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何かが一斉に飛んできたかと思うと、護衛の兵や冒険者たちが魔法で吹き飛ばしていく。
こちらには飛んでこないが、中々壮観だ。
「ぉぉぉぉ…………。なんか飛んできたけど、あれ、矢かな?」
索敵に集中するために目を閉じているセリアーナに、今何が起きているのかを実況しているわけだが……あんまり中身が無いな。
まぁ、遠距離から弧を描いて飛んでくる棒なんて、普通に考えると矢しかないよな。
王都の問屋街に潜伏していた連中で、弓が得意な者がいるって情報があったが、それは正しかったのかもしれないな。
俺たちからまだ賊の姿が見えていないし、向こうだってそれは同じだろう。
途中で散らされてしまってはいるが、どの矢も俺たちの馬車に直撃しそうなコースだった。
これは適当に撃っているんじゃなくて、しっかりと狙ってきているな!
「なんか随分高い位置に撃っているし、牽制かな? もう少し低く撃ってもこっちまで届きそうなんだけど……」
「でしょうね。弓に自信のない者が適当に撃っているのならともかく、確か弓を得意とする者が混ざっていたでしょう? ソレじゃない? 矢は数に限りがあるから、そこまで気にしなくていいかもしれないけれど、私が中に入って戦っている時に狙われたら、その時はお前は上に退きなさい」
「うん? オレがいた方がいいんじゃ……? って、おわ!?」
東を見ながらセリアーナに話しかけていると、第二射が飛んで来て、話を中断されてしまった。
一射目はもしかしたら、観測用だったのかもしれない。
この二射目の方が明らかに矢の量が多い。
だが、それでも一射目と同様に魔法で散らされてしまって、一本も届いていない。
今までその腕を見る機会が無かったが、王都の兵や冒険者も中々悪くないじゃないか……。
気を抜くわけにはいかないだろうが、少なくとも味方が大崩れするって事は無さそうかな?
……味方が頼もしいのはいいとして、混戦時に矢が飛んで来たらセリアーナから離れた方が良いってのはどういう事だろう?
むしろ、そういう時こそ俺が側にいた方が良いと思うんだけど……。
「あのね……。ああ、話はここまでね」
セリアーナは俺の疑問に答えようとしたが、話を止めると、「リーゼル!」と大きな声を上げた。
街道上にいる俺たちと違って、リーゼルはオーギュストたちと一緒に街道から外れた場所で襲撃に備えているが、今の声はしっかり彼の耳に届いたようだ。
その場で他の面々に指示を出すと、こちらに向けて剣を一振りした。
……了解の合図かな?
「西からも来る?」
「ええ。お前もいつでも参戦出来るようにしてなさい。それと、さっき言ったことを守るのよ?」
「……りょーかい」
今一つ納得出来ないが……セリアーナがここまで言うってことは、何かそれなりの理由があるんだろう
「ほっ!」
とりあえず、東の賊に加えて、西から新たにやって来る賊にも対応出来る様に、【風の衣】と【祈り】を新たに発動した。
さっきよりも数が多い上に、両サイドからだ。
きっと俺の出番も来るだろうし、しっかり気合いを入れないとな!
◇
さてさて。
東西両サイドから迫って来ているが、先にこちらと接敵したのは東からの集団だった。
こちらが第二射を防いだ後も、何度か距離を詰めながら矢を撃って来たが、幸いウチ側の兵にも馬車にも被害は出ることなく凌ぎ切れていた。
見た感じ、ウチの兵たち以外も腕は立つようだし、ただ、どうしても俺たちを守るってのが最優先で、矢を防ぐことが出来てもこちらから攻める事は出来ないし、懐に入り込まれてしまったな。
派手にぶつかり合うような事は無いんだが、先程倒した賊たちと違って、今度の相手は全員騎乗している。
相変わらず街道から一歩離れると足場の悪い草原だが、馬に乗っていたらそれも関係ない。
小回りという意味では生身よりも劣るが、それを差し引いても、足場の不利が無いというのは大きいようだ。
躊躇うことなく街道から外れて、遠巻きにうろつきながら、こちらの陣形が崩れないかを窺っている。
本隊であるオーギュストたちが、西からの増援に備えてあまり動けないでいるから、余計に自由に動いているんだろう。
うむ。
ちょいとなめられているのかもしれないな。
「なんか、観察されてる気がする……」
返事を期待したわけではないが、俺は、賊の動きから感じたことを口にした。
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「それもあるでしょうね」
「ぉわっ!? ……それも?」
適当に思ったことを呟きつつも、返答は期待していなかったから、セリアーナからのまさかの返答に少々驚いてしまった。
しかし、それも……とな?
