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1262 side アレク その1


 リアーナ領都の北門のすぐ手前。

 アレクを始めとした2番隊の兵と冒険者の一団が、街への入場を控えて待機していた。


 アレクたちが外に出ていた理由は、昨日に続いて街の東側に広がる魔境の魔物討伐だ。

 彼等は騎士団の任務で外に出ていたわけで、審査などをせずに入場することも可能ではあるのだが、討伐した大量の魔物の死体を持ち帰っている。


 討伐任務に出ていた昨日も、今日と同様に大量の魔物の死体を持ち帰ったが、帰還の際に各ギルドに報告をしていなかったため、いざ領都に入場してから、野次馬の住民や魔物の素材目当ての商人とで混乱状態になってしまった。

 だから、今日は中で混乱を起こさないように中に伝令を送り、受け入れの準備が調うまでの間は門の外で待機することになった。


 各ギルドには出発前に報告をしているし、帰還の報告を聞いたらすぐに行動を開始するだろうから、待機の時間はそう長くはかからないはずだ。


 アレクは討伐隊の皆にその場で待機を命じていた。


「よー、隊長。今日は楽な仕事だったな」


「そうだな。まあ……昨日の仕事が危険すぎたしな。アレで大分周辺の魔物の勢力を削ることが出来たんじゃないか?」


「今日は後ろの連中も全員無事だし、物資の消耗も抑えられただろう? うるさい文官連中も満足するだろうな」


「お前たち。街に帰還して気を緩めるのも仕方ないが、大量の魔物の素材を抱えているんだ。周囲の警戒を忘れるなよ!」


 手持無沙汰になった部下や、顔馴染みの冒険者たちに指示を出しながら、アレクは今日の討伐任務を思い返していた。

 昨日見終えた箇所から始めて、一の森を小型の妖魔種や獣を倒しながら10キロほど北上している。


 東門から出発したが、帰還時は北門に着くほど討伐済みのエリアを広げることが出来た。

 まだ見ていないエリアはあるものの、もうここまで来たら切り上げてもいいくらいだし、実質今年の討伐任務は完了したと言っていいだろう。


 昨日の討伐任務は、複数の群れとたまたまぶつかってしまったことで、大分苦戦を強いられた。


 ただでさえ他所の魔物より手強い魔境の魔物なのに、複数種と一度に戦うとなると、どうしても各種族の独自の戦い方の対処に追われてしまい、即席の隊では持ちこたえるのが厳しかった。

 それに加えて、各群れを率いるボスとも戦うことになる。


 その結果、死者こそ出なかったが、2番隊の正規の隊員と臨時で連れて行くことになった冒険者のどちらにも大きな被害が出てしまった。


 もしそれが普通の冒険者で、あくまでただの狩りの一環での出来事なら、療養も兼ねてそのまま雨季の休暇に入ったりもするんだが、如何せん騎士団の任務ということもあり、魔法やポーション類を惜しみなく使って治療をして、また同じメンバーで今日も討伐に出ていた。

 仕方が無いとはいえ、大分ハードなスケジュールに、出発前は部下たちからもぼやく声が上がっていたくらいだが、昨日纏めて倒した甲斐もあってか、今日は大きな群れにもぶつからず、被害を出すことなく任務を終えることが出来た。


 しかし。


「ウチの副長様はまだ出てこれないのか?」


「うん? ああ……1番隊の街の巡回には付き合っているそうだが、セラはまだ当分の間は街で療養だな」


「そうか……アイツがいれば大分楽になるんだがな……」


 2番隊が魔物の討伐に出る際には同行することが多かったセラの不在は、それなりに影響は大きいようだ。

 昨日もだが、彼女の加護があればという声は戦闘の前後で何度も聞こえていた。


「まあそう言うな。この任務も後僅かな範囲で終わるだろうし、その後は俺たちの仕事はあって無いようなもんだろう? ギルドでの処分の一環とはいえ後ろの連中も踏ん張っているんだし、俺たちも頑張ろうぜ?」


