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「あがったよー」


 風呂から上がった俺は、変わらずお喋り中の皆の元に戻ると、【浮き玉】から降りてソファーに座った。

 頭にはタオルを巻いたままだが、まぁ……見知った相手だし別にいいよな。


 セリアーナは、隣に座った俺を見ると口を開いた。


「テレサから話は聞いたようね」


「うん。大体はね」


 テレサからは、街の巡回の件以外でもいくつか騎士団絡みの話を聞かされた。

 別に俺はここで聞いてもよかったんだが、一応使用人たちもいるし、そこら辺を配慮したんだろう。

 こういう時のために俺の部屋があるのかもしれないが、真っ直ぐ風呂に向かっちゃったしな……まぁ、その辺の事情はここのメンツは理解しているだろう。


「恐らくその隊の中ではお前が一番役職は上でしょうから、遠慮することは無いし好きに振る舞って構わないから、面倒かもしれないけれど数日程お願いするわ」


 俺はそれに「はいはい」と答えた。


 面倒かもしれないって言っているけれど、適当に街を巡回するだけだし、そんなに手間じゃ無いだろう。


 あまり俺が気負っていないことに満足したのか、セリアーナは何度か頷くと、周りの使用人に指示を出して俺の分の食器の用意をさせた。


「仕事の話はここまでね。今日は身分や礼儀を気にせず楽にしなさい。……お前にとってはいつものことかしら?」


 自室でやっているし、いわゆる無礼講かな?


 セリアーナが言うように、俺にとってはいつものことだが、お酒を飲んでいるからかセリアーナを始め、他の女性たちもちょっといつもより雰囲気が緩い気がする。


 今更緊張するようなメンツじゃないが、俺もこの方が気が楽だし、存分にだらけさせて貰おう。


 そう決めた俺は、力を抜いてソファーの背もたれに体を預けた。


 ◇


「そう言えば……子供たちは?」


 適当に取ってもらった食事を摘まみつつ部屋の中を見るが、子供たちはいないしいた様子もない。

 こっちには連れてきていないのかな?


「隣の部屋よ」


 そう言って隣室を指した。

 さらにエレナが続いた。


「ウチの子たちも一緒だよ」


「あらま。今日はこっちに泊まるの?」


「その予定だよ。アレクは旦那様の報告会に出席しているしね。明日からは魔物退治があるし、飲み過ぎるようなことはないだろうけれど、閉会してから帰るとなると、大分遅くなってしまうしね。子供だけ先に帰してもよかったんだけれど……」


 そう言ってチラッと、俺の隣のセリアーナに視線を向けると、その視線を受けたセリアーナは肩を竦めた。


「子供と乳母が増えるくらいで大した手間じゃないんだし、寝ている時間に無理に運ばせる必要は無いわ」


「そうですね。それに……慣れないことをさせたから少し疲れているかもしれませんし、子供たち同士の方が気が楽かもしれませんね」


「うん? なんかしたの?」


「ああ。報告会の始めに、私たちも一緒に子供たちを連れて挨拶に行ったんだよ。短い時間ではあったけれど、ウチの子は慣れていないからね……」


「あぁ。まぁ、そりゃそうだよ」


 セリアーナの双子はともかく、ルカ君はまだ人前に出ることなんてなかっただろうしな。

 俺だって一度に大勢の人間と会ったら疲れるんだし、慣れていないのにそんなことになったら、緊張くらいするだろう。

 子供たち同士一緒にいる方がリラックス出来るよな。


「ルカもウチの子たち同様に、人の上に立つことになるんだし、人前に出ることに慣れて貰わないといけないけれど……急ぐ必要は無いわ」


 セリアーナの言葉に、隣でふむふむ……と頷いていると、ミネアさんが何やらクスクスと笑っている。


「どうかしたの? お母様」


「大したことじゃないわ。ただ、もう少し自分の子にも優しくしてもいいんじゃないかと思ったの」


 そう言ってまた笑っている。


「ウチの子たちはこれでいいんです。どうせリーゼルや他の者が甘やかすでしょうからね」


 少々スパルタな気もするが……まぁ、確かにリーゼルたちが割と甘い気がするし、アメとムチの役割分担と思えば妥当かな?


