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街中をさらに進んで行き、代官の屋敷に到着した俺たちは、屋敷の玄関前に立つ代官に丁寧に出迎えられた。
俺たちの到着を聞いて、そこで待っていたんだろう。
馬車を降りると、そのまま俺とセリアーナとリーゼル、オーギュストが貴賓室らしき部屋へと案内された。
護衛の兵たちは、事情聴取と捕らえた賊の護送も兼ねて、この街の騎士団の詰め所へと移動している。
外には護衛の兵がちゃんといるが、部屋には俺たちと代官の5人だ。
そして、部屋の真ん中から外れた壁際に応接用のスペースが設けられていて、話はそこで行うことになった。
ちなみに、俺とセリアーナはそこからさらに離れた席についている。
引き離されているわけじゃないんだが……どちらかと言うと、女性を関わらせないための代官側の配慮かな?
一応セリアーナこそが当事者なんだけどな……と思いつつ、俺はセリアーナの後ろに浮きながら、彼等の話を見守っている。
「本日の予定を聞いていたにもかかわらず、閣下をお呼びたてして申し訳ありません」
俺たちが席に着くと、代官は改めて丁寧に頭を下げてきた。
出迎えもそうだったが、リーゼルに対して敬意は持っているようだな。
何かこの感じだと、彼は少なくとも襲撃には関与していなさそうな気配がするが……どうなのかな?
「いや、事情は理解している。道中の事情について詳しいことは詰め所で兵たちが話しているだろうが……こちらでもしておこう。オーギュスト?」
「はっ」
オーギュストはリーゼルに返事をすると、代官に説明を開始した。
王都でのことから始めているあたり、改めて一から説明するつもりらしいな。
そして……リーゼルはそちらの席から離れて、俺たちの方へと移ってきた。
「あれ? 旦那様はこっちに来るの?」
リーゼルは「ああ」と笑って答えると、セリアーナの向かいの席に着いた。
「報告だけなら二人で十分だからね。セリア、どうだった?」
「街に入ってからここに来るまでの間はチラホラ目についたけれど、屋敷内は問題無いわ。良かったわね?」
「そうだね……。どんな理由があったとしても、流石に陛下が任命された代官を僕が無断で処罰するのは、面倒ごとになりかねなかったが、一つ懸念が解消したね」
「それは何よりね」
そう言って二人は笑っていた。
◇
オーギュストと代官の話は、オーギュストが説明をして代官が時折驚く……そんな感じで進行していた。
あくまで漏れ聞こえる話の内容から推測しているだけだが、どうやら代官は本当に賊には関与していないようだ。
王都からここまでの道中にある街や村の代官には、周辺の巡回の強化だったり時間の融通を図ってもらったり、襲撃時に遭遇した際の連携だったり、明日の事にはなるが、死体の処理を任せたりと、協力を仰ぐために事前に説明をしてはいるんだ。
それは俺たちのスケジュールを流すことになるわけだし、もしそのうちの誰かが賊と通じていたら、道中に罠をしかけられたりもする危険もあるが、そこは信頼してのことだろう。
道中で襲撃だったり待ち伏せだったりもあったが、それは賊側が普通に調べたらわかる範囲での事だったし、怪しい感じはしなかったもんな。
だが、それはそれだ。
各街の代官が賊側に付いていないとはいえ、その下の者たちまではどうかはわからない。
実際この街がそうみたいだしな。
んで、その事を代官のおっさんはオーギュストから聞いて随分と驚いていた。
さて、驚くおっさんのことはオーギュストに任せるとして……。
「今外はどんな感じなの?」
街に入った頃からつけている者たちがいたようだったが、屋敷の中に問題が無いのなら、いるとしたら外だよな?
