582

1236


 ルイたちと合流した俺たちは、彼女たちも誘って一緒に冒険者ギルドに向かうことになった。


 同じく冒険者ギルドに用事があるとはいえ、彼女たちは騎士団の人間じゃないし一緒に行動する必要は無いんだが、折角だもんな。

 早朝は登録を出来なかったが、俺たちと一緒だし仲間も一緒だしで、冒険者たちへの丁度いいアピールになるだろう。


「こちらでは騎士団は随分と人気があるのですね」


「うん?」


 冒険者ギルドが見えて来て、もう間もなく到着というところで、ルイが小さい声で呟いた。

 特に誰かに聞かせようって感じじゃなかったが、傍を浮いている俺の耳にはしっかり聞こえたので、思わず聞き返してしまった。


「む……聞こえてしまいましたか。大したことではないのですが、私共も王都圏以外も訪れることがあります。王都から離れるほど領主側と領民との関係が微妙になることが多いのですが……こちらは違いますね。しかも冒険者との関係も良好です」


 ルイの言葉に他の3人も頷いている。


 リアーナになる前のゼルキス領の頃は、彼女たちが言うようにこの街も大分荒んでいたが、リーゼルがここのトップに就いてからは一気に改善されていった。


 そして、騎士になる前に冒険者としてこの街で人気を博していたアレクが、騎士団の隊長の一人になったことで、そのまま人気や人望もスライドしてきたって経緯がある。


 とは言え、そこら辺のことはわざわざ細かく説明しなくてもいいし、簡単に説明するか。


「まぁ……ウチは旦那様もアレクたちも、魔物の討伐なんかで領民の前によく出るからね。施策も基本的に厳しいものは無いし、あんまり嫌われる理由はないかな?」


「なるほど……。そもそもリーゼル様も王族ですしね。他所とは少々事情が違いますか」


「そうそう」


 等と、適当なお喋りをしつつ冒険者ギルドに到着した俺たちは、馬を繋ぎに行ったアレクたちより先に中に入っていった。


 ◇


 さて、中に入ってホールの半ばまで進んだところで、ルイたちは足を止めるとキョロキョロと中の様子を見ては頻りに頷いていた。

 ルイは今朝来ているが、あの時はじっくり見る余裕はなかっただろう。

 地上部分はそんなに珍しい造りじゃないが、まだ建てられて数年だし新しいもんな。


 俺だけならともかく、見知らぬ冒険者風の女性が4人も現れたことに、中で待機している冒険者たちは驚いたのか、ジロジロと視線を投げて来るが、彼女たちは慣れているのか気にせず辺りを見回している。


「冒険者が利用する割に随分綺麗ですね」


「そうね……建てられてまだ新しいからかしら?」


「ウチは結構女性とか子供も利用するからね。あまり乱暴に扱ったりしないんじゃないかな?」


 俺は他の冒険者ギルドと言えば、王都とゼルキスくらいしか知らないから大したことは言えないが、ここの利用状況はある程度把握出来ているし、理由としてはそんなところじゃないかな?


 俺がそう答えると、彼女たちは納得したようで頷いているが……ルイはホールの奥の方に視線をやったままだ。

 何か気になることでもあるのかな?


