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「たぁっ!!」
掛け声とともに、【影の剣】を発動した右腕を、男の左腕目掛けて思い切り振り抜いた。
「なあっ!?」
そこそこ腕の立つ者が相手だし、もしかしたら耐えられるのかもな……とか考えていたんだが……鎧を身に着けていないし不意を突きもしたから、一切抵抗なくスパっと行ってしまった。
少々驚いて、ついつい宙を舞う腕を眼で追っていたんだが。
「くそっ……!!」
俺が動きを止めている間に男は右手に持っていた剣を捨てると、代わりに自分の左腕をキャッチして。
「……あっ!?」
倉庫の隅へと放り投げていた。
俺たちの最優先が【ダンレムの糸】で、それをとにかく取られまいとしたんだろう。
いやはや、片腕を切られた直後にも拘らず、冷静な判断じゃないか。
……っと、感心するのは後にしてだ。
「ほっ!」
尻尾を発動すると、そのまま男の頭部目がけ殴りつけた。
「ぐおっ!?」
男は一発目は躱すことに成功したが、それをさらに二発三発……と続けていくと、片腕……それも素手ではまともに受けることも出来ずに、徐々に食らい始めていき……。
「セリア様!」
ようやく決定的な隙が出来たところでセリアーナの名を叫ぶと、セリアーナは【浮き玉】を操作して、男の懐まで一気に入り込んだ。
そして、残った右腕目がけて蹴りを放った。
悲鳴すら上げることが出来ずに吹っ飛んでいく男。
倉庫の入口のドアにぶつかると、そのまま動かなくなってしまった。
恐らく胴体や頭部を蹴っていたら、この男に止めを刺せていたんだろうけれど、それは少々気が咎める……。
左腕に加えて、右腕も千切れてこそいないがグチャっといった感触があったし、十分だろう。
この男はもうこれ以上は何も出来ないだろうし切り替えよう!
さて、気持ちを切り替えて次はどう動くのか……と、気合いを入れ直して顔を上げたのだが、【浮き玉】の操作を行っているセリアーナは、少々厳しい顔をしていた。
「……くっ!? 遅れてしまったわね」
何に? と思ったが、彼女の視線を追うとすぐに理由がわかった。
「腕、取られちゃったね」
先程まで俺の魔法で視界を潰されて、まともに動くことが出来なさそうだった5人だが、どうやらもう視界は戻ってきたらしい。
1人が先程倉庫の隅に飛んで行った腕を拾い上げると、握られた拳に何かゴソゴソとしている。
【ダンレムの糸】を確保しているんだろう。
倉庫内の賊を1人減らすことは出来たが、【ダンレムの糸】がまだ向こうの手にあるのは……ちょっと面倒かな?
「……ええ。まあ、いいわ。予定通り残り5人の足止めをするわよ」
まだクールタイムの10分は経っていないはずだが、もうそろそろのはずだ。
そうなったら、いつでも発射することは出来るだろう。
いくらなんでも、こんな風に刺客めいた使われ方をしているのに、扱える者があの男1人だけってことは無いよな?
