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「護衛のセラだっ!」
「ならセリアーナが一人のはずだ。一気に詰めろ! 一人でも抜けたなら……!」
突っ込んできた俺を見て、それまで黙って兵たちと対峙していた賊たちが急に騒ぎ始めた。
どうやらこの連中も、俺はセリアーナの護衛って認識らしく、その俺がセリアーナから離れたことで、セリアーナが一人になったと考えたんだろう。
オーギュストと、この屋敷の兵は今は外に出ているし、中にいるのはリーゼルとウチの兵たち少数だけだ。
実際はセリアーナはリーゼルが守っているが、普通に考えたら、セリアーナを狙うなら今がチャンスではある。
だが、指揮をしているオーギュストもそれくらい予測しているだろう。
大方、突っ込んできてくれて敵を倒しやすくなったとか考えてるんじゃないかな?
チラッと振り向くと、後ろでは既に戦闘が始まっていた。
オーギュストも前に出て来て、突破を図る賊たちを受け止めているし、分かれていたこちらの兵たちも集まってきている。
チラッと見ただけでも、こちら側の方が態勢が整っているし、勝ちはもう確定だろう。
しかし、これはいかんな。
俺が奥の二人を倒してから、援護射撃の心配が無くなったオーギュストたちが突っ込むって予定だったのに、このままじゃ先に倒されかねない。
要は倒せさえすればそれでいいんだが、折角ヤって来いと送り出されたし、しっかりと役割は果たしたいしな。
気合いを新たに前を向くと、遠距離組は二人とも揃って弓を構えている。
二人ともそこまで距離は離れていないが、一人は木の陰に身を隠しながらで、もう一人は離脱しやすいように壁のすぐ側からだ。
二人とも狙いは俺のようだが、魔法を使ってくる気配は無いな。
前に出てきた兵たちを狙われたり、魔法で妨害をされたりしたらちょっと面倒ではあったけれど、これならいける!
「よし……。ほっ!」
この暗い中だと目立つから使用していなかった【祈り】を発動させると、【緋蜂の針】を発動しながら【浮き玉】を加速させた。
「どっちからにするか……おっと!?」
横から飛んできた矢が風に弾かれた。
木の陰に隠れた方だ。
壁側の方は、まだ構えたままで射って来ていない。
どちらを倒すか決めあぐねつつも、とりあえず距離を詰めようと突っ込んでいたんだが……こっちでいいか!
先に狙うのは壁側に決めたぞ!
「ちっ……!?」
男は正面から突っ込んでくる俺に一瞬ひるみつつも、矢を射ってきた。
折角構えて狙いをつけているから、きっと魔法じゃなくて弓をチョイスすると思ったが……狙い通りだな。
その矢は真っ直ぐ俺の額目掛けて飛んできたが、風を貫くほどの威力は無く、俺の風に触れると「ベキッ」と音を立てながら地面に落ちていった。
男は二本目の矢を腰から引き抜いて弓につがえようとしたが、それよりも俺が接近する方が速い。
足を前に突き出すと、そこからさらにもうひと加速して蹴りを放った。
「せーのっ! ……あっ!?」
蹴りを放ちはしたんだが、男は地面を転がるようにして回避した。
今のは結構不意打ちに近い勢いだったんだが、よく躱したもんだ。
それも、ちゃんと弓を捨てずに手に持ったままだ。
中々やるじゃないか……。
だが、男は蹴りを回避こそしたが、風までは躱せなかったようだ。
回避する際に接触したらしく、「ぐえっ!?」っと、潰されたような声を上げていた。
どうやらしっかりダメージを与えられているし、確実に倒すためにさらなる追撃を……と、男の状態を確認するために振り返ろうと思ったんだが……。
「おわっとっ……!?」
もともと男は壁際にいたから当たり前ではあるが、すぐ目の前にもう壁が迫っていて、慌てて上に逃れようとしたが、回避が間に合わずに壁の上部を蹴り抜いてしまった。
「えっと……いや、少しは壊していいって言ってたもんな! これで良しだ!」
ボコッと半円状に大きく穴が開いた壁を見て、「やべぇ……」と思いはしたが、緊急事態だし、多少は壊していいと言っていたし、カベを全部壊しつくしたとかならともかく、これくらいなら大目に見てくれるだろう。
そいじゃー、改めて追撃だ!
振り向くと、木の陰に潜んでいる男は相変わらず俺に矢を向けているし、地面に転がっていた男も立ち上がって弓を構えている。
これで、オーギュストたちの方を狙っていたり背を向けて逃げたりしていたら、追いかけて背中を蹴り抜いてやったんだが……思った通り、中々気合いが入っている連中だ!
