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 セリアーナが【妖精の瞳】も使いながら周囲の索敵をしている間、俺は【風の衣】を発動しながら、彼女の頭上を中心に漂っていた。


 何だかんだで、護衛の2人が欠けるとちょっと不安になるんだよな。

 せめて【妖精の瞳】があれば、俺ももっと色々探れるようになるんだが……セリアーナが使用していて、今まさに俺の目の前に浮かんでいる。


「ふぬぬ……」


「人の頭の上で何を唸っているの……」


「お? 終わった?」


 目玉を睨みながら唸っていると、下からセリアーナの声が届いて来た。

 さほど時間は経っていないのに、もう索敵を終えたのかな?


「街に比べたら人の数や魔物の数ははるかに少ないでしょう? 大して時間をかけるようなことではないわ」


 セリアーナはそう言うと、降りて来るようにと指で示した。


 ってことで、俺は頭上での警戒を解いて、セリアーナの前に降りて行ったんだが……。


「それもそっか。そんで? なにかわかった? ……何その妙な顔は」


 索敵を終えた時の口振りでは、周囲には特に異常は無いような雰囲気だったんだが、セリアーナは何とも言えない表情を浮かべている。


「…………何も異常が無いのよね。どういうことかしら」


「異常が無いのはいい事だと思うけど……あれだけ手間をかけてるのに、何も無いってのが引っ掛かってるんだね?」


 その気持ちはわからなくもないが、ずっと言ってるよな……それ。


 口には出さないが、そんな事を考えていると、セリアーナは手を俺の額の前まで伸ばしてきて、ピンッと弾いた。


「お前のことだから、どうせ港や街に入る前にも同じことを言っていたとでも考えているんでしょう? 確かにそうだけれど、陸地と船上では事情があまりにも違い過ぎるわ」


「まぁ……簡単に増援を送って来たり、伏兵を用意していたりってのは無理だよね」


「そうよ。そう言えば、お前は賊がどういう風に仕留められたのかはわかっていないわね?」


「うん? そうだね……さっき聞いた分だけしか知らないよ。後でセリア様に聞こうかなって思ってさ」


 もっとも、救助待ちの一団を盾にしていた連中を引き離して、間延びさせたところをオーギュストがドカンとやって、後は逃がさないように誘導しつつ、弓とか投げ槍なんかで安全に甲板から攻撃をしていったってだけだろうし、そこまで重要な事だとは思わないんだけどな……。


 それでも、ちょうどいい機会だし話して貰おうかな……と、セリアーナを見た。


 ◇


「ほぅ……確かに変といえば変だよね。何したかったんだろう?」


 セリアーナから話を聞いて、思い浮かんだ言葉をそのまま口に出した。


 賊の一団がこの船に接近する際に隊列が間延びしてしまったのは、小船っていう不安定な乗り物で追いかけたから速度差が出てしまったからだ。

 その結果、オーギュストが半数近くを巻き込んで倒したそうだが、それはあくまで偶然である。

 だから、そのことは忘れるとして……問題は、船に近づいて何をしたかったかなんだよな。


 この船は大型って程ではないがそれなりのサイズがあって、後部甲板の高さだって2階以上はあるんだ。

 近付く事は出来ても、そこから乗り込むのは簡単じゃないだろう。


 高威力の魔法だったり、大爆発でも起こすような魔道具でも持っていたら、船腹にでも穴を空けて沈没を誘うってのも不可能じゃないんだが、そんな素振りは見せなかったらしい。

 そもそもこの船は、魔物が多い海域を移動出来るくらい頑丈な造りだし、そんな簡単に船体にダメージを与えられたりはしない。

 よほど一点に集中でもしない限りは、まず無理だろう。


 もちろん、セリアーナがこの部屋から加護と恩恵品の併用で見た動きから予測したものでしかないし、100パーセント正確……とは言えないそうだが、それでも、ほぼ間違いないと言っている。


 ってことで、どうしたもんかな……と、セリアーナの顔を見た。

 彼女は、先程まではスッキリしないような表情を浮かべていたが、今は逆にスッキリしたような表情をしている。

 頭の中を口に出したことで、整理でも出来たのかな?


「賊は全滅したし、策を聞き出す事は出来ないわね。互いの情報を合わせたら、何か見えてくるかも知れないし……明日にでも甲板での戦闘の様子を直接聞いてみましょう」


 そう纏めると、セリアーナは「話は終わり」と言って、自分の肩を指さした。


 疲れたしマッサージしろってことかな?

