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「4人ともあっさり下がってったね。もう少し粘るかなって思ったんだけど……」
護衛の4人はセリアーナの言葉に従って、あっさりと部屋を出て行った。
なんとなく、これまでのことを考えたら、部屋の中での護衛はともかく、廊下での護衛くらいは……って言うのかなとも思ったんだが、普通に自分の部屋へと戻っていく姿を、捉える事が出来た。
まぁ……部屋に戻るといっても、彼女たちに用意された部屋は、俺たちのすぐ側だし、何かあれば駆け付けることが出来る距離ではあるんだが、ちょっと意外だったかな?
そう思いセリアーナを見ると、もう終わった話だとばかりに、興味の無いような表情を浮かべていた。
「賊との戦闘はもう終わったでしょう? これが陸地ならともかく、船ならそうそう簡単に潜入することも出来ないし、初日から契約主の命令に逆らうような真似をする必要は無いと思ったんでしょう」
「そう言うものなのかな?」
「そう言うものよ」
言われてみたら、まだ出発はしていないけれどここは水上だ。
さらに、仮にこの船に潜入しようとする者がいたとしても、つい先程まですぐ側でドッカンドッカン魔法やら何やらが着弾して、近付くことなんて出来やしない。
セリアーナの加護を抜きにしても、とりあえず今は船に仕掛けてくる者はいないだろうって考えるよな。
なるほどなー……と頷いていると、セリアーナも俺の顔を見て小さく頷いている。
さっきから入念に周囲の様子を探っていたし、この船の安全には自信があるんだろうな。
それに関しては、俺も疑うつもりはない。
「そっかー……」
そう呟くと、セリアーナは「フッ」と笑って【小玉】を浮かせた。
そして、奥の就寝スペースへと移動を始めた。
「まあ、戦闘に関することや明日以降の詳細については、また明日リーゼルから聞けばいいことだわ。それよりも、今日はもうこの部屋に人は訪れないでしょうし、一旦奥に行きましょう」
「ん? りょーかい!」
返事をして、俺はセリアーナの後を追って行った。
◇
【隠れ家】に入った俺たちは、リビングに向かうと【浮き玉】から降りてソファーに座った。
「あー…………疲れた」
大きく伸びをしてついついそんな事を口に出してしまったが……改めて言葉にするとなんだか本当に疲れてきた気がする。
【祈り】は今は発動していないが、船に乗る前は何度か発動しているし、肉体的な疲労は全て回復しているはずなのに、この疲労感……。
気を抜くと駄目ってことなのかな?
「今日は一日中戦闘が続いていたし、仕方が無いわね」
「セリア様も疲れた?」
「私はほとんど座っていただけだし、疲れるようなことは無いわね。慣れない土地で加護を使い続けるのに神経を使ったのは確かだけれど、いつもほどではないにしても、私を守る戦力は十分足りていたし、問題無いわね」
「なるほどー」
王都に滞在していた期間は、王都の人の多さに少々消耗していたようだったけれど、王都を出てさえしまえばな……。
人も少ないしリアーナやゼルキスに比べたら魔物もいないしで、襲撃は何度かあったものの、セリアーナにとっては気楽な一日だったんだろう。
【妖精の瞳】も使っていたから、戦力面での優位もわかっていただろうしな。
俺のメンタルは、どうせ一日二日ダラダラしていたら回復するだろうし、セリアーナに疲労が無いのならなによりだ。
さて……それじゃあ。
「それで? わざわざ【隠れ家】まで入って、何か話でもあるの? ただこっちで話をしたいってわけじゃないんでしょう?」
お喋りや休憩をするだけなら外の部屋でも十分だろうし、そのためだけに【隠れ家】に移動したわけじゃないはずだ。
なにか内密の話でもしたいんじゃないかな?
一応外の部屋も十分過ぎるくらいチェックはしているけれど、俺抜きでは誰も出入りできない【隠れ家】の方が、安全や防諜面ではより確実だもんな。
そう思い、ジッとセリアーナの顔を見るが……。
「……なに? 何が気になるのかはっきりとはしない感じなの?」
セリアーナは俺の問いに答えずに、曖昧な表情のまま肩を竦めていた。
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【隠れ家】でのセリアーナとの会話はすぐに終わり、また部屋へと戻ってきた。
わざわざ移動をした割に話したことと言えば、何か気にはなるけれどはっきりはしない……ってことだった。
まぁ、何かあるかもしれないってことを事前にわかっていたら、いざそれが起きた際にはそこまで焦らずに対処出来るだろうけれど……なんだかんだで、ずっと何か起きるかもって心構えだけは出来ているもんな。
実際色々起きているし、気にかけておいて損をするってことは無いだろう。
さて。
それはそれで気を付けておくとして、部屋に戻ってきたはいいが、どうやらまだ船は出発していない様子だ。
そんなに長く【隠れ家】にいたつもりは無いんだけれど……何かに手間取ってでもいるのかな?
「まだ出発しないのかな? もう戦闘が終わってから時間は結構経ってると思うんだけど……」
ベッドの側からだと大して見えやしないが、何となく窓の方を見ながらそう呟くと、セリアーナが「少し待ちなさい」と後ろから声をかけてきた。
振り向くと、腕を組んで目を閉じているセリアーナの姿がある。
加護の索敵範囲を広げるために集中しているんだろうな。
「どう?」
数十秒ほど経ったところで、何かわかったかを訊ねてみた。
少々時間が短すぎる気がしなくもないが……ただ単に船が来ているかどうかを見るだけだし、そこまで気にしなくてもいいよな?
ともあれ、セリアーナの言葉を待っていると「ああ……」と呟いて目を開けた。
「……わかったわ。少し離れた場所に迎えの船が停まっているわね。数人が移動しているし……直接船につけるのではなくて、小船で運んでいるわ。だから時間がかかっているのね」
「あぁ……なるほど。大きな船同士をくっつけて、それで事故が起きても大変だもんね」
俺の言葉に、セリアーナも頷いている。
無風の湖とかならいいかもしれないが、ここは流れがある川だ。
いくら錨を下ろしているからって、静止することは出来ないし、距離を空けているんだろう。
考えたらもっともなことだ。
「それじゃー、もう少しかかるのかな?」
救助されたのが何人なのかはわからないが、少なくとも何往復かはするだろうし、出発まではもう少しかかりそうだよな。
「そのはずよ。まあ……今の時点で何も問題は起きていないようだし、出発は時間の問題ね。部屋には来なくていいと伝えてあるから出発の報せも来ないだろうし……セラ」
「ほいほい」
「もう一度奥へ行きましょう。汚れを落としたいわ」
「ぬ?」
この部屋にも風呂は備え付けられているが……今日は色々あったし、流石に今から入浴の準備をするのは面倒だもんな。
【隠れ家】の方ならすぐに風呂の準備は出来るし、部屋に人が来ないんならそっちでいいだろう。
「りょーかい。それじゃー……よいしょっと」
俺は返事をすると、壁際に移動して【隠れ家】を発動した。
◇
「んぐ?」
と、声を上げて目を覚ました。
昨晩は風呂から出た後は、一直線にベッドに入ったんだ。
そこから先のことは記憶にないし、恐らく即寝入ってしまったんだろう。
まぁ……風呂に入ったことで疲れが出たんだろうな。
俺は寝相はいいつもりなんだが、いつの間にやら大の字になって寝ていたらしい。
だが、手足には布団の感触しかないし、セリアーナは既に起きているっぽいな。
どこにいるのかなーと、ベッドの上に寝転がったまま頭だけを動かしていると……。
「起きたのかしら?」
セリアーナの声が聞こえてくるが、どうにも遠いところからの気がする。
それほど大きな声や音を出していたつもりは無いんだが……彼女の耳にも届いてしまったようだ。
彼女がいるのは、一つ隣のスペースだな。
「起きたよー」
とりあえず、起きたことを伝えるために体を起こして、俺は隣に向かって声を出す。
一応この部屋は各スペースごとにパーテーションで区切ることが出来るんだが、俺たち以外は入ってこないという事もあって、部屋の隅に置かれたままになっている。
お陰で正面のソファーに座っているセリアーナの姿が目に入った。
「結構。こちらに来なさい」
「はーい」
自分のもとに来るよう言ってきたセリアーナに返事をすると、俺はベッドを降りて【浮き玉】に乗っかると、浮き上がり移動を始めた。
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