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「おいっ! セラが来たぞ!」
「くそっ……もう無いぞ!?」
突っ込んでくる俺を見て、賊たちはあからさまに狼狽えている。
名前を知っているのもそうだが、ある程度俺の情報も持っているようだ。
だからこそ、こういう襲撃を受けている状況で、俺がセリアーナから離れてこっちに来るってのは想定していなかったのかもな。
魔道具はもう使い切ってしまったみたいだし……それなら!
「たあっ!」
少々不用心ではあるが、俺は賊に突っ込む勢いそのままに蹴りを放った。
「うおっ!?」
俺の突撃は迫力はあるだろうが、正面から突っ込むだけだしな。
躱そうと思えば躱すことは難しくない。
だが、どうやら【風の衣】のことまでは知らなかったらしい。
通過際に後ろを振り返ると、賊たちは回避が不十分で、風の膜の範囲にいた。
ただでさえ、不意の回避で体勢が崩れ気味だったのに、そこへさらに風の追撃だ。
賊たちは完全に転倒してしまっている。
当然その隙を逃すウチの兵たちではなく、すかさず仕掛けていた。
これは決まったな……。
「次! あっち行くね!」
決まった以上は、こちら側に最後まで付き合う必要もないだろう。
さっさと片付けるためにも、お次は隣だ。
返事を待たずに俺は一旦手すりの外に飛び出ると、船の外装に沿うように外から隣の戦場を目指して飛んでいくことにした。
◇
さて、隣の戦場は俺が初めに参戦した場所がしっかりと見える位置でもあるし、対峙するウチの兵が間に入っているとはいえ、ある程度戦況に変化があった事はわかるだろう。
だが……いくら何でも、船の外を回り込んで背後から俺が襲ってくるとまではわからないはず。
まず大丈夫だろうとは思っているものの、万が一の事故に備えて手すりを尻尾で掴みながらの移動だったが、目の前の相手に集中していて、近付いてくる尻尾に気付いた様子は無い。
ってことで……丁度真後ろまで到達した。
一旦尻尾を解除して甲板の様子を窺ってみると、槍を打ち合うような音が聞こえてくる。
目の前の戦闘に集中しているだろうな。
「それじゃ…………ほっ!」
手すりを一気に乗り越えると、背中を向けている賊めがけて蹴りを放った。
がら空きの背中だし、これは避けられないだろう!
コイツを倒したら、周囲の賊も纏めて尻尾で……等と考えていたんだが。
「食らうかよっ!」
背中を向けていた賊の男はそう叫ぶなり反転して、俺の蹴りに槍を叩きつけてきた。
【緋蜂の針】の蹴りだし、いくらフルスイングでの一撃とは言え、俺が押されるような事はないんだが……一瞬ではあるが俺の蹴りと槍とが拮抗したかと思うと、男はふっと力を抜いた。
そして、俺の蹴りの勢いを使って横に跳んだかと思うと、ゴロゴロと甲板を転がっていき、包囲から抜け出そうとした。
「はぇっ!?」
あまりの迷いのない動きに、思わず変な声を上げてしまったが、ウチの兵たちはその程度では動じたりせずに、冷静に対処をしている。
「逃がすなっ!」
転がった先に槍を投げると、即座に2人が包囲の壁から外れて追って行く。
「くそっ!?」
男は離脱は無理と悟ったのか、起き上がると兵が投げつけた槍を拾って構えを取った。
そして、槍を手放したウチの兵は、代わりに剣を抜いて向かい合う。
「…………はっ!?」
すごいなー……と、ついつい眺めていたが、そう言えば当初のプランがあったことを思い出した。
あの男が、この包囲を抜けてどうしようと考えていたのかとかも気にはなるが、それよりも、まずは俺がやるべきことをやってしまおう!