「それもそうだな……お、入れるようだな」


 男の声に門の方を振り向くと、こちらに小走りでやって来くる警備の兵が目に入った。

 門前では入場待ちで待機している者たちに道を空けさせているし、街側が入場の準備を終えたんだろう。


「よし……お前たち! 街に入るぞ!」


 そのアレクの声を聞いた一行は「おおっ!」と歓声を上げて、門に向かって走り出した。


「おいっ! 走るな馬鹿!!」


 アレクは、そう怒鳴ると自身も馬を門へと進めて行った。


1263 side アレク その2


 街に入ったアレクたち討伐隊一行は、まずは北門から東回りに冒険者ギルドに向かい、街まで運んで来た魔物の死体を積んだ馬車を、そのまま死体ごと冒険者ギルドに引き渡した。

 そして、同行していた冒険者たちとはそこで別れている。


 そのまま冒険者ギルドで、処理と換金とさらに参加した冒険者たちへの支払いまで任せる流れになっている。


 今回の討伐隊に参加している冒険者の大半は、先日冒険者ギルドで騒動を起こした者たちで、その処罰の一環で討伐に参加していたわけだが、その連中にもしっかり分配される決まりだ。


 参加している理由を考えたらある程度は納得出来ることではあるが、それでも魔境産の素材ばかりだし、支払われる額は相当なものになるだろう。

 現金にこだわる必要が無い、資金に余裕があるリアーナだからこその措置だろう。


 ◇


 冒険者たちと別れたアレクたち2番隊一行は、日が落ちて暗くなった通りを、騎士団本部に向かっていた。

 通りには街灯が設置されていて真っ暗ということはないが、どうしても設置数が少なく、まだまだ中央通りのような大きな通りでもない限り、夜の街は出歩くには不向きな暗さになっている。


 だが。


「……ん?」


 通りを歩いていると、兵の一人が何かに気付いたのか短く声を上げた。

 その声はアレクの耳にも届いたようで、馬を止めると振り返った。


「どうした?」


「ああ……街の雰囲気がな。何が違うかって言われたら困るが……なんか違和感がねぇか?」


「違和感?」


「……魔物の気配は感じられないな。騒ぎも起きていないし、何も起きていないんじゃないか?」


 一行の中には、昨年の教会絡みの事件が頭に浮かんだのか、抜いてこそいないが剣に手をかけている者もいる。


「そうだな。危険は無いし武器から手を放せ。ここは街中だ」


 数は少ないが通りには自分たち以外の者もいるし、アレクは慌てて指示を出して剣から手を離させた。

 そして、改めて通りや建物の陰に目を向けるが、何も見つけられなかったらしい。


「しかし……違和感か。俺も何も見つけられないが……とりあえず足を止めていないで移動をするぞ」


「ああ……悪いな皆。変なことを言っちまって」


 初めに発言した兵の謝罪に、アレクは「気にするな」と答えると、一行の移動を再開させた。


 ◇


 冒険者ギルドがあった南街から中央広場にやって来た。


 他の地区と違って、中央広場は住民や宿泊客が利用している飲食店や宿も多数あるため、この時間でも人通りが多く通りに明かりも出ていて活気がある。

 そして人通りが増えれば、住民に人気のある2番隊が声をかけられる頻度も増えていき、度々足を止めて対応をしていた。


「……うん?」


「どうした、アレク」


 何度目かの住民の声掛けへの対応に足を止めていると、ふと何かに気付いたアレクが小さく声を漏らした。

 側にいた兵はその視線を追っていくが、その先には建物しかない。


 一体何が……と、訊ねようとするが、アレクは馬から降りて話をしている兵たちのもとに向かっていた。


「ああ……。なあ、アンタ」


「む? おおっ……これはアレクシオ隊長。魔物の討伐任務お疲れ様です……」


 兵たちと話し込んでいたのは、この中央通り沿いに店を構える商店主で、アレクに声をかけられると、一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに労いの言葉を述べ始めた。


 だが、アレクはそれを遮って先程自分が視線を向けていた方に指を指した。

 中央通りから奥に入ったところの建物だ。


「アレは何をしているんだ? ウチの隊じゃないようだが……」


「ああ……アレは1番隊の皆様ですな。今日の夕方頃でしょうか? なんでも、建物の補修作業が遅れている職人たちの支援を、1番隊の皆様が行ってくれると、商業ギルドから通達がありました。ウチの店は大丈夫ですが、奥の小さい店が入っている建物などで、作業が間に合うかわからないところがあると話題に出たりもしていたので、こういう取り組みは助かりますな」


 そう言って、男は大きな声で笑っているが、アレクたち2番隊の面子は不思議そうな表情を浮かべていた。

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