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さて、セリアーナは2人を放って索敵を始めてしまったし……俺はどうしようかな。
セリアーナの頭上に浮かぶ目玉を眺めていると、オーギュストが声をかけてきた。
「セラ殿、君の加護は効果があったようだが、発動していて、何か通常とは違うような手応えを感じたりはしただろうか?」
「うーん? いつもと違う手ごたえね……」
オーギュストの問いかけに、顎に手を当てながら先程のことを思い返してみるが……。
「なんもないかな? 元々【祈り】は【ミラの祝福】の方と違って、少しは融通が利くけど、発動しちゃえば後は勝手に効果が続くタイプだしね」
オーギュストがどんな答えを聞きたかったのかはわからないが、とりあえず何も変わりはなかったと答えた。
それを聞いたオーギュストは、なにやらリーゼルと視線を合わせて小さく頷いているが、アレで何かわかったんだろうか?
セリアーナを見ると、こちらのことはお構いなしに、今も目を閉じたまま索敵に集中しているし……聞いてみるかな?
「団長はどんなことを聞きたかったの? 今のでよかった?」
「ふむ……そうだな。我々が想定していた毒物の効果は、体内の魔力に反応するというものだったんだ。それ自体は恐らく間違っていないんだろうが、外から魔力が加えられるとどういった反応をするかまでは、精々悪化することはない……その程度しかわからなかった」
「うん。セリア様もそんな感じのことを言ってたね。でも、治療をやっては来たけど、オレにはどうなのかとかはわからなかったよ?」
「それならそれで問題はないんだ。例えば魔力を押し返される様な感触などはなかったんだろう? それだけで外からの魔力には反応しないことがわかるしな。対処の仕方もいくつか用意出来るだろう」
そのオーギュストの言葉に、リーゼルも頷いている。
どうやらあの質問は、今後に備えての情報集めの一環だったらしいが……。
「また毒を使われるかもしれないの?」
「恐らく。出港当初の戦闘では、こちらの船に近づく前に潰すことに成功したが、甲板に投げ込む事さえ出来たのなら、中から出て来ている者たちを纏めて行動不能に持ち込む事が出来るかもしれないからな。思えばあの賊たちも、簡単に船に乗り込むことなど出来ないにもかかわらず、何とか近づこうとしていたのは、それが目的だったのかもしれない」
「ほーぅ……」
どんな風に戦ったのかは、ウチ側が圧勝だったみたいだし簡単にしか聞いていなかったが、そんな動きがあったのか。
「まぁ……とりあえず【祈り】が効きそうだってわかったし、もし次で使われたとしても対処は出来そうだね」
「ああ。航程ももう半ばを過ぎたし、こちらの人手を使い潰すために効果を敢えて抑えていた物と違って、強力な物を使ってくるかもしれない。戦況次第では君には奥様と共に船を脱出してもらうかもしれないが、その前にひと治療頼むかもしれない」
「ぉぅ……それは中々慌ただしいね」
そう言えば、俺とセリアーナは、いざとなったら船から脱出する予定だったな。
どうなるかはわからないが、中々気を抜けないな……と考えていると、それまで黙っていたリーゼルが、笑いながら話しかけてきた。
「まあ……そう簡単にこの船が危うくなるような事はないと思うから、あくまでそういった事があるかもしれない……その程度に考えておいてくれて構わないよ」
「そっかー……それもそうですね」
俺の緊張を解すためなのか、リーゼルは普段よりも軽い口調で言っているが、賊がどう仕掛けて来るかは何となく予測は出来ていても、実際にどう動くかはまだわからないし……どうなるかね?
リーゼルに返事をしながらも、そんな事を考えていた俺は、とりあえず外の様子を探っているセリアーナの方へ視線を向けた。
相変わらず目を閉じて集中しているようだけれど……随分念入りに探っているな。
まだかかるのかな……と、再びリーゼルたちの方に向き直ろうとしたその時。
「おや? 終わった?」
セリアーナが、小さく息を吐きながら目を開けた。
額には薄っすら汗が見えるし、どれくらい広範囲を見ていたんだろうな?
