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「くそっ!?」
バチバチと小さな雷を纏う俺の蹴りを受け止めながら、ようやくこの状況は俺が狙って引き出したものだという事に気付いたらしい。
コイツは剣で受けとめたまま動けないし、横から仕掛けてこようとしていた男も、俺が剣1本放り投げただけでそれをストップさせられるし……。
この2人が足止めに回ってまでも、何かをやらせようとしていた奥の男も、飛んできた剣を回避する事に精一杯で、それどころじゃない。
ってことで!
「ほっ!」
軽く足を引き戻してバランスを崩させると、もう一度男の剣目掛けて蹴りを放ち、俺から後ろに突き放した。
だが、それで離れて仕切り直しという訳じゃない。
離れていく男にそのままぴったりと付いて行く。
「っ!? このっ……離れっ……」
鬱陶しかったんだろうな。
不安定な体勢ながら、俺を振り払おうと剣を手にした右腕を振り回してきた。
掻い潜って蹴りを叩きこんでもいいんだが……コイツの腕を考えたら、中途半端にダメージを与えてなりふり構わず反撃をされても厄介だし、ここで決めるか。
「せー……のっ、よいせっ!」
俺は【浮き玉】の高度を下げて、男の右腕の下に潜り込むと、【影の剣】を発動しながらクルっと1回転した。
もちろん、1回転した後に【影の剣】を引っ込める事は忘れていない。
ともあれ、【影の剣】を発動した状態で、1回転したという事は……だ。
「はっ?」
男はポカンとした様子で、間の抜けた声を出した。
そりゃーそうだろう。
今まで俺は下の戦いも含めて、複数を一度に相手にしながらも、蹴りと尻尾しか使ってこなかったんだ。
まさか1対1になってから、新たな攻撃をしてくるとは思わないだろう。
ましてや……。
「う……うおあぁあぁぁっ!? う……腕がああぁっ!?」
腕を切り飛ばされるんだもんな。
俺も驚いている。
びっくりだ。
「やー、まさか切断するとは思わなかったよ。死なないようにね?」
腕には防具があるし、おまけに魔力で強化しているはずなんだが、俺の蹴りを受けるために、少し割合でも変えていたのかな?
思いのほかスパンといってしまった。
ともあれ、利き腕を切り飛ばして、コイツはもう碌に戦えやしないだろうが、念のためだ。
右腕を抑えて叫ぶ男の側面に回り込むと、痛みや衝撃やらでパニック中だったからか、見事に無防備な肩に「ほっ」っと軽く蹴りを当てた。
男は「かはっ」と、小さく息が漏れる音と共に吹っ飛び、ゴロゴロと転がっていき……。
「あ」
そして、屋根から落ちて行った。
転がり落ちていく姿をついつい見送ってしまったが……これはいよいよやっちまったかもしれんね。
まぁ、腕を切断したんだし、遅かれ早かれ失血死はしていただろうし……こんな妙な事に加担した自分の選択を恨んでくれ。
運がよければもしかしたら持ちこたえるかもしれないが……なんまいだ。
さぁ、ヤツの事はもういいとして、残りは2人。
こいつらはなんだかんだでどちらも無傷でいる。
戦闘自体は一瞬で終わらせたし距離もあるから、俺の細かい動きまでは見られていないだろうが、それでも、あの男の悲鳴は聞こえているだろうし、俺が何か新しい手を使ったってのは伝わっているはずだ。
「ふむ」
そちらを見ると、既に2人とも体勢を立て直している。
どうやら先程のように、前衛と後衛に分かれたりはせずに、一緒になって戦うつもりの様で、近い距離で構えていた。
屋根上に残っていて動けるのはこの2人だけだし、さっきも抑え役が2人居てアレだったもんな。
この状態で前衛と後衛に分けても俺を抑えるのは無理だし、それなら2人で固まっている方が、どうにか出来る可能性が高いと考えたんだろう。
最初から、全員でなりふり構わずに本気を出して俺に襲い掛かっていたら、まだどうにかなっていた可能性があった気もするんだが……初見で俺相手にそんなに思い切った対処法はとれないよな。
さて、それはともかくとして、この2人がどう動くかだ。
一応固まって戦う気になってはいるようだが、2人のタイプは前衛と後衛に分かれているし、無理に連携を取ったりせずに、互いが援護出来る距離で戦うのかな?
そうなると……魔法と魔道具の存在は気になるが、勢いに任せて突っ込むのも有りだよな。
慎重になりすぎて、相手に頭を使う余裕を与えるのもなんだし、そっちの方が性に合っている気がする。
「よし……やるかー!」
残り2人。
さっさと片付けて、下に合流だ!
