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1回2回3回……何度か斬りかかってみたが、所詮俺程度の腕じゃー、まともに当てる事は出来ない。
だが、【琥珀の剣】を警戒している男は、どれも受けたりはせずに大きく動いて躱していた。
お陰で、大分入り口のドアから遠ざけることが出来た。
始めはそんなことは狙っていなかったんだが、途中からそういう風に誘導していたわけだし、狙い通りだな。
これで、思い切り仕掛けることが出来る。
何でも有りなら倒すことは簡単だが、殺さないように……派手になりすぎないように加減してとなると、どうしても戦い方に制限がかかってしまうし、やはり勢いだけじゃなくて、頭も使わないとな……!
「そんな腕で俺をやれるとでも思っているのか? もう不意打ちは出来ないぞ?」
男は回避を続けているうちに多少は頭が冷えてきたのか、先程の2人がどんな風にやられたのかを考える余裕が出来たらしい。
あの2人があっさりやられたのは、自分が狙われるとは思わずに、不意打ちがしっかり決まったから……そう結論付けたんだろう。
間違っちゃいない。
この狭い場所で、俺を視界に収めている複数を相手に、まともに勝つのは俺じゃ難しい。
だから、あの2人は上手く別の相手を狙うように見せながら、上手いこと隙を突いて倒したんだ。
とは言え……だ。
あくまでそれは、複数を相手に手早く効率よく決めるためにやっただけで、1対1の場合は、その気になればまともに戦えなくもない。
「……ちっ」
俺が男の揺さぶりに全く反応しないことから、何となくそれがわかったらしい。
一瞬だけ振り向いて後ろの様子を確認すると、小さく息を吐いた。
未だ廊下に残るセリアーナや、他の部屋にいるお偉いさんたちに被害が出ないように兵たちが守っているが、彼等が参戦したら厄介だと思っているんだろう。
ただ、実は俺も人数が増えるとそれだけ動きにくくなるし、ドサクサに紛れて突破を図られるのも面倒なんだよな。
この期に及んでもこちらに加わってくる素振りを見せないってことは、もうこっちのことは俺に任せるつもりなのかもしれない。
セリアーナが何か言ったのかな?
まぁ、集中出来るのはいいことだ。
ってことで、再び俺は男に向かって斬りかかった。
「ほっ!」
「くそっ」
舌打ち交じりに回避をする男。
そして、俺も下がって構えを取り直した。
もう何回も繰り返しているしなー……慣れたもんだろう。
正直俺も回避に専念されると、剣を当てる自信はない。
それくらい素の実力に差はあるか。
だが!
さらに何度か繰り返したところで、俺がそのパターンを崩しにかかった。
「うおっ!?」
これまでは攻撃を躱された後は、俺は一旦下がっていたんだが、今回は下がらずに追撃を行った。
男は驚きはしていたが、何とか躱し切った。
そして、すぐに体勢を立て直すと逆に反撃を仕掛けてきた。
「おっと……よいしょっ!」
今度は俺が躱すと、反撃で緩い一撃を放つ。
今までの、仕掛けたら回避して仕切り直しのパターンに、追撃と反撃って項目が加わった。
男は時折剣で受けようとして、慌てて躱したりもしていたが、特に変わり映えのしない攻防の繰り返しを行った。
さて……そろそろかな?
「ほっ!」
俺がこれまで通りの緩い一撃を放つと、これまで通り男は回避をして、さらに俺が追撃をすると、カウンターで突きを放って来た。
俺の狙いはその突きだ!
「よいしょっ!」
今まで発動していなかった【猿の腕】を発動すると、突き出された剣を掴み取った。
「なっ!?」
剣を掴めるってのは一度見せたんだが、先程までのパターンに慣れて忘れていたのかもな。
男は慌てて腰を落として剣を引き抜こうとしているが、その前に!
「たぁっ!」
【緋蜂の針】を発動した右足で、剣の腹を蹴り砕いた。
だがそれだけでは終わらずに、さらにもう一発!
その場で【浮き玉】を回転させながら【蛇の尾】を発動して、さらに回転の勢いを乗せた尻尾の一撃を男の体に叩き込んだ。
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「ぐっ……!? ソレはもう知っているぞ!」
尻尾の一撃は上手く決まったと思ったんだが、男は片足を上げると、そこに剣の腹をあてて受け止めていた。
そんな簡単に防げるような軽い一撃じゃないはずなんだが……もしかしたらこの一撃を出すのは読まれていたのかな?
