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「……あら」
俺もつられてそちらを見ると、ちょうどリーゼルが手にした剣で相手の首を貫いた瞬間だった。
よく見ると、相手は右腕の肘から先が無くなっている。
そいつも、こちらの男と同じく剣を持っていたんだが……切り落としたのかな?
ただでさえ強いリーゼルに、ボロボロの状態で向かって行ったんだから、この結果は妥当なのかもしれないけれど、なんとも無残な結果だよ。
顔も知らないし、何より俺たちを襲って来た男だけれど、彼の人生これでよかったんだろうか……。
そして、もう一方はそれを見てどうするのかな?
俺は、視線を再びセリアーナと賊の男に戻した。
先程と変化は無し……か。
一瞬ではあったが二人から完全によそ見しちゃっていたし、必要あるかどうかはわからないが、セリアーナのサポート役を任されているのに、ちょっと失敗だったな。
何も無くてよかったよ……。
「くそっ……!?」
俺がホッとしていると、俺より先にあっちを見ていた男が、何やら吐き捨てるような声を上げていた。
まともに聞いた声がこれってのもなんだけど、なんかあったんだろうか?
構えも変えてこちらを睨んでいる。
はて……と思いつつ観察をしていると、ふとその男の剣を持っていない、空いた左手の異変に気付いた。
何か妙な雰囲気が……これは?
「…………!? セリア様!?」
俺が感じた異変……それは魔力だ。
魔法を使おうとしているんだろう。
「来なさい!」
その事をセリアーナに伝えようとしたが、彼女もしっかりと気づけていたようで、俺に側に寄るようにと、男から目を離さずに告げた。
昨晩もこの集団の一人が魔法を使っていたが、アレはただの様子見で、どんな類の魔法をどんな使い方をするかは、まだわからない。
ここまで使ってこなかったことから、一撃でこちらを仕留められるような高威力の魔法は無いだろうが、それでも油断は出来ないだろう。
セリアーナを【風の衣】の範囲にしっかり収まるように、彼女の背中に張り付こうとしたのだが。
「りょーか……っ!?」
その前に魔法が放たれてしまった。
「おわっ!? セリア様?」
「問題無いわ」
その魔法は俺やセリアーナにでは無くて、セリアーナの少し手前の地面に着弾したのだが、地面を爆発させたり火炎をまき散らしたりはせずに、生い茂る草や地面の表面を巻き上げた程度だった。
今使われたのは風系統の魔法だろうし、恐らく昨晩俺を撃ったのはこの男だ。
ただ、その魔法は精々足場をさらに乱して、巻き上げた土砂で視界を悪くする程度のものでしかない。
昨晩の様子見と違って、今このタイミングで使って、何が目的なんだろう。
むしろ、俺たちよりも自分に不利に働くだけじゃないか?
わからん……と、セリアーナのすぐ後ろに着きつつ首を傾げていたのだが……突如「パンッ!」と大きな音がしたかと思うと、後ろに吹き飛ばされた。
「のわっ!?」
昨晩と同じ様な現象だが、魔法の威力が違うのか、ダメージこそないものの、音も衝撃も昨晩に比べるとずっと大きかった。
そして、その影響は俺だけではなかったらしい。
「きゃっ!?」
吹っ飛ばされたのは俺だけだろうが、セリアーナも不意を突かれたからか、短い悲鳴を上げていた。
「セリア様っ!?」
吹き飛ばされこそしたがダメージは無いし、男もこの魔法で俺をどうにか出来るとは思っていないだろう。
ってことは、目的は分断か?
それとも、他にあるのかはわからないが、とにかく急いで合流した方がいいだろう。
俺は急いでセリアーナの下に向かおうとしたのだが……その瞬間に、硬いガラスでも割れるような乾いた音がセリアーナの方から聞こえてきた。
「ぬおおおっ!?」
これは【琥珀の盾】か?
ってことは……。
「ぐああああああああっ!?」
しっかりカウンターが発動したようで、男が悲鳴を上げていた。
視界の悪さを利用して、セリアーナに何かしら攻撃を仕掛けたんだろう。
【琥珀の盾】が発動するレベルだし、無防備な状況で食らっていたら危なかったかもしれない。
だが、しっかり【琥珀の盾】が発動して、さらに男が悲鳴を上げているって事は……なにが起きたかはわからないが、とりあえず凌ぎ切れたって事だろう。
いまいち状況は理解できないが、何はともあれセリアーナと合流しよう!
