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 オーギュストたちとの話を終えた俺は、すぐにセリアーナが乗る馬車へと戻ってきた。

 リーゼルへの報告は、オーギュストの役目だな。


「戻ったよー……ぉぉぅ」


 中に入るとすぐにセリアーナが目に入るのだが、彼女は正面を向くのではなくて、【小玉】で浮きながらドアの方を向いていた。

 馬車に入るなり、腕を組んでこちらを睨んでいるセリアーナと目が合ったからびっくりしたよ……。


「ご苦労様。オーギュストは?」


「あ……うん。団長は旦那様に報告に行ってる。セリア様が言った通り、前から来てたのはこの辺を巡回している隊からの伝令だったよ」


 その言葉に、セリアーナは分かっているとばかりに「フン」と小さく鼻を鳴らすと、早く馬車の奥に入るように顎で示した。


「はいはい……。前を失礼」


 俺は一言断り、セリアーナの前を通って奥へと進んで行ったのだが、ふと前の席に目をやると、そこに置かれていたはずのセリアーナの剣が見当たらなかった。

 鞘の切っ先から柄の先まで含めて、長さは1メートルと少し程ある目立つ代物だし、特に何かを仕舞えるようなスペースの無いこの車内で見逃すって事も無さそうなんだけど……。


「どうしたの?」


 俺が視線を巡らせたのが分かったのか、セリアーナが横から声をかけてきた。


「うん? いや、剣がね……」


 振り返りながら、俺は剣が見当たらないことを口にしたんだが……。


「あぁ……セリア様が持ってたのか。でもまたなんで、そんなとこに?」


 さっきは正面からで気付けなかったが、横から見ると一目でわかった。

 なんでか、セリアーナは剣を背中に縦に背負っていたんだ。


「この剣の鞘はお前の傘ほどでは無いけれど、魔物の素材で作られているのよ。十分防具としての性能を発揮出来るわ」


「……なるほどー」


 俺が側にいる時は【風の衣】で一緒に守っているが、ちょっと離れていたからな。

 その穴埋めに、鞘で背中を守っていた様だ。


 セリアーナは俺が渡した【琥珀の盾】があるし、何より本人の加護もあって、俺並に攻撃を受けるような事は無いんだが、念には念を入れていたんだろう。


「そんなことよりも話を聞かせて頂戴。あまり余裕は無いんじゃない?」


「それもそうだね。んじゃ、簡単にだけど……」


 どれくらいで接触するのかはわからないけれど、あんまりのんびり出来るほど余裕は無いだろう。

 サクサク話を始めよう。


 ◇


 俺が聞いた話は、この先の村に怪しい連中が集まっていて、その連中が怪しいそぶりを見せて、そして、街道では無くて街道から外れた場所を目指して行った……そんな感じだ。

 出来ればもう少し詳しく掘り下げられるとよかったんだが、時間も無かったしな。


 ともあれ、その情報を聞いたセリアーナは、何も言わずに目を閉じて索敵に入った。

 当然【妖精の瞳】も発動しているし、これは本気の索敵だな。


 今日も一時間ごとに行っていたんだが、前の索敵からまだ時間は経っていないのにするあたり、あの少ない情報からでもセリアーナは何かを察する事が出来たのかもしれない。


「なんかいた?」


 索敵を終えたセリアーナが目を開けるのを待って、俺は彼女に結果を訊ねた。


 この辺は数えるほどしか通ったことがなく、土地勘が無い。

 俺から、セリアーナの索敵のサポートに使うために提供出来る情報は無いんだよな。

 ってことで、セリアーナに丸投げだ。


「少なくともこの数キロ範囲には、私たちの他には1キロほど先の商隊らしき一団と、後ろからつけてきている賊一行以外には大した者はいないわね。向こうの草原にも小動物はいても、魔物も怪しい者もいないし……まだぶつからないわね」


「そっかー……。連中がいた村の近くでぶつかることになるのかな?」


「そうじゃない? 護衛の兵たちに動きが無いし、リーゼルもそう考えているはずよ。とりあえず今は……待機ね。索敵に入る頻度を上げるから、お前も【祈り】を切らさないようにして頂戴」


「うん。【ミラの祝福】も使う? 一緒に使ったら消耗も少ないと思うよ?」


 セリアーナの加護は、消耗といっても単純に肉体の疲労だけじゃなくて、精神面でも疲労がくるらしいし、それなら【ミラの祝福】も一緒に使っておけば、リラックスも出来るだろうし、いいんじゃないかな?