チラッと一瞬だけ他の賊を見ると、今の一連の動きに気を取られたりせずに、目の前の兵たちに集中して槍を構えている。
さっきの例もあるし、俺への警戒もしているのかもしれないが……。
「よいしょっ!」
気にせず俺は、纏めて薙ぎ払うように尻尾を振り回した。
やはり……と言うべきなのか、こっちの賊たちも俺の不意打ちにしっかり反応出来ているが、それでも死角からの攻撃だし、体勢を崩す事は出来た。
後は……ウチの兵たちが何とかしてくれるだろう。
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俺の背後からの奇襲をきっかけに一気に戦況は動き、こちら側の戦闘……ひいては甲板での戦闘は終了した。
賊をただ単に倒すだけなら、ウチの兵たちなら【祈り】抜きでもなんとかなったんだろうが、危険な魔道具を所持している可能性を考慮して、慎重に戦っていたようだ。
まぁ……たった一個の魔道具で3人が一気にリタイアした場面を見ていたのなら、そう判断するのも無理はないか。
その3人以降は大きな怪我をする者は出ずに終わったことだし、良しってことにしよう。
さて……何はともあれ無事戦闘は終了したんだが、それで全部片付いたわけではない。
まだまだやることはある。
どーすんのかなー……と考えながら、皆の様子を眺めていると、先に向こうでの作業を終えたのか、オーギュストがこちらに向かって歩いて来た。
「セラ殿」
「あ、団長。お疲れ様。無事終わったみたいだけど……この後はどうするの?」
「ああ……そうだな。まずは……」
オーギュストは俺の言葉に返事をしつつ、自分がやって来た方を振り向いた。
つられて俺も見ると、倒した賊を文字通り身ぐるみをはいでいるウチの兵の姿があった。
「…………ぉぉ」
「これが街の近くだったり、せめて陸地であるのならばああまではしないんだが、如何せん奴らが所持していた魔道具は強力すぎたからな。アレくらいはしなければいけないだろう」
「なるほどねー……こっちの連中もそうするのかな?」
そう言って、俺はこちら側で捕らえられている賊たちを見てみると、向こう側と同じく、身ぐるみを剥がされていた。
違うのは……ちょっとこちら側の方がグロテスクな姿になっていることかな?
向こう側と違って、こちら側は俺の奇襲になまじ上手く反応してしまったから、大分手ひどい目にあっている。
まだ全員死んだりはしていないんだが、手加減無しの攻撃を受けているし……気の毒に。
そんなことを考えながら捕らえられている賊たちを見ていると、俺が何を考えているのか伝わったのか、オーギュストは苦笑している。
「装備からは流石に何か探れるとは思わないが、ひとつでも魔道具が残っているのなら確保しておきたいからな」
「そうだねぇ」
それに、船内でもし使われでもしたら一大事だ。
しっかりとチェックして、もし隠し持っているようなら取り上げてもらわないとな。
「まぁ……そこら辺のことは任せるよ。それで……この分だと俺が手伝えそうなことは何も無さそうだけれど、もう中に戻っても大丈夫かな? 旦那様とかセリア様に何か伝えることがあれば聞いとくけど?」
「ああ、もう後は我々だけで問題無い。一通り周囲の見回りが済んだら出発すると伝えてくれ」
「はいはい」
俺は返事をして、さらに「気を付けてね」と続けようとしたんだが、その前にオーギュストが先に口を開いた。
「セラ殿、いい援護だった。倒すこと自体は被害を無視したら可能だったんだが、船上で物資が限られている以上あまり無理は出来なかったんだ。かと言って、他の船を足止めし続けるわけにもいかないしな……。助かったよ」
「お……ぉぉ。気にしないでよ。あんまり役に立てた実感は無いけど、役に立ってたんなら良かったよ」
突っ込んで蹴りを避けられて……尻尾も避けられて。
牽制くらいにはなったが、戦闘での手応えは全くと言っていいほど無かったんだが、牽制役としてなら確かに働けていたかもな。
ふむふむ……と納得して、今度こそオーギュストに別れを告げて、俺は船内へと戻っていった。
◇
「あれ? 旦那様も来てたの?」
船内に戻り、階段を下りて行ったんだが、そこには先程のメンツの他にリーゼルと彼の部屋付きの使用人の姿もあった。
「ああ、この状況なら一緒に居た方が面倒は無いからね」
もし甲板で使われたような魔道具を持った者が突破して来たら……って考えたら一概には言えないけれど、リーゼルたちならその可能性が頭に入っていたら、防ぎ切ることくらいは難しくないだろう。
それよりも、この場で確実にリーゼルにも情報が伝わることの方が大事か。
「それもそーですね」
納得して頷いていると、今度はリーゼルが俺に話を振ってきた。
「それで、君が戻ってきたということは、上の戦闘はもう終わったのかな?」
うむ。
無事終わったんだよな。
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