574

1220


 冒険者ギルドの建物に入ってすぐのところにいた冒険者たちとの会話を切り上げると、俺は他の冒険者たちにも声をかけることにした。


 初めのパーティーは、俺が中に入って来てすぐに声をかけたからああいった出だしになっていたが、他の連中はその様子を見ていたらしい。

 面識がほとんどない連中だったり、全くの初対面の連中だったりではあったが、それなりに礼儀正しく接してきた。

 何だかんだで、リアーナのダンジョンを利用出来るくらいの稼ぎがある連中だし、多少はお偉いさんからの仕事を受けたことがあるんだろう。


 しかし、そんな連中でもここじゃあぶれちゃうか。


 立ち入ることに制限がかかっていない場所での狩りは、リアーナの連中が固まっていて、外の連中はそこに加われないから、彼等が狩りをする場所はリアーナの連中が押さえていない場所になるけれど、そこを取り合っているそうだ。


 話を聞いていると、彼等はそのことを不満に思いつつも、可能なら自分たちも狩場を押さえ続けたいと思っているようだった。

 だが、それを可能にするだけのメンバーがいないんだろう。


 まぁ……いくらダンジョン内での冒険者同士の争いは御法度とは言え、即席でそんな集団を作るのは不可能だよな。

 他所からやって来た連中は、一応稼げてはいるもののその辺りが不満らしい。

 そして、元々リアーナで活動してはいたものの、お声がかからず省かれてしまった者たちもだ。


 特に後者に関しては気持ちもわからなくはないが……それはちゃんとバックを作る努力をすればどうにかなることだし、何だかんだで当人たちもそのことがわかっているんだろう。


 ってことで、彼等は彼等で頑張ってくれ。

 俺はもうちょいまともな話を聞きに行く!


 1階のホール手前を一通りうろついたところで、俺はさらに奥へと進むことにした。


 ◇


 1階のホールの見物……もとい視察はもう十分だってことで、俺は奥にある階段を下りてダンジョンの入口がある地下へと下りていった。

 他所の冒険者ギルドもダンジョン手前は、ダンジョンへの探索に向かう者だったり、あるいは帰還した者だったりが集まれるようになっているそうだが、ウチの場合はセリアーナの趣味でちょっとしたカフェのような空間になっていた。


 ちなみに、そこの奥には限られた者しか知らされていない、騎士団本部の地下に繋がる直通通路があったりもするが……今は関係無いか。

 通路前に控えていた、俺を見て驚いているウチの兵に軽く手を振って挨拶をすると、手近な冒険者の集まりに近づいて行った。


「よう副長さん」


「そういや、アンタたち戻って来たんだな」


 流石に今ここにいる連中は俺のことを知っている者も多い。

 一目で俺だとわかり、声をかけて来る。


「やーやー。狩りはもう終わったのかな?」


「俺たちはな。ついさっき戻って来て、代わりの隊を送り込んだところよ。……副長さんはどうしたんだ? ダンジョンに姿を見せるのはいつもの事だが、今はまだ朝だよな?」


「うん……ちょっとねー」


 俺は彼等の声に応えながらカフェエリアを見渡した。


 冒険者ギルドや狩場で見たことのある連中が多数いるが……反面俺の記憶に残っていない連中の姿もある。

 そいつらは、多分自分たちだけでダンジョンに挑むにはまだちょっと腕が足りなかったとかそういう連中なんだろう。

【妖精の瞳】で見ると、確かにダンジョンで狩りをするには少し力不足に見えるし、ウチの売りである魔境での狩りはかなり厳しいだろうな。


 これがまだまだ若手の冒険者だったら、将来を見込んで仲間に引き入れて、ダンジョンに連れて行ったりもするんだが、見た感じ少なくとも若手には見えないし、今回の件で上手いこと独占グループの一員に加わった連中なんだろう。


 そんで、今俺に声をかけてきたのは、そのグループのリーダー格かな?

