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【浮き玉】を加速させて、風の防御力に物を言わせて突っ込み続ける事、10分ほど。
【緋蜂の針】を発動した右足を前方に突き出したり、あるいはそのまま後ろに下げていたり、あるいは残った左足で【浮き玉】に立ち上がって、リーチを確保した体勢だったり、俺は連中の隙を探して色々試していたんだが……。
今のままでは、どうにも切り崩せそうにない。
もちろん、俺だってやられるような事は無いんだが、互いに決め手を欠いてしまっている。
いくらでも時間をかけていいのなら、俺は疲労とは無縁だし、相手がへばるまで続けるってのも有りなんだろうが……流石に今の状況でそれは難しいだろう。
「ふぅ」
何度目かの突撃が不発に終わった俺は、屋根の縁近くに戻って来て一息ついた。
チラッと下の様子を見てみると、動いている賊連中の数が数人減っているのが分かった。
オーギュストがセリアーナの護衛のために戦線から離れてはいるが、中々順調らしいな。
リーゼルたちの方は、屋根上の賊を引き付ける役がいないからか、こちらよりはペースが遅いけれど……それでも被害はゼロだし、上手く戦っているんだろう。
とりあえず、俺は目の前の4人に集中してよさそうだ。
さて、その肝心な4人はと言うと……。
「しぶといな。どうする、セリアーナを先にやるか?」
「……いや、先にセラだ。コイツを放置するのは危険すぎるだろう」
ふむふむ?
「お前たちも下の状況は気付いているだろう? 俺たちの援護が無いとセリアーナどころじゃない」
「時間を稼ぐだけでも意味はあるが……確実とは言えないしな。向こうの連中も攻めあぐねている様だし、俺たち次第だ」
「そうだな……。街の兵も動くかもしれないし、さっさとやってしまおう」
……ほぅほぅ?
【祈り】で少しだが強化された俺の聴覚を甘く見ているのか、声を潜めてはいるが、何やら意味深な会話を繰り広げている。
とりあえず、こいつらの狙いはセリアーナで間違い無いようだが、それよりも……だ。
時間を稼ぐだけでも意味があるとか言っているし、やはり増援でも待っているんだろうか?
王都からの道中では、リセリア家の問題にするためにも他所の兵をあてにする事は出来なかったんだが、屋敷での一件を考えたら、この街の問題って事と絡めて大いに街の兵もあてにしてよさそうな気はする。
するが……時間を稼いだ方が良いのならそう言われるし、それを言われなかったって事は、やっぱりさっさと片付けた方が良いって事だろうな。
相手もいい具合に俺の力を低く見てくれているようだし、そろそろ一気に決めてやろう!
◇
今の俺が身に着けている恩恵品は、【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【琥珀の剣】【ダンレムの糸】【蛇の尾】【紫の羽】【猿の腕】……いっぱいだ。
ともあれ、【ダンレムの糸】と【紫の羽】はこの場で使うには少々問題があるし、除外するとして……【琥珀の剣】もこの場では向いていないだろう。
なら、尻尾と腕だな。
よし!
「ふっ!」
方針を決めると、俺は4人の真ん中目がけて突っ込むことにした。
「来たぞ!」
「また端から……違うっ! 突っ込んでくるぞ!」
俺はこれまで4人のうちの端にいるどちらかを狙って突っ込んで、そして、賊が構えた武器に【風の衣】が触れる前に離脱をする……そんな行動を繰り返していた。
だからこそ、今回もそう動くと思っていたんろうが、イレギュラーな俺の動きに少々動きに乱れが生じていた。
何となくそんな気はしていたが、実際にやり合ってわかった。
こいつらは結構腕が立つんだよ。
恐らく、無理矢理仕掛けても普通に対処されていそうだし、倒すにはよほどうまくやる必要があったんだが、中々そう上手くはいかず、不意打ちで倒した最初の1人目以降はどうにも出来ずに、ズルズル時間を使ってしまっていた。
だが、それも一先ずここまで。
「せーのっ! ……よいしょ!!」
俺は4人の真ん中に突っ込んだところで、【浮き玉】を独楽のように回転させ始めた。
「なっ!?」
驚き声を上げる賊たち。
そりゃー、目の前で急にこんな事をしだしたら驚くよな。
でも、これで終わりじゃないぞ?
ここからだ!
