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 一旦領都の東門までやって来た俺たちは、そこからまずは北に向かい始めた。

 そこから順に反時計回りで、最終的に冒険者ギルドに向かう予定だ。

 アレクと他に馬に乗っているのは二人だけで、残りは歩きなのを考えると、ちょっと距離があるので大変かもしれないな。


 この見回りが何のためなのかを聞いた俺は、とりあえず協力しようと【妖精の瞳】も発動して、周囲をキョロキョロと見回していたんだが……どうにもこのルートだと冒険者があまりいないエリアばかりだけに、今のところ街の様子に普段との違いは見えてこない。


「特に変わった様子はないね。こんなもんなのかな?」


「この辺りならそうだろう。東や南街だと冒険者の数も増えて来るしな。差し当たって、異常が無いということがわかるだけで十分さ。2日3日続けて、何も無ければそれで完了だな」


 今日だけじゃなくて、数日行うのか。

 確かに、1日だけ見たって何もわからないよな。


 とりあえず、ダンジョンの規制が解除されるくらいまでは見て回った方がいい気がするが……。


「地味な仕事だねぇ」


 今までのアレクたちや冒険者ギルドの職員たちの言葉を思い出してみるが、冒険者同士が酒場でちょっと揉めたりはあっても、他の場所で一般人相手に問題を起こすことなんてちょっと考えにくい。


 忙しい中予定をやりくりして、何も起きないと分かっている街の見回りか……大変だ。


 だが、アレクは俺の言葉に苦笑しつつも首を横に振った。


「地味なのは確かだが……放っておくわけにもいかないだろう? 想定外ではあったが今朝のこともあるしな」


「アレはオレが切っ掛けみたいなものだけど……確かに」


 別に俺が悪いわけじゃないが、アレのせいで見事に余計な仕事を増やしてしまったか。

 申し訳ないな。


 その思いが表情に出てしまったのか、こちらを見るアレクは笑っている。


「まあ、気にするなよ。切っ掛けはどうであれ、俺たちが表で問題は起こさないだろうと放置していたせいだしな」


「そっか……そんじゃー、そうするよ!」


 何時までも俺が気にしていても仕方がないしな。

 そこはもう気にしないでおこう。


 そんなことを話していると、俺たちの後ろをついて来ていた一人が声をかけてきた。


「よお、旦那」


 先程までは通りを行き交う住民の目を気にしていたのか、黙ってついてきていたんだが、徐々に人目も減って来たし緩んできているな……。


「どうした?」


「簡単には聞いたが、その冒険者連中を外の魔物の討伐に連れて行くんだろう? そいつらはどういう待遇にするんだ?」


「待遇か? 例年通りの他の冒険者と同じ待遇だ」


 アレクの返事に、彼は「ほお……」と小さな声で頷いた。


 リアーナの騎士団に同行する魔物討伐は、倒した魔物の代金とかは冒険者に支払われるんだよな。

 拘束時間が長いだけに、冒険者の上位連中からしたら奉仕活動みたいなもんだが、あまり稼げない連中からしたら美味しい任務だ。

 乱闘を起こした連中が、処罰でその任務に放り込まれることになっているが、報酬なんかの待遇もそのままなのか。


「乱闘云々抜きにしても、元々連中の不満を解消するために、そこに回す予定だったんだ。元々俺たちの手が足りないから傍観していた問題でもあるし、それくらいはな……。何か問題があるか?」


「いや……俺も知っている奴がリアーナ側の冒険者でやらかしているから、どうなるか少し気になっていたんだ。今年は普段よりも俺たちが外に出る機会が少なかったしな……」


 彼はここの冒険者上がりか。

 彼の年齢を考えたら……後輩か弟子かな?

 その後輩だか何だかがあの場にいて、どうなるのかが気になっていたんだろう。

 面倒見の良いことだ。


 まぁ……でも、彼の知り合いだけじゃなくて、他のあの場にいたウチの冒険者の中にも、騎士団の活動の低下の影響を受けている者がいただろうし、そういう連中が困窮するってことは無いだろう。

 リアーナで野盗なんかになるのは、下手な冒険者をやるよりハードルは高いだろうが、治安の悪化に繋がりかねないし、その辺は上手くサポート出来ていそうだな。


 等と、アレクたちの話を聞きながら偉そうに頷いていた。


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 東街の端から始まった巡回もグルッと回って東街、北街と通過して行った。

 冒険者が少ないエリアだけに何事も無く、これまでは、ただの領都の住民への2番隊のアピールに終わっている。


 ただ、中央通りを越えて冒険者ギルドがある南街に入ると、少しずつ雰囲気が変わっていく。


 冒険者たちご用達の宿屋は当然だが、それ以外の普通の住居や店の2階なんかにも冒険者らしき者の気配がある。

 下宿みたいなことをしているのか、それともそこの住人が冒険者になっているのか……どっちもかな?


