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最初の破裂音がしてから20分も経っていないだろうか?
それまで破裂音だけじゃなくて、指示の声や馬が走り回る音もしていたが、それらも聞こえてこなくなった。
これは……。
「終わったわね。小型ばかりとはいえ、全部で100匹近くいたにもかかわらず、損傷は無し。上出来じゃない?」
数が多いとは言っていたけれど、そんなにいたのか。
夜という状況を考えたら、少々時間はかかったものの、損傷無しで乗り切れたのは立派なもんだ。
「そんなにいたんだね……。結構魔法とか使ってたみたいだけど、街道は大丈夫なのかな?」
「どんな魔法を使ったのかはわからないけれど、オーギュストが直接指揮を執っているのだし、街道に影響が出るような類の魔法は使わないでしょう。気になるようなら、街について……セラ」
俺の疑問に答えるセリアーナの言葉は、御者からの窓を叩くノックの音で遮られてしまった。
とりあえず、窓を開けるかね。
もっとも、何の用かってのは予想出来るけれど。
「はーい。どうしたの?」
「はっ。戦闘が終了したようです。街道上の魔物の死体を退かしたら出発するので、すぐに終了するので、それまで待って欲しいとのことです」
「はいはい。了解です」
御者の言葉は予想通りで、戦闘終了の報告だった。
どんな戦いが繰り広げられたのかはわからないが、100体近い魔物の群れだし、死体もあちらこちらに散乱しているだろう。
死体の処理自体は、明日にでも街の兵に任せてしまえばいいだろうが、街道の死体はちゃんと片付けないと、俺たちが乗る馬車が踏み潰すことになるもんな。
公爵様と、その奥様が乗っているんだし、それは駄目だよな。
「もう少しかかるみたいだね。……どうかしたの?」
窓を閉めて、セリアーナに伝えようと振り向くと、今まで閉じていた目を開けたセリアーナが、何やら北の方を睨んでいる。
何かあったのかと訊ねると、返事をする前に無言で【琥珀の盾】を外して、俺に渡してきた。
「……何事?」
【琥珀の盾】を受け取り、指にはめながら、再度何か起きたのかを訊ねた。
「後ろはまだ離れているけれど、街道の北からこちらを窺っている者たちがいるの。戦闘音に気付いて、街に入らずにこちらに向かってこようとしているわね」
「北? あぁ、王都以外に潜んでいた人たちだね?」
元々俺たちが警戒していた連中の事か。
街道から外れた場所にある村に潜伏していて、俺たちに合わせてグラードの街に入ってから、明日の残り半分の移動中に他の連中と合流して襲撃をしてくる……そんな動きを想定していたが、今の騒動がチャンスと思ったのかもしれないな。
しかし、それならセリアーナが【琥珀の盾】を外して、俺に渡してくるってのが腑に落ちない。
自分こそ守りを固めるべきなのに……。
ってことはだ。
「倒して来いって事かな?」
これか?
「違うわ」
セリアーナは呆れた視線を向けてくると、一言で切り捨てた。
違ったか……。
ならなんだ……と続きを待つと、セリアーナは指を一本立てて、そのまま真上に向けた。
「上に数分でいいから止まって頂戴。その状態のお前に攻撃を仕掛けてくるかを知りたいわ。2発防ぐことが出来たら、お前なら退避する事は可能でしょう?」
「うん。でも……2発だけじゃなくて、もっと耐えることも出来るよ?」
この加護も恩恵品もすぐ再発動は可能だし、北にいるのが何人なのかはわからない。
だから、延々攻撃を受け続けられるとは思わないが、戦うためじゃなくて相手の出方を窺うだけだし、適当に回避も交ぜていけば、それなりに受けられると思うんだ。
まぁ、後ろの連中が気が変わって仕掛けてきたら面倒だし、あまり時間をかけるのもよくないからなのかな?
「必要ないわ。相手がどんな者かがわかればそれだけでいいのよ。戦う事は兵たちに任せたらいいわ」
「なるほど……りょーかい」
「【祈り】も使っておくのよ」
「うん。それじゃー……ほっ! っと、行ってくるね」
【祈り】をセリアーナにもかかるように発動して、俺はまたしても外へと飛び出した。
◇
外に出て馬車から距離を取って、流れ弾が万が一にも当たらない場所まで移動すると、そこで高度を上げることにした。
そして、まずは周囲を見渡してみたのだが……ちょっと失敗だったかもしれない。
片付け中の魔物の死体がしっかりと目に入って来た。
「……ぉぅ。結構グロイことになってるな」
倒す事を優先して、倒し方なんかにこだわっていなかったのだろうか?
