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セリアーナがどんな攻撃を受けたのか、俺からは見えなかったから、あの時何が起きたのかわからないんだよな。
気付いたらもう、セリアーナが相手を仕留め終わってたし……。
あまり時間も無いし聞くならさっさと聞いておくか。
「ねー、アレって結局なんだったの? なんかセリア様が攻撃を受けていたっぽいんだけど……【琥珀の盾】が発動していたけれど、魔法だったの?」
俺の質問に、セリアーナは「何を言っているんだ?」って感じの視線を向けてきた。
彼女的にはもう終わった事だし、どうでもいい事なのかもしれないな。
まぁ……次の相手はまた別の組織なのかもしれないし、必ずしも同じ手法を使ってくるとは限らないし、聞く意味は無いのか……な?
と、引き下がりかけた時。
「僕も聞きたいね」
いつの間にかこちらにやって来ていたリーゼルが、何があったのかをセリアーナに訊ねた。
どうやら、俺とセリアーナのやり取りを聞いていたらしいな。
「僕の方へ来た男は、何も隠し技を見せることなく終わってしまったんだが、終始君たちの方を気にしていたんだ。狙いがセリアだし、そちらを気にするのはおかしいことでは無いと、気に留めなかったんだが……何かがあったんだろう? 僕にもセリアの悲鳴は聞こえたが、その時は土煙で何があったのかがよくわからなかったんだよ」
セリアーナは、リーゼルの言葉に「ふう……」と溜め息を一つ吐くと、仕方ないといった様子で口を開いた。
「セラが魔法で弾き飛ばされたのは見ていたでしょう? アレが昨晩セラが受けた魔法と同じ物かはわからないけれど、風の魔法に違いは無いわね。魔法を防ぐ何かを持つセラを排除して、私を仕留めにかかる……狙いはそれだったんでしょうね」
そこで一旦話を止めると、「見なさい」と、先程まで俺たちが居たあたりの地面を指した。
「足場は悪そうだけれど……あそこがどうかしたの?」
魔法の余波で少々荒れてはいるが、それを抜きにしても、大人の膝くらいの高さの草が生い茂っていて、走り回るのは難しいだろう。
だからこそ、リーゼルたちはここを迎え撃つ場所に選んだんだ。
「そう……足場が悪いの。でも、賊連中は私たちよりもこのあたりの地形に詳しいはずでしょう?」
「そうだね。昨晩も近くの森に潜んでいたし、情報は持っているだろうね」
セリアーナの言葉に答えるリーゼル。
まぁなー。
賊連中は思い付きで決めたんじゃなくて、元々俺たちを狙うつもりでいたんだ。
俺たちだって備えてはいるが、相手だってそれくらいはするだろう。
「なるほど……足場が悪い場所で仕掛けることも、最初から想定していたのか」
「でしょうね。私が受けた攻撃は、賊が手にしていた小剣よ。地面に魔法をぶつけることで土砂を巻き上げて視界を塞ぐ。そして、その隙をついて小剣を投擲……。私は浮いていたから問題無かったけれど、余程鍛えている者でも、足場を崩された上であれだけ畳みかけられたのなら、防げなくてもおかしくはないわ」
「使い勝手が悪そうなのにもかかわらず、小剣の方を選んでいたのはそのためか。投擲に使えるし、上手く行けば相手の油断も誘えるからね」
「ええ。それだけじゃなくて、あからさまに視線をそらさせようともしていたけれど、私は一切油断をせずにいたから、相手も仕方なく自分から動いたのでしょう」
そう言って、セリアーナは小さく笑っている。
視線をそらさせる……よそ見したアレの事かな?
思い切り引っかかってしまったな。
ま……まぁ、それはそれとして。
「……危なかった割には冷静だね」
セリアーナの話通りなら、ちょっと間違えば死んでいてもおかしくないんだけれど……。
「フフ……遠距離攻撃も想定はしていたからね。セリアの恰好はそのためだよ」
俺の呟きに答えたのは、セリアーナじゃなくてリーゼルだ。
ちょっと笑っているあたり、備えには自信があったんだろうな。
確かに、暑い中しっかり着こんでいたもんなぁ……。
「まあ……お前抜きでも精々軽傷よ。よかったわね? リーゼル。あの屋敷の使用人は情報を外に漏らさなかったようよ」
「それは何よりだ。しかし……いくつか想定外の事はあったけれど、この分なら備えの範囲内で収められそうかな?」
「どうかしら? まあ、私は上手くやるわ」
「僕もさ。さて……そろそろかな?」
リーゼルはそう言うと、街道の西に顔を向けた。
俺もそちらに目をやると、微かに土煙の様な物が薄っすら見えている。
西から走って来る集団……第二陣か!?