馬車の中で、俺たちを分断させるのが狙い……とか、そんな感じの事を言っていたが、今のところそれは上手くいっているし、どうなってるんだろうか。
「屋敷を遠巻きにしているわね。後、詰所との経路にも今までいなかった者が何人か集まっているわ。実力は大したことないし、動きがあからさま過ぎだもの。金に困った者たちを適当に雇ったのかもしれないわね」
「何人かという事は、数はそこまで多くないのかな?」
「ええ。正門が見える範囲に5人と裏門に1人ね。街にはもう少しいるけれど、距離があるしその連中が参加するかはわからないし、来るとしたら、その6人がメインじゃないかしら?」
「なるほど……。その人数なら屋敷への襲撃は無いだろうし、馬車に乗るタイミングかな?」
「そうでしょうね。まあ、放置して船に攻撃を仕掛けられても面倒だし、ここで決めて欲しいわね」
ウチの兵や護衛の冒険者は残っているが、他の兵は詰め所に行っているし、人数的にはそこまで差はないはずだ。
二人が言うように、来るとしたらここだろうな。
俺は二人の話に頷いていた。
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「なんとっ……!?」
オーギュストと話を続けていた代官は、時折相槌を打ったり意見を述べたりと、何かしら反応を示していたんだが、急にとりわけ大きな反応を示した。
こちらにまではっきりと聞こえてきたくらいだ。
「どうかしたのかな?」
「そろそろ話が終わったのかもしれないね。オーギュスト!」
リーゼルは俺の呟きに答えると、オーギュストに呼び掛けた。
「そろそろ話は終わる頃かな?」
「はっ。これから起きうる件も含めて、説明を終えました」
オーギュストの言葉に、リーゼルは代官に視線を向けるが、彼だけじゃなくて俺たちも一緒に代官のおっさんへと目をやった。
何やら青ざめた表情で額に汗を浮かべている。
自分はその気が無くても、部下が賊に手を貸していたんだとしたら、管理責任が問われかねないし、リーゼルがその気になれば自分の首が飛んでもおかしくないもんな。
「ふむ……。今回の件で、僕が何か咎めるような事は無いし、陛下に要求するような事も無いから、そこは安心してほしい。もちろん、管理を任されている土地で賊の横行を許したという件については、王都でしかるべき処分を受けてもらう事になるけどね」
「はっ。それはもちろんでございます!」
「結構」
代官は、リーゼルの言葉に慌てて答えているが、どこかホッとしたようにも見える。
まぁ、後日何か処分は受けそうだけれど、少なくともこの場で首を刎ねられるような事は無さそうだもんな。
さて、それはそれとして、オーギュストはリーゼルと代官を見ながら口を開いた。
「彼の処遇に関してはここまでにして……次の話に移りたいのですが、お二人ともよろしいでしょうか?」
「ああ。どうだい? セリア」
「ええ。私も構わないわ。時間も無いし、進めて頂戴」
代官にとっては今の話も重要なんだろうが、これからどう動くか……俺たちにとってはそっちの方が大事な事だよな。
そう頷きながらオーギュストを見ていると、彼は代官を席につかせた。
「それでは、今外には我々の監視を行っている者が複数名いて、おそらくその者たちが奥様の命を狙う刺客である……。という状況になっております」
そう言って、オーギュストは説明を始めた。
これがリアーナならセリアーナが直接喋るんだろうが、この場だと代官もいるからな。
セリアーナとリーゼルもその事が分かっているからか、相槌を打ちながらその都度適当にオーギュストに、それとなく情報を提供している。
普段は領地から動く事は無いし、代官とはもう二度と会わないかもしれないが、セリアーナの加護は隠せるなら隠しておいた方が良いもんな。
ともあれ、多少情報の受け渡しが上手くいかずに強引に話を進めたりする点もあったが、迎え撃つためのプランを練る事が出来た。
狙われるとしたら馬車に乗る瞬間だろうし、それなら俺とセリアーナだけ先に乗り込むふりをして、その一撃を凌いで屋敷に退避……。
そして、改めて迎撃って感じだ。
大分ザックリしたプランではあるが、相手の出方待ちだしこれくらいアバウトでいいんだ。
時間がかかればかかるほど、騒ぎが大きくなればなるほど、街の兵の増援も集まって来るはずだ。
話を聞いた感じ、賊に対して融通を利かせる程度の者は、騎士団に何人かいるのかもしれないが、だからと言って襲撃に手を貸すほどドップリなのはいなさそうだしな。
火でも放たれたら面倒だし、屋敷で籠城とかはせずに、ちゃんと前に出て戦いはするが、そこまで急がずにじっくり戦う予定だ。
代官も失態を挽回したいからか、全面協力を申し出てくれたが……彼は比較的安全なこの土地の代官だし、どれくらい激しい戦いを想像しているんだろうか?
……事が終わった時に玄関が無事な姿であるといいな。
◇
一通りの話を終えて、しばらく経った頃。
部屋の扉を叩く音がした。
代官が「入れ」と声をかけると、中に入って来たのはドアの前で待機していた警備の兵だった。
彼は入って来ると、代官の前まで行き用件を伝えた。
「失礼します。旦那様、兵の詰め所から報告が参りました」
護衛の兵たちが、捕らえた賊とかを詰所まで連れて行くついでに、事情の説明とかをしていた件か。
話す事なんてそんなに無さそうではあるが、事が事だけにもう少し時間がかかるかと思ったが、思ったより早かった気がするな。
「ああ、待っていた。すぐにこちらに来るように伝えてこい」
「はい」
そして、兵はすぐに部屋を出て行った。
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