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「うはー……我ながら見た目が痛々しい……。大丈夫なのかな? これ」


 無事と言っていいかはわからないが俺の足の治療は終わり、医者は簡単に説明をすると船を降りて行った。


 彼女から受けた説明は要はリハビリ計画なんだが、下手に動かさずにゆっくり過ごせってことだった。

 ……よくよく考えたらもうじき雨季に入るし、ダンジョン探索はお預けになるが、いつも通りの事ではあるよな。


 まぁ……それはそれとして、俺の足だ。


 治療こそ終えたものの、包帯がグルグル巻きで見事に重症患者で、あの赤い布を巻いて「包帯みたい」とか言っていたのがシャレにならなくなっているよな。

 目にした人とか驚かないかな?


「わざわざ女性の足をじろじろ見る者はいないわ。それに、お前はどうせ部屋から出ないでしょう?」


「……それもそっか」


 引きこもりであることがここで役に立つとは思わなかったなぁ……。


 俺のその様子を見て、おかしかったのか「フッ」と笑っていたセリアーナだったが、「あら?」と呟き外を見た。


「どしたの?」


「リーゼルたちも乗り込んで来たわ。思ったよりも早かったけれど……もうじき出港ね」


 ここの騎士団との話がすんなり終わったんだろう。

 良いことだな。


「貴女たちは部屋に下がって構わないわ」


「はっ。外に一人残していきますので、何かあればいつでもお声がけください」


「ええ、ご苦労様。治療は済ませているけれど、貴女も怪我をしていたんだし、ゆっくり休んで頂戴」


 セリアーナはリーダーを見てそう言うと、彼女も苦笑しながら頭を下げた。


「ありがとうございます……それでは」


 思えば彼女たちも大変だったよな。

 毒を受けて倒れていたり、リーダーにいたっては【ダンレムの糸】の一撃を食らったし……。


 全員無事ではあるものの、平和な王都圏の護衛任務のはずが、ここまでハードなものになるとは思ってなかっただろう。

 セリアーナじゃないが、ゆっくり休んで欲しいもんだ。


 部屋から出ていく彼女たちを見て、偉そうにそんなことを考えていた。


 ◇


 さて。


 リーゼルたちが乗船してから間もなく船は港を出港した。

 そして、しばし時間が経ったところで、俺たちはリーゼルの部屋に呼ばれた。


 彼の用事は予想通りのもので、その内容も概ね先程部屋で話していた通りのことだった。

 場合によってはミュラー家も出てくる必要があるかもしれないが……そうならないように、リセリア家が頑張ってくれるらしいし、俺が何かをするってこともなさそうだ。


 さてさて。

 必要なことは話したし、これでお開きに……となりそうではあったが、俺の気になっていることには触れていなかったので、そこを訊ねることにした。


「ねぇねぇ」


「うん? どうかしたかい?」


「あのさ、オレが船の上から沈めた連中ってどうなるの? 恩恵品持ってたのはソイツらでしょう?」


 ヤツラがどうなったかはわからないけれど、恩恵品諸共海に沈んだことは間違いない。

 あれってどうするんだろう?


 沈めた場所は陸地からそこまで離れていないし、沈んだ物が沖に流されるほど潮の流れが急な場所でもないから、頑張れば捜索をすることも不可能では無いと思う。


 もちろん、そこまでやるかどうかって問題も……。


「ああ……それは今日のうちに沈めた場所周辺に網を張って、一気に捜索をするようだよ」


「あ……するんだね」


 試しに聞いてみただけなんだが、やっちゃうのか。

 感心していると、セリアーナも話に加わってきた。

 彼女も連中のことが気になるのかな?


「港に出入りする船はどうするの? 止めてしまうのかしら?」


「いや、幸いあの場所は港を利用する船は通らない位置だからね。通常運航のまま作業を行えるそうだよ。雨で海が荒れ始める前に片を付けるつもりらしいし、ウチには影響は出ないね」


 どうやらセリアーナが気にしているのは、リアーナにやって来る船が、ここで止められるかどうかってことだった。

 まぁ、リアーナにとっては、他所からの荷物が入って来るかどうかってのは、大事なことだけれど……。

 実はもう【ダンレムの糸】の行方ってウチにとってはそこまで重要なことじゃないのかな?


