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「ちょっと外をぶらついて来ます」
相変わらずぐっすり眠っているセリアーナを他所に、ベッド脇にその書置きを残して俺は自室の窓から外に飛び立った。
セリアーナの部屋からでもよかったんだが、鍵を閉められないしな。
この屋敷に早朝から誰かが侵入したり……なんてことはまずないだろうが、それでも念のため、窓から出るのは中庭に面した自分の部屋からだ。
……別に悪いことをしているわけでもないんだし、普通に玄関から出ればいい気もするが、いつもの癖で窓から出てしまった。
俺に限ってそれを問題視されるようなことはないと思うが、癖って怖いよな。
ともあれ、中庭に出ると屋敷の屋根を越えて表に回り込むことにした。
◇
「ふぬ……流石にまだ街に住民は出て来ていないか。門も閉まってるから外から領民も入ってこないし……」
屋敷の上空を、ゆっくり飛びながら街の様子を眺めているが、早朝だけあって街はまだまだ静まり返っている。
先程見えた冒険者は、ダンジョンにでも向かっていたのかな?
街の外に出れないのなら、行先はそこくらいだしな。
そうなると、今の時間街中で住民が活動している場所は……冒険者ギルドくらいか。
俺たちが帰って来るまで、冒険者の活動を少し抑えめにしていたらしい。
俺たちが帰って来たことはもう街中に知られているだろうが、それでも昨日の今日でいきなり色々な取り決めを変更するなんてことはないだろう。
「街の外に出るのはちょっと準備が足りないし……冒険者ギルドに顔を見せに行くかな?」
冒険者ギルドに立ち寄ってもし知り合いの冒険者でもいたら、それとなく周囲の狩場の情報でも集めてみようか。
【祈り】を発動しない状態で街に出るっていうのは、いつ以来か思い出せないくらいで少々落ち着かないが……まぁ、【影の剣】や【蛇の尾】はしっかり身に着けているし、街中での俺の戦闘力には影響は無いだろう。
そもそも、教会勢力が一掃された今のこの領都で俺が危険な目に遭う事態なんて、ちょっと考えられないし……いけるいける。
【妖精の瞳】と【風の衣】を発動すると、俺は屋根の上から離れて、【浮き玉】の進路を街へと向けた。
◇
屋敷がある高台を出たところで、俺は【浮き玉】の高度を地上付近まで下げることにした。
あんま高いところにいても街の雰囲気とかもわかんないしな。
まぁ……果たして俺が街をうろついたからって、変化に気付けるかどうかはわからないが……気分だ気分。
ってことで、貴族街から街に出る門に続く道をのんびり進んでいた。
「セラ副長っ!? こんな早朝にお一人でどうされたのですか」
門を守る警備の兵が、呑気に朝っぱらから一人で門に向かってくる俺を見つけて、何事かと思ったのか慌てて駆けつけてきた。
この恰好でブラついているくらいだから、別に異常事態とかそんなことじゃないってのはわかりそうなもんだが、如何せん、普段の俺は街に出る時は門を通らず上空を通過することが多いし、こんな不意打ち気味に現れると驚くのも無理はないかな?
「おはよー。ちょっと早起きしたから散歩がてら街をうろついてみようと思ったんだ。一月ほど領都にはいなかったしね。何か変わったこととかの報告は?」
「は? ……はっ。昨晩から街で何か異変が起きた等の報告はありません。街の外だと、セラ副長やご領主様方が帰還される際に遭遇した魔物の群れ以外の報告は受けておりません」
俺のアバウトな質問に対して、思ったより真面目に報告をしてくれる彼。
1番隊だな。
「そっか……ご苦労様。それじゃー、通らせてもらうよ。一応屋敷に街に出て来るって伝えてはいるけれど、もし屋敷の方から何か聞かれるようなことがあったら、冒険者ギルド辺りをうろついているって伝えといてよ」
「冒険者ギルドですか。わかりました。セラ副長が不在の間に、冒険者に大きな入れ替えは起きておりませんが、それでも新しく入って来た者もいます。お気を付けください」
と、彼は色々細かいことを付け加えながら礼をして来た。
中々気が利く兵士だ。
俺は彼に一言礼を告げると、門を通って貴族街を後にした。
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「…………ふむ」
貴族街から街に入り、中央通りから中央広場に続くルートをフラフラのんびりと移動をしながら、それとなく建物を見ると、警備のためなんか上の階には人の気配はあるが、下にはいないし当然外にも出て来ていない。
この辺は、普通の買い物だったり飲食ならともかく、早朝からダンジョンに向かうような冒険者が近づく場所でもないし、通りで見かけたのは巡回の兵のみだ。
とは言え、この時間帯にこの辺りに巡回の兵が出ているってのは、さっきの兵が言っていたように、他所からの冒険者たちが揉め事を起こしたりしないように警戒しているのかもしれない。
この街の冒険者は、狩場では知らないけれど、街中では基本的に皆大人しいもんな。
アレクとジグハルトの2人が騎士団にいる影響かな?