 ちょっと、他の連中とは雰囲気が違っていた。


「手広く稼いでるみたいだね。今朝は街を通って来たんだけど、途中で狩りが終わった人たちと話をしてきたよ」


「はっ……まぁな。俺たちが普段狩っている場所が立ち入れなくなっちまったからな。腕のいい連中が商会の護衛に結構な数が持って行かれたのは知っているか? お陰で森の狩りをする連中が減っちまったし、そうなるとな……」


 男は途中で言葉を止めると、どこか気まずそうな表情を見せた。

 彼だけじゃなくて、他のリーダー格の連中もだ。


1221


「ダンジョンを半ば独占したり、そこで狩りするメンバーを勝手に選別したりで、派閥みたいなのを作ってるのを気にしてるみたいだけど……別にそんなに気にしなくていいんじゃない?」


 腕のいい連中はわざわざ浅瀬で狩りをしないし、腕が足りずにダンジョンに挑戦出来ずに燻っていた連中にとっては、ある意味安全を確保された状況でダンジョンでの狩りが出来るんだ。

 もちろん、人数が多いしその分稼ぎの割合は減るが、十分過ぎるだろう。


「他の狩りをしている人たちを、ダンジョンから追い出したりはしていないんでしょう?」


「そりゃそうさ。ダンジョン内でも外でも冒険者同士の争いは御法度だろう? 他所の連中も街に来ているが、そいつらだってわかっているだろうしな。互いに不満はあっても表に出すような真似はしねぇよ」


「……あ、そっちも不満があるんだね」


 仲間を集めてダンジョンでしっかり稼いで……少なくとも今のダンジョンの最大勢力は彼等だと思うし、他所の冒険者が何か出来るとは思えない。


 ウチの冒険者たちだって、今のこの狩場の独占は一時的なものだと理解しているから、ぶつかるようなことはないだろうし、少なくとも彼等が不満を持つようなことはないと思うんだが……。


 はて……と首を傾げていると、別のリーダー格の男が口を開いた。


「表立ってはないが……酒場や宿では小さい衝突が増えているらしい。そう遠くないうちにダンジョンの制限は解除されるんだろう?」


「うん。今日明日とかじゃないだろうけど、旦那様も団長も帰って来てるからね」


 昨晩俺は途中でリタイアしたから聞いていないが、あれからそこら辺についても話したのかな?

 まぁ……遅くても、外の魔物の討伐が済むころには解除されているはずだろう。


「制限が解除されたら、今まで休暇を取っていた腕のいい連中が、自分たちのところの新人を引き連れて挙って潜ってくるはずだ。俺たちは……何とか中層手前で狩りが出来ているが、他の連中の腕じゃ無理だろうからな……」


 そう言いながら、声は徐々に小さくなっていく。

 そして、肩がすっかり落ちている。


「なるほどねー……」


 大きなパーティーだったり、それこそ戦団なんかが自分のところの新人冒険者を、ダンジョンへ訓練に連れて行くことはあるが、その連中は今はダンジョンでの狩りを止めているんだろう。


 その連中がダンジョンに狩りに来るようになったら、流石に狩場を独占するような真似は出来ないようだ。


 そりゃそーか。


 ギリギリダンジョンで狩りが出来るかどうかって連中を集めた彼等が、ダンジョンの中層以降や魔境での狩りを余裕で出来る連中相手に、狩場を主張なんか出来ないよな。


 それでも、同じリアーナ出身の誼で、一緒に狩りをしたりってのは出来るだろうが、他所の連中はどうだろうな。

 排除はされなくても、一緒に狩りをって雰囲気にはならないだろう。


 せめて相応の腕があれば別なんだろうけれど、それも無いし……ダンジョンでの狩りは厳しいだろう。


 彼等の話を聞いた感じ、他所の連中もそのことを理解していて、だからこそピリピリしているってことか。


「まぁ……でも、それはさ……」


 今の美味しい状況に乗っかることが出来なかったのは気の毒ではあるが、そもそも実力的に微妙なのに無理にダンジョンで狩りをするってのが間違っているんだし、ダンジョン内で刃傷沙汰なんかが起きないのなら、勝手にやってくれ……としか思えない。


 アレクたちが彼等を放置していたのも、そんなところかな?


 そんなことを考えながら、「……まぁ、頑張ってよ」と声をかけようとしたその時、項垂れていた男たちが揃って顔を上げると、ホールに繋がる階段の方に視線を向けた。


「……どうかしたの?」


「気付かないのか?」


「ぬ……」


 見ると奥の通路を守っているウチの兵たちも上の方を見ているし……これは上で何かが起きてるのか?

 今は【祈り】を発動していないし、ちょっと感覚が鈍っているんだよな。

 俺は気付くことが出来ない。


「おい」


 と、1人が立ちあがりながら声を上げると、他の者たちも揃って立ち上がった。


「ああ。お前らはここにいろ! 中から帰還した者が来たら、ここで待機しておくように伝えておけ」


 そして、その中の1人がカフェスペースの他の者に向かって指示を飛ばす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る