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 船から降りると、俺たちの船の前には騎士団の一団が整列していて、今はその一行の隊長らしき男が、リーゼルとオーギュストに挨拶をしている。


 さて、リーゼルたちは置いておくとして、軽装ではあるが騎乗した騎士が数名に、正規兵らしき男たち。

 そして、恐らくリーゼルが乗るであろう馬車や、俺たちが乗る分の馬車も用意されているが、さらに、それとは別に今まで見たことが無い、窓が付いていないただの頑丈な箱のような馬車も並んでいる。

 その馬車の周りをごつい連中が固めているし……アレは護送車みたいな物かな?

 俺たちが降りる前に、捕らえた賊の引き渡しは済んでいるはずだし、もうあの中に収監されているんだろうな。


 一団をよくよく見てみると、恰好が違う者が何人か交ざっている。


 安っぽい恰好じゃないし、船に乗っていた船長かそれに近い幹部なのかもしれない。

 彼等も一緒に本部について行くのかもな。


 しかし……。


「なんかあの馬車小さくない?」


 あの護送車は、監視の兵も乗り込む事を考えたら、精々3人か4人くらいしか乗れなさそうな気がする。

 何人か海に落としたり止めを刺したりはしていたが、それでももう少し賊がいた気がするんだけれど……どうなのかな?


「そう? アレで問題無い大きさでしょう。気にする必要は無いわ」


「ふぬ……」


 まぁ……セリアーナなら加護もあるし、馬車の中の様子もわかるんだろうけれど……。

 何となく気になって、チラっと周りの護衛たちに視線をやってみると、それに気付いた1人が口を開いた。


「……ああいう類の馬車は通常の馬車とは内装が違いますから、外観からは乗員の数は計れません。座席に座るとも限りませんしね」


「なるほどー……まぁ、罪人だもんね」


 それも、結構な腕を持つ襲撃犯だ。

 あれからどれくらい回復しているのかはわからないが、下手にスペースを与えるよりも、動けないくらい詰め込んだりする方がいいのかな?


 改めて周りを見ても、どうやら俺以外は誰も気にしていないみたいだし、気にしなくていいか。


「セラ」


「お」


 セリアーナの声に前を向くと、俺がキョロキョロしている間にリーゼルたちは話が付いたらしい。

 馬車がリーゼルたちの前に移動していた。

 リーゼルはこちらを見ると、軽く手を挙げてオーギュストたちと共に馬車に乗り込んだ。


 そして、そのまま護送車共々港の外へと走り去っていった。


「セラ様」


「ぬ? あぁ……そうだね」


 ついついその場でリーゼルたちの馬車を見送っていたが、俺たちも馬車で移動するんだよな。

 護衛の言葉に我に返り返事をすると、セリアーナの隣に移動をした。


 既に俺たちの前にも馬車が来ていて、ドアが開かれている。

 いつもだと俺が最初に中に入るんだが……。


「それでは、私が」


 今日は俺の他にも護衛がいて、まずはその1人が中へと入っていく。

 中の確認はすぐに終わり、「どうぞ」と中から声がかかった。


「行きましょう」


「ほいほい」


 俺はセリアーナのすぐ後ろに回ると、彼女と一緒に馬車に乗り込んだ。

 そして、ほんの数分で降りることになった。


 俺たちがリーゼルの用が済むまでの間待機する場所は、馬車でゆっくり移動しても数分もかからずに到着する距離にある、港内の一画にある施設だ。

 安全面でもお貴族様のメンツを保つ意味でも、馬車での移動が必要だと分かっているが……それでも普通に移動した方が便利だよなって思ってしまう。


「……すぐだよね」


「そういうものよ。慣れなさい」


 セリアーナはそう言うと、開けられたドアから降りていき、乗り込んだ時と同様に俺もその後に続いた。


 ◇


 馬車から降りた俺たちを出迎えたのは、この施設の管理を任されている夫妻で、彼等も当然貴族らしくセリアーナに丁寧な挨拶をしている。


 その間に、俺は周囲を簡単にだが見渡してみた。


 港内に建っているため庭などはないが、ミュラー家の王都屋敷くらいはありそうかな?

 周囲も背の高い壁で囲われているし、それなりに防衛機能も備えてはいそうだ。


 加えて、港内は人の往来も多いし時刻は昼間で、不審者なんかが近づいたらすぐにわかるだろう。


 襲撃か……一体どうなることやら?


