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 俺はヒゲを倒した後、後ろで倒れたまま幹の下敷きになっている長髪もいるし、一先ずその場を離れずに、向こうの戦闘が終了するのを待つことにした。

 二人とも意識は無いとは思うが、もしそのフリをしているんだとしたら、俺がこの場を離れた隙に屋敷に侵入されかねない。

 ここをキープするのが正解だな!


「それにしても……向こうは随分一方的だね……」


 向こうの敵の数は残り三人にまで減っている。


 賊の方から向かってくる上に人数はこちらの方が多い事を考えたら、少々ペースが遅い気もするが、もっと本気で一気に片付けるつもりがあったのなら、とっくに片付けられているだろうし、その分こちら側の犠牲は全く見えない。

 ……俺と違って屋敷も庭も破壊していないしな。


 随分と余裕のある戦い方ではあるが……ふむ。


「団長ー! こっちは終わったよー!」


 とりあえず、こちら側が片付いた報告をしようと、向こう側に向かって大声で伝えることにした。

 俺がこちらに回ってきたのは、遠距離組の相手をして、オーギュストたちが安全に戦えるようにってのが目的なんだ。


 オーギュストの戦い方は、余裕を持った戦い方なのは確かだが、他所の兵を指揮しているし、余計な被害を出さないためってのもあるだろう。

 だが、遠距離攻撃の心配も無くなったし、これで一気に決められるだろう。


「お? 聞こえたみたいだね」


 戦闘中ではあるが俺の声が届いたようで、オーギュストはこちらに向かって剣を振っている。

 そして、その剣を振り下ろすと、一気に前へ出て賊に攻撃を開始した。


 賊も一人一人は腕はいいようだが、オーギュストほどじゃないし、何より多勢に無勢。

 あっという間に鎮圧されてしまった。

 それに、ただ倒しただけじゃない。


「全員生きているし……余裕だね」


 俺が屋敷から出てきた時に既に倒していた遠距離組の一人は、手加減するような余裕が無かったのか殺していたが、見れば全員とりあえず息はあるようだ。


 どう始末をつけるのかはわからないが……この街の牢獄は今日一日で一杯になっちゃうかもな!


 兵たちが賊を捕縛する様子を見ながらそんな事を考えていると、数人がこちらに向かって駆け寄ってきて、俺の前に整列する。

 そして、隊長らしき一人が口を開いた。


「セラ様!」


「やー、お疲れー。こっちの処理かな?」


「はい。お怪我は有りませんか?」


「無いよー。屋敷とか庭を結構荒らしちゃったけど……大丈夫かな?」


「ああ……それは……」


 俺の言葉に返事を詰まらせる兵たち。

 この屋敷は彼等の主の物だし、迂闊に返事は出来ないよな。


 彼等を困らせるのは本意じゃないし、話を先に進めるか。


「まぁ、いいや。あそこの二人は一応意識は無いはずだけど、まだ生きてるから気を付けてね」


「はっ。おい」


 彼はホッとした様子で部下に指示を始めた。

 ヒゲはともかく、長髪の方は木の幹をどかさないといけないし、大変そうだな……。


「セラ殿」


「お? 団長、お疲れ様。そっちは終了?」


「ああ。弓と魔法の連携に少々手間取っていたように見えたが、怪我は無いようだな」


「……戦ったり指揮したりしながらなのに、器用だね」


 暗い中、距離もあるのによくこちらの戦況を把握出来ていたな。


 感心していると、オーギュストは肩を竦めて笑った。


「元よりあの二人には注意を払っていたからな……。だが、上手くやってくれた。お陰で預かった兵に犠牲を出さずに済んだよ」


 そう言って、後ろを振り向いた。


 つられて俺もそちらに目をやると、兵たちが忙しそうに、賊の捕縛や破壊された馬車の撤去に勤しんでいる。


「あれらの片づけをして、裏に置いた馬車を持って来て……出発にはまだもう少しかかるだろうな。セラ殿は中に戻ってくれて構わないぞ」


「ん? そお? んじゃー……お先に失礼しようかな」


 賊たちの引き渡しなんかの面倒な手続きは代官に任せるとしても、荷物も積みこんだりしないといけないし、多分早くても30分くらいはかかるだろう。

 どうせ俺がここにいてもやる事は無いだろうし、中に戻ってセリアーナたちに今の戦闘の説明何かをして時間を潰すかな。


 念のため周囲を見渡してみたが……特に怪しい気配は感じられないし、もうこれで打ち止めだよな?