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改めて向き合ったことで、遠距離組の二人は気合いが入っているのはよくわかった。
こいつらはもし逃がすと陸地を離れるまでしつこそうだし、向こうの近接組より先に倒したいとか余計な事を考えていたが、それ抜きにしても早めにかつ確実に、ここで倒しておきたいな。
……よし!
「ふっ!」
俺は気合いを入れ直すと、今さっき蹴りを躱されてしまった男めがけて、再び突進した。
「……おぉぅ」
男は正面から突っ込んでくる俺めがけて、先程と同様に矢を放って来た。
一度効かないのを見せているのに、またしてもだ。
一応先程よりは、狙いが俺の顔に近くなっているが……所詮は同じ弓で射っているし、【風の衣】を破るほどじゃない。
顔目掛けて飛んできた矢に少々驚いてしまったが、【風の衣】の性能に俺のメンタルは関係無いし、問題無く弾き落とした。
男はその場で足を止めて二本目の矢をつがえようとしているが、この距離なら俺が先に届くだろう。
今度こそ蹴りを決めてやろうと、再び蹴りの構えを取ったんだが……ヘビくんたちが何かに気付いた様で、横へと引っ張ってきた。
何事かと、そちらに一瞬だけ視線をやったのだが……。
「んん? って、おおおっ!?」
飛んできた魔法に気付き、「これはヤバイ!」と、慌てて回避行動をとった。
幸い回避が間に合って、【風の衣】も引っかけることなく済んだ。
ただ、弾いたりするのではなく、ただただ回避しただけだったので、当然その魔法はそのまま真っ直ぐすっ飛んで行って……屋敷の壁に直撃した。
「あっ……」
どうやらその魔法は火系統じゃない様で、着弾点が燃えたりはしなかったが、開幕で馬車を吹っ飛ばした魔法と同じ類の物かもしれない。
結構な威力があったようで、屋敷の壁を大きくへこませて、その周囲の窓もベキベキに割り砕いていた。
今のが直撃していたら【風の衣】も破られていたかもしれないし、破られなかったとしても、弾き飛ばされていたかもしれないな。
危なかった……。
「くそっ……躱されたか」
「ああ。だが、加護で受けたりせずに回避を選んだって事は、今のは通じるはずだ」
「なら、当たるまで撃つぞ!」
男たちは互いに距離を保ちながらデカい声で会話をしていて、まだまだやる気みたいだな。
「さて……どうしようか」
今度は俺が屋敷の壁を背にしながら、どう動こうかを考える。
あの魔法の速度がMaxなのかどうかはわからないが、適当に距離を取って回避に専念したら、あの程度の魔法ならまず躱し続けることが可能だろう。
たとえ、それが矢を交えたり、2発同時に撃って来たとしてもだ。
だが……。
「おわっと!?」
今度は2発同時に飛んできた。
1発は顔を、もう1発は胴体目掛けて飛んできている。
俺はその場で滞空していただけだし問題無く躱せたんだが、背後に響く爆発音と崩落音に振り返ると、屋敷の壁に大人が一人余裕で通れるくらいのサイズの穴が空いていた。
「ぬぅ……」
そして、魔法に続いて飛んできた矢を【風の衣】が弾き落すのを横目に、俺はどうしたもんかと再度考えこんだ。
いくら多少は壊していいと言われていても、積極的に屋敷を壊す気は無いし、そもそも普通に考えて他人の屋敷を壊しちゃまずいよな。
幸い連発は無理な様だが、それでもこのまま魔法を好きに使わせていたら、この程度じゃ済まないだろうし、さっさとヤってしまいたいんだが、この二人が地味に連携をしてくるんだよな。
今も、二人してこそこそ俺から距離を取るように後退していた。
そして、壁の近くまで下がると、生えている木に体を隠すように、その裏に入っていく。
これは身を隠すっていうよりは、俺の蹴りを直接受けないように、俺との間に何かを挟みたいんだろうな。
視線が二人とも【浮き玉】と【緋蜂の針】に向いている。
「さて……どうしたもんか。もういっそこのまま団長たちの手が空くのを待ってもいいんだろうけれど……」
俺が一人で片付けなくても、このまま牽制し続けて、オーギュストたちの助けを待つのも有りな気もしてきた。
俺が二人から視線を離さなければ、今の様に、自分たちにも隙が出来る魔法は撃って来なさそうだし、まぁ……屋敷への被害は増えるかもしれないし、向こうの兵たちにも被害が出るかもしれないが、少なくともこの二人が屋敷の中に侵入する事は防げるだろう。
うぬぬ……。
「…………いや。無しだな!」
ここで迷っているのも時間が勿体ないし、たかが木の1本や2本間に挟んだところで、俺の蹴りを防げると思うなよ!
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