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さて、ジリジリと俺の側面に回り込んでいた賊たちは、前に出た2人が「俺が受ける!」とか防御に専念して、カウンターを行うような会話をしていたんだが……。
「…………はっ!」
「甘い!」
「!?」
突如背後から飛んできた魔法を、真横に飛ぶことで躱した。
そして、その魔法を余裕を持って躱した俺と対照的に、慌てて躱す男たち。
魔法はそのまま何処かへと飛んで行ったが、こいつら危うく同士討ちをするところだったな。
ちなみに魔法を放ったのは先程蹴倒した男だ。
前の男たちは俺が今の魔法を躱したことに驚いているようだが、後ろの男が少し前から意識が戻っていて、こそこそ魔力を溜めていたのは、俺の背後を守っているヘビくんたちが気付いていたぞ!
だから、魔法が来る事はわかっていたんだ。
男たちのあからさまな会話は、後ろの男が魔法を使おうとしていることを俺に悟らせないためだったんだろうが……無駄だったな。
「さて……どうせ当たりはしないんだし、別にこのまま戦ってもいいんだけど、邪魔なのは確かだよね」
振り向くと、腕を突き出して上体だけ起こしている男の姿が目に入った。
「うっ……」
しまったって感じの表情を浮かべているが、2発目でも撃とうとしていたのかな?
俺も経験ないからわからないが、風系統の魔法なら、大した威力が無くても何かが起きるかもしれないし、今度はコイツが俺への牽制をしようとしているのなら、その選択は間違いじゃ無いだろう。
うん。
先にコイツからだな。
「っ!? 下だ! 下に逃げろっ!」
俺がソイツを狙った事に気付いた1人が、そう声を上げた。
屋根から下に落ちたら、俺もわざわざ追おうとは思わないし、あながち間違いってわけじゃないんだが……この倉庫の高さは3階近くあるし、なかなか思い切れないよな。
ましてや、碌に動けないコンディションでだ。
俺と屋根の向こう側を見て、どうしようかと躊躇っているのが一目でわかった。
僅かな時間ではあるが、俺にはそれで十分。
「まっ……待てっ!」
「待たないっ! よいしょっー!」
一気に距離を詰めると、慌てて俺を制止しようとする男の声を無視して、思い切り右足を振り抜いた。
当てた個所は腕だったんだが、豪快に縦にグルングルンと回転すると、そのまま屋根の下へと落っこちていく。
自分から飛び降りていたら、精々骨折くらいで済んだんだろうが……俺の蹴りプラス不安定な体勢で落っこちていったし、これはどうなるかな。
まぁ、屋根上の戦いが続いている間に戻って来るような事は無いだろう。
「ん? ……拾っとくか」
邪魔者を片付けたことだし、残りの3人の元に戻ろうかと振り向いた時、屋根の上に転がる1本の剣が目に入った。
今落っこちていった男の剣かな?
別に使う必要は無いんだが、ぶん投げて驚かせるくらいの事は出来るし、何かの役に立つかもしれない。
持っていて邪魔になる物じゃないし、持って行こうかね。
ふむ……と頷き、俺は左手で剣を拾い上げた。
◇
「お待たせー」
再び3人の前に戻ってきた俺はそう言葉を投げたが、見事にスルー。
代わりに、前の2人が睨みつけてきた。
しっかりと防具にも魔力を通しているし、これはやる気になっているな。
こうなってくると、こいつらもそれなりの腕だろうし、混乱させてどさくさに紛れて倒すってのは難しそうだ。
まぁ、まだいくらでも手はあるが……何か仕掛けて不発に終わった時に隙が出来てしまうと危ないし、そこは無理をしなくてもいいだろう。
蹴りと尻尾の連携で、丁寧に戦えば行けるはずだ。
それよりも……奥のアイツだ。
魔法でも使う気なのか、右手に魔力を溜めているのがわかる。
ただ、それだけじゃ無くて、左手を後ろに回しているが、アレ……何かを隠しているよな?
こっちに移って来る前の方の屋根上の戦いでは魔道具を使っていたが、こっちでも使う気なのかもしれない。
あの時はどさくさのうちに倒していたし不発に終わらせたから、アレが結局何だったのかよくわからなかったんだよな。
向こうとこっちの戦いを考慮した上で、俺に仕掛けてこようとしているし……様子見は止めておいた方が良いかもしれないな。
ここはもう、一気にやっちゃうか……!