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「来るぞ! やれっ!」
前衛の男は、俺が突っ込んでくるのを見て、もう1人にそう指示を出した。
「おう!」
そして、その声を聞きすぐに動き出したもう1人。
バっと横に跳ぶと、すぐに魔道具を足元に投げつけてきた。
「あれっ!?」
てっきり2人で揃って俺を迎え撃つんだとばかり思っていたんだが、先手を打って来たか。
これは想定外だと、ついつい驚いて変な声を上げてしまった。
一気に足元を這うように白い靄が広がりだしているが……煙幕かな?
確か向こうの方でも似たような物を見たな。
結局これが何かはわからないが……本人たちの元にも広がっているし、そこまで気を付けるような代物じゃないはずだ。
「むっ」
それよりも……足元から視線を賊たちに戻すと、さらに続けて何かを投げようとしている。
この流れだと……風系統の何かか?
下手に先に動くと、動いた先を狙われるかもしれないし、ギリギリまで待たないと。
そう考えて、投げつけて来てから回避に動こうと、俺は賊の挙動に集中していたんだが……。
「…………んん!?」
男は確かに魔道具を投げはしたんだが、その投げた先が俺ではなくて、足元を這っている白い靄の真ん中だった。
その魔道具は読み通り風系統だったようで、一気に靄が舞い上がって柱のようになっているが……俺の【風の衣】には特に影響はないし、舞い上がったといっても精々薄い霧程度で、視界に影響があるほどではない。
この状況でやるってことは、きっと何かの意味があるんだろうが……でも一体何が目的なんだろう。
この行為の意味を考えながら、賊への攻撃を中断して白い柱を見上げていたのだが、何かが動くのが視界の隅に移り、ハタと我に返った。
いかんいかん。
一瞬とは言え、完全によそ見をしてしまっていた。
魔法の用意もしていたし、まだそれが来るかもしれない。
気を抜いちゃ……。
「おおおっ!?」
飛んでくるかもしれない魔法に備えようとした正にその瞬間、賊の1人が魔法を放って来た。
タイミングが良すぎて、ついつい叫んでしまったが、その魔法は俺を狙ったものでは無くて、白い柱の根元を狙ったようだ。
そして、その魔法は今までのように風系統のものではなくて、火系統。
屋根に着弾したかと思うと、大きな破裂音と共に火が屋根に燃え広がった。
んで、その火は白い柱の根元を赤く照らしている。
魔法の火だからか、あるいはあの魔道具が何かに作用しているのかはわからないが、普通の火よりも燃え方の勢いが強い気がする。
だが、今はそんな事よりもだ。
「えぇぇ……これなにしたいの?」
俺を狙うならまだしも、屋根焼いてどうすんだ?
賊の訳の分からない行動に驚くやらパニックになるやら……。
とはいえ、そんな状況でも先程の様なミスを繰り返したりはせずに、その燃えている個所を見つつも、チラチラ賊たちにも視線をやっていた。
そのお陰で、2人の動きに気付くことが出来た。
「よし。行くぞ!」
「ああ」
賊たちは屋根上に転がっている、他の仲間を放って屋根の外へ向かって走り出した。
下の連中と合流するつもりなのか、それとも逃げるつもりなのかはわからないが、とにかくこの屋根上は放棄するつもりだろう。
今すぐ突っ込めば追いつけるかもしれないが……。
こいつら本当に何をしたいんだ?
普通に考えたら、足場を燃やしたら互いに実力を発揮し辛いだろうし、2対1って数の優位を活かせるかもしれないが、俺には関係の無いことだし……かといって、大して意味の無いことにこんなに手の込んだことをするとも思えない。
わからん!
「それより、どっ……どうしよう!?」
この燃えている屋根はどうしよう!?
警備の人間が中に居るだろうが、倉庫は木製だし放置していたら、この火の勢いを考えたら倉庫全体が炎上するよな?
「えーと……えーと……えーと……。とりあえずやるか!」
決して思考を放棄したわけではない。
とりあえず、この火をどうしたらいいかわからないし、リーゼルたちに指示を仰ぎに行くことになるだろう。
どうせ俺も屋根から離れるのなら、あの2人を今の有利な状況でやっておいた方が、後々面倒が無くていいよな?
うむ。
そう決めると、そろそろ屋根の端に辿り着きそうな2人目掛けて、一気に突っ込むことにした。
「……たぁっ!」
「ぐはっ!?」
俺の蹴りを背中に受けた男は、呻き声をあげながら屋根から消えていった。
さぁ、これで残りは1人だ。
一気に片付けるぞ!
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