 セリアーナも、そんな感じの事を言っていたし……。


 俺は「うむ」と小さく頷くと、オーギュストに挨拶をしてその場を離れることにした。


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 あちこち壊れた玄関から屋敷の中に入ると、まずは相変わらず青ざめた顔をしている代官が目に入った。

 玄関ホールの奥に一塊になっている使用人たちも、慣れていないのか外の戦闘に緊張しているが……それでも、代官ほどじゃないな。


 自分が暮らす屋敷を襲撃された上に、あちらこちら壊されたんだ。

 荒事に慣れていなかったら、頭がいっぱいになっても仕方が無いよな。


 とはいえ、後処理は彼に頑張ってもらわないといけないし、フリーズしたままでなくてしっかりして欲しいもんだ。


 ここは一つ発破でもかけようかな……と思い、彼の方へ行こうとしたのだが、その前にウチの兵たちがやって来た。


「被害を出すことなく片付いたようだな。副長。……団長はまだ戻ってこられないのか?」


 彼等も中からではあるが、外の様子を窺っていたようで、無事こちら側が圧勝したことを把握していた。

 んで、戦闘が終わったのにオーギュストが戻ってこないのを気にしているのか、俺に訊ねてきた。


「うん。団長は倒した賊を捕縛したり、荒れた庭の片付けの指揮をしてるよ」


「ああ……まあ、それも必要か」


 戦闘はもう終わったし、別に片付けの指揮までは執らずにオーギュストも戻って来てもいいんだが、俺たちの出発に必要なことから優先して進めるためにも、彼が指揮を執った方がいいもんな。


 ウチの兵たちと一緒に、うむうむと頷きながら説明交じりの話をしていたが、ふと彼等の後ろに見慣れた姿が上から降りて来るのが目に入った。


 そして、1階まで下りたセリアーナは、【小玉】の高さを安定させると、俺に向かって軽く手招きをした。


「セラ」


「セリア様……下りてきたの?」


 二階に目をやれば、リーゼルも階段に向かって歩いているし、彼も下りて来るんだろう。

 呆れつつも、俺は兵たちに一声かけて、セリアーナのもとに向かった。


「ご苦労様。思ったよりも早く片付いたわね」


「うん? まぁ……そうなのかな? そこそこ手間取った気がするんだけどな……」


 俺が外で戦っていたのは20分足らずってところかな。

 セリアーナはどれくらいを想像して、俺に行ってこいっていったんだろうな?


 小さいことではあるが、少々疑問に思い首を傾げていると、階段から降りてきたリーゼルが声をかけてきた。


「セラ君、簡単にでいいから戦闘の経過を教えてくれるかな?」


「お? はいはい。えーと……」


 セリアーナとリーゼルだけじゃなくて、代官もこちらにやって来ている事に気付いて、言葉に詰まってしまった。


 一応二人には説明するつもりだったから、どんな事を話すか頭の中でその内容を纏めていたんだが、代官も一緒か。

 そんなに大したことは無いとは思うが……まぁ、それを判断するのは彼等だし、俺が気にしなくていいかな。


 俺は気を取り直して、先程俺が見てきた外の様子を話すことにした。


 ◇


 外での戦闘は、近距離組と遠距離組に分かれていた賊たちを、オーギュスト率いる兵たちが迎え撃つ構図だったが、後から参加した俺が遠距離組を受け持つことで、同じくこちら側もそれぞれ分かれて戦うことになった。


 遠距離組は元々は三人だったが、俺が合流した時にはすでに一人倒されていて、残りの二人と戦うことになったが、相手の弓と魔法の連携に少々手間取りつつも無事生かしたまま撃破。


 んで、遠距離からの妨害の心配がなくなった近距離組は、それでも慎重に戦う事で、被害を出すことなく賊を圧倒して、俺が遠距離組を倒すなり一気に攻勢に転じて、これまた圧勝。

 両方とも大半を生かして倒す事が出来たため、その賊は捕縛している。


 ここまでは三人とも静かに聞いていたんだが……俺が回避した魔法が屋敷の壁に直撃したり、俺の蹴りが敷地を囲う壁をぶち破ったり……庭の木を何本も折ったりしたことを伝えると、代官は一声「うっ……」と呻くと、さらに顔を蒼白にして額から滝のように汗を流して黙ってしまった。


 そんな代官を他所に、リーゼルは一度セリアーナと何やら言葉を交わすと、今度は俺に向かって口を開いた。


「なるほど……。セラ君、君から見て相手の腕はどうだった?」


「相手の腕……? 団長たちが戦っていた方はちょっとわからないけれど、俺が戦っていた二人は、普通にいい腕してたと思うよ? 上手く倒せたのは運がよかったってのもあるし、それ抜きだったらもう少し時間がかかっていたんじゃないかな? ……あ」


 そこまで言って、セリアーナの「思ったより早く……」って言葉が、その事を指しているのかな……と、思い当たった。

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