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 さて、簡潔にではあるが治療を終えたウチの兵から、外の戦闘状況を少しではあるが聞き出すことが出来た。


 件のエンジンみたいな魔道具を積んだ小船で、この船に突っ込んで来て、いい感じのところで下船した後に鉤縄を使って上って来たらしい。

 オーギュストが上手い具合に【ダンレムの糸】を使って妨害出来たようで、船への特攻のようなことは起きなかったが、流石に乗り込んでくるのを完全に防ぎきることまでは無理だったんだろうな。


 船に乗り込んで来た賊は、ウチの兵が中心になって指示を出しながら戦っていたそうだが、彼はちょっと運が悪かったんだろう。

 新たに上って来た賊が、たまたまあの破裂する魔道具を使い、深手を負ってしまった。

 彼の近くにいて、同じく被害を受けた船員2人を抱えて船内まで戻って来るので精いっぱいだったと、苦々しげに言っていたが……十分過ぎるだろう。


 治療の際に、傷口から数センチはありそうな金属の破片を引っ張り出していた。

 魔道具の本体である筒の破片が、爆発で飛び散って周囲に被害を与える……手榴弾みたいな代物なんだろうな。

 アレは、本格的な鎧を着こんでいたらわからないが、軽装だと防ぐ事は出来ないだろう。

 むしろあんなのを何ヵ所にも受けていて、よく生きていたもんだよ。


 俺も【琥珀の盾】も発動しているならともかく、【風の衣】だけじゃ防ぎきれるかわからないし……戦闘に参加していなくてよかったな。

 ウチのよく鍛えられている兵ですらこれなんだ。

 俺なら一片でも当たっていたら、お終いだった気がする。


 しかし、不幸中の幸い……って言い方でいいのかはわからないが、爆発の威力は船体にダメージを与えるほどではなかったようで、運航には支障はでなさそうだ。


 さらに、それだけじゃ無い。

 その魔道具は数はないようで、今のところ彼等の次の負傷者は運ばれてきていない。

 いざ使われたら厄介な魔道具ではあるけれど、そこまで危険視しなくてもいいものなのかもな。


 3人は今回の戦闘での復帰は無理だろうが、命に別状は無さそうだし、とりあえずこのままでいいの……かな?


 ◇


 さてさて。


 治療も終わり話も聞き終えた。

 さらに、戦闘への復帰は厳しいとなれば、敢えてここに寝かせておく理由もないしってことで、彼等は医務室へと運ばれていった。


 そして、俺たちは再び通路へと下がったんだが、どうしたものか。

 もうオーギュストの2射目から10分以上経っているし、そろそろクールタイムは明けているはずだ。

 それなのに3射目が発射されないってことは、もう賊の全員に船体に張り付かれているか、甲板に乗り移られているかのどちらかだろう。


 賊が何人いるのかはわからないが、オーギュストたちがそうやすやすと突破を許すとは思えないし、このままここで待機していてもいいんだが……。


「ねぇ、どーする?」


 待機していてもいいんだが、早く片が付けられるのならその方がいいに決まっている。

 港の戦闘時同様に、俺の参戦もありなんじゃないかな?


「そうね……貴女はどう考えて?」


「そうですね。私は参戦されても問題無いと思います。先程の彼等が受けた魔道具も使用された気配はありませんし、残りが少ないかもう使い果たしたかでしょう。今ならセラ様の風の加護だけでも十分危険を凌げるはずです」


「ふむふむ……2人とも賛成っぽいね」


 それなら……と、言いだそうとしたのだが、その前に護衛の彼女が「ただし」と続けてきた。


「セラ様のあの回復と強化の加護は、甲板の兵たちには使用されない方がいいでしょう」


「ぬ? どうして?」


 手っ取り早く味方の強化が出来るし、基本的に【祈り】は初手で使うようにしているんだが……。


 俺が首を傾げていると、彼女はこちらを見ると一つ頷き続けた。


「もしその状態で毒を受けてしまえば、効果がどう出るかわかりません。それに、強化された状態が基準になってしまったら、治療が効くかどうかも分かりませんから……。港で使っていたような弱毒ならまだしも、今回の戦闘で使っている強毒では危険かもしれません」


