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【足環】で掴んだ槍をそのまま振り回したり、【猿の腕】で持ち替えてみたり、そのまま俺の本物の腕に渡して持ち上げたりと、宙に浮きながら色々やってみせた。
「……結構。お前もよくよく器用ね。領都の訓練所での使い方とは全く違う使い方なのに、それなりに様になっているわよ?」
「ただ持ち替えているだけなんだけどね……! でも、おかげで何となくだけど【足環】の掴んだ物の離し方とかはわかった気がするよ」
発動した【足環】は、それの足裏が何かに触れたら、反射で掴んでしまう機能がある。
魔物との戦いで、近距離を維持したまま何かをしたい時だったり、【浮き玉】を掴んだまま回転したりする時には、その機能はずいぶん役に立つんだが、それ以外だと中々使う機会が無かった。
そのため、割と放置気味だったんだが……思ったよりも、この掴むと離すの動作を何度か試してみると、意外と使い勝手がいい様な気がして来た。
もっとも……俺が何かを足で掴むことが今後の人生であるかどうかはわからないけれど……。
「それは何よりね。後は【琥珀の剣】だけれど……」
俺はセリアーナが言い終わる前に、武器を仕舞っている棚を指しながら口を開いた。
「これも実際には使うのは危ないよね。何回か出し入れしたら、同じくらいの長さだし、そこの木剣を代わりにしていいかな?」
【琥珀の剣】は何かに斬りつけて、刃を砕いてからが本番の恩恵品だ。
あらぬところに破片が吹っ飛んでいくようなことは無いだろうけれど、それでも屋内で扱うには向いてない代物だ。
【緋蜂の針】ほどじゃないが【琥珀の剣】もそうだし……そんな物ばっかりだよな。
恩恵品の使い道は戦闘向きのが多いし、そもそも屋内で発動することの方が間違っているよな。
ともあれ、俺の言葉を聞いたセリアーナは「好きにしなさい」と言って、木剣を手にしながらこちらにやって来た。
そして、早くしろと目で訴えている。
それじゃー、さっさとやるか。
◇
「……よいしょっ!」
指輪をはめた左手に意識を集中して、【琥珀の剣】を発動する。
そして即解除して、また発動。
それを何度か繰り返した。
普段から使う恩恵品ではないが、発動と解除だけならコツさえ掴んでいたらまず大丈夫だな。
特に、剣なんて形をイメージしやすい物ならなおさらだ。
「どう?」
と、セリアーナに訊ねてみたが……。
「結構。問題無いわ」
特になんの感慨も無く答えられた。
うむ。
ただ出して消しただけだし、そんなもんだよな。
それよりも。
返事をしたセリアーナは、手にした木剣を差し出している。
それを受け取ると、重さを確かめるために2度3度軽く振るってみた。
「それでさ、コレどうしようか? 振り回してみる?」
「その必要は無いわ。ただ、長さを把握しておきなさい。壁でも斬りつけて不発に終わったら困るでしょう?」
「そりゃ困る……」
俺は木剣を手にしたまま腕を伸ばして、ゆっくりと【浮き玉】を縦や横方向に回転させる。
大体【影の剣】の通常サイズの倍くらいの長さかな?