回転の勢いはそのままで、俺は【蛇の尾】を発動した。
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グルングルン高速回転をしながら、【蛇の尾】を通常サイズではなくて、ミニサイズで発動する。
チェーンベルトの代わりに長い尻尾が生えたが、遠心力で振り回されないように尻尾を発動してすぐに腰に巻き付けた。
そして、そのままの状態でさらに回転速度を上げていく。
辺りは暗いし、賊たちは俺に尻尾が生えたことに気付けていないだろう。
「何をする気だ……?」
「わからん。だが、仕掛けるなら今だろう」
手を出せる位置に止まっている俺に、賊の一人が攻撃を仕掛けようとして来た。
うむ。
いきなり自分たちの中に突っ込んで来たかと思えば、グルグル回転しているし珍妙ではあるが、隙だらけなのは間違いないもんな。
今のうちに攻撃してみようっていう、その判断は間違っちゃーいないし、決断が早いのも本来なら悪いことじゃない。
しかし、こちら側から接近していこうと思っていたんだが……これは好都合だ。
「…………っ!?」
男の手にした槍が、【風の衣】に触れそうになる寸前で尻尾を元のサイズに戻し、さらに回転の勢いをそのままに、思い切り尻尾を振り抜いた。
「うおおぉおっ!?!?」
叫び声と共に金属に硬い物を叩きつけたような音が辺りに響いた。
唐突な尻尾の一撃にもかかわらず、槍で受けとめて直撃を避けているあたり、やっぱりこいつらは腕がいい。
だが、流石にノーダメージとはいかなかったようで、転げはしないものの、槍を落として大きくバランスを崩している。
「なんだっ!?」
一撃をお見舞いした後は、尻尾はすぐにミニサイズに戻したから、他の3人は何が起きたのか分かっていないようだ。
何やら驚いたような声を上げているが、とりあえずそっちは無視して……!
「たっ!」
目の前で無防備になっている男に蹴りをお見舞いした。
「げふっ!?」っと、汚い呻き声を上げて屋根の上を転がっていくが、先の男の事を覚えていたのか、転がりつつも何とか屋根を手で掴むようにして、屋根上に止まっている。
「っ!? 早く立て!」
賊の一人がそう言いながら慌てて助けに行こうとするが……俺の方が速い!
蹴りを当てる箇所なんか意識せずに、とりあえず屋根の上から落とす事を優先して、半ば体当たりのようにもがく男目掛けて突っ込んだ。
男は一瞬だけ粘ろうとしたが、結局俺の風に押し負けて屋根から下へと転がり落ちていく。
「うっ!? ……ああぁぁぁ……」
一緒に屋根から飛び出た俺を掴もうとでもしているのか、こちらに向かって手を伸ばしているが、それもまた風に弾かれて逆に体勢を崩す結果になった。
この倉庫は3階近い高さがあるし、いくら武装していたからって落ちたらただじゃ済まないのに、俺の蹴りに加えて変な体勢での落下のダメージまで加わったら……。
「落としたよ! そいつもよろしく!」
流石に死んだんじゃないか?
って気がしなくもないが、一応下の連中に落としたことを伝えると、再び屋根の上へと戻り、残りの3人と対峙する。
どうやら、ここに来てようやくマジになったようで、先程までのさっさと倒してしまおうという、どこか余裕が感じられた雰囲気はすっかり無くなっていた。
もちろん、2人倒して3人に数を減らしたからって、対人戦闘の経験がほとんどない俺が余裕を持っていいわけないんだが……。
「フフフ……」
それでも、ついつい笑みが零れてしまった。
◇
「お前……セラ!」
先程までは俺がいくら話しかけても無視していたのに、今度は向こうから俺に向かって声をかけてきた。
声の主は真ん中に立つ男で、そいつ以外の2人はジリジリと少しずつ横に広がろうとしている。
先程の戦闘では、恐らく何が起きたのかは見えていないだろうが、それでも俺が何かリーチの広い武器を使ったと気付いたんだろうな。
一纏めに攻撃をされないように、俺から間合いを取っていた。
それなら、この声掛けは俺の注意を自分に引き付けるためなのかな?
さて、どうしようか。
別に無視してもいいんだが、乗ってやってもいい。
俺の目だけなら気付けなかったが、今はヘビたちの目も発動しているし、3人の動きは丸見えだ。
右の男が、コソコソ背中に手をまわして、何かの道具を取り出そうとするところまでバッチリと……!
何をしかけようとしているのかはわからないが、それを防いでからカウンターで攻撃を仕掛けようかな?
「なにー?」
方針を決めた俺は、気付いていることを悟られないように、男に向かって返事をした。
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