 強化された状態で毒を受けてしまうと、これ以上の強化が出来ないし、治療が出来ないかもしれないってことか。

 言われてみれば確かにそうだ。


「治療の手立てが無い以上はそれが妥当ね。セラ」


「うん……了解」


 俺には【風の衣】があるから問題無いが……いつもの癖でやってしまわないように気を付けないとな。


 俺は返事をしながら大きく頷いた。


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 階段を上ると、すぐそこには甲板に出るドアがある。

 その前まで行くと、念のため一旦天井に張り付いて安全を確保してから、アカメたち3体を表に出した。


 まずはこのままで外の様子を探ってみるが……なんか静かなんだよな。

 そして、壁越しにではあるが目で見てみてもよくわからない。

 一応、まだそこはかとなく戦いが続いているような雰囲気は感じるんだが……。


 仕方が無い。


「こっそーり……とね?」


 ヘビたちにドアの隙間から外に体を出させて、確認をすることにした。


「さてさてさて……どーなってるのかな?」


 俺が上ってきた階段に繋がるドアがあるのは、甲板の中央に位置していてさらに船首側を向いている。

 そのため見える範囲はある程度限られているが、それでも船の色んな位置から賊は乗り込んでいるそうだし、なにより魔道具を使ったりと、結構派手な戦闘が行われていたと思うんだよな……?


 それなら、この限られた視界の範囲内でも戦闘の痕跡を見つける事は出来るはずだ。


 ……はずなんだが。


「なんもなくね?」


 痕跡どころかここからでは誰も見つけることが出来ない。

 折角前部は空けているのに、そこでは戦わずに狭い側面だったり後部甲板だったりにいるんだろう。


「とりあえず、こっち側は安全っぽいし……出るかっ!」


 気合いを入れ直した俺は尻尾を発動すると、その尻尾でドアを開けて、外へと出た。


「うむ。誰もおらんね。音もしないし……あ、でも何か戦闘の跡は残ってるかも!」


 外に出て自分の目で改めて周囲を見回してみると、所々にわずかにだが飛び散った血痕が見えた。

 さらに前の方の甲板に設置された手すりには、鉤縄のような物も見える。

 賊はアレを引っかけて上って来たんだろう。


 よくもまぁ……そんな無茶をするもんだ。


 と、賊の無謀っぷりに感心をしていると、微かに何かを殴るような鈍い音と呻き声のような音が聞こえてきた。


「…………ん? 後ろか」


 ウチの兵たちは基本的に戦闘中は無駄口を叩いたりしないし、あの声は賊のかな?

 どうやら、ウチの方が優勢らしいな。


 まぁ……それはわかっていたことだけれど……とりあえず、俺もそっちに行こう!


【浮き玉】の高度を上げて船室部分を飛び越えると、後部甲板へと向かうことにした。


 ◇


「おぉ……なるほど。今はあんな感じなのね」


 コソコソと建物の陰に光って目立つ体を隠しながら、後部甲板を覗き見ると、一目で概ねの状況を理解することが出来た。


 大きく二手に分かれていて、賊の数は……両方合わせて5人かな?

 それぞれ後部の中央側と側面側の端に、取り囲むようにして賊を追い詰めている。


 ちょっと賊の数が少ない気もするが、海に落としでもしたんだろう。

 ご愁傷さまだ。

 よく見ると、甲板のあちらこちらに、前部と違って派手な血痕が見えるし……戦況はこちらが圧倒的に優勢だ。


 ちなみに、オーギュストは二手のどちらにも加わっていない。

 少し下がった位置で、両方で何かが起きた時にすぐに援護に入れるようにしている。


「……あ、さっき治療した兵士がいる。元気だなー……」


 毒を食らって治療を受けに来ていた兵士も元気に戦闘に参加しているし、さっきの3人以降は治療を受けに下がって来る者もいない。

 魔道具は予想通りもう打ち止めなのかもしれないな。

 これなら俺が何もしなくても、このまま押し切れそうだが……。


「団長、来たよ」


 オーギュストなら俺が甲板に現れたことにも気づいているかもしれないが、余裕がある状況で、勝手な介入は駄目だよな。

 ってことで、彼の後ろに下りて声をかけた。


「ありがたい。どちらでもいい、一撃を入れてくれ!」


 迷いのない指示。

 やっぱコイツ気付いていたな?


 俺が下りてきたことで、賊も気付いたようだ。

 構えに変化が見られた。


 突っ込んでくるのか、あるいは守りを固めて、何かを仕掛ける隙を窺うつもりなのか……。

 ともあれ、俺がやることは決まった。


「はいよ!」


 オーギュストの言葉に返事をすると、【緋蜂の針】を発動して正面目掛けて突撃した。

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