 普段もこの辺を通ることはあるが、サッサと通過するだけで、マジマジと建物の中を探ったりはしないから気付かなかったが、結構色んな所にもいるもんだな。


 しかし、いくら素通りしていたからって、これだけ気配があって気付かないとかあるかな?


「……この辺に来ると流石に冒険者が増えてきたね」


 珍しい……と、ついついキョロキョロしてしまうが、割と不審者っぽい動きをしている自覚はある。

 騎士団の巡回と一緒だから大丈夫だと思いたいが、これは見た人に怪しまれたりしないだろうか……?


「このままで大丈夫かな?」


 そう口にすると、馬に乗っている兵の一人が口を開いた。


「そうだな。副長の目玉は引っ込めた方がいいんじゃないか? この辺りはウチ以外の土地から来たヤツ等が暮らしてるだろう? いくらアンタでも警戒されちまう」


「ぬ、了解」


 彼の言葉に頷くと、俺は目玉を引っ込めて、ついでにヘビたちにも姿を隠すように指示を出した。


「ウチ以外の冒険者が住んでるのかな?」


 地元の冒険者なら俺の恩恵品のことはしっているだろうし、一々気をつかう必要は無いんだが……他所の連中は違うかもしれないし、念のためだな。


「ああ。この辺は他所の商会の倉庫だったり集会所あたりが多いんだ。その土地出身の冒険者が、一通り稼げるようになるまでは寝泊まりをするようになっている。商会の連中も顔繫ぎも兼ねて、金をとらずに泊まらせているようだしな。まあ……ウチで真面目に狩りをしていたら、そう時間がかからずに稼げるようになるし、連れてきた護衛連中が寝泊まりするのがほとんどだな」


「だな。ただ……今は狩場の問題でその事情が変わってきている。朝の連中も普段なら十分稼いで、とっとと出て行っているんだろうが、今はあまり稼げない状況だ。当事者の何人かはここら辺にいるだろうな」


「ほぅほぅ……」


 まぁ、ヘビたちの目でもどこにどれくらいの人数がいるのかくらいはわかるし、一々強さまで見ておく必要は無いし、【妖精の瞳】は使わなくても大丈夫か。


 とは言え……一応念のためアレクのすぐ後ろについておこうかな。


 俺はアレクの鞍のすぐ後ろに移動した。


 ◇


 そろそろ冒険者ギルドが見えて来る場所までやって来た。

 今朝も通った道だが、早朝と違って昼間は、冒険者に商人と流石に人の姿がたくさんだ。


 馬車も通りを走っているし、通行の邪魔にならないように俺たちは端を移動していたんだが、見覚えのある女性たちが通りのわき道から姿を見せた。

 数は4人。

 護衛の彼女たちだ。


「あれ?」


「どうし……ん? ああ……あの連中か」


 俺の声に、彼女たちを知っているアレクはすぐに反応をしたが、彼女たちのことを知らないウチの兵たちは「?」と首を傾げている。


「セリア様が王都から連れてきた護衛の冒険者たちだよ。しばらくリアーナで冒険者として活動するんだって。あ、向こうも気付いたね」


 兵たちに彼女たちのことを説明していると、向こうもこちらに気付いたようで、早足でこちらにやって来た。


「セラ様、お疲れ様です。街の巡回ですか?」


「う? ……うん、まぁ、オレはちょっと違うんだけどね」


 巡回の任務はアレクたちのもので、俺は退屈しのぎに付き合っているだけに、そう真っ直ぐ訊ねられると答え辛いな。


「コホン……。ルイさんたちはどうしたの?」


「はっ。我々の活動拠点を選ぼうと、テレサ様に紹介していただいた部屋を見て回っていました。ついでに、今朝出来なかった冒険者ギルドの登録を済ませてしまおうと思いまして……」


「なるほどー……」


 今朝の冒険者ギルドへの登録もそうだったが、昨日到着したばかりだってのにフットワークが実に軽い。

 仕事が出来る人間は違うな……。

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