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「失礼します」と言って入って来たのは、予想通りオーギュストだったんだが、彼は一人じゃ無かった。

 同行する護衛の騎士団の隊長と冒険者たちのリーダーも一緒だ。


 今日も街の手前で魔物との戦闘があって、その際には彼等にも頑張ってもらったが、それはどちらかというと偶然起きたものだった。

 だが、明日は戦いになるのはほぼ確実だ。

 どんな風な戦いになるのかは俺にはちょっとわからないが、それでも、彼等もちゃんと最新の情報を共有しておく必要があるんだろう。


 しかし、真面目な話をするのに、のんびり食事をしながらでいいんだろうか?

 特に俺。

 2人はもうほぼ片付いているが、俺はまだ……ちょっと、急ごうかな。


 そう考えていると、ふとリーゼルと目が合った。

 何やら俺を見ている様だが……。


「君たちは食事はもう済ませたのかい?」


「はい。既に」


「そうか。僕たちはまだかかるが、食べながらでも構わないかな?」


「ええ。どうぞごゆっくり」


 大丈夫そうだな。


 わざわざ確認を取ってくれたのか。

 ありがたや。


 それじゃー、のんびり食事を続けながら話を聞かせてもらうか。


 ◇


 話の内容は、今回の俺たちを狙う賊の存在に、襲撃を受ける可能性が高いポイントや想定される相手等々……既に王都で説明している事ではあるが、それらのおさらいから始まり、今日の道中での件等だ。


 彼等も多少は把握出来ているようだけれど、後ろからつけて来ていたりした事までは気付いていなかったらしく、その話を聞いて驚いていた。


 ちなみに、後ろを付けられていたことに一番驚いていたのは、冒険者のリーダーだった。

 結局何事も無かったから、それでいい! とはならずに、なんとも言えないような表情を浮かべている。


「私たちは最後尾についていましたが、気付く事は出来ませんでした……加護や恩恵品でしょうか?」


「詳細は語れないけどね。似たような物だよ」


 リーゼルがボカシて答えたが、正解は両方だな。

 ただ、セリアーナの加護があれば俺の【妖精の瞳】はそこまで必要じゃないかな?

 とりあえず、何者かがどこにいるかって事がわかるだけで十分だしな。


「ん?」


 リーゼルの答えを聞いた2人は、俺に視線を向けている。

 なんとなくだが「なるほど」って感じの表情だ。


 首を傾げていると、彼等の後ろに立つオーギュストと目が合った。

 そして、何やら訳知り顔で頷きつつ口を開いた。


「君は何かと有名だからな」


「……なるほど」


 流石に全く関わりの無い平民とかまでには知られていないだろうが、冒険者だったり国内の貴族関係者には、俺の事は少しは知られている。

 さらに、今回の養子の件でもそれなりに噂になっているし、彼等は当然その事も知っているんだろう。

 もちろん、俺が普段からヘビやら恩恵品やら加護やら……色々使っている事もだ。


 それを考えたら、俺が何かの力で調べているって思うのも仕方が無いよな。


 セリアーナの加護は、割と知っている者は限定されているし、詳細ともなればなおさらだ。

 本人の能力に大分左右されるようだが、貴族にとってアレはちょっと便利すぎるからな……。

 隠せるのなら隠しておく方がいいし、俺の能力にしておく方が都合はいいだろう。


 俺は、ふむふむ……と頷きながら食事を続けていた。

 その際に、セリアーナが俺の頭に手をやさしく置いてきたのは、加護の身代わりにした事を、彼女なりに気にしていたからなのかもしれないな。


 ◇


 さてさて。


 俺が黙々と食事を進めて、そろそろ食べ終わりそうになるか……という頃になっても彼等の話は続いていた。


 街の手前で、北の丘に姿を見せた賊連中に、後ろをつけていた連中がいた事。

 そいつらが護衛をしていたはずの商人とは別れていて、恐らく既にこの街に入っている事。

 そして、それらにどういう風に対処するのか等、色々だ。


 ただ、それを聞いても彼等は今のうちに捕らえたら……とかの提案はしなかった。

 やっぱり貴族の護衛事情に精通していると違うのかもしれないな。


 俺も一応話を聞いていたが、少々イレギュラーはあったものの、概ね当初の予定通りで、基本的に変更は無さそうではあるな。


「さて……伝えておく事はこれくらいかな? 何か聞いておきたいことはあるかい?」


「賊は我々が全て防ぎますか?」


「ああ、そうだね。明日は、僕もセリアも剣を帯びておくよ。少しはリセリア家で対処しておきたいからね。僕たちも腕にはそれなりに自信があるから、心配はいらないよ」


 隊長とリーダーは互いの顔を見ると、小さく頷くだけで何も言わず、その2人を見てリーゼルは満足そうに頷いていた。


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 夕食の席で行われた、明日の移動の打ち合わせは、その後もいくつか議題を変えながらしばらく続いたが、それもひと段落して解散することになった。

