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 俺たちは護衛たちから離れると、彼等と対峙する賊に、間の草原を回り込む様にして近付いて行った。


 この辺りも背丈の高い草が生い茂り、加えて馬でドカドカ走り回っているからか、所々捲れ返ったりして、生身はおろか馬に乗っていても、戦うのは難しそうな程足場の状態は悪くなっているが……まぁ、俺たちには関係無いか。


 セリアーナは地面から2メートルくらいの高さをキープし続けていて、俺はさらにその少し上と、全員を見下ろせる高さだ。

 相手の位置や、挙動もしっかり把握出来ている。


 俺とセリアーナが近くをうろついている事に気付いていても、今のところは武器を構えているだけで、謎の魔道具や恩恵品を使うような素振りは見せていない。

 仕掛けるなら両者足が止まって、戦闘が中断している今がいい機会だと思うが、そこをついて来ないあたり……そんな便利アイテムは持っていないな?


「……セリアーナだなっ!」


 さてさて。


 俺たちはグルっと回り込む様に移動をしていたのだが、賊たちの隊列を真横から眺められる位置まで行ったところで、移動を止めた。

 敵と味方両方の動きが把握できるうえに、西側の流れ弾も届きそうにない良い位置だが……急いで移動したわけじゃないしな。

 賊たちにもしっかりと見られていた。


 っていうか、目が合ったもんな。

 まぁ……連中も、どうしたらいいんだろう……って感じだったのかな?


 もちろん、俺たちも相手から目を離さずにいたし、隙を見せるような事は無かったから攻撃してくるような事は無かったんだが、今こうやって動きを止めたことで、向こうも腹が決まったらしい。


 やる気がある組の中で一番俺たち側の端にいた男が、こちらに向かって来ながら「セリアーナだな」と叫んだ。


 うーむ……相変わらず他の連中も無駄口を叩かないし、まともな言葉を聞くのはこいつが初めてだ。

 さっきの戦闘では、呻き声とかだけだったもんな。


 ともあれ……その男は、弓を背負って槍を手にしている。

 俺たちは宙に浮いているし、そうそう手が届くような高さではないが、その装備なら地上からでも攻撃を届かす事が出来るだろう。

 油断ならない相手だな。


 俺の事は眼中に無いようだが、その分、俺はしっかり警戒してやるぞ……。


 っと、セリアーナの上で俺は気合いを入れていたのだが……当のセリアーナは相手をする気が無いらしい。

 男の言葉に答えることはおろか何の反応も示さずに、賊たち全体を見ていた。


 男は無視をされているとでも思ったのか、語気を強めて、今度は罵ったりし始めたが……セリアーナはそれも無視だ。

 全く気に留めずにいる。


 ……挑発なのかな?


 どういう意図なのかはわからないが、挑発の効果は確かにあったのかもしれない。


 業を煮やしたのか、男は背負った弓を手にすると、矢を構えて……。


 今まさにセリアーナめがけて矢を放とうとしたが、それよりも先に、セリアーナが溜めも予備動作も無しに、魔法を男が乗る馬めがけて放った。


 使ったのは、恐らく風系統の球状の魔法だが、威力よりも発動までの溜めの無さと速度を優先したんだろう。

 魔法は直撃したものの、精々馬を驚かせていきり立たせる程度だった。


 だが、それが狙いだったんだろう。


「ちっ…………なっ、ばっ!?」


 男も油断していたわけじゃないのは俺でもわかるが、矢を放とうとした瞬間だったし、回避も防御も出来なかった。

 結果、手綱から両手を離した状態で暴れる馬を制御出来るわけもなく、振り落とされてしまった。


 足元は背の高い草が生い茂っているから、背中から落ちたとはいえ大したダメージにはならないだろうが、武装をしているし簡単には起き上がれないだろう。

 落馬を見た他の連中もフォローに来ようとしているが、俺たちと違ってひとっ飛びとは行かない。


 んで……その隙を逃すセリアーナではなく。


「ぅぇっ!? セリア様!?」


 地面に落下した男めがけて、一気に突っ込んで行った。

 俺もその後を慌てて追いかけたが……。


「あ……」


 俺が男の落下地点に辿り着く前に、既にセリアーナは【小玉】の軌道を変えていた。

 駆け寄る賊たちと接触しない様にクルっと宙返りをすると、逆さまのままこちらに向かって飛んできた。


「セラ! 急ぎなさい」


 そして、すれ違いざまに指示を出してきたが……手にした剣が薄っすら血で濡れていることに気付いた。

 やったのか……。


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「下がるわよ!」


「ほい来た!」


 思わぬ速攻で一人を仕留めたセリアーナは、そこで二人目も……等と欲を出さずに、すぐに護衛たちの元へと下がっていった。

 もちろん、背後にも注意を払っていて、隙を見せるような真似はしないんだが、それでも交代と合流っていう、ウチの兵たちの隊列を崩すような行動にもかかわらず、賊連中は何もしかけようとしてこない。


 ……手を出しあぐねているって感じかな?


