番隊では、隊長のアレク自身も隊室で仕事をすることが多く、隊長室は人と会ったりする場合を除けば、ほとんど仕事で使われることはない。
ましてや、決して狭いわけではないが、隊長室に何人も集まって仕事をすることなんてまず無いことだ。
だから、1番隊と2番隊とで違いがあることはわかっているが、それでもついつい口に出してしまったんだろう。
そのアレクの言葉に、机で書類の処理をしていたリックは顔を上げると口を開いた。
「精々領内の冒険者や魔物の情報程度しか扱わない貴隊と我々とでは、扱う情報の重要さが違うんだ。同じ隊とはいえ、迂闊に表に出せない情報がある以上、隔離するのは当然だろう」
そう呆れたように言うと、さらに続けてきた。
「それで……わざわざ魔物の討伐を終えたばかりなのに何の用だ? 大方予想は出来ているがな」
リックはそう言って、アレクの顔を睨みつける。
1265 side アレク その4
リックの言葉にアレクは肩を竦めると、彼の机の前まで足を進めた。
「俺がここを訪れるなんてそうそうあることじゃないからな……。だが、それなら話は早い。街で仕事をしている職人の支援を引き受けたんだってな。中央通りの商人が教えてくれたぞ?」
「そちらの副長殿の提案だ。領主様も団長も承認した以上、私が否とは言えまい」
「はぁん……まあ、どういう経緯でああなったかはどうでもいいさ。先程のお返しってわけじゃないが、どうしてそうなったかは概ね予想出来るしな。それよりも、上手くやれるのか?」
アレクが任務を終えた直後にも拘らず、わざわざ滅多に訪れないこの部屋に足を運んだのは、1番隊が住民……それも職人と共同で作業をするということに不安を覚えていたからだ。
元々冒険者上りを中心に集めた2番隊と違って、1番隊は王都圏で兵士として活動をしていた者が中心になっている。
流石に住民に剣を抜くようなことはないだろう。
ただ、そうなった経緯も理由もわかってはいるが、それでも彼等が行動を共にするのは想像が出来ない。
そう伝えると、リックは大きく溜め息を吐いた。
「それに関しては……ああ、待て。お前たち、今日はもうそこで終わりにしていい。続きは明日にしろ」
まだ仕事は途中であるにもかかわらず、リックは部下たちに部屋から去るように指示を出した。
部下たちは唐突な指示にも拘らず、何も言わずに部屋を出て行く。
その彼等の背を見ながら、アレクは小さな声で呟いた。
「……随分従順だな。ウチだと、セラは意外と聞き分けはいいが、他の連中は中々言うこと聞かないぜ?」
「これが普通だ。よく命令を聞かない者を下に置けるな。まあいい。そこにかけろ」
リックは何度目かの溜め息を吐くと、部屋の一画に用意されている応接用のエリアを指した。
◇
アレクがソファーに座ると、その向かいにリックも座ってきた。
「……珍しいな」
普段話をすることはあっても、こうやって差し向かいで話すことはまず無い。
先程までの会話の流れから、さほど大した内容ではないだろうと思いつつも、少々緊張した面持ちで、アレクはリックの顔を見た。
「座って話をするだけだ。大したことではないだろう。それよりも……職人との件だ。初めから話すが、1番隊との巡回任務を終えたセラ副長が、彼女が普段利用するルートも見て回りたいと言ったことが始まりだ」
「【浮き玉】での移動だな。俺は使ったことはないが、宙を自由に動けるし、馬や歩きとは違った目線で見ることが出来るからな。悪いことじゃないだろう」
「ああ。事実、今回の問題も彼女のその行動で見つかった訳だしな。職人の作業の遅れ……我々では気付くのは難しいだろう」
「……まあな。街中での事故とかのように、直接的な原因での遅れなら俺たちもわかるが、資材の手配の遅れなんかは、俺たちの管轄じゃないしな。商業ギルドからは何もなかったのか?」
リアーナだと、冒険者ギルドはセリアーナ派閥で、商業ギルドはリーゼルの領主派閥に分かれている。
そして、リックは領主派閥に属していて、アレクよりは商業ギルドとも交流はあるはずだ。
だが、リックはアレクの言葉に「無い」とまずは一言で答えた。
「商業ギルドと下手に繋がりを深めれば、何かあった時に不正を疑われるだろう。領主様や団長が不在の時には彼等とは距離をとるようにしているし、今回の件でもそうだ。ともあれ、セラ副長の巡回で職人の仕事の遅れと、その理由が判明した。彼女はそのまま領主様のもとに話を持って行ったんだ」
「いつものことだな」
「ああ。直接話を持って行けるのは彼女の強みだし、そのことに何かを言う気は無い。ともあれ、職人の作業の支援に我々1番隊か、フィオーラ殿が抱える魔導士たちを出せないかを打診したそうだ」
「ふむ……それなら1番隊しかないだろうな」
「そうだ。彼女との繋がりだけを考えたら魔導士の方がいいだろうが、夜間での外の作業となれば、我々の方が向いている。領主様や団長もそう判断し、私のもとに団長自ら話を持って来た」
そこで一旦口を閉ざすと、リックはアレクの顔を見た。
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