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 俺がのんびりミネアさんとお喋りをしている間に、襲撃のタイミングから戦闘の様子までを含めて、時折リーダーもまざって一通りの説明が終わっていた。

 そして、お次の話題ということで、俺たちが領地を空けていた間のことについて……ってことなんだが。


「あ、ねーねー」


 ちょっと待ってくれと、オーギュストの言葉を遮った。


「む? どうした? セラ殿」


「あのさ、あの賊たちが何者なのか……とかは話さなくていいの? 何もわかってないんだよね?」


 結局アイツらの狙いは何だったのか……それがまだわからないんだよな。

 何かしらここの皆なら情報があるかもしれないのに、聞いたりしなくていいんだろうか?


 そう思ったんだが、オーギュストは小さく首を横に振った。


「確かに気にはなるが、マーセナルからの報告を待ってからでいいだろう。我々が不在の間も領内で問題が起きたりもしていなかったようだし、残兵がこちらにまだいるということも無いだろうしな」


「ふぬ……」


 やっぱそういう方針でいくのか。


 気にはなるが……リアーナで問題が起きていないのなら、他にも話しておきたいことがある以上は、そこにこだわっていても仕方がないってことかな。


 まぁ……冒険者のこととか開拓拠点のこととか、不在の間のリアーナのことも気になるもんな。


 俺は「了解」と頷いて返すと、オーギュストも小さく頷いた。

 そして、オーギュストが前から席に下がると、今度はアレクが前に出てきた。

 ここからはアレクが行うらしいな。


 それじゃー……真面目に聞かせてもらおうかな?


 ◇


 アレクの話は、まずは冒険者ギルドが管理する、ダンジョンを始めとした狩場の状況報告から始まった。


 結果は、ダンジョンは特に何も起きていないとのこと。


 どうやら、領主夫妻が領地から離れているため、冒険者ギルドが少々介入して、ダンジョンでの狩りは控えめにさせていたそうだが、それが大きかったのかもしれない。

 その分ダンジョンからの上りは落ちているが……マイナスも無いし、余計な物資の消耗も抑えられるしで、悪いことじゃないよな。


 そして、それはダンジョンだけじゃなくて、魔境での狩りもそうだったらしい。

 開拓拠点を中心とした開拓の進捗具合は下がってしまうが、これに関してもダンジョンの件と一緒で、ウチの戦力の低下を抑えるためには悪いことじゃない。


 ただ……ダンジョンや魔境といった、戦力を集中する必要のある狩場での活動が低下しているのなら、リアーナに集まっている冒険者たちはどうしているんだろうか?


 その疑問はリーゼルたちもそうで、アレクに今日の帰路の出来事を交えて、他の冒険者たちについて訊ねていた。


 それに対し、てっきり先程までと同じように問題無い……と答えるのかと思ったんだが、アレクは少し困った様な表情を浮かべている。

 見ればジグハルトもだ。


「……何かあったのかい?」


 2人のその微妙な反応に、眉を顰めて訊ねるリーゼル。


「いえ、何かがあったという訳では無いんですが……。ダンジョンや魔境といった稼げる場での活動を控えさせた分、冒険者の数は領都を始め、各街で余っていたんです」


「まあ、元々リアーナで冒険者をやる者たちは、リアーナ出身はもちろん、他所からの移籍組も魔境やダンジョンを目指している者がほとんどだろうしね。ある意味狩場を取り上げられたようなものだし、街にあぶれてしまうのは仕方がないよ。だが、別にそれで冒険者同士で揉め事が頻発したり……なんてことは起きていないんだろう?」


「もちろんです。ただ、その余っていた冒険者とこの機に契約を結ぼうとする商会がいくつか現れました。リアーナや東部に拠点を持つ商会ではなくて、他所に拠点を持つ商会です」


「機に敏いと見るべきかな……?」


「はい。多くの冒険者を抱え込んで、領内の各地に足場を作ろうと精力的に動いています。もちろん、魔物が現れた場合にはしっかりと処理をしているのですが、あくまでそれは街道沿いばかりで、領内の魔物の数を減らせているかと言うと微妙なところですね」


「なるほど……問題行動をしているわけではないし、君たちの立場からでは無理を通しにくかったわけか。わかったよ。それは明日にでも僕から商業ギルドや冒険者ギルドに指示を出しておこう」


