492
1056
「セラだ! 風で撃ち落とせっ!」
俺の接近に気付くと、賊の誰かがそんな声を上げた。
俺の名前はともかく、風が一応有効であるって情報を持っているし、これは確かに情報を受け取っているようだ。
なんといっても、俺自身が風の魔法を食らったらああなるって、今回の事があって初めて知ったんだもんな。
ともあれ、俺めがけて飛んでくる魔法を躱しながら、前にいる兵たちに合流した。
「セラ様!」
一人が後ろに現れた俺に向かって、横目で見ながら声を上げた。
こっちを担当しているのは、屋敷の警備をしていた兵から連れてきた一部の兵たちだ。
向こうで戦っているリーゼルの方に、信頼出来る戦力であるウチの兵を固めている。
オーギュストは、自分が指揮を執れば問題無く戦えると考えた上での編成なんだろうが……俺に合わせるのはちょっと難しそうだよな。
「オレは適当に動くから、皆はオーギュスト団長の指示に従って!」
「わかりました。倉庫の上にも弓を使う者がいます。残りの矢がどれほどあるかはわかりませんが、お気を付けください」
「ありがと!」
魔法は俺狙いだし、彼等が防げるかどうかわかんないもんな。
彼の言葉に一言返すと、その場を急いで離れることにした。
「……おっと」
離れる際に、賊連中に背を向けたことが隙にでも思えたのか、魔法と矢が同時に飛んできた。
もっとも、ヘビくんたちにしっかり背後を見張らせているし、俺に隙なんて無い。
どちらも【風の衣】に触れすらさせずに躱し切る事が出来た。
ただ……。
「魔法はともかく……矢は危ないな。場所に気を付けないと」
魔法は下から撃たれていたのもあって、どれくらい上までかはわからないが上空に飛んで行って、地上に影響はなかったが、魔法と違って矢は残るし落下もするからな。
躱しざまに矢の行方を目で追ってみると、幸い飛んで行った先には何も無かったが、もう少しでどこぞの船に当たってしまいそうだった。
流れ矢程度で船体に穴が空くとは思えないが、こちらに近づいてはこないが、警備の兵なんかも港にはいるし、位置取りはちょっと考えないと危ないよな。
「……倉庫の屋根にいるのから先にやるか」
色々周囲の様子に気をつかいながらってのは面倒だし、俺には難しそうだ。
まずは、弓を使ってくる屋根の方から先にやってしまおう。
「よしっ!」
俺は気合いを入れると、高度を合わせて一気に加速を開始した。
◇
「来たぞ!」
「気を付けろ! ヤツには弓だけじゃ効果が無い!」
俺が突っ込んでくることが分かったようで、屋根上の賊たちが慌てて武器を構えている。
上にいるのは……5人か?
精々2人か3人程度と思っていたんだが、隠れていたのかもしれない。
聞こえてくる声から察するに、連中は俺には何かしらの守りがある事は分かっているようだが、それが何かっていう正確な情報は持っていないようだ。
風の魔法には弱いが、矢を弾く何かを使える……その程度なのかな?
槍や剣で迎え撃とうとしている。
それなら!
「せーーのっ!」
俺は回避で無駄な遠回りなんかをせずに、一直線に突っ込んで行った。
もちろん、ヘビたちに魔力の流れをしっかり追わせていて、魔法を使うようならいつでも離脱出来るようにはしているが、飛んでくる矢は加護に任せて無視だ!
「来るぞ! 合わせろっ!!」
「おう!」
矢を無視して突っ込んでくる俺を迎え撃つために、槍を構えた男が号令をかけると、他の男たちは即座に応じる。
弓を持っていた者たちも既に剣に持ち替えているし、タイミングを合わせて一斉攻撃でもしてくるんだろう。
その攻撃がどれほどの威力があるかはわからないが、【風の衣】を破れるかどうかはわからない。
だが、もしもたなかったら、その時は俺がグロいことになりかねないし……かといってそれを避けるために退避したりしたら、それが効果的だと思われてしまう。
や……別にそれは間違っていないんだが……そうなると俺が賊たちの動きに合わせるっていう、後手に回る事になりかねないからな。
さっさとケリをつけるためにも、ここは俺が主導権を握っておかないと。
そのためには……攻撃だ!
