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「…………ふぬ」
廊下を進んでいるわけだが……廊下の両端に立っている兵たちから飛んでくる視線が、何ともくすぐったいというか鬱陶しいというか。
まぁ……抑えめにではあったが、割と真面目に戦っていたからな。
目立ち過ぎたか。
他領とはいえ、ここの兵なら多少は俺のことも話には聞いているだろうし、ここまで奇異の視線を向けたりはしないよな?
ってことは、俺が思っているよりもここの兵は外の者が多いのか。
ともあれ、その視線を無視して奥まで進んで行き、セリアーナの前に到着した。
「ただいまー」
俺の言葉に、護衛の2人が頭を下げるとセリアーナの前を空けた。
「ご苦労様。3人とも息があるようね」
「うん。一応やり過ぎないようにと思ってね。……まずかったかな?」
好きに動いていいと言っていたから、俺の判断でそう決めたんだが……あの男たちはセリアーナをターゲットに、この街でこういったテロ行為を働いたわけだ。
そこらへんの証言が後々出てきたとして、それがウチの不利になるようなことになる可能性を考えたら、もしかしたらヤっちゃてた方がよかったのかな?
「いえ、しっかりと警備体制が組まれているこの街で、ここまで入り込めたんですもの。今後の再発を抑えるためにも尋問しておきたいでしょうし、生きて捕らえた方がよかったはずよ」
「うん」
「まあ……一先ずここでの話はこれくらいでいいわね。部屋に戻りましょう」
セリアーナの言葉に、振り返って廊下の様子を見るが、犯人やその協力者らしき3人は既に捕らえている。
結局この半端な騒動が何の為だったのかはわからないが、とりあえず、セリアーナが表に出ている必要はもう無いだろう。
もうじきリーゼルたちもやって来るし、騒ぎを聞きつけた騎士団たちだってやって来るだろう。
俺たちがここでやれることはもう無いはずだ。
「そうだね」
俺はセリアーナに返事をして護衛の2人に頷くと、彼女たちも頷き返して、部屋の方へと向かって行った。
◇
部屋の中に入った俺たちは、騒動が起きる前と同じように、ソファーに座らず浮いたままだった。
ちなみに、護衛の彼女たちもリーダーは部屋の中を。
もう1人は廊下に残って、同じ体制を採っている。
違うことと言えば。
「なんかわかった?」
俺の言葉に目を開けるセリアーナ。
詳細こそバラしていないが、リーダーにも簡単にだがセリアーナの加護の説明はしたからな。
もう、彼女の目に配慮する気は無いようで、部屋に入るなり索敵を開始していた。
これで何か新しいことでもわかればいいんだが……。
「何も変わらないわね。相変わらず、私に強い敵意を持つ者はいないし、いても位置的に今回の件には無関係よ」
何も変わらずか。
「あの廊下で暴れていた連中も?」
「ええ。何者だったのかしら……」
セリアーナは徐々に声を小さくしていき、最後に「ふう」と溜め息を吐いた。
「……少なくとも、加護は正常に機能しているはずなのだけれど、敵を見つけることが出来ない。それともこちらに敵意を持っていないのかしら? まあ、ここで考えてもこれ以上のことはわからないわ。それよりも」
どうやら、勝手に人質犯たちの行動理由に結論付けたセリアーナは、次の話を振ってきた。
「セラ、お前外に救援を求めたりしなかったけれど、何か理由でもあったの? お前は好んで相手の退路を塞ぐ用兵を行うでしょう?」
「ぬ……別に好んでやってるわけじゃないんだけど……」
単に俺の場合は機動力が高いから、相手の動きに対して後出しでも回り込めるだけだ。
んで、そういう場合は背後から襲い掛かるのが効率がいいってだけで、好んでそういった動きをしているわけじゃないんだが……まぁ、いいか。
そこら辺の訂正は後回しにするとして。
「なんかさ、人質取ってた人もだけど、なんか妙にドアの外を気にしてたんだよね。だから、何か合図になってたら嫌だなって思って……そのことは一応ドアを守る兵にも伝えておいたよ」
とりあえず、俺が先の戦闘で気になった点をセリアーナたちに伝えることにした。
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「ドア……ね」