他にもあるってことかな?
「あの連中は、そこまで私たちへの襲撃に乗り気ではない可能性もあるの。言ったでしょう?」
「……あぁ。そういえば」
義理とか付き合いとか単純に仕事だとか……そんな感じで参加はしたけれど、積極的に仕掛けてこずに、適当なところで投降する……。
そんな事を考えているかも……ってヤツだな。
「アレだけいて私に敵意を持つ者が見当たらないのよね……。敵だとか関係無しに、依頼だから……と、割り切っている者もいるでしょうけれど、あの連中の全員がそうだとは思わないの。楽観視は出来ないけれど、半数程度は敵対する気が無いと見ていいんじゃないかしら?」
「なるほどー……。それなら、こっちが守りを固めて時間を稼いでいたらいいのかな?」
数はともかく、ウチの兵と護衛の兵の両方とも、実力はこちらが上だろうし、西側から来ている連中を片付けるまでの間、適当に時間を稼ぐって事は出来るはずだ。
割と妥当な考えだと我ながら思ったんだが、セリアーナは首を横に振った。
「いいえ。相手が手を出す気を無くさせるには、私とリーゼルも力を見せつける方が確実よ。やる気の無い者には、さっさと手を退かせられるわ。だから……」
「ぬ?」
そう言うと、西側に頭を向けた。
つられて俺もそちらを見ると、先程よりも砂埃がハッキリ見えるし、もうすぐそこまで来ていることがわかった。
それに備えてだろう。
オーギュストたちも数名を中央に残して、西側に兵の大半を動かしている。
さっきまでは、リーゼル共々中央にどっしり構えていたけれど、中々好戦的じゃないか……。
どうやら、彼等もセリアーナと同じ方針らしいな。
「向こうの戦闘が始まったら、私たちはあちらに行くわよ。さっさと片付けましょう」
と、今度は東側の賊たちへと向きなおった。
同じく俺もそちらへ。
賊たちは相変わらずこちらの兵と距離を保ちながら、周囲をうろついているが……よくよくその動きを見てみると、武器を構えてこちらの隙を見つけようとするやる気のある者と、遠巻きにうろつく一行からさらに一歩下がった位置に控えている者とで、別れていることが分かった。
なるほど……あの後ろの方にいる連中が、やる気が無いんだな。
「……そうだね。りょーかい!」
「結構」
セリアーナは俺の言葉に頷くと、正面を向いて再び索敵に取り掛かった。
◇
あれから数分が経った。
オーギュストたち西側の兵だけじゃなく、東側も何かを察したのか動きが活発になってきている。
後ろに下がっていた連中も、増援が到着した事で参加した方が有利とでも思っているのかな?
ちょっとずつではあるが、前列との境が目立たなくなってきている。
なるほどなー……確かにこれなら戦闘を長引かせるよりも、さっさと片付けて投降させた方がいいだろうな。
「セラ」
俺が東側に視線を向けていると、セリアーナが俺の名を呟いた。
この状況だ。
わざわざ用件を言わなくてもわかっているさ。
「うん。いつでも良いよ」
「結構」
セリアーナはそう言うと、剣を手に【小玉】の上で姿勢を少し変えて、ゆっくりと東へ進み始めた。
ただ座るか立っているかではなくて、じーさんとの稽古の時にやっていた、両足を【小玉】に着けたいつでも踏み出せる姿勢だ。
やる気だな!
この姿勢だと剣を結構振り回すことになるだろうし、俺は少し上目に位置を取ることにした。
そして……。
「ほっ!」
【緋蜂の針】を発動した。
単純な殺傷能力だと【影の剣】が何枚も上手だが、あれでも一応剣だからな。
少々狙いどころに気を遣う必要があるし、リーチの問題もある。
それに比べて【緋蜂の針】なら、あまり狙いを付けたりしなくても、【浮き玉】で突っ込んで行くだけでいいお手軽武器だ。
もっとも、コレは威力もあるし十分脅威にはなるだろうが、必殺武器とは言えないが……この戦闘は、俺一人で戦う訳じゃない。
俺の役割はセリアーナの支援と守護で、倒す事はそこまで重要じゃない。
コレで突っ込んでかき乱して……それだけでも役に立てるはずだ。
「お」
アレコレ考えていると、護衛の兵たちがもう目の前だ。
賊たちの顔ももう見えそうなくらいの距離だが、相手も俺たちが加わった事を警戒してか、下手に動こうとせず互いに動きが止まってしまっている。
「奥様、セラ様……!」
「私たちも入るわ。端から回るから、貴女たちは好きに動きなさい」
「はっ!」
セリアーナは、彼等に短く指示を出すと、一行から離れるように動き始めた。
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