「うおぉおおっ!?」
俺は突き出してきた槍が風に触れる前に軌道をずらして、体を掠めるように横を抜けていった。
そして、風で体勢を崩した男めがけて……。
「はっ!」
【緋蜂の針】の一撃を放った。
1057
俺の蹴りを食らった男は、叫び声を上げながら吹き飛んで、そのまま屋根から落ちて行った。
俺も蹴りの勢いそのままに屋根から飛び出してしまったが、当然落っこちたりはせずに、その場で静止している。
そのついでに、落っこちた男の様子を見ると、倒れて動かないままでいるが……見た感じどうやら死んではいないようだな。
【緋蜂の針】の威力は間違いないはずなんだが、ここ何戦か人体に食らわせているが、中々どうして……半端な結果に終わっている。
別に殺したいわけじゃないんだが、相手のレベルがある程度以上になると、ちゃんと自己の強化も忘れていないし、一発程度なら耐えられるんだろうな。
何発も食らわせたらどうなるかはわからないが、わざわざ追撃に行く前に俺以外が毎度仕留めているし、それを確かめる機会はここまで無かった。
それじゃあ、今回はどうかと言うと……だ。
「息はあるぞ! どうする?」
「治療する暇はない。放っておけ」
と、落下した先にいた賊の地上組は、介抱したりせずに放置を決め込んでいる。
外の賊もそうだったが、中々ドライな関係だ。
一緒にお貴族様を襲撃するっていう仲なのにな。
まぁ、いい。
とりあえず、蹴りでしっかりダメージは入るし、下に落ちたらそこで離脱する事になりそうだ。
これでいこう!
下から魔法が飛んでくる前に、さっさとまた屋根の上に戻ると、屋根上の賊たちは先程同様に武器を構えているが……その位置が変わっていた。
「来たぞ……話とは違う。気を付けろ」
「ああ。守りだけじゃ無いようだ。一箇所に固まるなよ」
どうやら、俺の風がただ単に飛び道具を弾くだけの防御用のものではないと気付いたようだ。
纏めて轢かれないように、4人が距離を取ってバラバラに立っている。
さっきの男は上手く不意を突く事で楽に倒す事が出来たが、こういう風に真面目に構えられるとやり辛いんだよな。
こいつらの腕がどれくらいかはわからないが、今までの反応から屋敷で戦った連中とそこまで差はないはずだ……と、思いたい。
後は、どれくらいモチベーションがあるかだな。
「ねー」
屋敷の時同様に、試しに会話を試みることにした。
屋敷の時は乗って来たが、こいつらはどうかな?
乗って来るようなら、無理矢理会話で隙を作ったり出来るが……。
「……ねーってば」
乗って来ないな。
それどころか、さらに警戒してなのか、ギリギリ自分たちだけで聞こえるくらいの声量で話している。
これ以上は無理か。
ってことは、俺を侮ったりしていない腕の立つ4人を相手にするのか……面倒だな。
面倒ではあるが……。
「しゃーない……やるか!」
こいつらを後回しにするのも厄介だし、屋根の上にいる連中を相手に出来るのは俺くらいだ。
一気に片付けて、下と合流しよう。
◇
さてさて。
俺も真面目に戦おうと気合いを入れたはいいが……どうしたものか。
ど真ん中に突っ込んでもすぐに囲まれるだろうし、ここは端から切り崩すのがいいかな?
「ふっ!」
とりあえずお試しって事で、蹴りの姿勢を取らずに、右端の剣を手にした男目掛けて、突っ込むことにした。
「来たぞ!」
「ああっ! 囲め」
突っ込んでくる俺を見て、狙いが端の男だとわかったのか、他の3人が即座に俺を包囲するような動きを見せた。
「ぬぅ……やるじゃないか」
お試しだから速度は抑え目だし、蹴りの構えもとっていないから相手も思い切った動きが出来ているのかもしれないが……碌に明かりも無くて足元もよく見えないくらいなのに、中々いい動きをするじゃないか。
仕切り直しにしようと一旦元の場所まで下がって、ついでに連中を眺めながら感心していると、俺が攻めあぐねているとでも思ったのか、先程までの抑えた声とは違った、下にも聞こえるくらいの大きな声で、互いに声を掛け合っている。
「思った通りだ。あいつは飛び道具しか弾けないぞ!」
「ああ。あの足の恩恵品は厄介だが、囲めば大した事は無い。逃げられる前にしとめるぞ!」
「大丈夫だ。あの速度なら俺の槍が先に届く」
うむ……俺自身が大したこと無いのは確かだが……これは相当甘く見られているような気がするな。
【風の衣】はそんなチャチな代物じゃないし、【浮き玉】の速度だってそうだ。
まぁ、勘違いされているのならそれはそれで都合がいい。
その程度だと思わせて、もう少し相手の力を探らせてもらうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます