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 船に乗り込んだ俺たちは、王都にやって来た時に使っていた部屋とは別の船室に通されることになった。


 案内は船員で、俺たちはそのすぐ後ろをついて行っている。

 大きな荷物は事前に運び込まれているし、持って来た荷物は船員が持っているしで、実に身軽な状態だな。


 部屋こそ違うがこの辺は行きと同様だ。

 それ以外に違う事といえば、俺がセリアーナの剣を持っていること……はどうでもいいとして、護衛の冒険者たちも一緒なことだろうか。


 彼女たち護衛は、本当はこの港までの予定だったんだが……俺が屋根上で1人戦っている時か、あるいは代官屋敷に行っていた時かはわからないが、どうやら彼女たちはこのまま船に乗って、リアーナまで同行するようだ。

 まぁ、そこまで大きい船ではないが、それでも俺たちの同行者はただでさえ少ないし、4人増えるくらいなら大丈夫だろう。


 さて、新たな乗員となった彼女たちを伴って船内を進んで行き、俺たちが滞在する部屋の前に到着した。


 行きで使った部屋の向かい側で、船員たちが荷物を中に運び込む際に開けたドアの隙間から、チラっと部屋の中の様子が見えた。

 間取りや内装は行きに使った部屋と同じような感じだ。


 同じ船の貴賓室だし、当然といえば当然かな?


 ◇


 さてさて。

 船員たちに荷物を運び入れて貰ったが、彼等の仕事はそれで終わりではない。

 部屋に運び込まれた荷物の整理も彼等の仕事だ。


 大事な物や普段使いするような物などは、俺の【隠れ家】に置いているから、実はここの荷物は無くてもいいんだが、まぁ……それはそれ。

 彼等は梱包を解いて、棚などにテキパキと収納している。


 ちなみに、俺たちは護衛共々部屋の中でその作業が無事終了するのを見守っている。

 護衛の彼女たちは船室が珍しいのか、初めのうちはキョロキョロと室内のあちらこちらに視線をやっていたが、満足したのか、それぞれ所定の護衛ポイントについていた。


 ドアの脇に2人、俺たちと船員たちの間に1人。

 そして、俺たちの向かいの席にリーダーだ。


 んで、黙って作業を見守っていたリーダーだが、何か気になる事でもあるのか、こちらに顔を向けた。


「こちらはセリアーナ様が滞在されるお部屋なのですよね? お2人一緒なのでしょうか?」


「ええ。私たちは基本的に部屋から出る事は無いわ。船員や使用人もそうだけれど、貴女たちは呼ばれない限り入って来る必要は無いから、オーギュストの指示に従ってちょうだい。もっとも、船の上ではそうそう出番は無いと思うけれど……」


 どうやらリーダーは船での彼女たちの動き方を確認したかったらしい。

 同行することは決まっても、その辺の打ち合わせはまだなんだろうな。

 今のうちに簡単に済ませるつもりらしい。


 セリアーナとリーダーはアレコレ話をしている。

 もっとも、実際に指示を出すのはオーギュストだし、あくまで非常時に俺たちがどう動くのかのただの確認だな。


 その話も終わると、再度リーダーは部屋全体を見た。


「室内のチェックはどうしましょうか。リアーナの兵が先程行っていたようですが……命じてくだされば、彼等の作業が終わった後に私たちでも行いますよ?」


 この船はウチのルバンの持ち物だし、船員や使用人もすぐ側にいるから多少言葉を濁してはいるが、要は怪しげな何かを仕掛けられていないかを調べるってことだな。


 だが。


「不要よ」


 セリアーナはその提案を一言で断った。


「……わかりました。ただ、何かあればいつでも申し付けてください」


 リーダーは言葉が出なかったのか一瞬だけ間が空いてしまった。

 怒っているというよりは、困惑だな。


 セリアーナも、その様子はわかっているだろうが、構わず続けた。


「ええ。その時は頼むわね」


 うむ……実に和やかな雰囲気だ。


 リーダーの提案は基本的に全部断って、代わりにセリアーナが出した要望は、自分たちは放っておけ……だもんな。


「…………!」


 どうしよう……と言った視線を、セリアーナの隣に座る俺に向けてきたが、そもそも俺は彼女たちが同行することになった理由を何も聞いていないし、慌てて首を横に振っておいた。


 結局、荷物の整理が終わるまでこの雰囲気が変わる事は無かったが……まぁ、彼女たちもプロだし、きっとこういう無茶ぶりにも慣れてるよな?