俺が大きく振り回すとしたら、【影の剣】を発動した状態の右腕くらいだし、いつもと同じ感覚でやっちゃうと、やらかしてしまいそうだ。
気を付けないといけないな。
しかし……。
「気を付ける点はわかったし、もしやらかしたら困るのも確かだけどさ、屋内で襲撃受けるの?」
色々確認をしているけれど、セリアーナが指摘する点って屋内での注意点がほとんどなんだよな。
「起きるとしたら、そうでしょうね。向こうの街から発ってしまえば、後はもうリアーナ領に入るでしょう? 船員の交代だったり、後は領都で賊を引き渡したり……。一時的とはいえ船から降りる必要があるでしょう?」
立ち会うだけならオーギュストでもいいんだが、如何せん向こうの領主一族にはエリーシャが入っているし、彼女たちが出て来るかはわからないが、当事者である俺たちはリーゼルが立ち会う方が外聞がいいだろう。
そして、リーゼルが出るのなら妻のセリアーナもだ。
「……なるほど」
セリアーナが出るのなら、俺も付き合うことになるし、それならもう少し屋内での使用を想定して、色々確かめておこうかね。
俺は頷くと、改めて間合いの確認を再開した。
1149
港への到着前日。
俺たちはまたいつものようにリーゼルの部屋に集まっているんだが、今日はいつもよりそのメンバーが多くなっている。
ウチの兵から2人が。
そして、護衛の冒険者は4人とも部屋に集まっていた。
もっとも……話す内容に大きな変化は無く、明日はリーゼルたちも船から降りて、賊をマーセナルの騎士団に引き渡す際に立ち会うってことを、ちょっと最後に付け加えたくらいだ。
ただ、ウチの兵はもちろんだが、護衛の彼女たちにもその少ない情報だけで何となく伝わっているようで、いくつか質問をしていた。
会うかもしれない相手だったり、港や街の配置だったり……どういう風に俺たちを守るか考えているんだろう。
どうやら襲撃が再度起きることを前提にしているようだが、まぁ……その辺の判断はプロの彼女たちにお任せしておこう。
とりあえずこの席で俺が何か言えるようなことは無いし、セリアーナの後ろに黙って浮いて、話が終わるのを待つか。
◇
話が終わり、兵や護衛の面々が部屋を出て行き、中にいるのは部屋付きの使用人を除けば、俺たちとリーゼル、そしてオーギュストだけとなった。
「団長、ちょっといい?」
俺たちももう部屋に戻ってもいいんだが、その前にオーギュストに教えてもらいたいことが1つ2つ……。
「セラ殿か。何か聞きたいことでもあるのか?」
「うん……まぁ、大したことじゃないんだけどね? 団長って屋内で戦う時って何か気を付けてることってある?」
「屋内でか……」
そう言うと、何やら考え込んでしまった。
恩恵品の扱い方なら自分でどうにか出来るが、屋内での戦闘は俺にはあまり馴染みのないシチュエーションだし、そっちに関しては、自分で考えるよりも、専門家に聞いた方が早い。
そう思って、オーギュストに訊ねたんだが……。
「私は騎士団での訓練こそ積んでいるが、専ら屋外での魔物討伐や要人護衛ばかりで、屋内での実戦経験は乏しいが……それでも構わないか?」
魔物関連の問題を除けば結構平和なこの国だ。
彼のこれまでの経歴を考えたら、屋内での実戦経験はないよな。
だが。
「いいよいいよ。団長ならオレの戦い方とかもわかってるしね」
まぁ……そういうことだ。
多分、屋内での戦闘経験は護衛の彼女たちの方があるような気がするんだ。
ただ、如何せん俺の場合はちょっと普通じゃない動きをするし、それを前提に考えられる者に聞かないとな。
オーギュストも納得したようで、小さく頷くと口を開いた。
「君が気を付けるべき点はいくつかあるが……どれも大したことでは無い。壁や天井に気を付けることくらいだ。当たり前のことではあるが、君の場合は宙を飛ぶからな。本来なら当たることのない距離でも、色々な場所にぶつかってしまうだろう」
「ふむふむ」
「君1人ならたとえ城が崩れても無傷で中から脱出できるだろうが、今回は奥様も一緒だ。それだけは忘れないで欲しい」
「確かに……」
俺だけなら、中にいる時に建物が崩壊してもどうとでも出来る自信はあるが、セリアーナも一緒だとそうはいかないだろう。
調子に乗って暴れて、アルゼの街の代官屋敷のようにボコボコにしちゃったら大変だ。
忘れないように気を付けないとな……!
そう自分に言い聞かせながら頷いていると、横からリーゼルが笑いながら声をかけてきた。
「セラ君なら大丈夫だよ。今までもセリアを守ってきているしね」
そう言うとセリアーナに向かって笑いかけた。
「どうかしら……。いざ戦闘にでもなったら、今聞いたことを忘れているかもしれないわよ。オーギュスト、相手と対峙した際に気を付けることは?」
「はっ……そうですね。屋内ですので槍などの長物は使わないはずです。当然弓も。恐らく使うとしたら、隠し持つのに適した短剣やナイフの類でしょう」
「セラ、そうらしいわよ」
ナイフや短剣が相手か。
……これなら【緋蜂の針】で突っ込みながら何往復かしたらいけそうかな?
「……りょーかい。団長、ありがと」
「到着は明日の昼頃になるはずだ。それまでに何か気になることがあれば、何時でも聞きに来てくれ」
オーギュストの言葉に、俺は「うん」と返事をした。
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