動き回る俺たちを相手に直撃は難しいだろうが、嫌がらせは簡単に出来るだろうし、何より他の場所を狙われでもしたらえらいことだ。
セリアーナもそうなったら無視は出来ないし、そうならないためにも、上手いこと連中を牽制し続けておかないといけない。
「了解!」
俺は気合いを入れ直して、セリアーナに返事をした。
◇
賊の5人はバラけつつも、俺たちを包囲するように動いている。
バラバラに外に逃げたりするんなら、速度や突進力は俺たちの方が遥かに上だし、むしろ楽だったりもするんだが、こういう風にまともに向き合われると地味に面倒だったりする。
「よいしょっ!」
セリアーナが突っ込み、俺が中距離からリーチを活かした尻尾の攻撃を仕掛ける。
賊はその尻尾を、受けたり躱したり弾いたり……色々な方法で凌いでいるが、直撃はさせられないもののとりあえず足止めにはなっている。
「ぬーん……足止めにはなってるかもしれないけれど、仕留めきれないのがいまいちスッキリしないね……」
「フ……アレをここに縫い留められているだけでも十分でしょう」
俺のボヤキに、セリアーナは正面にいる【ダンレムの糸】を拾い上げた男を指して、小さく笑った。
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さて倉庫内の戦闘だが、弓持ちの1人を速攻で潰した後は、残りの5人とチマチマ地味なつつきあいを繰り返していた。
セリアーナは、【ダンレムの糸】を拾った男が常に正面に来るように【浮き玉】を操作しつつ、他の4人の間合いに入らないようにも注意していた。
とは言え、それも完璧という訳じゃない。
相手も決して対人の素人だという訳じゃなく、セリアーナの裏をかいて距離を詰めて来たりもしていた。
素人どころか、普通にいい動きをしている連中だな。
ってことで、その分は俺がフォローをしていた。
「よいしょっと……!」
適当にではあるが、出来るだけ複数を巻き込めるように尻尾を振るうと、男たちはサッと飛び退いている。
俺の尻尾にどんな効果があるかわからないし、出来れば受け止めたくも無いんだろうな。
精々巻きつけられたり、殴られたら痛いってくらいしか効果らしいものはないんだが、警戒してくれているのはありがたい。
お陰で、いい具合に牽制出来ている。
しかし……。
「なんか慣れられてきてない? 大丈夫?」
倒せるのならそれがベストだが、一応俺たちの目的はこいつらが次の矢を放たないように、ここで足止めをし続けることなんだ。
上手い事時間を稼げていると考えるなら、今の状況は決して悪いわけじゃないが、最初の1人を除けば中々どうして……賊連中にも上手く対応されてしまっている気がする。
セリアーナ自ら出陣している以上、危険を冒すわけにはいかないんだが、どうしたものやら。
これが俺1人で、【浮き玉】を自分で操作をしているのなら【緋蜂の針】を発動して、突撃しながらかき乱すんだが、セリアーナはどう動くつもりなんだろう。
「こちらの動きに慣れて来ているのは確かね。ただ……それはあくまで、宙に浮く間合いが広い相手に慣れただけよ。そろそろ私も仕掛けるから、お前は合わせなさい」
そう言うと、セリアーナは【琥珀の剣】を左手に持ち、右手に魔力を貯め始めた。
右手に魔力……なるほど。
セリアーナの狙いがわかった俺は、「了解!」と返事をして、ユラユラと垂らしていた尻尾を自分のもとに戻した。
◇
「どうする? このままでいいのか?」
「時間をかければ、街の兵たちもやって来る。セリアーナがここに現れたのなら、他の連中にも俺たちが隠れていることはバレているはずだ。……時間はかけられないぞ」
……なんてことを、俺たちの後ろにいる男たちが囁き声で喋っていた。
どうやらコイツらも、もう自分たちには時間があまり無いことをわかっているのか、何かを起こそうとしているようだ。
……何をするつもりなんだ?
なんかセリアーナが狙いってわけじゃないような雰囲気なんだけど。
後ろの様子が気になり、そちらについつい頭を向けようとしてしまったが、それはセリアーナに頭を掴まれて止められた。
「セラ、今は放っておきなさい。行くわよ」
セリアーナの耳にも連中の話は届いていたようだが、確かに今はそんなことよりも、こいつらとの戦闘だ。
先程までは位置取りに専念していたセリアーナだったが、次は彼女自身も仕掛ける気になっている。
【風の衣】と【琥珀の盾】の2枚も守りがあるが、それでも気を付けるに越したことはないし、俺が守りも担当しなければな!
「いつでも良いよ!」
「結構」
セリアーナは短く答えると、前にいる男めがけて突進を開始した。
俺が普段する突進や、先程までの移動よりもずっと速度が上で、俺はもちろんだが囲んでいた賊たちも驚いている。
風が男に接触しそうになった距離で、すり抜けるように斜めに進路を変更すると、すれ違いざまに男の肩目掛けて剣を振り下ろした。
「っ!?」
男は慌てて構え直していたが、それよりもセリアーナの剣の方が速く、刃が肩に触れるや否やすぐに砕け散った。
そして、肩周りに砕けた刃が突き刺さっていき、男が悲鳴を上げている。
そこに、止めとばかりに俺が追撃の尻尾を叩きつけた。
「ぐっ……」
尻尾は男の頭部に直撃して、短い呻き声と共に男は耐えることなく崩れ落ちていく。
これで残りは、3人と1人。
ちょっと手札を見せてしまった感じはするが、このペースでいけるのなら、リーゼルたちが来る前に片付けられそうだな!
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