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「騒がしくなってきたね」
「この船から船団の各船に情報が伝わったんでしょうね。賊は正面から南に抜けてくるはずよ。それを迎え撃つための準備でしょう」
「ほーぅ……」
セリアーナの言葉に、何となくこの船を含む船団全体の姿を頭に思い浮かべた。
んで、その船団に正面から来て南側に抜けて、何かを仕掛けてくる……と。
「向こうの船で動いている者が、船内でどんな役割を持っているのかまではわからないけれど、私が怪しいと睨んだ者たちは皆甲板を自由に動き回っているし、そのことを近くにいる者が止めようともしていなかったの。大方、伝令か見張りじゃないかしら?」
「伝令か見張りかー……それじゃー、ある程度は情報を誤魔化したり出来るのかな?」
「そうね。流石に全員を抱え込んでいるとは思わないけれど、少しずつ情報を誤魔化していったりは出来るんじゃないかしら? 自分が乗る船が危険に晒されないのなら、精々伝令を間違えた……船の接近を見逃した……それくらいの言い訳は通るでしょうしね」
「通っちゃうんだ……」
まぁ、実際起きかねないことではあるし、他所の船内事情にそこまで口出すことは出来ない……のか?
セリアーナを見ると肩を竦めているし、彼女も同じ様なことを考えてそうだな……。
少々釈然としない気もするが、とりあえずどう来るかの予想は聞けたし、お次は俺たちがどうするかだ。
戦闘が起きてからのことはある程度決めてはいるが、改めて確認しよう。
【ダンレムの糸】が手元にない今は、戦況次第じゃここに留まるよりも、さっさと離脱を選んで陸に移動した方がいいだろうしな。
「オレたちはこのままここで待っていていいんだよね? 何かするとしても、報告を受けてからかな?」
「ええ。もしかしたら戦闘中でもお前の出番が来るかもしれないけれど、精々毒の治療程度よ。その際には、毒を受けた者は甲板から船内に運ばれているでしょうし……まあ、私たちはここで待機して、状況の変化を見ておきましょう」
「はー……って、お?」
セリアーナに返事をしようと口を開いたが、それを遮るようにデカい警鐘が何度も鳴らされた。
港に到着したり出港する際にもこの音は鳴っていたが、精々3回程度だったんだが……。
「始まったようね。私はここで外の様子を見続けながら、外の状況を簡単に口に出すから、お前はそれで戦況を把握しなさい」
「ぬ……りょーかい。紙に書いてもいいかな?」
「ええ。部屋の中の物は好きに使っていいわ」
「はーい」
セリアーナに返事をすると、俺は彼女の机に向かって飛んで行った。
◇
「船団全体の動きが止まったわ。中に賊が侵入してきたことを把握出来たようね」
「ほぅほぅ……大分近付かれちゃってるね」
俺はセリアーナの言葉に頷き、ペンでサラサラと紙に記しながら答えた。
今の外の状況は、正面から船が何艘か突っ込んできて、そのまま南側に逸れて行き、さらにそこからこの船の南側に位置する船のすぐ前を通過して、陣形の中に侵入してきた形だ。
セリアーナ曰く、賊の船は、乗員から考えると漁師が使うような小船のようで、1艘あたりに乗っている人数こそ少ないものの、何艘もいるらしい。
漁師から奪いでもしたのかな?
この辺の地形がどうなっているのかは知らないが、元々この辺りで襲ってくる予定だったんだろう。
大きな船と違って小船の場合だと、たとえ船団内に協力者抜きでも夜なら見つけにくいから、見張りの目を掻い潜って接近することは難しくないだろう。
今も正に、賊の襲撃を知らせていたのに、抜かれるまで接近に気付けていなかったようだしな。
「仕方が無いわ。流石に夜に小船で近づいて来る分まで警戒するのは難しいでしょう。それよりも……」
話を切り上げると、再びセリアーナは外の様子を探り始めた。
合わせて俺も耳を澄ましてみるが……外はもちろんこの船の中も、先程までの騒がしさがどこかへ行ってしまったようで、今は何も聞こえなくなっている。
「何も聞こえなくなったね」
「迎え撃つために甲板に出ているようね。毒が投げ込まれることを警戒しているのか、密度が薄いようだけれど……どうするのかしらね?」
戦闘はまだ始まっていないが、どうやら臨戦態勢には入っている様だ。
セリアーナの言葉じゃないが、これからどうなるんだろうな?
