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「ふーぬぬぬ……。向こうの方ね」
ジッとそちらを見てみるが、何か変わった物が見えるわけでも無い。
ヘビの目を使ってって事は、対象は生き物なんだろうけれど……ちょっと周りに兵が多くてわからないな。
そのまま「ふぬぬ」と唸りながら村の中心地を見続けていると、馬車が移動を開始した。
それでも何もセリアーナが言ってこないあたり、このまま見続けといた方がいいのかな?
屋敷の敷地を出てすぐはゆっくりと走っていた馬車も、徐々に速度が上がっていき村の中心地に到達した。
商業施設などが立ち並び、この村では一番賑やかになるであろう場所なんだろうが、今は丁度お昼時という、あまり人が出歩くことの無い時間だけに、閑散としていた。
路地に出て来たり、建物の中から俺たち一行を見ている野次馬らしき気配はあるが、特に怪しい様な気配は感じられ……。
「…………お?」
視界もヘビたちと同調させて、外の様子を直接見るようにすると、野次馬は皆建物の1階……地上に集まっていることが分かった。
ただ……そんな中で、一本路地に入った建物の2階らしき場所から、数人ずつで固まって俺たちを見下ろしている連中がいた。
この時間帯で、一人二人ならともかく、あの人数が2階に固まっているってだけでちょっと妙だし、それに、そこはかとなく見覚えのあるスタイルでもある。
王都の問屋街に潜んでいた連中かな。
「見つけたかしら?」
外から見えてしまうからだろうか?
いつの間にか手を下ろしていたセリアーナが、俺が見つけることが出来たかどうかを訊ねてきた。
「うん。あそこの建物だね?」
指を指さずに顔を向けただけではあるが、それでもちゃんと伝わったようで、満足げに頷いている。
「ええ。相変わらず敵意を向けてくるような事は無いけれど、ずっと私たちの動向を窺っているわね。昨夜、こちらを監視していた者たちがいた事を覚えているかしら?」
「……なんとなく」
「……まあ、いいわ。その連中と接触していたし、積極的に攻撃を仕掛けてくる気は無いのかもしれないけれど、仕事を放棄する気も無さそうなの」
「うん」
話をしている間に、中心地から離れて村の出口が見えるところまで来ていたが、それでもまだ連中はこちらを窺うのを止めていない。
どうせならさっさと依頼を放棄してしまえばいいのに、真面目というか義理堅いというか……はた迷惑な連中だ。
「私が馬車に籠っていたら、それを隙と考えるかもしれないし、さっさと外に出て何人か切っておけば、仕掛けることを止めるかもしれないでしょう」
「なるほど……。旦那様とか団長だけじゃなくて、肝心のセリア様も手強いとなったら、とっとと依頼を放棄するかもしれないね」
もともと連中の狙いはセリアーナなんだが、その彼女が腕が立つってなったら、行動を躊躇うかもしれない。
そこまで乗り気じゃない依頼で命を落としたら馬鹿らしいもんな。
となると……。
「【祈り】使っとく?」
夜だと目立ち過ぎるけれど、昼間ならそこまで目立たないだろう。
これでさらにセリアーナの力は上がるし、あの連中への牽制になるかもしれない。
「そうね……村を出たらお願いするわ」
「うん」
◇
俺たち一行が村を発って、小一時間ほどが経った。
セリアーナ曰く、あの連中もさほど間を置かずに村を発って、俺たちの後をつけているらしい。
だが、今のところは何も行動を起こしていないし、他の賊連中はもちろん、魔物だって現れないでいる。
護衛の兵たちも武装こそしているが、そこまで周囲を威圧するような振る舞いはしていないんだけどな……。
これがリアーナやゼルキスだったなら、ちょこちょこ魔物の群れとぶつかったりしているんだが、流石は王都圏か。
もちろん、俺とセリアーナへの【祈り】を切らすような事はしないが、平和なもんだ。
そう考えると、いくら夜だったとはいえ、昨晩の魔物との遭遇はやっぱり異常だったんだな。
「セラ」
「ほいほい」
広範囲の索敵を行っていたセリアーナが、閉じていた目を開けて俺の名を呼ぶが、その声はいつもと変わりなし。
今回の索敵でも敵の姿は無かったんだろうが、敢えて呼ぶって事は何か見つけたのかな?