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 沈んだ恩恵品の件について、もうちょっと突っ込んで聞こうかとも思ったが……リーゼルは何やら考え込むような素振りをしている。

 重要じゃないっぽいけれど……話しにくいようなことなんだろうか?


 俺はリーゼルを見て首を傾げていると、リーゼルではなくて、横に座るセリアーナが口を開いた。


「それは後で私が話しておくわ」


「ああ、その方がいいだろうね。セラ君もそれでいいかい?」


「へ? あぁ、うん。大丈夫です」


 まぁ……教えてもらえるみたいだし、別にリーゼルにこだわる必要もない。

 俺はリーゼルに「それでいい」と頷いた。

 そして、頷き返すリーゼル。


「それなら……話はこんなところでいいかな? オーギュスト、君からは何かあるかい?」


 リーゼルは、話はこれで終わりにするらしく、最後にオーギュストに何かないかを訊ねた。


「はっ。改めて言うほどのことではありませんが、先程の船上からの矢の発射で、甲板の手すりが破損しておりますが、修復する時間が無いので、簡単に縄を張っているだけで済ませております。船員には周知しておりますが、お2人もお気を付けください」


 オーギュストのその言葉に。


「はーい。まぁ……何も無ければオレは部屋から出ないよ」


 と、俺は返事をし、セリアーナは小さく頷いて答えた。


 彼が言ったように、本当にあらためて言うほどのことではないけれど、特に喋るようなことが、その程度のことしか無いって考えたら良いことではあるな。


 なんてことを考えている間に、オーギュストから話を引き継いだリーゼルが話を締めていた。


 到着まであと数日。

 足の療養も兼ねて、部屋でひたすらダラダラ過ごそうかね。


 ◇


 さて……話が終わり部屋に戻った俺たちだが、先程の話の続きを聞くために生活スペースに落ち着いていた。


 恩恵品にあそこまでこだわった理由だったり、あの場では話せないことだったり……。

 多分俺にとってはそこまで重要なことじゃないんだろうが、今後のちょっとした豆知識程度にはなることだろうし、丁度いい暇つぶしだ。


 ってことで、セリアーナの話を待っているんだが、先程から何やら彼女は俺を呆れたような目で見ている。


「……お前はその恰好が楽なの?」


「うん。この恰好が足曲げないで済むし、力も入れなくて済むからね」


 ちなみに、俺の今のポーズは【浮き玉】に覆いかぶさるようなポーズだ。

 骨はくっついても、足の内部にはまだ傷が残っているし、ポーズ次第では痛むんだが、これだとほとんど痛まないんだよな。

 当分このスタイルが続きそうだな。


「まぁ、オレのことはいいからさ、さっきの続きを聞かせてよ」


「……そうね。何のために、自分たちが使えない恩恵品にあそこまでこだわっていたか……よね? 捕らえた賊から、背後関係はそのうち吐かせることは出来るでしょうけれど、直接犯行に使った現物があった方が早いでしょう。そのために、あそこの兵がわざわざ海に沈んだ物を探すのよ」


「うん……」


「それに、現物があれば交渉が大分有利に進められるようにもなるわ」


「うん? 返しちゃうの?」


 証拠に使うだけならともかく、引っ張り出した相手に返すような感じのことを言っているよな?


「相手次第ね。ただ、今回の【ダンレムの糸】に限らず、恩恵品は本来家宝や国宝として扱われてもおかしくない物なの。相手だって取り返すことが出来るのなら取り返したいし、そのためなら交渉で大分相手に譲りもするわ。今回のように相手の非が確定しているのなら、さらにこちらが強く出ることも出来るし、場合によっては、所有権をサリオン家に移すことも可能よ」


「……ぉぉぉ」


 相変わらず目的はハッキリしないが、他国や他領の人間を巻き込んだ大事件ではあるもんな。


 犯行勢力に支払わせる賠償金的な物も相当な額になるだろうし、どれくらいの相手なのかはわからないが、もしかしたら支払えない額になるかもしれない。


 ……その肩代わりに分捕るってことか。


 シラを切ろうにも、なまじインパクトのある方法を採っただけに、誤魔化すのは難しいだろう。

 なんといっても、【ダンレムの糸】を所持している勢力なんだ。

 そんなのがどこにでもいるわけないもんな。


 俺は「ふむふむ」と頷いて、セリアーナに続きを促した。

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