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 尻尾からの蹴り。


【風の衣】の効果も相まって、とりあえずこれをやっておけば、少数だろうが多数だろうが人間相手ならどうとでもなる。

 便利な割に、簡単に発動できるお手軽コンボだ。


 まだ使うようになったばかりのそのお手軽コンボを、丁度一直線に並んでいた3人の賊相手にお見舞いした。


「ぐおおおおぉぉっ!!」


 1人は槍で迎撃しようとして、返り討ちに遭い。


「くそっ!?」


 1人は飛び退くことで直撃を避けるも、風に弾かれてバランスを崩して転倒。


「がはっ!?」


 そして、もう1人は腕で受けようとしたが、受けられるわけもなく吹き飛んだ。

 最後の1人の時に、通過間際に何か赤いモノが見えたような気がしたが……腕でも弾け飛んだかな?


 ともあれ、奇襲は成功だ。

 それならお次は……!


「後はお願い! オレは上に行くよ!」


【祈り】をリーゼルたちにも届くように発動して、俺は一気にその場を離脱した。

 背後からリーゼルたちの声が聞こえるが……きっと「了解」とか「承知」とか、そんな類の言葉だろう。


 人数差がある上に、屋根上の敵も健在。

 そんな状況でも、それなり以上に安定させていたんだ。

 賊側で欠けるのはたった2人だが、屋根上は俺が引き受けるし、こちらの戦場もこれで一気に動くだろうな。


 さて、これから屋根上に向かう訳だが、その前に俺は、その場を離れるとともに、まずは高度を上げて状況を把握することにした。


「んー……と、屋根上には、いるね。数は6人……7人か? 向こうよりいるな」


 まぁ、連中の攻撃手段が弓なら俺には効かないだろうし、どうとでもなるんだが……倒すとなると、数が多いってのはやっぱり脅威ではある。

 囲まれないように速攻で決めるか、下が片付くまでひたすらかき回し続けるか。


「……おっとっと。やっぱ光ると目立つな」


 どう戦おうかと悩んでいると、いつの間にやらか飛んできた矢を風が弾いていた。

 結構距離があるのに、よく当てられるよな……。


 さっきやっていた連携を使われたら流石にわからないが、こっちの連中の矢も、俺の風を貫くような威力は無いようだ。

 呑気に光りながらぷかぷか浮いて連中の的になるのは嫌だし、さっさと突っ込もう!


 ◇


「来たぞ!」


「弓だけじゃ無理だ。魔法も絡めろ!」


 近付くにつれて、屋根上の賊たちの声が聞こえてきた。


 まだ結構距離があるのに……随分でかい声だ。

 よっぽど俺の事を警戒しているのか……そんな警戒されるようなことしたかな?

 まぁ……弓使いにとって俺は相性の悪い相手だし、無理もないか。


 だからといって、ペチペチ目の前で弾くのも鬱陶しいし、何より魔法はまずい気がする。

 しっかり全部躱さないとな!


 ってことで、気合いを入れて飛んでくる諸々を躱しながら直進し続けて、ようやく屋根上まで後数メートルの位置へとたどり着いた。


「やあやあ! ってさぁ……。矢も魔法もオレには届かないよ?」


 飛んでくる矢と魔法を躱しながら、賊にしっかり聞こえるように大きな声で言ったんだが……それでも攻撃が止む事は無い。


 屋根上にいた賊は全部で7人で、手前に5人と中ほどに2人の編成だ。

 人数の割に飛んでくる矢の数が多い気がするが……どうなってんだ?


「おーい?」


 彼等の側にはランタンといくつかの木箱が置かれている。

 下の連中が言っていた、予備の矢が入っているんだろう。

 賊は景気良く矢を撃ちまくっているが……それでもまだまだ矢が尽きる事は無さそうだな。


 それなら……!


「ほっ!」


 毎度の突撃体勢ではなく、いつでも回避できるように正面を向いたままの姿勢で、屋根の真ん中を目指すことにした。

 これだけ遠慮なく攻撃してくるのは、俺の攻撃が届かない距離だし、的である俺が宙に浮いていて同士討ちの不安が無いからだろうしな。

 同じ場所に立つ……まずはそこからだ!


 だが、賊側も俺の狙いがわかったのか、何やら動きを変えてきた。


「牽制は俺たちがやる。お前たちは降り際を狙え!」


 奥の2人がそう言うと手前の5人は剣や槍を手にして、集まりながら俺を待ち構えている。

 適度に距離を保っているのは、下での俺の奇襲を見ていたからかな?


 風で吹き飛ばしつつ、尻尾と蹴りのコンボは警戒されているって考えた方が良いか。

 まぁ、いいさ。


「行くぞー!」


 それならそれで、まだ打てる手はあるぞ!


