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 1人減ったことでセリアーナの負担も減ったのか、彼女も積極的に仕掛けるようになっていた。


 この賊連中の腕はいいし、試合形式でまともに戦えばどうなるかはわからないが、【琥珀の剣】はとりあえず当たりさえすればいいわけで、まだ数分程度のことではあるが、中々調子よく戦うことが出来ていた。


 まぁ……それはそれで俺の負担が増えることになるんだが、尻尾を振り回しつつ、時折左足をチラつかせるだけでいいし、何とかなってはいる。


 しかし……一方的に俺たちが仕掛ける状況が続いてはいるものの、2人目がやられてからは警戒しているのか、コイツらも慎重に動いていてどうにもこうにも……。

 これは俺ももう少し積極的に動いた方がいいのかな?


「セラ」


 どうしたもんか……と考えていると、後ろから小声でセリアーナが話しかけてきた。


「なに?」


 俺もそれに合わせて小声で一言返した。


 一応牽制として、尻尾をユラユラと振って見せているから、そうそう突っ込んで来るようなことはないだろうが……あまり隙を見せたくはないんだよな。


「リーゼルたちがすぐ側まで来ているわ」


 そう言うと、右手に込めた魔力を正面の男に向けて放射した。

 特に工夫もしていないただの風をぶつけただけだが、上手い事虚を突いたのか他の2人も巻き込めている。


「入り口のドアから入って来るか、壁を破って入って来るか……。どうするのかはわからないけれど、お前も心構えだけはしておきなさい」


 平時ならともかく、今のセリアーナは戦闘中で……尚且つ【浮き玉】の操作まで行っている状態だ。

 流石に加護を解除したりはしないだろうが、それでも大分範囲を絞っているはずだし、本当にもう間もなく突入してくるんだろうな。


 どこから突っ込んで来るのかはわからないけれど……前もって聞かされているのなら、そうそう驚いたりせずに済むだろう。

 とりあえず、クールに背後の1人にも牽制をかけて、リーゼルたちが突入してくるタイミングで仕掛けられるように……。


 などと、どうやって残りの連中を倒すかを考えていたのだが、突如倉庫内に轟音が響いた。

 そして、壁の一部が砂のように崩れていき、倉庫内に埃が一気に舞い上がる。


「っ!?!?」


 突然の事態に驚き硬直してしまったが、驚いたのは俺だけじゃない。

 正面の賊たちもそうだ。


 俺なんて事前に聞かされていたにもかかわらず、思った以上にタイミングが早かったことや、倉庫内の荷物諸共吹き飛ばすような、思った以上に派手な突入の仕方に、軽くパニックになりかけてしまったもんな。

 この分なら、後ろのもう1人も驚いてるんじゃないか?


 ともあれ、これでリーゼルたちと合流を果たせるだろう。


 だが。


「ねぇ、セリア様……って、ぉぉぉ!?」


 俺の言葉を無視して、セリアーナは【浮き玉】を動かした。

 俺たちの背後に回り込んでいた男の頭上を越えると、すぐに降りる。

 位置でいうなら、倉庫の中央ら辺だろうか?


 てっきり合流をするのかと思ったが、なんだってまた別行動にするんだろうか?


 振り向き、セリアーナの顔を見るが……わからん。

 いつも通りのセリアーナで、考えなんて読めやしない。


 なんのつもりなんだろう……と考えていると、倉庫の外から聞き覚えのある鋭い声が飛び込んで来た。


「動くな! 既にこの倉庫は包囲している。無駄な抵抗はせずに大人しくしろ!!」


 オーギュストの声だ。

 彼は中には入ってきていないが、どうやら兵たちを率いて倉庫を包囲して、賊の逃げ道を塞いでいるようだ。


 それなりの人数を動かしているだろうに、随分静かに動いていたらしく、賊連中は気付けていなかったみたいだな。

 俺もセリアーナから教えられていたにもかかわらず、全く気付けなかったが……それだけウチの兵たちの腕がいいってことだよな?