そう決めると、俺は右の人差し指に意識を集中した。
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俺は2人目掛けて突っ込むと、まずは左手に持っていた剣を放り投げた。
この拾った剣は一般的なサイズの剣だが……俺が片手で扱うにはちょっと重たすぎるし、大きすぎもする。
所持したままだと邪魔にしかならないから、【浮き玉】の速度を乗せた投擲用の道具として使うってのは、いい使い道だ。
だが、賊に向かって投げつけるのならともかく、俺が投げたのはすぐ上。
それも高くではなくて、放り投げる程度の高さだ。
正面の賊たちはそれを見て、何の意味があるんだろうと訝しげな表情を浮かべるが、俺が肩から生やした腕で剣をキャッチしたのを見て、すぐに訝しげな表情から驚愕の表情へと変わった。
「腕っ!?」
「恩恵品だ! アレは強いぞ!」
どうやら連中は【猿の腕】を見たことがあるらしい。
普通、肩から腕が生えて、さらにその腕が剣を構えていたら、もっと驚いてもいいんだが……思ったより冷静だ。
コレを発動したのは、驚かせるためって意味もあったんだが……それには失敗したかもしれないな。
だが、あくまで見たことがあるだけで、自分たちで使った事はもちろん、仲間内でも所持している者はいないっぽいな。
俺が使ったんじゃ、【猿の腕】は精々大人の腕力程度しか発揮出来ないし、どうやら正確な情報は持っていないようだ。
って事は、操作性能とかも知らないかもしれない。
それなら……!
ふっと短く息を吐くと、俺は前の2人の間目掛けて突進した。
奥に下がっている最後の1人が何を企んでいるのかはわからないが、何かを仕掛けようとしているのは間違いないし、俺をソイツのもとに行かせないように、防ぎに来るはずだ。
「いかん、奥を狙われる。止めるぞ!」
2人が間を詰めるように動き出した。
【緋蜂の針】に耐えられるように、しっかりと鎧だけじゃなくて剣にも魔力を通している。
そして、奥の男は何かを仕掛けるタイミングを探るためか、足を止めている。
うむ。
上手く狙い通りに行きそうだ。
「よっ!」
まず俺の一手目は、突撃からの蹴りだ。
不意打ちなら軽く当たるだけでも大ダメージを与えたり、当たらなくても風に巻き込めばバランスを崩すくらいは出来るんだが、今は2人ともしっかりと受け止める備えが出来ている。
俺は2人の間を抜けるような軌道を取っていたが、片方の男がそうはさせまいと立ち塞がってきた。
もう1人は、万が一抜けられた時に備えてなのか、奥の男との間に入っている。
尻尾への警戒も忘れていないようで、距離があってもちゃんと集中しているな。
奥の男はともかく、前衛組でこの2人が残ったのはなんだかんだで腕がいいからかもしれない。
コイツ等の腕を考えたら、いくら突進の速度が速くても、真っ直ぐ突っ込んでくるだけなら防がれてしまうだろうが、これは防がせて足を止める事と、もう1人の行動を誘導するために放ったものだ。
「はあっ!」
1人が気合いの声と共に、手にした剣を俺の足先に叩きつけてきた。
バチバチと音を立てる俺の蹴りを、必死の形相で抑え込む男。
強化しているだけあって、俺の蹴りを受けながらも剣は折れずに持ちこたえている。
そして、これで俺を抑え込めたと思ったんだろう。
「今だっ! やれ!」
男は俺から視線を外すことなく、デカい声でもう1人にこの隙を突くようにと指示を出した。
それを受けて、即座に飛び込んでくるもう1人の男。
コイツもしっかりと強化しているし、体ごと突っ込んで来られたら、【風の衣】を破られるかもしれない。
普段ならさっさと離脱して仕切り直しをするんだが、今回は違うぞ。
1人を足止めして、もう1人を奥の男から引き離して、こちらに呼び寄せる。
俺の狙い通りだ!
さらに、奥の男を見ると、この2人の動きに合わせようとでも思っているのか、左腕を突き出して魔法を撃つ構えを取っていた。
それだけじゃない。
右手に何かを握っているのもわかる。
恐らく魔道具だろうが……これは好都合だ。
もう1人が風まであと数メートルの距離まで来たところで、俺は剣を持たせたままだった【猿の腕】を思い切り振り被らせると……。
「やっ!」
奥の男めがけて剣を投げつけた。
一直線に飛んで行くように投げられると格好いいんだが、流石にそこまではコントロール出来ずに、クルクルと縦に回転しながら飛んで行く。
「避けろ!」
その指示に慌てて飛んで避ける男。
体勢を崩したし、アイツは一旦無視していいだろう。
ついでに指示を出す際に後ろを向いたことで、足を止めているし、コイツも無視していい。
短時間だが、これで1対1に持ち込む事に成功した。
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