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 降下を始めた俺に向かって、まずは弓を持った2人が仕掛けてきた。


「おおおぉぉ!?」


 一度に複数の矢を番えて射ってきている。


 1本ずつ撃った時より、俺の目でもわかるくらい矢の速度が遅いが、その分飛んでくる矢の数はまるで弾幕だ。

 躱すのは難しいが、当たったところで問題無く弾けるだろう。

 弾けるだろうが……とにかくこの数は鬱陶しい。


 恐らく今弓を撃っている者たちが魔法も担当していたんだろうな。

 だから、飛んでくるのは矢ばかりだが……それでもついつい躱そうとしてしまい、中々降りれずにいた。

 それどころか、元の場所から離れてしまっている。

 牽制としては十分過ぎるな……。


 とは言え、この半端な位置でいつまでももたついているわけにはいかない。

 魔法も一緒に使ってくる前にどうにかしないと……。


「…………えぇいっ! やっぱこれだ!」


 痺れを切らした俺は、【緋蜂の針】を発動すると、右足を突き出して弓使いの2人目掛けて突進した。

 結局はコレに戻ってしまうが……攻防どちらもカバー出来るし、優秀なんだよ。


 何度も見せたら対処法を考えられるかもしれないが、どうせコイツ等とは今日限りだ、

 気にする必要は無いよな?


「来るぞ! 魔法は……間に合わんか……俺たちでやる!」


「気を付けろ、背中に何かを着けている」


 飛んでくる矢を蹴散らしながら突っ込んでくる俺を見て、弓持ちの前に立つ近接組。

 ちょっと手間取ったけれど、ようやく俺が主導権を握れる展開に持ち込めた。


 さぁ、やるぞ!


 風が先頭の賊に接触しそうな位置まで来たところで、俺は【浮き玉】の軌道を上に向けた。

 そして……!


「ほっ!」


 尻尾を伸ばしたままグルグルとドリルの様に体全体を回転させて、賊の頭上を一気に突破した。

 上昇したのは、あくまで足場の屋根に当たらないようにってのが目的なんだが、悪くない高さだ。

 屋根上に降りる事はもちろん、上手くいけば、尻尾アタックで複数にダメージを与えられるんじゃないか?


「うおっ!?」


「なんだっ」


 殴打音と共に響く驚愕の声。

 何人に当たったかはわからないが、中々上手くいったようだ。

 普段の魔物相手の狩りなら、【影の剣】を使って通過際に首を刎ねているんだが……初見の人間相手に接近するのは避けたいもんな。


「さぁ、どうだ!」


 賊を突っ切って反対側に降り立ったところで振り返り、今の突進の成果を確かめた。


 流石に全員にダメージを与える事は無理だったが、真ん中付近にいた3人は直撃したのか、頭を押さえてよろめいている。


 正体がよくわからない長い物が、上下から襲ってくるんだ。

 見えてはいても、防いだり躱したりは難しかったんだろうな。


 一番の目的である屋根への降下は成功したが……これ、もう何発かいけるよな?

 あの3人はもちろん、他の4人も訳の分からない攻撃に混乱をしていて、まだ完璧に立ち直っているとは言えない。


「よしっ……もう一回だ!」


 尻尾を振り回して気合いを入れると、再び今来たルートへ突っ込むことにした。


 ◇


 少しずつルートを変えながら縦回転や横回転をしつつ、屋根上の賊たちに着実にダメージを与えていった。


 一度突撃を終えると、間髪入れずにすぐ反転して再度行っていたってのもあって、賊たちが態勢を整える余裕を与えなかったからってのもあるが、突撃からの尻尾アタックは想像以上に上手くいっていた。


 だが、どうやら最初の混乱から立ち直ったようで、賊たちも反撃に動き出した。


「ほっ! …………ぉわっ!?!?」


 何度目かの突撃を敢行し、正に攻撃が当たりそうとなったその瞬間、俺の尻尾の範囲外にいる1人が魔法を放って来た。


 何系統かはわからなかったが、大した威力じゃないし、当たったところで俺の風がちゃんと弾けるはずだが、それでも慌てて突撃を中断して回避に動いてしまった。


 どうやらこいつらは、下の連中に比べるとそこまで魔法が得意じゃ無い様で、しっかりと魔力を溜めなければ威力のある魔法は使えないようだが、いい加減慣れてきたかな?

 見ると他にも魔力を溜めている者がいる。


 こうなってくると、この戦法は使えないが……今までにしっかりダメージを与えることが出来ているし、もう十分だろう。

 賊側も動きを変えて来るだろうが、俺もそろそろ次に移ろう!

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