「敵では無いけれど、前から随分と急いでこちらに来ている者がいるわ」
「前から?」
「ええ。オーギュストが対応するでしょうけれど、私の事はいいからお前も行きなさい」
前から俺たちの下へ急いで来るって事は、そっちで何かがあったんだろう。
アルゼの街とかからも巡回の兵たちが出ているだろうし……その兵だろうな。
それじゃー、俺もオーギュストと合流してくるか。
「……了解。行ってくるね」
セリアーナに一言断ると、俺は馬車から外へと飛び出した。
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「っ!? 来たか、セラ殿」
馬車から飛び立ってすぐに、先頭の一団にいるオーギュストの下へと向かうと、オーギュストはすぐに俺に気付いた。
後ろから音も無く接近する俺に、よく馬で走りながら気づけるよな……。
それに、まだ俺からでも見えていない前方からの伝令にも気づけているっぽいな。
セリアーナの様に加護があるわけでもないのに、どうなってんだ……って気もするが、話が早いのはいい事だ。
俺は「うむ」と頷くと、オーギュストの真横に付けて、彼に向かって声をかけた。
前後からならともかく、並走していると意外と大きな声を出さなくても、しっかりと耳に届くんだよな。
「団長も気付けているみたいだけど、セリア様が、前から兵が来るって! 多分伝令ね」
「ああ! 恐らく、先で異変を見つけたのだろうな。君が来てくれたのはありがたい」
「うん。……お?」
「アレだな」
オーギュストと話をしながら前を向くと、街道の向こうに小さな影が見えてきた。
馬に乗った……兵士だ。
村を出発してから、商人だったり冒険者だったりと何度か街道ですれ違う事はあったが、単独で移動している者はいなかった。
一般人はわざわざ一人で外を出歩く理由が無いし、巡回の兵士にしたっていつも隊を組んでいるし、敢えて一人で別行動をする事なんか、普通はまず無いな。
だからこそ、それだけでも緊急事態ってのがわかるな。
「セラ殿、君は後ろへ」
そう言ってこの一団の後列を指すと、オーギュストは先頭の一団から抜け出して、彼だけで向かって行った。
ちなみに、他の面々は俺の周囲を固めるように移動している。
実質護衛だな。
「皆は団長のとこに行かなくていいの?」
「いや、我々はここで。副長もだが、何かあった際にすぐ閣下や奥様の下に駆け付けられるからな」
「あぁ……それもそっか」
チラっと後ろを振り向くと、ある程度事情を察したのか、馬車を含む後続の連中は少し馬の足を緩めている。
その対応自体は間違いじゃないし、馬車の周囲にちゃんと護衛が付いているが、それでも気を付けるに越した事は無いか。
まぁ、俺を守る必要は無いと思うんだが、ちょっと偉くなったし念のためって感じかな?
「む? 団長はこちらに戻って話をするようだな」
その声に振り向くと、前を走る二人が速度を落として、こちらに合流しようとしているのが分かった。
距離があるからはっきりとは見えないが、二人の表情には切羽詰まった様子は見られないし……意外と余裕がある話なのかな?
まぁ、聞けばわかるか。
◇
「セラ殿こちらへ。お前たちは周囲を任せる!」
「はっ! 行くぞ!」
オーギュストは、伝令と一緒に俺たちの下に戻って来るなり、そう指示を出した。
そして、その指示に従って一気に広がっていく兵たち。
……彼等は話を聞かなくていいのかな?
まぁ、彼等は訓練してるし簡単な指示だけで動けるか。
それじゃあ、訓練をしていない俺は、直接話を聞かせてもらおう。
俺はオーギュストの隣まで行くと、肩に手をかけて速度を合わせた。
その際に、同じくオーギュストと並走している伝令を見るが、なんというか……こざっぱりした格好をしている。
ウチの領地だと、兵士の鎧の素材は金属だったり革だったり色々あるが、動きやすさや、離れた場所からの見つけやすさを重視しているんだ。
だが、この彼の鎧は何なんだろうな?
金属製でありながら動きやすそうではあるが、何か薄そうな素材だし、見栄え重視であまり戦闘向きではない気がする。
治安維持はもちろんだが、街道には色んな土地から来ている人間が多いし、その彼等へのアピールもあるのかもしれないな。
「んで、団長? どうだったの?」
「ああ。彼はアルゼの街の兵で、彼の隊は街道の巡回を担当している。彼女はリアーナ領の騎士団で、副長を務めている。話を始めてくれ」
オーギュストは、俺と伝令の彼に互いの紹介をしながら、話を始めるように促した。
そして、その内容は予想通りのものだった。
ここから街道を西に進んだ先にも村はあるんだが、どうやらそこに武装した余所者が滞在していたらしい。
そして、今朝その連中が村を発ったそうだが、行先が街道ではなくて、街道から外れた場所だったそうだ。
近くに狩場でもあれば、そういう行動もおかしくはないんだが、この辺にはそんな場所は無く、わざわざ次の村へ行くのに街道から外れる必要は無い。
ってことで、怪しんだ村の警備兵から報告があって、彼が報せに走ってくれたらしい。
元々、俺たちが今日ここを通る事と、その際に怪しい連中がよからぬ事を企んでいるかもって事を、簡単にだが伝えていたため、すぐに行動に移ってくれたんだとか。
又聞きだから正確な人数はわからないらしいが、この分なら、その村の側で戦闘になるんだろうな……。
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