ただ、他所から来た連中に2人の名前が効くかはわからないし、念のために配備しているんだろうな。
しかし……この分なら特にこの辺で何かが起きるってことも無さそうだし、わざわざ見て回る必要は無いか。
さっさと、通りを抜けて冒険者ギルドに向かおう。
そう決めると、俺は【浮き玉】の進路を南に向けた。
◇
中央通りを南に抜けて冒険者エリアへとやって来た俺は、先程までと変わらない速度で冒険者ギルドに繋がる通りを進んでいた。
通りには昼頃には屋台が並んでいるだろうが、この時間だと営業はしておらず、通りには何も店が出ていない状態だ。
だが、それでも巡回の兵くらいしか姿が見えなかった中央通りとは違う。
「おはよー」
冒険者ギルドがある方から、同じパーティーらしき5人の冒険者がこちらに向かってやって来ていた。
何となく見覚えがある気がするし、多分もともとこの街で狩りをしている連中だよな?
少々不安に思いつつも、先頭の男に声をかけてみると、男たちは気さくな雰囲気で答えてきた。
「お? よう、昨日帰って来たんだったな」
「こんな朝からどうした? あんたが外に出るのは昼だろう?」
俺のことを知っているし、この街の冒険者だな。
俺の場合だと、冒険者は狩場や冒険者ギルドでチラッと見るだけだし、兜やバンダナなんかを巻いていることが多いから、顔を見せた状態だと却ってわからないことがあったりするが……どうやら勘違いってわけじゃなかったらしい。
よかったよかった。
「ちょっと早起きしたから、街の様子でも見てみようかと思ってね。それよりも、そっちは? こんな時間に狩りを終えたの?」
「ああ……ここ一月ほど……って、アンタらが領地を離れてからだな。そこのダンジョンの潜る範囲に規制が入ったんだ。その関係で浅い階層で狩る奴が増えてきて、昼間なんかの混んでいる時間だとあまり稼げなくなったんだ」
と、先頭の男が口を開いた。
「互いに損をしないように、普段から上層辺りで狩りをしているパーティーである程度順番を決めて狩りをしているんだ。……別に不味いことじゃないよな?」
彼が言っているのは、要は複数グループによる狩場の独占のようなものだが……他の冒険者を排除するような真似をしなければ、中で揉め事でも起きない限りは問題にはしないだろう。
「ははぁー……。まぁ、そこらへんは現場で上手いことやってくれたらいいんじゃないかな?」
その答えに、先頭の男がホッとしていると、彼の後ろの連中も口々にしゃべり始めた。
もしかしたら、違法……と言われたらどうしようとでも思っていたのかな?
「外の狩場に出てもいいんだが、やはりこの街中で狩りが出来る環境ってのは大きいんだ。費用もかけているし出来ればダンジョンで稼ぎたいよな」
「ああ。それに、森で狩りをしていた連中の何組かは、商会に雇われて街を離れたりもしているし、森で狩りをしている冒険者の数が減っているだろう? その状況で狩りに行くってのはちょっとリスクがでかいよな」
「全くだ……。どうしても外に出るよりは、多少効率は悪くてもダンジョンでの狩りの方が安全だよな」
彼等は冒険者の腕としてはリアーナの基準だとそこまで高いってわけじゃないんだろう。
一の森を始めとして、魔境での狩りは今のリアーナの冒険者事情を考えると、二の足を踏んでいるって感じか。
俺は彼等の話を聞きながら「なるほどなー」と頷いていた。
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