頭や腹を潰されて中身がこぼれている死体が、街道上にゴロゴロと……。
【祈り】で視力も強化したことが仇になってしまった。
「ふぅ」
見なかったことにしようかね。
気を取り直して北を見よう。
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「…………あれか?」
王都圏は平地に作られているが、流石にそこから数十キロも離れているこの辺りになると、平らな場所ばかりとはならない。
今俺たちがいる場所も、高低差だけじゃなくて、街道から外れた先にはちょっとした丘のような地形が広がっていたりもする。
んで……その丘の上に10人ほどの人の気配が見えた。
これが昼間ならあの場所で休憩をしている冒険者……って事も考えられるが、今は夜で辺りは真っ暗だ。
そんなわけないよな。
あそこにいるのが、セリアーナが言っていた賊連中だな。
「あっちはいいか。それなら、今度は後ろを……」
セリアーナに命じられたのは、北の丘の上にいる連中相手の見極めだが、距離があるしアレは一先ず無視していいだろう。
数キロはあるもんな。
丘から降りてこないといけないし、今の段階で俺たちを狙うのは難しすぎる。
それよりも、折角上空に上がって来たんだ。
さっき外に出た時は、むしろ今と違って目立たない様にしていて、後ろの状況を把握出来ていなかったんだよな。
セリアーナは自分の加護で見ることが出来ているが、俺には無理だった。
この機会を逃さずに、後ろの連中も見ておこうかね……!
「ぬーん…………アレ……かな?」
気合いを入れて後ろを睨んでいると、大分離れた所に小さな光点が固まっているのが見えた気がする。
どれくらい離れているかな……。
10キロ程度じゃなくてもっと離れているし足も止めている。
距離がありすぎて、俺が王都の問屋街で見つけた連中と一緒かまではわからないが……真っ暗でよかったな。
昼間ならとてもじゃないが見つけられなかったはずだ。
「ふーむむむ……。アッチもコッチも何か出来るような距離じゃなさそうだし、これはそのまま降りちゃっていいのかな?」
俺の役割は、要は囮のようなもんだし、なにかしら行動を引き出せるといいんだが、流石にどうにもならないだろう。
このまま上に留まっていても何もやる事は無いだろうし、下の魔物の片付けが済んだら出発だ。
馬車に戻っておくか。
街道の西の先に目をやれば、地面より高い位置にうっすらとだが光が見える。
アレがグラードの街だろう。
これまでと同じペースで進んで、30分弱ってところか。
もうすぐだな。
「それじゃー降り……ん?」
馬車に戻るために高度を下げている途中で、何やら後ろ襟をヘビたちに引っ張られた。
「どうしたん?」
何事かなとそちらを振り向くと、丘の上に、潜り蛇の目の効果で見える生物の反応とは明らかに違う小さな光が見えた。
「はて?」と思いながら、降下を止めてその光を見つめていると、一瞬弾けるように強い光を放った気がした。
そのままその位置に止まっていると……。
「……わっ!?」
バチンっ! と乾いた音がしたかと思うと、続いて、俺の体がズレる程度の衝撃もやって来た。
風か何かの魔法だろう。
距離がある上に、元々魔力を大して込めていなかったのか、【琥珀の盾】が効果を発揮する前に、【風の衣】だけで凌ぐことが出来たようだ。
とはいえ、威力でいうなら大人にぶつかられた程度で、大したものではないんだが、俺は宙で目立っていた上に、音もそこそこ大きかった。
下で見ていた兵たちには、明らかに異常事態に見えてしまったんだろう。
「セラ様!?」
下で作業をしていた兵たちは、口々に俺の名を呼びながら馬車の側へと集まり始めた。
突発的な出来事だったが、しっかりと護衛の働きをしているあたり、ウチの兵だけじゃなくて王都圏の兵の練度も悪くないんじゃないか?
ともあれ、問題無いという事を伝えないとな。
「だいじょーぶだいじょーぶ。なんともないから、作業に戻って!」
「……はっ」
兵たちは答えはしたものの動きは鈍く、馬車の周りから中々離れようとしない。
気持ちはわからなくもないが……さて、どうしたもんか。
「セラ殿! 問題は無いのか?」
先頭にいたオーギュストだったが、彼にも音が届いたのか、こちらにやって来て彼等と同じ様な事を訊ねてきた。
「無いよ!」
「……了解した。お前たち、作業に戻れ。さっさと片付けて出発するぞ!」
オーギュストの言葉に返事をすると、今度こそ兵たちは作業に戻っていった。
「オレはもう少し残っておこうかな……」
元々馬車に戻る予定だったが、下の作業が完了するまでは俺もこの場に留まっておこう。
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