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「そう……まあ、指揮系統に組み込むためには簡単な訓練は必要よね。エレナ、テレサ。どれくらいで出来そうなものなの?」
部屋に戻ってきた俺は、外での出来事を部屋の皆に話していた。
出かける前のメンバーに、フィオーラも加わったいつものメンバーだな。
ミネアさんも後で合流するそうだが、彼女は彼女で今は人と会ったり忙しいらしい。
ルバンの挨拶で、早めに来た連中がそのままミネアさんにも挨拶をしているんだとか。
ともあれ、一通り俺の話が終わると、セリアーナがテレサたちに補足の説明を促した。
腕がそこそこ程度の冒険者が、リアーナ領内の面倒な場所の魔物退治をするとなると、確かにちょっと不安になるのもわかる。
いくら合同で訓練をするとは言え、それでどこまで変わるのかって話だ。
俺は少しはそのレベルの冒険者と一緒に行動する機会があるから、意外と連中が指示に従うのをわかっているけれど、直接その冒険者たちと接する機会がないセリアーナからしたら、よくわからないよな。
「そうですね……元々領都で活動をしている冒険者でしたら、騎士団の魔物討伐に同行した経験があるかも知れませんし、仲間内で話題が出たことくらいはあるでしょうから、多少腕が未熟であっても対応は出来ると思います。ただ、リアーナ外の冒険者に関しては……」
さて、セリアーナの問いかけにまずはエレナが答えた。
彼女は今は控えているが元々冒険者だったし、アレクの補佐もしているから、領都の冒険者についてはそれなりに詳しいが、外の冒険者については今一つなようだ。
言葉を詰まらせたかと思うと、テレサに視線を向けた。
「彼等の腕はともかく、騎士団が軽んじられているわけでもありませんし、何より今朝一度問題を起こしています。余程的外れな指示でもない限りは従うでしょう。ウチの騎士団は、未熟な冒険者を連れての魔物の討伐に慣れていますし、恐らく問題無くこなせると思いますが……」
エレナは冒険者の情報から答えたが、テレサは騎士団の立場側から考えているようだが、彼女はそこで区切るとこちらを見た。
「姫はどう思われますか?」
「の?」
来るとは思っておらず変な声を出してしまったが、話はしっかり聞いていた。
俺は「うーん……」と、唸りながらしばし考えるが……。
「大丈夫じゃないかな? ウチの冒険者なら慣れてるだろうし、他所の冒険者たちだって、アレクたちなら変な指示は出さないだろうしね」
考えたところであんま大したことは言えなかった。
既に二人が言ったことをただ繰り返すだけになってしまったが……まぁ、間違いでは無いよな。
「それにさ、一応アレクも元々彼等を使うことを考えてたんでしょう? それなら大丈夫だよ」
安心させるようについでにもう一言付け加えると、セリアーナは「そう……」と呟いた。
そして、何事かを考えこむと、今度はフィオーラに薬品の在庫状況などを確認している。
今日はセリアーナは仕事はお休みの日にしているのに……忙しない人だ。
リーゼルが今日は人に会ったり何かと忙しいから仕方が無いとはいえ、オーギュストだっているし、彼女が何でも考えなくていいんだけどな。
リーゼルたちが領地を離れていた間の、セリアーナが何でもやっていた時期の癖がまだ抜けきっていないのかな?
忙しそうにしているセリアーナを眺めていると、逆に俺は何だか眠気がやって来た。
早起きしたからかな?
