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リーゼルからの、少々刺激的な話を聞いてからもう1週間程が経った。
既に船団に合流しているが、リーゼルから聞かされた通りこの船は船団の中央ではなくて、その最後尾に入っているらしい。
各船の船長たちにどんな風に話を通したのかは知らないが、差し当たって今のところは、何かと懸念をしていたような問題は起きていない。
航行する場が川から海に変わっても、俺もセリアーナも基本的に浮いたままで、ただただのんびりとした船旅になっていた。
昔船に乗った時は、暇な期間は船内をうろついたり、甲板に出たりもしていたんだが……今はいつ襲撃を受けるかもわからないし、部屋で大人しくしている。
具体的に俺たちは何をやっているかというと、ダラダラお喋りをしながらの読書だ。
幸い、領地からこちらに来る際の暇潰し用に持って来た分で、読み終えていない本はまだまだあるし、逆に、領地に持ち帰るために王都で大量に購入もしていた。
そして、その大量の本は【隠れ家】の物置部屋に運んでいて、船旅の間に読んだ本を順次入れ替えている。
ってことで、俺は今【隠れ家】に読み終えた本と新しい本の入れ替えにやって来ていた。
「えーと……持って来る本はこっちかな?」
本は何冊か入る箱に纏めて入れていて、その箱がいくつもあるんだが、どれも見た目は似ているんだよな。
中を見ても、本の外装はほとんど同じだし……数日間が空くと分からなくなってしまう。
「うーむむむむ……。これは盲点だったなぁ。夜にでも整理しておこうかな?」
ちなみに、朝から夜までの間は俺たちも表の部屋にいるが、夜は【隠れ家】に来るようにしている。
起きている間は宙に浮いているが、流石に睡眠時は【浮き玉】から降りているからな。
相変わらず海に出ると波で船内は揺れまくっているし、多少は慣れてきたとはいえ、ゆっくり睡眠をとるのは難しい。
別に、俺やセリアーナが船に強くなる必要は無いし、そこは無理をする意味が無いってことで、リーゼルたちには申し訳ない気がしなくもないが、こっちで楽をさせて貰っているわけだ。
「えー……と、あ! コレだな」
さて。
木箱の蓋を開けては中身を確かめて……を繰り返していたが、何箱目かでお目当ての中身を見つけることが出来た。
とりあえず、今中身を確かめた分には目印でも置いておこうか。
そう決めると、俺は部屋の中に保管されている武器の中から小ぶりのナイフを選んで、既に中身を確かめた箱の上に置いて行った。
「よし。こっちの片づけは夜にでもしようかね。それじゃー……よいしょっ!」
尻尾を発動して外に運び出す木箱を巻き取ると、気合いを入れて持ち上げた。
そして、木箱を部屋の壁にぶつけたりしないように気を付けながら、【隠れ家】の玄関目指してフラフラと進んで行った。
◇
夜。
もう後は寝るだけだし、俺とセリアーナは【隠れ家】の中に入っている。
昼間に本を運び出す際に手こずった木箱の件は、セリアーナと共に当たって既に終了しているし、【隠れ家】の中では恒例のリビングでの軽いお茶会を開いていた。
「もうすぐ半分くらいになるけど、今のところ何も無さそうだよね」
「……そうね。もちろん、まだまだ気を抜くようなことは出来ないけれど、他の船の動きにも怪しいものは感じられないし……まだ半分以上残ってはいるけれど、出港までの妨害を考えたら、順調ではあるわね」
話の内容とは裏腹に、少々重たい口調で言い放つセリアーナ。
やっぱり来るなら来るで、さっさと仕掛けて欲しいんだろうな。
しかし、セリアーナでこれなら、やっぱり他の船の船員たちもこちらの対応次第じゃどこかで暴発していたかもしれないな。
「おや?」
ふと、リビングに置かれているモニターから響く「トントン」といった音に気付いてそちらを見ると、外の部屋のドアをノックする使用人と、そのすぐ後ろに立つ護衛の冒険者の姿が映っていた。
はて……と思いセリアーナを見ると、彼女も同じく不思議そうな顔でこちらを見ている。
彼女の加護では何も異常を捉えられていないか。
「こんな時間に何だろう……?」
「賊は姿を見せていないけれど……まあ、行けばわかることね。行きましょう」
セリアーナは、ソファーにかけていた上着を羽織ると、【小玉】を発動して玄関へと向かいだした。
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【隠れ家】から出て来た俺たちは、一先ず就寝スペースから一番手前の応接スペースへと移動して、セリアーナは執務机に座り、俺はドアの前へと移動した。
セリアーナの方を、確認の意味も込めてチラリと見ると、【琥珀の盾】を発動していることを示すように、左手を見せながら頷いている。
準備は良さそうだな。
それじゃあ、俺も……。
「どーぞー。入って来て良いよ」
念のため【風の衣】を発動してから、ドアの向こうに向かって声をかけた。
「はい、失礼します!」
すると、すぐに返事が帰って来たんだが……この声は誰だ?
