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セリアーナの「説明しろ」という言葉に、2人は一気に表情が強張ってしまった。
彼女たちも「来るな」と言われている部屋に夜遅くに訪問した上に、抑揚のない声でセリアーナにそう言われたら緊張するよな。
ただ、別にこれはいつものことで、不機嫌になったりしているわけじゃないんだが……。
まぁ、俺がわざわざ言うことじゃないし、2人ともお偉いさん専門の護衛役に、この船に採用される使用人だ。
セリアーナ相手に、何かやらかすような事はないだろうしそのまま見守っておくかね。
「憶測になりますが、説明させていただきます」
少々声は硬いものの、冒険者の彼女が話し始めた。
……彼女が話すってことは、この船の問題では無いのかもしれないな。
「まず改めて、現在3人に表れている症状ですが……発熱と倦怠感で、特に激しい症状が出てはいません。ただ、戦闘を行えるほどは軽くなく、休ませている状況です」
「そう……。まあ、今はまだ戦闘要員が必要となっているわけでも無いし、具合が悪いのを押して船内をうろつかれるよりは、大人しくしていた方がいいかもしれないわね。それで?」
症状の確認をしたセリアーナは、結局原因は何なのかを聞き出すために、先を促した。
「はい。私たち4人は、王都に滞在していた時も含めて数ヶ月の間、ほぼ一緒に行動していました。多少の別行動をする事はあっても、それも数時間程度です。ですから、少なくとも王都の滞在時からグラードとアルザの街までの移動する期間は除きました。恐らく事が起きたのは、港での戦闘でしょう」
「妥当な考えね」
「だね」
セリアーナの言葉に合わせて、俺も頷いた。
そして、首を傾げもした。
王都での滞在時の環境はわからないが、王都を発ってから港に着くまでの間は、そこまで変わった事態は起きていなかったはずだ。
道中に戦闘は起きていたが、彼女たちは基本的にセリアーナの側についていたから、賊に何かを仕掛けられるようなこともなかっただろうしな。
だから、彼女が言うように、何かがあったのだとしたら港での戦闘くらいだろう。
ただ……アレはアレで、彼女たちに何かが起きるような事はなかったと思うんだよな……。
彼女は、セリアーナの後ろで首を傾げている俺と目を合わせると、小さく頷いて話を続けた。
「港での戦闘の終了間近に、賊が何かの薬品を使った形跡があったのを覚えていますか?」
「薬品……あぁ、何かあったね。結局何かはわからなかったけど……」
戦闘が終わった後に、倉庫の周りの捜索をしていた時に、何かを撒いた痕跡が……とか言っていたんだが、結局あれは何だったんだろうな?
倉庫の屋根上にいた連中は、他の魔道具や魔法と組み合わせることで狼煙のように使っていたけれど、同じ物かどうかも分からないし……。
倉庫の炎上とかその直後に倉庫を消し飛ばしたりとか……色んなことが重なって、いまいち何をしたかったのかはわからなかったんだよな。
倒して捕らえられた賊の中には、そこまで深手じゃない者もいたし、今頃は街の騎士団の連中が尋問をして、あれこれ聞き出したりをしているのかもしれないが……既に出港している俺たちが知る術はない。
その薬品のことをここで持ち出すなんて、体調不良と何か関係があるってことなのかな?
「恐らくあの薬品は、遅効性の弱毒のような物だと思います」
「……遅効性の弱毒?」
遅効性はともかく、弱毒ってなんだ?
