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【緋蜂の針】を発動した右足での蹴りを、相手や不意打ちのタイミングを変えながら何度か繰り返しはしたが、どうにもその度に盾や槍で弾かれたり、近くにいる連中からの妨害もあったりで、中々決めることが出来ない。


「ほっ! ……おっとっ」


 今もまた突っ込んだ際にカウンターを入れられそうになって、慌てて離脱する羽目になった。

【風の衣】があるから、何となく大丈夫そうな気もするんだが、過信は駄目だ。


 蹴りを弾かれているのは、接触の仕方が俺の攻撃を起因にしているからなんだろうが、相手も今なら俺に攻撃が通じると思っているのか、遠慮なく攻撃してくるし……。


 ちゃんと【風の衣】は発動しているし、いざ攻撃を食らうようならちゃんと守ってくれるはずなんだが……こういう事態は考えていなかったから、検証していないんだよな。

 魔物との戦闘ばっかり想定していたからな……頭と武器を使う相手は想定外だ。


 まぁ……それはリアーナに帰還してからの課題ってことにして、今は無理をせずにどう戦うか……だ。


 それに、このままだと、戦場を無駄にうろつくだけの存在になりかねないからな。

 一旦下がって、セリアーナから何かアドバイスでも貰うか。


 ◇


 混戦の中、セリアーナは相手の射線上に入らない少し離れた位置にいた。

 そこから全体を睥睨して、時折魔法で介入をしているが、今のところ積極的に仕掛けるような事は無い。

 その代わり、俺が適当なタイミングで突っ込んで行っているんだが……どうにも上手くないね。


「ただいま!」


「……お帰りなさい。見ていたわ」


 どうやら俺の先程の不意打ちの失敗を見ていたらしい。


 先程の場所からそこそこ離れたここからでも目に入るくらい、変な動きをしていたのかな?


「お前の風は?」


「使ってるよ。多分、俺の蹴りに合わせて弾いているだけだから反応しないんじゃないかな? 危ないかもしれないから無理をする気は無いけど……」


「そう。まあ、それがいいわね。ここから見ていたけれど、何人かが常にお前の動きを追っていたわ。目立つから、戦いながらでも視界に収めるのは簡単でしょうからね……お前一人でそれを跳ね返して仕留めるのは無理ね」


「……む。そうだったんか」


 妙にいいタイミングで妨害が来ると思っていたら、そんな理由があったのか……。

 まぁ、確かに頭一つ二つ高い位置にいるから見つけようと思えばすぐに見つけられるだろう。


 セリアーナの言葉に「ぬぬぬ……」と唸っていると、そんな俺を他所にセリアーナは魔法をぶっ放した。


「お?」


 そちらを向くと、賊が慌てて離脱する姿が目に入った。


 セリアーナの狙いは馬なんだが、それを上に乗る賊が庇ったんだろうな。

 その動きから、ダメージを負ったようには感じられないが、賊連中も、セリアーナがはじめに馬を潰して倒したって流れを見ていただろうからな。

 同じ目にあわない様にと、警戒しているんだろう。


「ああやれば難しくは無いでしょうけれど……どうなの?」


 と、セリアーナはこちらを見た。


「馬ねぇ……」


 突っ込んで一発蹴るか斬るかしたら、魔物でもないただの馬なんて簡単に倒せるだろう。

 そして、落馬した賊を倒す……それは可能かもしれない。


 ただなぁ……どうにもただの馬を蹴り殺したり、斬り殺すってのは抵抗があるな。

 賊相手だと、まだ倒せてはいないが攻撃をする事に抵抗は無いんだが……襲ってきたりしないからかな?


「もうちょっと、頑張ってみる。まだ余裕はあるでしょう?」


「……ええ。まだ新たな増援は感じないわ。もうしばらくは好きにしていいわ。お前がうろつくことで相手もいくらか余力を割かれるでしょうし、こちらが優位に進められるでしょう。いい援護になるわ」