「直接当たるのは団長たちに任せるけれど、まだ何をしてくるかわからない以上、私たちはここで警戒よ。お前もそのつもりでいて頂戴」


「ぬ……了解」


 セリアーナは俺の返事を聞くと、右手を伸ばして正面の男を指した。


「結構。それと、あの男が【ダンレムの糸】を所持していることを、団長たちに伝えなさい」


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「団長ー! 聞こえるー? 中にいるのは4人で、その中の1人が【ダンレムの糸】持ってるから気を付けてね!」


 とりあえず、デカい声で簡潔に報告をしてみた。

 俺の声なら高いしよく通るだろうから、ちゃんと聞こえているはずだ。


 ついでに、倉庫内の男たちにもだ。

 舌打ち交じりに吐き捨てるような声が聞こえてくるあたり、もしかしたら不意討ちでも狙っていたのかな?

 それとも、どうにかして隠そうとしたのか。


 ともあれ、これでウチの兵に大きな被害が出るってことは避けられそうだ。


「結構。入口手前で潰れている男はまだ息はあるけれど、私が動きを見ているから、お前はこのまま前を見ていなさい」


「……そう言えばいたね。了解」


 腕を斬り飛ばしておいてこう言うのもなんだが、ヤツもしぶといな……と呆れながらセリアーナに返事をした。

 もちろん、彼女に言われた通り前を向いたままだったんだが……。


「って、ぉぉぉっ!?」


 崩れ落ちた壁や荷物で舞い上がっていた埃が、さらにブワっと天井まで広がったかと思うと、いくつかの人影が空いた壁から飛び込んで来た。

 そして、一番端にいた男が間合いに入るや否や、即手にしていた剣を振るうと、首を刎ねて腕を切り落とし胴体を貫いて……。

 あっという間に倒してしまった。


 そこまでしなくても……と、ついつい口に出したくなるくらいの苛烈さだが、それだけ警戒している証なのかな?

【ダンレムの糸】は俺がたまに使っているし、ウチの兵だとその威力を自身の目で見ているわけだしな。

 数の差はあっても気を緩めていないようだ。


 さて、ウチの兵の速攻で残りの賊は3人になってしまったが……どうするのか。

 引き続き俺は前方に集中していると、賊たちに動きが出た。


「もういい! やれっ!」


 俺たちの背後を取り続けていた男がそう叫ぶと、倉庫の中に踏み入ってきたウチの兵に斬りかかった。

 さらに、もう1人もすぐに続いた。


 両者の腕にそこまで差は無いように見えるが、だからこそ数に明らかな差がある以上、どう考えても無事に切り抜けられないのは分かり切っている。


 ってことは、これは時間稼ぎのための囮か。


 その考えは正しかったようで、残った1人。

【ダンレムの糸】を持っていた男が、奥に下がると弓を発動して矢を射るための構えを取っていた。


 やっぱり、コイツも恩恵品を発動するための権限を持っていたか。


「セラ、忠告を!」


「うん。皆気を付けて! 矢が来るよ!!」


 俺の言葉に、中に入って来た兵たちは、賊の2人を適当にいなして倉庫の外へと飛び退った。

 ついでに、何を言っているのかまではわからないが、オーギュストの指示の声も聞こえてくる。


「外は倉庫から距離を取っているようね。私たちも上に……えっ?」


 セリアーナは、外に出るんじゃなくて上に退避するっていう方法を採るつもりだったのか、その場で天井近くまで垂直に上昇していたんだが、その軌道が不意にズレてしまった。


「どうしたのぉぉぉっぁぁぁ!?」


 数秒ほど俺が視線を倉庫の外に向けている間に何が……と、再び弓持ちへ視線を戻した瞬間、セリアーナが今度は真横に【浮き玉】を加速させた。

 次いで今度は真下に。


 ここまでの急制動でも反動なんて無いんだが、それでもここまで自分の意思を無視して視界が転換するのは、中々しんどい。

 ついつい悲鳴を上げてしまった。


 だが。


「セラ!」


「わかってる!」


 大して物が収まっていない倉庫だが、それでも空っぽという訳ではなく、壁に沿って棚や荷が入っている木箱などが積まれている。

 俺たちはそのうちの一つの陰に隠れるように降りたが、セリアーナの狙いはわかっている。


 俺はセリアーナに返事をすると、床にペタッと手をついて【隠れ家】を発動した。


 ◇


「……ふぅ」


【隠れ家】の中に入った俺は、まずは大きく息を吐いた。

 自分で操作するのなら問題無いんだが、やはり操作を人に任せるとなると、考えはわかってもタイミングなんかは難しいからな。

 上手く行ってよかった。


 一方、操作を担当していたセリアーナはどうかというと、ドアの覗き穴に額を付けながら外の様子を覗いていた。

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