 食後は適当なお喋りをする事もあるんだが、明日は今日と違って何かと慌ただしくなるかもしれないしな。


 ってことで、俺たちは今日泊まる部屋へとやって来た。

 女性用の貴賓室で、前回も泊まった部屋と同じ場所だな。


 ただ……。


「どう?」


 部屋の真ん中で【小玉】に乗っているセリアーナが、壁に張り付いている俺に向かって声をかけてきた。

 ちなみに、俺は今部屋に何か仕掛けられていないかの捜索をせっせと行っている。


 一度泊まったことがある部屋だとはいえ、ここは他の者も利用する事が出来る部屋だ。

 何かを仕掛けようと思えば、その時に仕掛けることも可能だし、油断する訳にはいかないからな!


「うーん……うん。とりあえず、こっちは大丈夫だね」


「お前は相変わらず細かいわね」


「まーねー」


「お前も立場が変わったし、そろそろこの役目も解除した方がいいのかしら……」


 セリアーナは俺を見ながら頬に手を当てて、そんな事をボヤいている。


 まぁ、元々俺がその役目を行っていたのは、当時の俺がセリアーナの護衛兼侍女みたいな感じだったからなんだよな。

 今はちょっとその立場から変わったしな。


 これがもう少し低い爵位の家だったならまた別なんだろうが、一応伯爵家の人間になったわけだし、あまり俺が警備や捜索までやってしまうってのはいい事じゃないのかもしれない。

 だが……。


「んー? いや、オレは自分で調べた方が安心出来るし、そのままでいいんじゃないかな?」


 滅多にその機会は無いが、基本的に外泊する際は、俺とセリアーナの部屋は一緒になっているんだ。

 それなら、自分でやってしまうのが一番確実だ。


 俺個人の能力ならともかく、恩恵品やヘビたちも使えるからな。


「そう。なら、今後も任せるわ。まあ……その機会もそうは無いでしょうけどね。じゃあ、隣に行きましょうか」


「はいはーい」


 俺の言葉に、セリアーナは肩を竦めながら返すと、そのまま隣の寝室へと向かって行った。


 ◇


 寝室に移ると、同じく俺はそちらのチェックを行った。

 結果は、こちらの部屋も問題無しだ!


 ってことで、俺たちは寝巻に着替えて部屋で過ごすことにした。

 明日の出発も今日と同じく昼からだから、寝るにはまだ早いし、セリアーナにベッドで横になってもらい、マッサージをしつつ適当な事をお喋りだ。


 今日はずっと座りっぱなしだったから、腰や背中をメインに施療を行っている。

 いつも通りだな!


 そして俺は、ベッドの上にうつ伏せになっているセリアーナの腰に乗り、背中に手を当てながら話をしている。

 これも、いつも通りだ。


「ねー」


「どうしたの?」


 セリアーナは、枕に顔を埋めたままのくぐもった声で答えた。

 普段だとまずこういった気の抜けた振舞いは行わないんだが、セリアーナも慣れてきたからなのか、最近のマッサージ中はこういった感じになってきているな……。


「明日も出発はお昼でいいの? 到着はまた今日と同じくらいになっちゃわない?」


 明日の移動距離も今日と同じくらいだし、大体同じくらいか……あるいは襲撃の具合を考えたら、さらに遅れるかするだろう。

 一般的な出発の時間と合わせて、早朝から出たりしなくていいんだろうか?


「ああ……。どうせ港についても船の出発は夜よ? 下手に早めについても街で待機することになるし、そうなったらもし残党がいた場合、面倒なことになるでしょう? もちろん、必ずそうなるわけじゃ無いけれど、極力他家が治める街で騒動は起こしたくないわ」


「なるほど……。荷物はもう送り届けているし、街に着いたらそのまま港に行くんだね」


「そういう事よ。もっとも、私たちが必ずそこを目指す事は分かっているし、既に街中で潜伏されていたら、どうしようもないかもしれないけれど……そこはもう考えても意味が無いことよ」


「それもそうだねー」


 これだけ備えていても、結局相手次第ってなってしまうのがアレではあるが……とりあえず、こちらも倒し方を選べる程度には戦力はしっかり整えているし、とりあえずは何とかなるか。


「そういえばさー……」


 もう船に乗るまでの間に俺が何か出来る事は無さそうだし、この話題はここまででいいだろう。


 俺は話を船に乗ってからの事に切り替えることにした。

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