「うん」


 こちらの戦闘が始まってそろそろ10分近く経つが、セリアーナが仕留めた最初の一人を除いたら、敵も味方も誰も命を落としてはいない。

 だが、戦況はこちらが優位に進められているんだよな。


 味方には俺の【祈り】をかけているし、それのお陰かなと思っていたんだが、もしかしたら俺の動きも、少しは援護になっていたのかもしれないな。


 それじゃー……俺もいい感じに囮になるって事がわかったし、反撃に気を付けながらもうちょっと向こうで粘ってみようかな。


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 さてさて。


 戦闘の場でも、俺は何となく浮いているだけでも囮の役割を果たせるという事がわかってからは、セリアーナのもとに戻ったり、また出撃したりを繰り返していた。


 やはり宙に浮く俺は目立つからか、賊からは特に警戒されているようで、俺の攻撃は全て妨害されて、誰一人仕留める事は出来ないでいた。

 だが、それならってことでやっている囮役だが、これが殊の外上手くいき、徐々に相手の数を減らす事が出来ている。

 兵の腕はこちらの方が上っぽいし、そこに【祈り】の効果が加わって身体能力まで上がったなら、負ける要素は無いだろう。


 最終的に、俺たちに犠牲が出ることなく倒してしまえればいいんだし、俺が倒す必要は無いんだ。

 この調子でいこう。


「……相変わらずあのままか」


 今目の前に広がっている賊たちのさらにその後ろを見ると、俺が勝手に命名したやる気無い組は、武器を離してこそいないが、その名の通りやる気をまるで見せていない。


 やる気ある組は、なんとか俺たちの裏側に回り込んでやる気無い組と挟み込ませようとしていたが、その都度セリアーナにカットされて、結局やる気無い組の前から出られないでいる。


 油断は出来ないが……それでもこちらはこのまま終わりそうだな。

 後はリーゼルたちの方だ。


 俺は体ごと西側を向いた。


 賊の数こそこちらと差は無いが、戦闘に参加する人数は倍近いし、あまり戦況に変化は無いな。

 まぁ……向こうには囮役の俺がいないしな!


 それに、後方から魔法での援護に専念しているセリアーナと違って、リーゼルは中に入って剣を振るっている。

 立場上そうする必要があるのかもしれないが、ウチのトップであるリーゼルに万が一の事があったら大変だし、慎重に戦っているのかもしれないな。


 だが、オーギュストもいるしその気になれば一気に決められるだろう。

 今は適当に流して、隙を窺っているのかもしれないな。

 あのメンツならそれくらい可能だ。


「うむうむ。まぁ……この分なら……まずはこっちのやる気ある組をさっさと倒して、そしてやる気無い組を投降させて……」


 どうやって終わらせようかと西側を見ながら考えていたのだが……。


「セラ様っ!?」


 唐突に背後から鋭い声で名前を呼ばれた。


「ほ? って、うおおおぉっ!?!?」


 何事かなと振り向くと、何かが勢いよく俺の体めがけて飛んで来ていた。

 向こうには何かを投げたような姿勢の賊がいるし……奴か!?

 なら、投げたのは槍だな。


 不意打ちではあるが、思ったより冷静だ。

 これが魔法だったら吹っ飛ばされたりもするから慌てたりするかもしれないが、槍だしな……。

 それも、魔力が込められていないただの槍。

 タイミング的に避けるのはちょっと間に合わないが、風で弾いてそれで終わりだ。


 うむ。

 慌てる要素は無い。


 それに……一人武器を手放したものが出来たんだ。

 この一発を弾いたら、そいつを狙ってみるのも悪くな……。


「あら……?」


 飛んできた槍が風の膜に触れるや否や、あらぬ方向へと吹っ飛んで行く。

 その飛んで行った槍をみて、ついつい間の抜けた声が漏れた。


 余裕で防ぐことが出来る……そう考えていたのだが、俺自身は無傷だがちょっと思っていたのと違う結果になってしまったな。


「セラ!」


 飛んで行った槍を見送っていると、背後からセリアーナの声が飛んできた。


「む?」


 その声に振り向くと、セリアーナは「来い」と手招きをしていた。


 追撃のチャンスだと思ったが……まぁ、いいか。

 俺は再びセリアーナのもとに戻ることにした。


 ◇


「……お前、私が言った事は覚えていて?」


「ん?」


 言っていたこと……ってーと、何かあったっけ?


 首を傾げていたが、そういえば……と、セリアーナが言っていることにすぐに思い当たった。


「中に入った時は、矢とか飛んで来たら避けろって言ってたね……。セリア様から離れていたからついつい……」


 俺の言葉に、セリアーナは大きく溜め息を吐いた。


「わかったようね。私やお前は防ぐことが出来ても、周りにいる者に被害が出かねないわ」


 やっぱソレだったか。


 魔物相手に攻撃を弾く事はあったが、その場合俺はいつも大抵一人で戦っていたんだ。

 だが、今回は周りに味方がたくさんいる状況だ。

 肝心のセリアーナは盾が守ってくれるだろうけれど、他の者はどうかな……。


 流石にそれくらいで大崩れする事は無いだろうが、それでも故意では無いとはいえ、俺が原因で王都の兵が命を落とすような事になったら、ちょっと問題になりそうだよな。

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