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そろそろ戦闘が始まりそうな雰囲気を感じつつも、やたら静かな船内。
セリアーナは周囲の索敵に専念するためなのか、先程までは割と索敵をしつつも喋っていたのだが、今は黙り込んでいる。
とりあえず、邪魔はしない方がいいだろうし、俺もヘビの目でちょっと周囲でも探ってみるかな?
距離的に難しいかもしれないけれど、もしかしたら接近する者がいたら気付けるかもしれないしな。
ってことで、気合いを入れて壁越しに外の様子を探ることにした。
「よいしょ」
そして、ヘビたちの目を発動してじっと外に面した壁を睨んでいたんだが……。
「ぬーん…………お? ……揺れた?」
元々船自体は揺れているんだが、その揺れ方のリズムが乱れたような気がした。
俺もセリアーナも宙に浮いていて、直接船の揺れを感じることは出来ないが、部屋の手前の方でガタッと何かが倒れるような音もしたし、何かは起きているよな……?
同意を得ようと振り向いてセリアーナの方を見るが……【小玉】に乗って目を閉じている。
これはもしかして何にも気付いていないのか……と、そちらに近づこうとするとパチッと目を開いて、俺を見た。
「……何かあった?」
「ええ。南側の船内に賊の協力者らしき者たちがいて、その賊が陣形を抜けて、こちら側に入って来たことは先程言ったわね?」
「うん。向こうの船の前を抜けてきたんでしょう?」
セリアーナは頷くと、壁の向こう側を指した。
南ってよりはやや東よりか。
賊が突っ込んで来ている方角かな?
「南の船も当たり前だけれど、船員全員が賊と繋がっているわけではないでしょう?」
「まぁ、そりゃそうだよね」
「向こうの船に乗る船員か護衛の冒険者か……賊に気付いて何かを仕掛けたようね。強い魔力を感じたわ。距離が離れていてもこの船まで揺れる威力があったようだわ」
「……ぉぉぅ。それじゃー賊は? 沈んだ?」
小船ってのがどれくらいのサイズかはわからないが、この船が大きく揺れるような波が側で起きたんだし、転覆してもおかしくないよな? 一度ひっくり返って船から落ちてしまったら、流石に立て直すのは難しいんじゃないかな?
だが、それを聞いたセリアーナは首を横に振っている。
どうやら、不発に終わってしまったようだ。
……しぶといな。
「小回りの利く小船が相手な上に、正確な位置もわかっていなかったのでしょうね。あまりこちらの船の近くを狙う訳にもいかないし、離れた位置に放ったようね。残念ながら、賊の動きに影響は無かったわ」
「あらー……。位置がわからないってことは、賊の船は照明を点けてないのかな?」
「そうかもしれないわね。こちらの船は明かりを点けているし、見失うことも無いでしょう? それなら位置が見つかる照明は不要だと考えてもおかしくはないわね。……それと」
セリアーナはそこで話を区切ると、何やらキョロキョロと周囲を見回している。
何かを探すってことはなさそうだし、見ているのは外の様子かな?
「他の船にも動きが出始めたわ。こちらに救援を出すかどうかはわからないけれど、そうなると面倒ね……」
「誤射とか?」
「それもあるけれど、救援に来た者が返り討ちにあって、逆に救援が必要になった場合よ」
「なるほど……それはウチの兵に頑張って、さっさと片付けてもらうしかないね」
ミイラ取りが……的なやつか。
例によってその状況でウチが放置してしまうと、今後の領地運営に差し支えるかもしれないから、どうしても救助に出なければいけなくなる。
それを避けるためにも、救援が出てくる前にさっさと片付けて欲しいところだ。
セリアーナの説明を聞いて「ふむふむ……」と頷いた。
「……おや?」
「今度こそウチの兵たちが仕掛けたようね」
騒がしくなった後に一旦静まり返っていたが、再び騒がしくなり始めた。
この部屋にまで声が届いてきている。
さらに、ドッパーンと数日前にも聞いたような大きな音が部屋にまで聞こえてきた。
続いて、船がゆっくりと傾き始めている。
「団長かな?」
「ええ。1艘は沈められたようね。まだ賊と船との距離は空いているけれど……2射目が間に合うかどうかはわからないわね」
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