「なるほど。場所が変われば利用の仕方も変わるものなのですね……ルイ? どうしました?」


「いえ、朝とは大分顔ぶれも混み具合も違うと思いまして。それに……セラ様、あちらはいつもああなのですか?」


「うん? ……ぉぉ」


 いつも……と言われても答えられるほど俺はココに詳しくないし……と思いながらも、ルイが見ている方に視線を向けると、彼女が何を見ているのかがわかった。

 座学を行っている見習いたちが、授業そっちのけでこちらを見ている。


 ……アレはウチの冒険者ギルドでも、確かに早朝では見られない光景だ。


「アレは……ウチの見習い冒険者だね。誰でもってわけじゃないけど、あそこでベテランさんたちに座学を教わったりしてるんだ。確かに他所じゃ見ないかな?」


「ココは魔物の強さが他所とは違いますからね。積極的に鍛える必要があるのでしょう。……しかし、この分では大分冒険者へのサポートが整っているように見えますね」


「ええ。私たちも働きやすそうです」


 どうやら育成システムも含めて、好意的に受け止められているっポイな。

 冒険者として働くんだし、当たり前か。


 ともあれ、ウチのシステムの話なんかは後にして、とりあえず先に登録を……と口にしようとしたところ、入り口付近から声が上がってきた。


1237


「なんだ……お前たちまだそんなところで突っ立ってたのか?」


 アレクたちはゾロゾロと中に入って来ると、すぐに俺たちを見つけたらしく真っ直ぐこちらに向かってきた。

 周りの冒険者たちに挨拶をしながら、前まで来ると兵たちに指示を飛ばす。


「お前たち、彼女たちを案内してやれ。セラ、お前は俺に付き合ってくれ」


「おう! それじゃあ、アンタたち行こうぜ」


 そう言ってルイたちを取り囲むと、窓口に向かってゾロゾロと移動していった。


「……アレ大丈夫なん?」


 ウチの兵が変なことをするとは思わないが、それでも4人の女性を取り囲むゴツイ男たち約10名。

 あまり爽やかではない上に、決してお上品な連中じゃないし、一緒にしていいんだろうか?


「あ? ああ、アイツらだって、奥様が呼んだってことの意味くらいは分かるだろう。それに、アイツらがいた方が余計な連中がチョッカイかけてこないだろうしな。問題無いな」


「……そっか」


「そうだ。さあ、俺たちも行こう」


「うん……って、どこに?」


 窓口とは違う方向に歩き出すアレクについて行きながら、どこへ行くのかを訊ねた。

 冒険者ギルドにアレクたちがやって来たのは、街の巡回のついでに、今朝の件の詳しい情報を取りに……だってことは、巡回中に聞いてはいるんだが、行くなら窓口じゃないのかな?


「支部長の部屋だ。あそこなら表に出せないような情報も揃っているだろうし、彼に直接聞いた方が早いだろう?」


「あぁ……なるほどね」


 ここには冒険者の登録情報とか色々あるだろうし、今朝の騒動の時にいた連中の詳しい情報が欲しいんだろう。

 騎士団の任務に同行させる以上は、ちゃんと調べておく必要がある。


 とは言え、結構な重要機密だし、ウチの兵がいるって状況もあまり好ましくないから、ルイたちについて行かせる名目で、別行動にしたんだろう。


「本部を出る際にそのことを伝えているから、今頃は準備が出来ているはずだ。さっさと済ませてしまおう」


「そうだね」


 ◇


 冒険者ギルドの登録情報。

 実はこれは登録時には大したことは書いたりしない。

 名前に出身地、雇われの場合はその主だったり、主要な経歴……精々それくらいだ。


 ただし、いざ登録してからだと、その土地での任務や討伐実績だったり、ダンジョンに潜る冒険者の場合は到達階層等々、冒険者としての実績がどんどん追加されていく。


 そして、それだけじゃなくて、冒険者間の評判だったり周りの評判だったり滞在先だったり……個人の人間性何かも記されていたりする。


 ……さて、俺とアレクは今支部長の部屋で、主である支部長のカーンも交えて騒動が起きた時にその場にいた、ココと他所出身の冒険者たちの資料の写しを読んでいた。

 ちなみに、その写しは全部手書きだ。

 何十人分もあるのに、短い時間で丁寧に作られているし……ココの職員には頭が下がるね。


 しかし。


「なんかみんな結構地味な仕事ばかりやってるね。外の狩りは魔境には行っていなくて、西側の農場の見回りとか、移動する商人の護衛とか。ダンジョンでも浅瀬がほとんどで……数人だけ上層で狩りをしてるけど、それでも手前の方ばかりだよね」


 俺はまずはリアーナの冒険者の資料から見始めたんだが、何というか……地味だ。

 個人でそこまで強くないから、同じような連中でグループを組んでいたってのはわかっていたが、あまりにも普通というか何と言うか。


 あのリーダー格だった連中は、流石に仲間を集められるだけあって他の連中よりは実績はあるが、リアーナの冒険者としてはそこまで……って感じだよな。


 それでも人を集められる辺り、カリスマなんかはあるのかもしれないが……これで外の狩りに同行させて大丈夫なのか?


「外の連中も似たもんだな。こっちはまだ外の狩りの経験は多いが、所詮は東部以外の魔物だ。大して役には立たないかもな」


 俺とアレクが揃って心配事を口にすると、カーンが慌ててフォローを入れてきた。


「まあ、そう言うなよ。経験が浅いってのは確かだが、護衛任務の評判なんかは悪くないんだ。こういう連中が増えてくれたら、今後の領内の商人の移動が盛んになるし、開拓の速度も上がるだろう?」


 その言葉に、アレクは肩を竦めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る