 まぁ、いいか……。


 俺はマッサージをするために、セリアーナの背中に回りこんだ。


1113


「……終わったようね」


「うん?」


【祈り】と【ミラの祝福】を発動しながら、セリアーナの肩や首をマッサージしていると、セリアーナがふとそう呟いた。


 俯きながらだったので、一瞬聞き間違いかと思ったが……特に訂正するでもないし、何が終わったんだろうな?

 と、セリアーナの次の言葉を待っていると、スッと左手を伸ばして、部屋のドアを指した。


「…………あぁ、それのことね」


 マッサージに真剣になりすぎていてついつい忘れていたが、今リーゼルの部屋では、先程の戦闘やら何やらの報告も含めた話をしていたんだった。

 んで、その話が終わったから、部屋に護衛が戻って来るんだろう。


「ノックされる前に開けておきなさい。ついでに、廊下の様子も見ておいて頂戴」


 そう言うと【妖精の瞳】を解除して、俺に手渡してきた。


「おぉ? わかった……」


 ノックされる前にドアを開けておく理由ってのはよくわからないが、廊下の様子を見ておけってのは、参加していた連中の雰囲気とかを知りたいからだろう。


 廊下の方の様子を壁越しに探ってみると、まだリーゼルの部屋から出て来てこそいないが、もうすでに向かいの部屋のドア近くに集まっているのがわかった。


「そんじゃ、行って来るね」


 俺はセリアーナのマッサージを切り上げると、【妖精の瞳】を耳に着けながら、いそいそとドアの方へと飛んで行った。


 ◇


 部屋から廊下に出ると、ウチの兵が1人警備としてドアの前に立っているが、まだ誰も外には出ていない。

 間に合ったな。


 警備の彼に軽く手で挨拶をしていると、リーゼルの部屋のドアが開かれた。


 出てきたのは、まずは船長を始めとしたこの船の船員たちだった。


 船員と言っても何やら偉そうな恰好をしているし、各部署の責任者みたいなものかな?

 内容次第じゃ船の運航スケジュールにも影響があるし、リーゼルの部屋に入る訳でもあるし、それなりに作法を学んだ者となると、位が高い者になってしまうんだろうな。


 その彼等は俺の方を見ると、軽く礼だけして足早に去って行った。

 今終えた話の内容を、他の船員たちに伝えるためなのかな?


 そして、お次は使用人たちで、その後にウチの兵たちと一緒に護衛の冒険者たちが出てきた。

 兵たちは各々持ち場に戻っていき、冒険者たちはこちらにやって来る。


 分かれて戦闘に参加していた2人も一緒だが、パッと見ではあるが、どこも怪我をしているようにも見えないし、そんなにきつい戦いじゃなかったのかもしれないな。


 ともあれ、こちらにやって来た彼女たちに部屋に入るようにと声をかけて、俺は先に部屋の中へと戻ることにした。


 ◇


 部屋に入ってきた彼女たち4人は、セリアーナの前に並ぶと、「報告をさせて貰ってよろしいでしょうか?」と、まずはリーダーが口を開いた。


「全部は必要無いわ。簡単に済ませて頂戴」


「はっ」


 セリアーナの言葉にリーダーは返事をすると、正面を向いて報告を開始した。


 セリアーナは、それを口を挟んだりせずに黙って聞いているが……特に目新しい情報は無くて、セリアーナが予想したものと大差は無かった。


 今は、救助した者を船に収容して迎えが来るのを待っている。


 船の後部には、彼等が乗って転覆した船だったり、賊が乗っていた船の残骸だったりが漂っていて、それの片づけを行っているんだそうだ。

 迎えの船はもう間もなく到着するそうで、その作業が完了次第、救助した者たちを引き渡すらしい。


 救助した者たちの所属先がほぼ一緒で、迎えの船が1艘で手早く済みそうなんだとか。

 狙いとは違った形ではあるが、救助対象を絞ったことが功を奏した感じかな?


 そして、それが終わったら、ようやく今度こそ出発だ。


 色々スケジュールにイレギュラーが起きてしまったが、元々何も起きていなくても夜は船足を落とすらしく、その分この船が急ぐことで、少々遅れる程度で間に合うらしい。

 鳥か馬かはわからないが、既に街から伝令を放っているようで、問題無く合流を果たせるそうだ。


 さて、とりあえずの簡単なスケジュールの確認が出来て、どうするかもわかったところで、リーダーは話を一旦区切りセリアーナへと顔を向けた。


「差し当たって必要な報告は以上になりますが……続きはどうされますか?」


「もうそれで十分よ。ご苦労だったわね。貴女たちも下がっていいわ。体を休めて頂戴」


「はっ……。それでは、失礼します」


 そう言うと、4人はこちらに礼をして部屋を後にした。

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