それを訊ねる前に、セリアーナは【妖精の瞳】を解除すると、リーゼルに向かって口を開いた。
「周囲の船で、船員に妙な動きが増えているわ。そろそろ襲ってくるはずだから、今見た事を記したいの。紙を頂戴」
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「出来たわ。この船の南側の船に気を付けた方がいいかもしれないわね」
そろそろ襲撃があるかも……と、中々気になることを言いつつも、セリアーナは詳しい説明をせずに、リーゼルに持って来させた紙にペンを走らせていたが、それも終わったようで、こちらに差し出してきた。
自分の席にいたリーゼルがいつの間にかこちらにやって来て、セリアーナが差し出したメモを受け取ると、オーギュストと共に難しい顔をしながら見始めた。
とりあえず、読むのに忙しくて話は出来そうにない2人のことは置いておくとして……。
「お疲れ様。まだ近くには賊の姿は無いのかな?」
俺はセリアーナの後ろに回って肩に手を置くと、【祈り】を発動しながら、何がわかったのかを訊ねることにした。
何となくそろそろ来そうだってのはわかるけれど、それでも何か確信を持てるようなものが見えたんだろう。
南側の船に気を付けろってことは、そっちで何かあったのかな?
「フ……流石に目で見える距離にはまだいないでしょう。ただ、船内で明らかに異様な動きをする船員が複数いたのよ。加えて微量だけれど、船内で使われている魔道具とは別種の魔力を、甲板らしき場所で感じたわ」
セリアーナは、顔を上に向けて俺の顔を見ると、薄く笑いながらそう話し始めた。
「甲板らしき場所でって言うと……狼煙とかかな? 海上なら障害物も無いし、遠くからでも見えるだろうね……」
「そうでしょうね。前を行く船もわざわざ後ろを監視したりはしないでしょうし……後部の外側は、普通に考えたら不意を突くにはいい位置よ」
「まぁ……前後の警戒はしていても、船団の外側までは警戒出来ないもんね。それを書いてたのかな?」
「ええ。他の船も調べたけれど、あからさまに怪しい行動をとった者がいるのはその船だけだったわね。後どれくらいで接触するかはわからないけれど……そう間を置かずに……あら?」
スラスラと俺の話に同意して、補足をしていたセリアーナの言葉がふと止まったかと思うと、足早に部屋から出て行くオーギュストの姿が目に入った。
セリアーナと一緒にそちらを見ていると、リーゼルがこちらを見て、セリアーナのメモを手にしながら苦笑していた。
「オーギュストには船長に話を伝えに行ってもらったよ。セリアが見た甲板の魔力は、狼煙か照明か……どちらかはわからないが、少なくともこの船団内での合図に使うものではなさそうだし、恐らく仕掛けてくるだろうね」
「それで……どうするのかしら? 事前に決めた通りでいいのかしら?」
「ああ、それでいいだろうね。護衛の彼女たちはまだ動けるほどじゃないだろうけれど、彼女たちは元々賊との戦闘では戦力に数えていないし、ウチの兵が動けるのならそれで十分だろう。君たちは部屋で控えていてくれ」
「ええ……それじゃあ、セラ。行きましょうか」
「うん。そんじゃー……旦那様、何かあったら言ってね」
セリアーナの後を追いつつも振り向いて、リーゼルにそう伝えると。
「もちろんだよ」
リーゼルはそう答えて、部屋を出る俺たちに手を振っていた。
◇
部屋に戻った俺たちは、今度は就寝スペースへ移動した。
一応防犯を考えて、窓の側から離れたいってのと、いつでも【隠れ家】に入れるようにだ。
【隠れ家】に籠っていたら、船が沈みでもしない限りは危ないことなんてないんだが……襲撃が起きた際には、すぐに部屋に報告が入って来るだろうし、それは避けておいた方がいいよな。
「襲撃ってさ、どんな感じで起きるんだろうね?」
「事前に説明を受けていたでしょう?」
「うん……それはそうなんだけどさ。どんな風に仕掛けて来るのかとか色々細かい所がね? まぁ……俺たちはいざとなったら脱出するけれどさ」
どうにかして、この船に接近して乗り込んだりはするんだろうけれど、船を沈めるって可能性もあるし、船ごと突っ込んで来られたりしたら面倒そうではあるよな。
「そういうことね。……船団の船の隙間を縫って入り込んでくるか、あるいは外の船を乗っ取って、中のこちらに寄せて来るか……。大掛かりなことにはなるかもしれないわね。それよりも」
「うん。なんかバタバタし始めたね」
一旦話を止めて耳を澄ませてみると、オーギュストが船長に報告を終えたのか、船内がにわかに騒がしくなってきているのを感じた。
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