声の勢いから使用人じゃなくて冒険者の方が答えたんだろうけれど、少なくともリーダーの声じゃない。
【隠れ家】のモニターからだと使用人の陰に隠れて顔が見えなかったが、この部屋に来るのならリーダーは欠かせないだろうに……。
はて……と首を傾げながらも、とりあえずここにいても仕方が無いから、俺はセリアーナの後ろへと飛んで行き、誰が入って来るのかを見守ることにした。
「あら?」
「あぁ……」
少し驚いたような声を上げるセリアーナと、誰なのかがわかりホッとする俺。
使用人の方は覚えていないが、冒険者の方は覚えている。
王都圏での戦闘の際に何度か会話をした相手だ。
ちなみに、彼女は甲板の戦闘にも参加していたし、出発して以降はセリアーナとは顔をほとんど合わせていなかった。
だから、セリアーナは驚いているのかもしれない。
ともあれ、2人はセリアーナの机の前まで来ると、「お休み中に申し訳ありません」と一礼した。
「構わないわ。それよりも、何の用なのかしら? 船内で問題が起きたようには思えないけれど……」
「はい……。私から説明させていただきます」
セリアーナの言葉に、冒険者が一歩前に出て答えると、そのまま彼女が説明を開始した。
「実は今日の日暮れ頃から、私を除く3人が体調を少し崩しておりました」
「あら? そうだったの?」
「はい……。ただ、その時は少々具合が悪いという程度で、安静にしていれば治まると考えていました。船内の見回りは私が引き受けて、彼女たちは部屋で休ませていたのですが……」
「治らず悪化したのね?」
「はい。一時間ほど前からですが、3人揃ってです。高熱などは出ていないのですが、床から出ることが出来ずに……」
具体的にどう具合が悪いのかは言及していないが、中々きつそうな感じだ。
彼女は申し訳なさそうにそう言った。
しかし、3人揃って同じタイミングでか……。
「船酔いとか?」
とりあえず、俺はセリアーナの肩に手を起きながら身を乗り出して、彼女に向かって疑問を口にした。
護衛の冒険者たちは馬車や馬での移動に慣れているだろうし、普通の陸地で暮らす人よりは揺れには強いかもしれないが、それでも船での移動には慣れていないそうだし、船酔いを全くしないってことは無いと思うんだが……。
だが、船酔いではないようで、彼女は首を横に振りながら答えた。
「ゼロとは言えませんが、少なくとも今日の昼間までは何ともありませんでしたし、恐らくそれは違うと思います」
「まぁ、それもそっか。船酔いなら3人揃ってってこともないだろうしね。何か変な物を食べたとかは?」
なら食あたりはどうだろう?
それなら同じタイミングでってのもあり得そうだけれど……。
そう思ったのだが、コレも違うらしく、またも彼女は首を横に振りながら答えてきた。
「それも違うと思います。私たちは用心のために、可能な限り違う食材で作られたメニューを食べていました。1人や2人ならともかく、3人もとなると……」
「なるほど……それは違いそうだね」
お貴族様なんかの護衛を専門としているだけあって、普段から手間をかけたことをしているな。
しかし、確かに彼女が言うように、それをこの船でもやっているのなら、食あたりってこともなさそうだ。
それなら俺からは何も無いな。
乗り出していた体を後ろに戻すと、今度はセリアーナが口を開いた。
「まあ……聞きたいことはセラが聞いたし、私からも特には無いわね。それよりも、わざわざここに来たということは、何か思い当たることでもあるのでしょう? 聞かせなさい」
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