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「それでは、私たちはここに残ります」


 挨拶が終わり中に入ろうとしたところ、護衛のうち2人がこの場に残ると言ってきた。

 建物の外は、この街の兵がしっかりと見張りに付いているんだが、それだけじゃ不十分なのかもしれない。


「ええ。任せるわ」


「はっ。それでは」


 彼女たちはまずはセリアーナに告げると、リーダーに向かって小さく頷いているのが見えた。

 何か考えでもあるのかもしれないが……。


「セラ」


「はいはい」


 セリアーナはもう中に入るつもりのようだし、俺がここで止まってちゃ駄目だよな。


 ってことで、残る2人に「よろしくね」とだけ言うと、セリアーナや残りの2人と共に中へと進むことにした。


 建物内は、貴族を始めお偉いさんを待たせるための場所だけはある。

 港内に建っている割には豪華な造りになっていて、絵が飾られた広い廊下の両側には、大きなドアがいくつも並んでいる。


 昔ココを利用した時は、ミュラー家の人たちも一緒だったし貸し切りだったが、今日はウチで利用するのは俺たちだけだし、何より急な来訪だったからな。

 他の利用客がいるようだ。


 建物内のそこかしこに人の気配を感じるし、何よりドアの前に立つ警備の兵の中に、明らかに正規兵じゃない者たちがいるもんな。

 利用客が連れてきた護衛なんだろう。


 俺たちは今、主に先導されて最奥の部屋まで進んでいるんだが……その護衛たちが露骨に俺たちに視線を向けているんだよな。

 俺だけならともかく、セリアーナも一緒に妙な玉に乗って移動しているからだろうか?


 これが街中だと大して気にならないんだが、こういう閉鎖された場所だとどうにも気になっていかんね。

 動きが妨げられるからかな?


「……ぬぅ」


 ついつい漏れた小さな唸り声が聞こえたのか、セリアーナがチラっと振り向くと「フッ……」と笑っている。


「どうかされましたか?」


 前を歩く男がセリアーナの様子に気付いたのか、足を止めて振り返った。

 まぁ……後ろにいるお偉いさんが急に笑ったら、何事かと不安に思うよな。


「なんでもないわ。気にしないで頂戴」


「はっ」


 とは言え、セリアーナの言葉だけで解消したのか、すぐにまた歩き始めた。


 ◇


「それでは、何か御用があればいつでもお呼びください」


 部屋に着いた俺たちに主夫妻はそう言って一礼すると、部屋をさっさと後にした。

 随分とあっさりしたもんだが、俺たちは別に彼等に用事があってここに来ているわけじゃないし……ああいう対応がここでは普通なのかな?


 ともあれ、部屋には俺たち3人だけとなった。

 ちなみに、もう1人の護衛はドアの前に立って廊下の見張りをしている。

 警備の兵もいるし、とりあえずこの部屋の外からの守りは十分かな?


「……セリア様、どうしよう? 部屋の中調べる?」


 2人よりも先にソファーに飛び降りた俺は、一息つきながらセリアーナに、いつもの様に部屋を調べるかどうかを訊ねた。


 この部屋は、30畳あるか無いかくらいかな?

 3人で使うには広すぎるくらいだが……いわばここは貴賓室だし、本来はもっとたくさんの使用人や護衛を連れている者が使うんだろう。

 ちょっとここを調べるのは手間がかかりそうだけど、どうしたもんかな?


「ここはサリオン家が管理している場だし、その必要は無いわ。そんな時間も無いでしょうし……」


「ふぬ……まぁ、時間はかかりそうだもんね」


「この部屋のことよりも……どう?」


 っと、セリアーナはリーダーに向かって短く訊ねた。


「はい。外の2人のうち1人が建物の外周を一回りして、異常が無いかを確かめています。そろそろ見終えているはずですが、まだ報告に来ていないということは、少なくとも外に目で見える異常は無いのでしょう」


「そう。まあ、そこまであからさまなら、ココの兵が気付いているでしょうしね。2人はそのまま外で警備をするのよね?」


「はい。2人はそのままここの兵と連携して、万が一の際には、利用者の避難も含めてここに被害が出ないように動くように命じています。ご安心ください」


 セリアーナはそれを聞いて「結構」と頷いた。


 先日の船での話の際に、セリアーナの言葉の足りなさが気になっていたけれど……杞憂だったみたいだな。

 しっかりやって欲しいことが伝わっているし、これはもう……大丈夫なんじゃないか?

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