 そう考えて「違いない」と頷いていると、頭の上に手を置かれて「お前もよ」と言われてしまった。


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 髪も乾かし腹も膨れ、お喋りを続ける皆を横目に、適当に部屋の中を漂いながら俺はゆったりと寛いでいた。

 滅多にセリアーナの部屋で仕事をする機会が無い使用人たちも、時間が経つにつれて慣れてきたようで、部屋全体の雰囲気も和やかなものになっている。


 昼寝は十分したからまだまだ眠くは無いし……俺も適当にお喋りに交ざろうかな……なんてことを考えていると、部屋のドアがノックされた。

 この部屋にやって来るような者は今はいないはずだし……セリアーナが何も言わなかったってことは、リーゼルからの遣いかな?


 セリアーナを見れば、接近を把握こそしていたようで驚いたりはしていないが、何の用件かまではわからないようで、首を横に振っている。

 そして、使用人に中に入れるように指示を出す。


 中に入って来たのは、使用人だが北館をメインの仕事場とする者で、今はリーゼルの報告会の手伝いに行っていたはずだ。

 その彼女が来たってことは、やはりリーゼルからの呼び出しかな?


「失礼します。セラ様はいらっしゃいますか?」


「おるよー。どうしたの?」


「はっ。旦那様が、もしセラ様の都合がいいようならこちらに来て欲しいと……。用事はすぐに済むと仰っていましたが、どうされますか?」


 そう言うと、返答を急ぐかのようにジッと俺の目を見て来る。

 流石は北館付きの使用人。


「……どうしよう?」


 気圧されたわけじゃないが、振り向いてセリアーナにどうするかを訊ねると、肩を竦めながら口を開いた。


「お前の好きにしなさい。話の流れでお前が話題に上ったから、念のため声をかけたとかその程度のことでしょう」


「ふむ……」


 俺はあくまでセリアーナ付きの人間で、リーゼルの部下じゃないし、ついでに他家の人間でもある。

 リーゼルが命令出来る相手じゃないから、どうしてもお願いって形になるんだよな。


 別にそれは全然いいんだが、こういうどうでもいいような時は、どうしたらいいかちょっと迷ってしまう。

 どうしようかと考えつつ他の者の顔を見てみるが、あまり興味はないようで既にお喋りに戻っている。


 ……セリアーナの言葉通りなら、向こうに行っても俺がすることはただ挨拶だけのようだし、皆の様子を見てもその通りっぽいな。

 ちょっと気分転換に行ってみるか!


「わかった。ちょっと行ってみるよ」


 それを聞いた使用人は、「ありがとうございます」と言うと、スッと礼をしてドアに向かって歩き出した。

 気が早い人だな……。


 まぁ、いいか。


「それじゃー、ちょっとオレも挨拶に行って来るね。恰好は……これでいいかな?」


 まさかこんなことがあろうかと……とか考えていたわけじゃないだろうが、テレサが用意した服は寝巻じゃなくて、普通のラフなワンピースだ。

 おかしな格好だとは思わないが、人前に出るにはちょっとラフ過ぎる気もするが、どうだろうか?


「その恰好の方が面倒がなくて済むはずよ。さっさと行って来なさい」


「ほぅ? まぁ、了解」


 どういうことかな……と思いつつも、ここで時間をかけるのもなんだし、俺は使用人の彼女を追って部屋を後にした。


 ◇


 報告会は一番大きな食堂で行われていた。


 王都のリセリア家の屋敷は、こういった催し物を開くための専用ホールを中庭に建てていたし、それを思えば少ししょぼく感じないこともないが、この屋敷は立地的にちょっと難しいから仕方ないかな?


 テーブルなんかの内装を少し移動させたら、それだけで数十人が余裕で入るホールになる。

 飾り気は無いから地味ではあるが、質実剛健なウチの気風を表していると言えなくもないし、これで十分かな?


 そんなことを考えつつも、俺はホールに入ると案内されるがままにリーゼルがいる場所へ向かっている。


 リーゼルのもとには、アレクを始めジグハルトやオーギュストもいるようだ。

 ウチの男性のトップ陣が勢揃いだ。

 ルバンはもう帰ったそうだが、彼も残っていたらそこに加わっていたんだろうな。


 ともあれ、その彼等と話そうとしているのか、顔を覚えてもらおうとしているのかはわからないが、多数のおっさんたちが何重にもなって囲んでいる。


 あそこに突っ込むのかぁ……。

 ちょっと気合いを入れ直さないとな。

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