 結局、俺たちが合流を果たすまで、先程の陣形の乱れを整える程度だった。

 後方のやる気無い組も同様だ。


「動かないね……」


「動けないのでしょう。貴方たち」


 向こうの様子を見て思わず呟いた言葉をセリアーナが拾い、俺に一言訂正すると、兵たちの隊長と冒険者のリーダーを呼び寄せて、どう動くか……等の簡単な指示を出していた。


 その間俺は賊たちの観察を続けているが、連中も動く様子は無いな。


 相変わらず向こうは、やる気のある組と無い組で温度差があって、遠目からでも分かれているのがわかるし、向こうもそう簡単には動けないんだろうな。

 やる気無い組も、積極的に攻撃をする気は無くても裏切る気は無いようだし、明らかにこちらが不利な状況になったらどうなるかわからないし……俺から見たら変な関係なんだが、一人殺されても雰囲気に変わりは無いし、彼等からしたらこれで正常なのかもしれないな。


 チラっとセリアーナとの話で触れはしたが、中々理解しがたいな。


「セラ」


「うん? どうかした?」


 セリアーナの声に下に顔を向けると、他の二人も俺を見ていた。

 話は終わったみたいだな。

 向こうが気になって聞き逃してしまっていた。


「……話は聞いていなかったのね。いいわ」


 セリアーナは呆れたように一つ溜息を吐くと、二人を仲間の下に戻らせて、俺を自分の口元に来るように指でチョイチョイと示した。


「これから一気に賊を殲滅させるわ。もちろん私も参加するから、お前もあまりボーっとしていては駄目よ」


「……ぬ、了解。オレたちから仕掛けるんだね?」


「ええ。後ろの連中の考えが変わらないうちに、さっさと片付けるわ。先陣は王都の兵で、彼等に中に切り込んでもらって向こうの隊列を崩させるわ。さあ、行くわよ」


 セリアーナはそう言うと、隊に合流するために移動を開始した。


 なるほど……まずは向こうの陣形を崩して、俺たちはそのおこぼれを倒していくんだな。

 さっきの様に上手くいくかはわからないが、相手が一人なら俺とセリアーナが危険な目にあうような事はまず無いだろう。


 ……よし。

 やりますかー!


 俺は気合いを入れて腕をグルグル回すと、セリアーナの後を追った。


 ◇


 さて。

 こちらの陣形が整うとすぐに、先陣を務める王都の兵が突撃していった。


 向こうはどうやら俺たちが時間稼ぎとまではいかなくても、そこまで積極的に終わらせに来るとは思っていなかったのか、露骨に対応がバラついていた。

 距離もあるし、弓を構える余裕くらいはあっただろうに、矢を撃って来なかったもんな。


 その時点で、こちらが一つ優位を取っていた。


 もちろん、相手も腕は立つんだし、多少の混乱程度で総崩れ……とはならずに、それなりに踏ん張っていた。

 ゴチャゴチャした乱戦になりながらも、俺たちと位置を入れ替えて挟み込もうとしたりと、色々状況を打開しようとしている。


 やる気無い組とはいえ、そこまで有利な状況になったら仕掛けてくるかもしれないし、俺たちもそこまで追い込まれると、どうなるかわからない。

 リーゼルたちも今は戦闘の真っ最中だし、援護は難しそうだもんな。


 だから、その事態を避けるためにも、こちらが纏められない様に適度に距離を取りながら、相手の牽制を行っている。


 んで……。


「…………たっ!!」


 この乱戦で、仲間から離れてしまって孤立する者も出てくる。

 俺はその孤立している者を見つけ、セリアーナの下から離れてこっそり回り込むと、相手が気付く前に蹴りを放ったのだが……。


「っ!? ちぃっ……!」


「……ぉわっ!?」


 賊はどうやって気付いたのかはわからないが、蹴りを盾で足の側面を殴る事で回避した。

 カウンターで攻撃を受けるような事は無かったが、まさか盾で受けとめるんじゃなくて、殴って逸らしてくるとは思わなかったな。

 相変わらず不意打ちが下手だな……俺。


 不意打ちにもかかわらず、しとめ損なったことに少々気落ちしていると、背後のセリアーナから声が飛んできた。


「セラ、戻りなさい!」


「……りょーかい」

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