それとも、敢えて隙を見せることで今の一撃を引き出されたか……。
何となく後者の気がする。
ってことは、何かが来るのか?
俺が男の反撃に身構えていると……。
「おわっ!?」
「もらったあぁぁぁっ!!」
男は尻尾を脇に挟んで、グイっと引っ張ると声を上げながら斬りかかってきた。
躱されたり打ち合ったりってのは想定していたが、掴んで引っ張られるってのは考えてもいなかったので、少々驚いてしまった。
この掴んで引き寄せるって動きは、もしかしたら【猿の腕】の使い方を参考にしたのかな?
普通に考えたらバランスを崩されて、さらに男の側に引き寄せられた上でのこの一撃は、対処が難しい大分危険な状況なんだが……。
「ほっ!」
男に近づいた俺は、肩から【猿の腕】を生やすと、男の顎目掛けて腕を振り抜いた。
「がはっ!?」
顎への直撃は失敗したが、それでもカウンター気味で頬を思い切りぶん殴ったんだ。
ダメージは中々のモノ。
男はよろめいて、剣を手放すと床に膝をついてしまった。
これだけでも捕らえるには十分なんだが……折角だしもう一手。
「よいしょっ」
俺は【足環】を発動すると、男の顔をガシッと掴んだ。
もちろん、完全に掴み切らないように加減はしているが、【足環】の威力は見ているだろうしこれは怖いだろうな。
俺だって緊張しているんだ……ガラ空きだったからついついノリで頭を掴んでしまったが、腕とか足の方がよかったかな?
「うおおおおぉぉぉっ!?」
「おわぁぁぁっ!? 動くと危ないよ。大人しくしててね!」
【足環】に頭を掴まれた男は悲鳴を上げているが、暴れられてコントロールをミスったら困るし、俺は慌てて彼を宥めた。
どうやら俺が頭を握り潰すつもりではない……ということが伝わったようで、一先ず男は大人しくなったが、さてどうしたものか。
今は顔への一撃のダメージで暴れたりはしないが……。
入り口付近の兵は、先に倒した2人の男を拘束するので手が塞がっているし、奥の兵たちはお偉いさんの護衛がある。
ロープでグルグルふん縛るだけならともかく、取り押さえるところまでとなると、手の空いた者たちだけではちょっと不安が残るし……。
やるか。
「ヤっていいよ」
「やっ……? おいっ、待て!!」
顔が塞がれて前が見えないだろうに、俺の言葉から何かを察したのか……あるいは勘違いしたのか。
足元に落ちている剣を拾おうと、手をバタバタ動かしていたが、問答無用でアカメたちに攻撃を命じた。
「死なせない程度にね?」
アカメたちは、俺の追加の命に返事をしたりはせずに、3体揃って男にガブガブっとひと噛みする。
男は「ぐぅっ……」と一つ呻き声をあげると、すぐにガクッと頭が落ちてしまった。
「おっとっと……気を失ったかな? えーと……あぁ、これはもう動けないね」
【妖精の瞳】で男の様子を見ると、緑で見えるはずの魔力が空っぽになっていた。
アカメたちが食い尽くしたんだろうな。
これじゃー、死ぬことはないが回復するまでは当分まともに動くことは出来ないだろう。
いい仕事だ。
「ちょっとー! 奥の人たちーもうコイツ動けないから、拘束してよ!」
俺の言葉に、手前の部屋を守っていた兵が返事をすると、すぐにこちらへとやって来た。
「お見事でした。この者はただ拘束するだけでよいのでしょうか? 手足の一本でも切り落とせと命じていただけば、すぐに実行しますが……」
「ありがと……。騎士団に引き渡した後はどうなるかはわからないけれど、今はとりあえずこのままでいいよ」
俺は返事をしつつ、中々過激なことを言う彼に少々引いてしまっていた。
とは言え……あの人質犯はもちろんだが、こいつらもその人質犯と連携を取っているような素振りを見せたし、それくらいのことを仕出かしたといえばそうなのかな?
まぁでも。
今回倒したのは俺だし、私刑は程々で抑えてもらおう。
俺は彼に拘束だけでいいと命じると、奥で待っているセリアーナのもとに向かった。
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