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 船員に使用人、護衛の冒険者たち皆が部屋を出て行き、部屋には俺とセリアーナ2人になった。


「それじゃー……部屋の中調べよっかね……」


 そう呟くと、俺は足元に転がしていた【浮き玉】に乗って、浮き上がった。

 護衛の彼女たちの申し出を断ったのは、俺に調査をやらせるためだろう。


 ……いや、それだけじゃないか。


「ええ。私も一緒に見るわ」


 セリアーナも自分で確認したかったからだろうな。

 彼女も【小玉】に乗って浮き上がると、ドアの前に向かうオレの後ろをついて来ている。

 それじゃー壁から始めるとして……ついでに、折を見て、馬車や外でだと聞きにくかったことも聞いておこうかね。


 ◇


「こっち側は何もないね」


 一先ずここから……と始めた、ドア側の壁には何の異常も無かった。

 まぁ、その壁の反対側は通路だし、何も無いのは当然か。


「それは結構ね。それなら次はそちらにしましょう」


「ほいほい」


 セリアーナの指示に従って、壁を伝って奥へと移動する。

 こちら側の壁の向こう側は、行きと一緒だったら倉庫みたいな小部屋になっているはずだ。

 何かを仕込むには適しているが、今のところ何も見つからない。


「何も無さそうかな?」


「この船も警備は常駐していたでしょうし、忍び込んで何かを仕込むような真似は難しいでしょうね。お前が必要無いと思えばしなくてもいいわよ?」


 ここに何かを仕込めるような者はそう簡単には見つからないだろうし、そもそもそんな腕があれば、そんな汚れ仕事をやる必要なんかないんだよな。

 ついでに、余程のことがあっても【隠れ家】と【浮き玉】がある以上切り抜けられるんだ。


 だから、多分今やっているのはただの杞憂に終わるんだろうが、スッキリした気分でリアーナまでの船路をダラダラしたいし……。


「……いや、全部調べたい」


 これはもう癖だよな。


「そう。まあ、調べること自体は悪いことでは無いし、付き合うわ」


 少し呆れた様なセリアーナの声。

 どんな顔をしているのか、振り向かなくてもわかるな……。


「うん。……そう言えばさ、もし何かあるとしたら、どんな物が仕掛けられてると思う?」


「仕掛けられている物?」


「そうそう」


 別にどんな物であろうと、魔素を使う以上はヘビたちの目が捉えるだろうし、わざわざ教えてもらわなくてもいいんだが……まぁ、ただ壁をじーっと凝視し続けるだけってのもなんだしな。

 部屋の壁や天井、床下を調べる作業はもう何度もやっていて、お喋りしながらでも出来るくらいには慣れているし問題無い。

 話題に関しては、別に護衛のことを聞いてもいいが、この部屋は広いし、いきなりじゃなくてもう少し後に回してもいいだろう。


「そうね……。例えば私が知っている物の中では、室内の人間の魔力を一定以上吸収したら発火する魔道具……なんて物があるわね。室内には魔道具がいくつか設置されているでしょう? それを起動する際に少量ずつ奪って行けば、数日もあれば起動出来るはずよ」


「ほぅ? 海の上で火事になったら危険だね……」


 魔道具を発動する魔力なんてたかが知れているし、ちょっと他の物に回す分を持って行かれても気付けないかもしれない。

 中々危険な代物じゃないか。


 セリアーナも俺の言葉に頷いている。


「こういった客室なら利用者は大抵室内にいるし、巻き込める確率も高いわね。もっとも、本体は隣室や壁裏に隠せても、室内全体に仕掛けを施す必要があるし、簡単では無いわ」


「あぁ……回路を部屋の魔道具に繋げておく必要があるんだね。それは難しそうだ……」


「そうね。もっと簡単な物だと、回路なんかを使わずに、そこらに漂う魔素を吸収することで発動する物もあるわ。ただし、直接近くに置いておく必要があるそうね。火だけじゃなくて毒だったりと色々種類はあるけれど、その分簡単に見つかってしまうから、もっと人の出入りが多い場所でも無ければ簡単に見つかるでしょうね」


「ほぅほぅ……んじゃ、あるとしたら前者か」


「両方の可能性もあるわね。どちらかを見つけたら、気が緩むかもしれないでしょう」


「ぬ……それもそっか」


「気を付けて頂戴」


「はーい……よし、こっち側は何も無いね」


 等と話している間に、こちらの壁の調査は完了だ。

 お喋りしながらでも見落としは無し。

 完璧だ。


「結構。それなら次は向こうね」


 そう言うと、セリアーナは隣の壁へと向かって行った。

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