「……そうね。来なさい」


 セリアーナはそう言うと、自分の膝を叩いた。


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 セリアーナの膝の上に降りた俺は、【ミラの祝福】【祈り】【風の衣】を発動して、彼女のサポートに入った。

 今はまだ広範囲索敵を行っていないし余裕もあるから、適当にこれからの事をアレコレと喋っている。


 そして、セリアーナと喋っていてわかったんだが、意外と楽観的なんだよな。

 決して油断をしているわけじゃ無いんだが、十分対処出来るって考えているみたいだ。


「大丈夫なの?」


 と、思わず聞いてしまった。


 セリアーナは今はもう剣を置いているんだよな。


 まぁ……守りなら俺が加わった事で、たとえセリアーナの索敵範囲外からの長距離狙撃を受けたとしても、2発は確実に防げるようになっているし、気を張りっぱなしよりはいいのかもしれないかな?


「報告を聞いた限りでは問題無いわね。ある程度、賊連中が身を潜めている場所には心当たりがあるのよ。攻撃を仕掛けて来るであろう場所もね。まだそこまで距離があるわ」


「あ、そうなの?」


 俺はこの辺の土地勘は無いが、セリアーナたちはしっかり調べていたらしい。


 そういえば王都の屋敷でも、なんかいろいろ話をしていたような気がするな……。

 俺もふざけていたわけじゃ無いが、もう少し真面目に聞いておくべきだったか。


 如何せん、俺は飛んでしまえば地形とかを無視出来るし、調べることも出来るから、ついつい地形に関する事は聞き流す癖が出来ちゃっているんだよな。

 賊連中の事ばかり考えていた気がする……。


「ええ。お前を外で飛ばす事が出来れば早いのかもしれないけれど……」


 顔を見ていないから、どんな表情をしているのかはわからないが、なんとも困った様な声色だ。


 確かにセリアーナが言うように、俺が上空から索敵を行えば一気に解決する事なんだが、やっぱり後ろから追って来ている連中がネックなんだよな。

 連中が何もしてこなくても、俺がセリアーナから離れると彼女の防御力が落ちるし、単独で目立つ空中にいる俺を狙うって方法も採ってくるかもしれない。


 やっぱり、別行動は駄目だな。

 ただ後ろからついて来るだけで、色々こちらの行動に制限がかかってしまうあたり、厄介な連中だよな。


「面倒だけれど……仕方が無いよ」


 色々考えた上での言葉だったが、セリアーナにはしっかり伝わったようで、頭の上で苦笑をしている。


「まあ、それも今日までの事ね。我慢しましょう」


「そーだね」


 全員を倒したり捕らえたり出来なくても、今日で王都圏から離れるわけなんだ。

 リアーナやゼルキスはもうスッキリしているし、セリアーナも気が楽になるだろう。

「うむうむ」と、その声を聞きながら俺は頷いた。


 ◇


 伝令がやって来てからしばらくして、何度かセリアーナが索敵を行っていたが、これまでと変わらず、賊連中の姿は捉えられていない。

 やっぱり、セリアーナが言うように、あらかじめポイントに張っているんだろうな。

 村まではもう少しかかるみたいだし、それまで我慢だな。


 それよりも……。


「ちょこちょこ止まる事が増えてきたね」


 馬車が止まるだけじゃなくて、俺達が乗る馬車の左右を守っていた、囮兼盾用の馬車はその位置を、左右から前後に変えている。

 すれ違う人たちが増えてきたんだろうな。


 流石に覗いて来るような者はいないが、俺がちょっと外に目を向けると、人やら馬やら馬車やら……。

 これまでは馬車に遮られていた対向の人たちが目に入って来る。


「そうね。昼時を過ぎてから大分経っているし、ちょうど街道の利用者が一番多い時間だと思うわ。一々リーゼルが顔を出して挨拶をするような真似はしないでしょうけれど、挨拶を無碍には出来ないし、すれ違う人数が多いのなら、速度を落とす必要があるでしょう」


 そう言いながら、セリアーナが何やら頷いているのが伝わってきた。


「それもそうだねー」


 セリアーナの言葉に、俺も適当に相槌を打つ。


 身分的には、こちら側が停止したりせずに、通行を優先されてもいいんだろうが、一応挨拶をされる側だ。

 もちろん、無視して移動をしても悪くはないんだろうが、まぁ……リーゼルだしな。

 彼自身が直接出はしなくても、挨拶はちゃんと受けているんだろう。


 そのまま窓の外を眺めていると、どうやら向かいからやって来る一団は全員通り過ぎた様で、再び俺たちが乗る馬車が進み始めた。


 そして、徐々に速度を上げていってまた元の速度に戻った頃、何かに気付いたのか、ヘビたちがふと後ろに向かって頭を伸ばした。

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