「セリア様! 今行く!」
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「…………あらー!?」
セリアーナと合流しようと【風の衣】を張り直して、未だに立ち込める土煙を突っ切って行ったのだが……その先に見えた光景に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
なんというか……ジャストタイミングというか、俺たちに何かの魔法を放った男らしき物がゆっくりと後ろに倒れるタイミングだったんだよ。
ついでに、その足元には何か丸っこい物が転がっていた。
「ぉぅ」
あまりまじまじとは見たくなさそうな物だな。
見なかったことにしよう。
「何を妙な顔をしているの……もう終わったわよ」
どうやらすぐに目を背けたのに、しっかり表情に出ていたらしい。
セリアーナは、何やら呆れた様な顔でこちらを見ている。
「みたいだね……やったの?」
「ええ」
俺の問いかけに短く答えると、セリアーナは右手に持った剣を真横に振っていた。
やったのはもう一目でわかっているけれど、足元に転がっていたアレは、やっぱ頭部だったか。
剣を横に払う仕草は、血のりを振り払うためなのか、あるいはこういう風にやったと示したのかはわからないが……スパンとやったんだろうな……。
「そっかー……怪我は?」
「あるはずないでしょう? それよりも、まだ次が来るわよ。向こうも終わったみたいだし、一旦下がりましょう」
こっち側の二人は倒したが、見れば前方の戦闘も片が付いたらしい。
何人かの兵が馬から降りて、賊を縛っている。
流石に全員は無理な様だが、それでも何人かはしっかりと生かしたままだ。
こっちに比べると人手もあるし、余裕があったんだろうな。
「りょーかい!」
そいつらの処遇や増援への備えなど、あまり時間は無いかもしれないが、いくつか話す事もあるだろうし、さっさと合流してしまおう。
俺は一言答えると、セリアーナの背中に張り付いて、馬車へと向かうことにした。
◇
さて。
俺たちが馬車へと戻って間もなく、前方で戦っていたウチの兵や、周囲の護衛をしていた兵や冒険者たちも合流した。
今度は、ついさっきの戦闘に加わらなかった彼等も参加する様で、捕縛した賊たちを馬車に放り込んだりして、次の戦いの準備に取り掛かっている。
死体をどかしたり足場を確認したりと、皆忙しそうに動いていた。
増援も後ろの追手たちも接近しているのは間違いないようで、今から下手に移動をするよりは、このままここで迎え撃った方がいいんだろう。
さてさて……。
真面目に動いているリーゼルたちはさておき、俺たちだ。
セリアーナもリーゼルも戦闘を行ったし、しっかりと同行している者たちに二人の力を見せつける事は出来ただろう。
相手がどんな手段を使ってくるかわからないし、流石に馬車に籠るのは危険だから、より自由に動くことが出来る外に出たままになるが、次の戦闘は俺たちは大人しく下がっていて、オーギュストたちに任せてしまうってのも有りなんだが……。
「セリア様も戦うの?」
相変わらず抜き身の剣を手にしたままのセリアーナに、次もやるのかと訊ねると、さも当然といった様子で口を開いた。
「ええ。先の相手でわかったけれど、数合わせ程度で参加している者は別にして、最初から私の命を狙っている者たちは、相応の手段を考えているわ。下がったままだと、相手に時間を与えることになりかねないし、それなら私も出た方がよほど安全よ」
「あ……そうなんだね」
まぁ……言わんとすることはわかるな。
【琥珀の盾】と【風の衣】。
さらに【小玉】まで揃っていれば、そうそう守りを突破されるような事は無いとはいえ、大人しく攻撃をしのぎ続けるってのは負担になるし、何よりセリアーナの性格には向いていない気もする。
それなら、攻めに回った方が良いよな。
どのみち、機動力ならこちらが圧倒的に上なんだし、マズいと思えばすぐに下がってしまえばいいんだ。
なるほど……と、頷く俺を見て、セリアーナはさらに言葉を続けた。
「そうよ。お前も先程のでわかっているでしょう?」
先程のか。
俺が魔法で吹っ飛ばされたのは分かるんだが、結局どういう流れでああなったんだろう?
セリアーナも何か攻撃を受けていたのは確かなんだが、復帰してからセリアーナの下に駆け付けた時には、既に彼女が頭を刎ね飛ばしていたし、「わかっているでしょう?」と言われても、何が起きたのか、実はわからないんだよな。
……今のうちに聞いておいた方が良いかもしれないな。
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