「さてと……それじゃー、オレはちょっと失礼してお昼寝を……。セリア様も折角の休みなんだしのんびりしたら?」
「船に乗っている間に十分休んだわ」
追い払うような仕草と共にそんなことを言って来るセリアーナに、俺は肩を竦めながら、抱えていた【浮き玉】を浮かび上がらせた。
「姫、どうしましょう。適当な時間で起こしますか? それとも、目が覚めるまで待ちましょうか?」
「夜はまた皆ここか下に集まるんでしょう? その頃までに起きてこなかったら起こしてよ」
俺はテレサにそう伝えると、皆の「お休み」という言葉に手を振って返しながら、寝室へと飛んで行った。
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「……むっ!」
昼寝から目を覚ました俺は、窓の外を見るとすでに薄暗くなっている事に気付いた。
ついでに、寝室の隣から微かに複数の声が聞こえてくる。
セリアーナたちの、通常の会話の声量だと中々壁を越えてくることはないが、この感じだともう人が集まっているみたいだな。
「よしっ……行くか! っ!? あいたたた………」
ベッドから跳ね起きようとしたが、右足の痛みに慌てて横に転がり、大の字になった。
「あー……びっくりした。まだまだ続くだろうし、いい加減慣れないとな」
そのままコロコロとベッドの端まで転がっていき、床に転がしていた【浮き玉】に乗って浮かぶと、隣室へと向かうことにした。
◇
隣室に向かうと、すぐにくつろぐウチの女性陣の姿が目に入った。
「おや? たくさん……」
セリアーナにエレナにテレサ。
フィオーラにミネアさんたちまでが、それぞれ侍女を従えて勢ぞろいしている。
てっきりミネアさんくらいはリーゼルの方に出席して、こっちには来ないかも……と思っていたんだが、こっちの方が居心地がいいのかな?
俺の視線に気付いたのか、ミネアさんは「お邪魔しているわよ」と笑いかけてきた。
テーブルには簡単に摘まめる食事が並べられているし、ダラダラお喋りを楽しむ雰囲気だ。
「起きたわね。私たちは今日はここで過ごすから、セラ」
セリアーナはそこで言葉を止めると、奥の浴室スペースを指した。
「行って来なさい。お前は帰って来てからそのまま寝ていたでしょう?」
「む……りょーかい」
そう言えば、昼間帰って来てから話を終えたら、そのままベッドに入っていたな。
俺は外に出てたところで汗をかいたりはしないが、まぁ……それでも風呂に入ればサッパリするし、先に入ってしまうか。
「それじゃ……あ、いいよ?」
着替えを用意しに自室に向かおうとしたところ、テレサが席から立ち上がり、ドアへ向かって歩き出そうとしている。
俺は、自分で用意するからと、彼女に座っているように言ったんだが。
「いえ、用意だけでも……。姫は先に浴室に向かっておいて下さい」
そう言うと、俺の返事を待たずにスタスタと歩いていってしまった。
「……んじゃ、お願いするか」
まぁ……テレサにとってはコレも仕事のうちなのかもしれないし、ルーティンみたいなもんなんだろう。
俺はそう納得すると、残りの皆に挨拶だけして浴室へと向かった。
◇
浴室に向かった俺は、ササッと身体と頭を洗い終えて、湯に浸かっていた。
右足は相変わらず表面の傷は塞がっているが、内出血は残ったままだし散々な見た目のままだ。
完治はまだまだ先だろうな。
「おや?」
右足を眺めてそんなことを考えていると、ドアの向こうから「湯加減はどうですか」とテレサが声をかけて、中に入ってきた。
着替えならそこに置いておけばいいのにわざわざ中に入って来たのは、何か俺に伝えておきたいことでもあるのかな?
「ちょうどいいよー」
「そうですか。足の具合はどうですか?」
「まだ痛むね。まぁ……元々何週間かかかるって言われてたし、のんびり治すよ」
「それがいいでしょう。……お休み中の間のことを伝えたいのですが、構いませんか?」
「うん。お願い」
やっぱりか……と思いながら先を促すと、テレサは「はっ」と短く答えて話し始めた。
◇
「オレが見回りに同行?」
「はい。役職を考えたら「率いる」と言うべきなのでしょうが、今は姫はまだ動けませんし、あくまで1番隊が主導するのでその形が妥当かと……。旦那様や団長からの要請です」
「ははぁ……なるほどね」
これからの数日はアレクたちが街にいない時間が増えるし、冒険者たちに睨みを利かせるためにも、今日巡回したルートを1番隊が引き継ぐらしい。
今朝の問題もあるし、念のため街の冒険者に騎士団の存在をアピールしておきたいんだろう。
ただ、ちょっと冒険者たちと折り合いが悪い1番隊だ。
緩衝材というか、和ませ役として俺にも加わって欲しいわけだ。
「雨が降るまででいいんだよね? オレは構わないよ」
堅苦しい1番隊と今後もずっと……とかだと流石にお断りしたくなるが、数日程度なら問題無い。
俺はテレサに引き受けると答えた。
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