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街の巡回2日目だ。
差し当たって、マジで1番隊が街の人間から敬遠されていることと、何でそうなったのかって理由はわかった。
正直なところ、今まで1番隊と関わる気があまり無かったから、精々とっつきにくいと思われている程度だと思っていたんだが……色々理由があったんだな。
もちろん、理由があるからといって、街の住民に距離を取られているにもかかわらず、ある意味開き直っていた1番隊にも問題はあると思う。
最初期からそうだった上に、自分たちは寄せ集めの2番隊とは違う……とか、そんな風に開き直れたから問題を解消しようとは考えなかったんだろう。
それで任務に影響がないのであれば、住民や冒険者の締め付け役ってことで、目を瞑ってもよかったんだが。実際影響がありそうだったし、ここは俺が間に入って上手い事取り持ってやろう……。
ってことで、今日の俺のポジションは、一行の先頭のすぐ側だ。
昨日も途中からその位置に回ったが、それだけで大分街の住民たちへ与える印象が変わるし、ある程度ルートも選ぶことが出来る。
別にどこか立ち寄りたいってわけじゃないが……あまり気をつかわないで済むってのはありがたいよな。
◇
さて。
今日も昨日同様に中央通りを東に向かっているんだが、昨日と違って俺は初めから先頭を進んでいる。
この巡回の部隊を率いているように見えるだろう。
その証拠に、通りを行き交う人が、目を逸らすどころか進んで俺に声をかけて来る。
まぁ……その都度足を止めて言葉を返しているから、昨日に比べるとどうしても部隊の足は遅くなっているが、それは仕方がないよな。
しかし。
例えば冒険者ギルドに向かう途中、あるいはそこから帰りの冒険者。
「よお、セラ。アンタ何やってんだ?」
「ん? 1番隊の街の巡回に付き合ってるんだよ」
「1番隊……うおっ!?」
例えば商人。
「これはセラ様! 今日はお一人のようですが、アレク様たちとは別なのですか?」
「そーそー。皆は外で魔物退治。雨が降ってくる前には完了する予定だよ。それと、一人じゃないよー」
「一人じゃない……? っ!?」
彼等だけじゃなくて話しかけて来る者の大半が、俺の後ろにいる連中が1番隊であることに気付くと驚いていた。
そもそもすぐ側にいるのに、俺が一人で出かけていると思われている時点で、余程1番隊と一緒だってのが意外なんだろう。
「…………」
俺の後ろをついて来ている1番隊の面々をじーっと眺めていると、その視線に気付いたようで、隊の先頭の兵が口を開いた。
「どうかしましたか?」
「いやさ……昨日と一緒のことやってるのに全然違うよね」
「……ええ。我々はセラ副長の隊と思われているようです」
ちょっと間が空いたことは気付かないで上げよう。
もしかしたら彼も自分たちが認識されていないってわかっちゃったかもしれないしな。
「確かにオレが率いてるし、それ自体は間違ってはいないんだけど……。一目で君たちが1番隊だってわかるはずなんだけどね」
彼等は2番隊と違って、ピシッと整列して移動している。
そして何より、制服も着崩したりしていない。
俺が普段1番隊と2番隊の隊員を見分けているのはその2点だが、どちらも一目でわかるくらいの差なんだ。
「……今日オレが先頭にいるのって、昨日みたいなことにならないようにって考えてなんだけどさ」
「はい。そのお陰で、住民に目を背けられたり怯えられたりすることはありませんね」
「まぁねー……。たださ、君たち1番隊が俺と一緒にいるってことが、街の皆に理解されてないだけって気もするよね。確かに昨日に比べたら、街の皆に迷惑をかけないで街の巡回が出来てるけど、コレって意味あるのかな……」
見回りと、住民へのアピール。
それ自体は達成できているが、今日の俺の目的である1番隊の印象改善はまるで駄目だな。
ぼやきながら振り返ってみると、先頭の彼や声が聞こえていたのか、他の兵たちも何やら申し訳なさそうな表情を浮かべている。
まぁ、1日2日でこれまでの印象が変わったり……なんて行くわけないか。
俺は「ふむ」と頷くと、気を取り直して前を向いた。