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「セリア?」
西からこちらに来ている集団が何者かを知りたいんだろう。
西を向いたままリーゼルはセリアーナの名を呼んだ。
「増援よ。後ろも街道から来ているわね。数は……40弱かしら? そのうちどれだけ本気なのかはわからないけれど、気を抜けないわね」
「そうか……わかった。なら、さっさと片付けてしまおうか。セラ君、セリアを頼むよ」
「はーい。旦那様も気を付け……行っちゃったね」
俺の言葉を最後まで聞かずに、リーゼルは馬を走らせていた。
オーギュストたちと合流するためなんだろうが、俺の話を途中で切るなんて、彼からしたら珍しいよな。
……それだけ油断ならない事態なのかもしれないな。
「気にする事は無いわ。それよりも、お前の準備はいいの?」
「オレ? まぁ……大丈夫じゃない?」
やる事なんて、セリアーナの背中に張り付いて、何かあったら【緋蜂の針】で蹴りを入れる……それくらいだ。
大したこと無いと、俺は気楽にセリアーナに答えた。
「結構」
セリアーナは短く答えると、護衛の冒険者たちを呼び寄せた。
彼女たちは、先程までオーギュストたちとどう戦うかの協議をしていたが、話が終わったのか今はもうこちらに戻って来ていた。
今度はもう無理にセリアーナが戦う必要もないし、彼女たちと連携を取っていく事になるんだろうな、
「奥様、お呼びでしょうか?」
こちらにやって来ると、他の三人は一歩下がっていて、リーダーだけこちらにやって来た。
「私たちは状況を見て戦闘に加わるから、貴女たちは適当に動きなさい。それと、場合によっては私が指示を出すけれど……いいわね?」
「お任せください」
「結構。行って頂戴」
「はっ」
短いやり取りだったがそれだけで十分なのか、冒険者たちは一礼すると、元にいた場所へ戻っていった。
その途中で、仲間たちに今のセリアーナとのやり取りを説明している様だ。
しかし……。
セリアーナが指示を出すかもって言葉にも、随分と急にもかかわらず反対しなかったが、お貴族様の護衛が専門って話だしこういうのに慣れているのかな?
聞いてみるか。
大したことじゃないのに、変な事が気にかかってミスをしても嫌だしな。
「セリア様」
「なに?」
振り向くセリアーナに、俺は冒険者たちを指して口を開いた。
「あっちの人たちさ、あんな説明で納得してくれたのかな?」
「さあ? 納得していようとしていまいと、命令を受けた以上はそれに従うものでしょう? そんな事よりも、そろそろよ。私は最初は加護を使って索敵を行っておくから、あまり動く事は出来ないわ。その間はお前に任せるわよ」
「む……りょーかい!」
俺は普段からアレコレ口を挟んでいるからウッカリしていたが、よくよく考えると、あんまり依頼主の注文に、反対したり意見を出したりはしないもんな。
ましてや、相手は公爵夫人だ。
命令は絶対で、たとえ何か無理なことがあっても、どうにかして対応するってのが、依頼主と護衛のあるべき姿か。
そして、そんな立場でもしっかりと結果を出し続けているのが彼女たちだし……俺が気にかけるような事じゃないのかもな。
彼女たちの事はもうこれでよしとして、近付いて来る賊たちとの戦闘に頭を切り替えるか!
俺は【風の衣】を新たに張り直すと、【祈り】を全体に向けて発動した。
◇
「セラ」
「うん、大丈夫。ちゃんと範囲に入ってるよ」
準備を終えて数分ほど経った頃、セリアーナが唐突に俺の名を呟いた。
彼女は今広範囲の索敵を行っていて、【琥珀の盾】こそ発動しているが、大分無防備な状況にある。
だから、しっかりと彼女のすぐ後ろに滞空して、【風の衣】が全身をカバーできるようにしている。
守りはばっちりだ!
その事を伝えると、セリアーナは右に向かって指を差した。
あっちは……東か。
って事は、ようやく昨日から俺たちの後をついて来ていた連中が仕掛けてくるのかな?
存在自体には王都にいた時から気づけていたが、何もしてこなかったし、ようやく絡んでくるのか……。
ヘビたちに他の三方を任せて、俺自身は東に集中することにした。
そして、それからさらに数分が経った。
周囲の者たちも何かを察したのか、東を警戒して盾や武器を構えている。
俺も負けじと、ジー……っと東の街道の先を見つめていると、僅かに舞っている砂埃に気付くことが出来た。
人数は先程のに比べると少ないからか、その規模は小さいが、まぁ……なんか来ているな!
そして。
「…………おおおおおおっ!?」
そちらからバッと一斉に飛んでくる何かが目に入り、思わず声を上げてしまった。
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