強い方が良さそうだけれど……。
「ええ。肺から入り込み、体内で魔力を少しずつ取り込んでいき、時間を置いて発動する……それ自体が罠になるような代物です。他の効果も付与しているだけに、毒物としての効果は低いですが、今回のように時間差で発動できる分、その効果が後から発揮することも計算のうちかもしれません。ただ、屋内に仕掛けられることはあっても、屋外での使用は聞いたことはありませんが……」
「なるほど……弱い方が都合がよかったりもするんだね」
「倉庫に火をつけたのもその一環なのかしら? 狼煙にしては少々派手過ぎたもの……」
「そうかもしれません。あれだけの規模で炎上したのなら、消火活動も大掛かりなものになります。たまたまオーギュスト団長が恩恵品を使って倉庫を打ち壊すという手法を使いましたが、それを抜きにしても、いくらでも広範囲に拡散出来たはずです」
「私たちも立場上ああなったらあの場を離れる事は出来ないし……よく考えていると言えるのかしら?」
セリアーナは感心半分呆れ半分のような声で、そう呟くと、大きな溜め息を吐いた。
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さて、とりあえず毒がどんな代物で、どんな風に拡散させたのかはわかってきた。
しかし……。
「狙いは何なんだろう? オレたちの護衛の数を減らすのが狙いってわけじゃないでしょう?」
それなりにウチに被害を与えられそうな方法ではあるが、誰かをピンポイントでってのは難しいやり方だ。
もしかしたら、空振りに終わっていたかもしれないし、いまいちこれで何をしたいのかってのは疑問ではあるな。
「そうですね……あの3人が倒れたのは、個人差か立ち位置かはわかりませんが、決して狙ったわけではないはずです。恐らくこちら側の戦力を少しでも削ることが出来たのなら、それでよかったのではないでしょうか?」
「ふむ?」
「動けない者が船内に増えると、それだけこちらも行動が制限されるものね……。それで……そのことがわかっているのなら、船内の他の者の様子は見てきたのかしら?」
セリアーナの言葉に彼女は頷くと、使用人を手で示した。
「はい。こちらに報告に来る前に彼女にも協力してもらい、リーゼル閣下やリアーナの兵たちにも簡単に話を聞いてきました。現時点で、体調に異常をきたしている者はウチの3人だけです」
「そう……。貴女たちとウチの兵の違いは……魔力かしら?」
「断言は出来ませんがその可能性はあります。見たところ、リアーナ兵の皆さんは魔法が専門という訳ではありませんから……。仲間内で私だけが発症しなかった理由はわかりません。個人差や偶然なのかもしれませんが……」
セリアーナの問いかけに彼女は答えつつも、最後には困り顔になっていた。
困り顔なのは確信が持てないからなんだろうが……なるほどな。
魔力の量とかが発症の切っ掛けになるっぽいのに、ウチの兵はともかく彼女に発症しなかったのは、ただ単に偶然なのかもしれないのか。
確かに、何でもかんでも意味があるって考えるよりかは、そっちの方が可能性が高そうな気もするな。
セリアーナもそう思ったのか、彼女の肩に置く手を伝って、力が抜けたのがわかった。
何でも考え過ぎは駄目だよな。
しかし、体調不良か……。
それなら。
「ねぇ」
と、声をかけようとしたのだが、それを遮るようにセリアーナが話を始めてしまった。
「一先ず貴女たちの状況は理解出来たわ。貴女たちのうち3人に被害が出たのは偶然でも、この日数で効果が表れたのは偶然ではないのでしょう? それなら、近いうちに襲撃が起きるかもしれないのよね?」
「はい。遅くなってしまいましたが、そのことを伝えるために訪問しました」
「結構。話は分かったわ。襲撃の際には私たちもある程度動き方を決めているし、引き続きオーギュストの指示に従って動きなさい。それと、3人には無理をしないように伝えておいて頂戴」
「……わかりました。もし、緊急の事態が起きた場合は、またこちらに伺います」
そう言うと2人は揃って立ち上がり、部屋から出て行った。
◇
2人が出て行って数分ほど待ってから、俺たちは再び就寝スペースから【隠れ家】へと移動した。
セリアーナは、表の部屋での話し合いには大して関心が無いのか、ソファーに座って本を読もうとしているが……俺は少し聞きたいことがある。
「ねぇ、セリア様」
「どうしたの?」
「あのさ、護衛の人たち体調崩してるんでしょう? 【祈り】とか試さなくてもいいの?」
【祈り】は不調には大抵なんにでも効く気がするし、とりあえず使ってみる価値はあると思うんだが……セリアーナは俺が言い出そうとしたのを敢えて遮ったような気がしたんだよな。
「ああ……。理由はいくつかあるけれど、とりあえずは毒物の正確な情報が無いでしょう? 死に瀕していたり、急いで処置をする必要があるのならともかく、そうじゃないのなら余計な手出しは必要ないわ」
「……む。まぁ、それはそうなのかな?」
どうやら魔力由来で効果を発揮するタイプの毒らしいし、流石に爆発したりはしないだろうけれど、【祈り】で変な効果を発揮したりしても困るか。
と、一応納得しつつも首を傾げていると、さらに続けてきた。
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