ひと通り俺は先程の戦闘の際に気付いたことなどを話したが、やはりセリアーナたちも、男たちが妙にドアを気にしていたことが引っかかったらしい。
「でも、外に王都圏で襲って来た連中みたいに、敵がいるってわけじゃないんだよね?」
あの男たちの様子から普通に考えたら、ドアを開けたら待ち伏せていた敵がなだれ込んでくる……ってところだろうが、それはちょっと違うっぽいんだよな。
先程セリアーナが外の様子を探ってはいたが、特に気になるようなものは何も無いと言っていた。
ついでに、この護衛の冒険者たちの残りの2人も、ここの警備の兵たちと一緒になって外を見張っている。
この建物は街中と違って港の一部に設置されているし、色んな人が行き交ってもいるから、多少は妙な恰好の者たちがいても即怪しまれるってことが無いとはいえ、流石にそんな連中が集まっていたらスルーはしないだろう。
外で何か騒ぎが起きている様子は無いし、少なくとも、そういう怪しい輩はこの近くにはいないってことなんだろう。
どうかな……と、セリアーナの顔を見ると、どこか困った様な表情を浮かべていた。
「ええ。そもそも廊下でお前が相手をした連中ですら、私に敵意を持っていたわけではないわ」
「ふぬぅ……何したかったんだろうね?」
あの男たちはセリアーナに敵意を持っていたわけでも無いし、もちろんあの人質にしていたおばさんにも、敵意を持っていたわけでは無いだろう。
これがただ単に、何を考えているかわからないってだけならここまで気にしないんだが、絶対なんかやって来そうな感じがするんだよな。
中への押し入り以外となると……もう魔法でもぶち込むくらいじゃないか?
「セリアーナ様、よろしいでしょうか?」
うぬぬ……と悩んでいると、ドアの側に立っているリーダーが口を開いた。
何か気付いたことでもあるのかな?
「なにかしら?」
「はい。入口のドアを開けることに固執していたということは、外からの侵入……あるいは、遠距離からの狙撃が考えられます」
やはり狙撃か……。
リーダーの言葉に「ふむふむ」と頷いていると、さらに彼女は話を続ける。
「ドアを開けることにこだわったのは、射線を通すことと、セリアーナ様が部屋から出ていることの合図も兼ねてではないでしょうか?」
「まあ……この建物の設計を考えたら妥当なところかしら? それに、私が通される部屋も大体予想出来るわね」
この建物は、入口から広い廊下が延びていてその両側に部屋がある。
俺たちが今いる部屋は一番奥だな。
身分を考えたら一番奥か、あるいはその部屋が空いていなければ、奥に近い部屋に通されるってのは簡単に予測出来るだろう。
「私を部屋から出して射線を通しても、弓ではまず届かないだろうし……そう考えたら魔法しかないわね。魔法なら補助を使ったとしても予兆は読めるし……これで終わりかしら?」
弓だと届かないってのは、たとえ射ったとしても、セリアーナに当たる前に途中にいる人たちに当たってしまうからってことだろう。
それなら、間にいる者たち諸共にヤってしまえる魔法の方が相応しい。
それだけの威力の魔法を使える者が暗殺なんかに手を染めるかはわからないが、何かしらの薬や魔道具の組み合わせ次第では、実力が不足している者でも十分威力を出せるだろう。
ただ……。
「……恩恵品は? 例えば俺の弓とかみたいなの」
「実行犯だけじゃなくて、それだけの恩恵品を使い捨てにするなんて、相手が誰かはわからないけれど、そこまでの力は無いはずよ。恐らく今回の襲撃犯は西部の者たちでしょうけれど、西部で使える恩恵品を使い捨てに出来る者なんて、それこそ王族やそれに近しい者たちでしょう? 流石にそこまでの者が私を狙ってくるとは思えないわ」
セリアーナの言葉に追従するように頷くリーダー。
ついでに俺も、もっともだと頷いた。
西部じゃ使える恩恵品は貴重だし、やってくるなら魔法だろう。
そして、魔法なら1枚や2枚なら壁を打ち抜けるだろうけれど、ここまで届く魔法となると……【妖精の瞳】やヘビたちで気付くことが出来る。
なるほど……これで終わりか?
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