「はっ。よろしくお願いします」


 アレクはリーゼルの言葉にフッと表情を緩めると、頭を下げた。


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 アレクにジグハルトと、冒険者はもちろん他にも何かと睨みが利く存在だが、普通に冒険者として仕事をしている者には強くは出れないし、その気もなかったんだろう。

 一応、リーゼルやオーギュストの代理として残って役目を果たしていたが、元々こういうのは彼等の仕事じゃないもんな。


 ともあれ、この辺りの魔物の討伐がいまいち進んでいない理由はわかったな。


 領都より西の比較的安全で尚且つ栄えているエリアを、他所から来た商会の人間が雇った冒険者を護衛にして、街道を動いているそうだし、その辺の魔物は減らせているだろうが、こちら側にはタッチしていないんだろう。

 そりゃー、こっち側の魔物の討伐は進まないだろうさ。


 そして、それにもかかわらず領都内で普通に冒険者を見かけた理由もだ。


「連中に雇われている冒険者は領都にもいるにはいるんですが、やはりそちらの仕事を優先するため、怪我を負う可能性のある任務は控えていますし、何時呼ばれても応じることが出来るように、領都内の商業ギルド近くでたむろっています。街中の冒険者の数が減っていないように見えたのは、その為でしょうね」


 そう言って肩を竦めるアレクに、さらにジグハルトが続いた。


「連中も仕事だし、一々咎めるわけにもいかないからな。それに、いくら領内で活動をしたいからと言っても、腕の立つ冒険者を長々と雇い続けることは流石に無いだろうし、冒険者たちも、アンタらが帰って来るまでの間に合わせ程度のつもりだろう」


「そうだね……。とは言え、雨季前に冒険者としての活動を再開してもらいたいし、これは最優先だね。それで大丈夫かな? 僕が王都にいた間に声をかけていた冒険者たちも、いずれリアーナにやって来るはずだけれど、今回は間に合わないだろうからね」


 いくら腕が立っても、俺たちのように船を使って優雅にかつ高速で……とは、中々普通の冒険者じゃ難しいはずだ。

 リーゼルが言ったように、今回の雨季前の魔物討伐には間に合わないだろうし、今いる分の冒険者で片付けないといけないな。


 雨季までもう間もないが、今いる冒険者も動かすことが出来るのなら、むしろ今まで温存していたわけだし、割合簡単に片付くんじゃないかな?


 護衛の彼女たちも加わるだろうし余裕だろう……と、俺は暢気な事を考えていたんだが……。


「何か問題でもあるの?」


 何故かアレクたちは難しい顔をしていた。

 それを見て、何か問題でもあるのかと訊ねたんだが……チラッと2人してこちらを見ると、今度は揃って苦笑している。


「問題と言えば問題かもな……。セラ、お前の足の具合はどうなんだ?」


「足?」


「ああ。今までのような、一気に魔法やポーションで治すような治療はしないんだろう?」


「……うん。まぁ、状態にもよるけど一月とかそこらへんじゃない?」


 はて……と、首を傾げていると、セリアーナが口を開いた。


「セラをあてにしていたのかしら?」


 セリアーナの言葉に、アレクは首を縦に振った。


「正直……セラの存在は大きいですね。魔物との戦闘だけならここの冒険者だけで十分なんですが……。2番隊と連携をとる冒険者はセラと組むことに慣れていますから。旦那様や奥様方が領地を空けている間の、魔物の討伐が捗らなかった理由のいくらかは、セラが不在だったというのもあります」


「ぉぉぉ……」


 いつの間にやら俺の存在も大きなものになったもんだ。


「加護とか色々遠慮なく使ってるからかな……?」


「それもあるが、呼べばいつでも救援に来れる存在ってのは、存外大きなものらしいな。森ごと消し飛ばしていいのなら、俺やフィオでも間に合うが、そうもいかないだろう?」


「それは勘弁してください……」


 物騒なジグハルトの言葉に、アレクは笑って止めながら話を続けている。


 必要になるかはともかく、俺の存在はいつの間にやら冒険者たちにとっての保険みたいな感じになっていたのか。

 言われてみれば、呼ばれたらいつでも高速で飛んで行けるし、討伐参加へのハードルが下がるのかもしれない。

 俺が領都にいるかいないかってのは結構大きい気がするな。


 皆の話を聞き流しながら、だんだん眠くなってきた頭でそんなことを考えていた。

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