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街の巡回をグルーっと続けて、ようやく南街の冒険者街までやって来た。
そして、一先ず冒険者ギルドを目指して、通りを進んでいる。
俺を始め冒険者上りの兵が多い2番隊にとっては、この辺はむしろ騎士団本部よりも馴染みの場所なんだが、1番隊からしたらアウェーみたいなもんだ。
昨日も同じメンツでここを通りはしたものの、俺だけじゃなくて他の兵たちも一緒だったため、基本的にこの辺の連中は近付いてきたりはしなかった。
万が一揉めたりしないように、互いに遠慮していたんだろうな。
んで、今日は先頭にいるのは俺一人で、他の兵たちは一歩下がった位置にいる。
流石に冒険者ばかりだし、街の住民のように、すぐ側をついて来ている兵たちに気付かないなんて抜けたところは無く、しっかりと俺の連れだと認識していた。
だが、認識はしていても、相手をする気は無いようだ。
だから。
「おう、姫さん。アンタ、帰って来るなりこの辺りによくいるな。暇なのか?」
「狩りはしないんだろう? 後ろの連中の子守りか?」
「馬鹿野郎。子守りをするんなら役割が逆だろう」
冒険者の中でもベテランに含めていいような連中が、兵たちを無視して俺に向かって気軽に……尚且つ好き勝手なことを言っている。
ここは一発ガツンとやってしまうべきだろうか……。
こいつらを睨みながら、身に着けた恩恵品のどれを発動しようかを真面目に考えていると、尻尾の動きに気付いた冒険者たちが慌てて距離を取り始めた。
無駄に勘のいい連中だ。
「……はぁ。怒らないからちょっとこっち来てよ。もう少し話を聞きたいんだ」
「おう。どうした?」
慌てていたのは何なのかってくらい、普通に側に寄って来た。
「……まぁいいか。あのさ、後ろの1番隊の兵たちってどう思う? 昨日は街の人たちにもの凄く避けられてたから、途中から俺が目立つ位置に交ざって何とかしたんだけど」
そこで一旦言葉を中断して後ろを振り返ると、隊員たちは冒険者だらけのこの場所を警戒しているのか、不審にならない程度に周囲を窺い続けている。
一応こちらの会話を聞いてはいるが、加わってくる気は無いようだ。
「皆から見て、1番隊ってどんな感じ?」
「皆ってのは……俺たちのことだよな?」
敢えて自分たちって確認してくるあたり、俺が言いたいことは伝わっているな。
「そうそう」
「そいつらなぁ……」
その彼は、どうしたもんか……といった様子で周りの仲間の顔を見ていると、一人が肩を竦めながら口を開いた。
「街の連中や駆け出しならともかく、俺たちはな……。あの隊長サマは鬱陶しいとは思うが、それ以外は正直どうとも思っていないな」
「あぁ……。まぁ、そうなるよね」
この辺で昔から活動している冒険者は、どうしても魔境の魔物を相手にすることが多い。
腕が立つのはもちろん、度胸だって他の街の冒険者に比べたらずっとある。
その彼等の目から見たら、お行儀の良い1番隊の隊員ってのは大したことないと映っているんだろう。
隊員も日々訓練を積んでいるし決して腕が悪いなんてことはないんだが、他所の冒険者や新人ならともかく、ベテラン冒険者を威圧できるほどの迫力は無いよな。
リックや1番隊の幹部連中なら別だろうが、彼等は彼等で忙しいからそうそう巡回に同行出来ない。
冒険者側が遠慮しているから問題は起きていないが、万が一の事態が起きたら1番隊じゃ対処出来ないだろう。
だからこそ、この辺はウチが担当しているんだが……それはさておき、舐められているわけじゃないにしても、相手にされていないってのは街の兵士としてどうなんだろうな。
しかも、理由に関しては事実だし。
「まあ、そもそもここらの管轄は2番隊だろう? 顔馴染みも多いし、俺たちは別に騎士団連中と揉める気は無いぜ」
「うん。そこは信用してるよ」
冒険者たちが騎士団と揉め事を起こす気が無いのはわかっているんだが、彼等にとっての騎士団ってイコール2番隊だ。
1番隊を取り巻く今の状況を、ちょっとどうにか出来ないか……なんて考えはしたが、そんな簡単に評価を改めさせる事なんて出来ないだろうし、冒険者には絡まらせない方がいいのかもしれないな……。
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