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「ぬぐぐ。んがー! はー……よく寝たわ」
唸りながら、両手で布団を跳ね除けて上体を起こした俺は、まずは隣を見ることにした。
既にセリアーナの姿は無いし、彼女はもう起きているんだろう。
次に日が差している、明るい部屋の中を見渡した。
「…………どこよ?」
どこだここ?
部屋の中に日が差している時点で、ここが屋敷の寝室じゃないのは確かなんだが、一体ここは……?
12畳ほどの広さの部屋で、俺が今いるベッドの他には、棚や小さなテーブルと椅子が置かれている。
この雰囲気は、恐らく個人用の客室かなんかだろう。
……だが。
何で、そんなところにいるんだ?
「オレ昨日屋敷のベッドで寝たよな? ……寝たか?」
そういや、ベッドに入った記憶が無いな。
「いや、目覚めたんだから寝たのは間違いないんだろうけれど……。アカメ?」
声に出す必要は無いんだが、アカメを呼ぶと、いつもの様に胸元から頭を覗かせた。
ついでに、シロジタとミツメも一緒だ。
ヘビたちがいるって事は、別に俺の身に何かがあったってわけじゃ無いんだろう。
まぁ、あの屋敷にいて、俺が何者かに攫われるって事はまずありえない事なんだが……それならこれはどういう事なんだろう?
「んーと……あ、ちゃんと恩恵品は身に着けてるんだね。ってことはだ」
俺は寝る時は、恩恵品は外している事が多い。
寝ぼけて発動させたりは今までも一度もした事は無いが、それでもセリアーナと一緒に寝ているし、万が一の事があったら大変だもんな。
だから、普段は寝る前に【隠れ家】に仕舞うか、寝室にあるセリアーナの装飾品を入れる箱に一緒に入れて貰ったりしていた。
ただ、基本的に【隠れ家】の方に仕舞う事がメインなんだ。
……ベッドに入る前に寝ちゃったんだろうな。
しかし、そうなるとますますここはどこなんだ? ってなる。
何となくセリアーナの部屋で話をしていた事は覚えているが、そこから先の記憶は無いし、恐らくそこのソファーの上で寝落ちしてしまったんだろう。
ただ、その距離ならセリアーナがベッドまで運べるはずなんだよな。
今まで何度も運んでもらったことがあるし……。
「ふーむ……あっ!? 【浮き玉】!」
慌ててベッドの上に立ち上がり部屋中をキョロキョロ探してみるが、いつもは近くに転がしているあのデカい玉が見当たらない。
「マジか!?」とさらにベッドから下りて、ベッドの下なんかも見てみるが……どこにもない。
驚きで、流石に頭も一気に目が覚めてしまったが……ここは本当にどこなんだろう。
「とりあえず、外を見るか……?」
何はともあれ、このままベッドの上でキョロキョロしていても仕方が無いし、一先ず外の様子を調べてみようと、窓辺に行くことにした。
幸い……というか、これは当たり前なんだが、手首に刺青がしっかり残っているし、【小玉】はちゃんと発動出来た。
「よしよし……。それじゃーっ……と」
念のため【祈り】を発動してから、現れた【小玉】に乗って、そのまま窓辺に向かった。
恐らくここは王都の貴族街だろうし、夜とはいえ、つい先日貴族街の散策もしてきたばかりだ。
窓から見える風景で、ここがどの辺の屋敷かってのはすぐにわかるだろう。
自分がどこにいるのかもわからずに呑気に外を眺めるのは、少々危険すぎるかもしれないが……少なくともここが敵地ってわけでもなければ、危険があるってわけでもなさそうだし、大丈夫大丈夫。
自分にそう言い聞かせつつも、慎重に窓辺に向かって行きながら、窓の外を覗きこんだ。
さて、何が見えるだろうか……。
「えーと……。んんん?? 前の通りって中央通りだよな?」
俺がいる部屋は、高さから考えて屋敷の2階だろう。
貴族街には3階以上の高さの建物はほとんどないから、その情報は何の役にも立たないが、とりあえず窓から外を見たら、とても見覚えのある通りが目に入って来た。
そりゃー何度も通っているもんな。
見間違えるわけがない。
さらに、見覚えがあるのはそれだけじゃ無い。
「お向かいさんの門にも見覚えがあるよな……」
距離があるから、流石に【祈り】で強化された視力じゃないと、ハッキリとは判別できないが、それでもココから出た時には何度も目に入って来たからな。
つまり、ここは。
「ミュラー家の屋敷か……」
俺がここに滞在していた時とは違う部屋だが、窓から見える景色全部に見覚えがあるし、間違いないだろう。
「……びっくりした」
そう呟いて、大きく息を吐いた。
目が覚めたらいきなり知らない場所にいるんだ。
そりゃー驚くさ。
とはいえ、ここがミュラー家の屋敷だって事は分かったが、何でまた俺はココにいるんだ?
ちょっと外に出てみようかな?
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「服は……寝巻だな。オレ昨晩はどんな格好してたっけな……」
部屋の外に出る前に、自分の身だしなみのチェックを行うことにしたのだが……着ている服は薄いブルーの寝巻だった。
確か昨晩は、外から帰って来てそのままの恰好でセリアーナと話をしていた記憶がある。
「……うん。着替えはしていないよな。ならこの服はセリアーナが着せたのかな?」
俺の王都での着替えの服は、【隠れ家】にももちろん用意しているが、それ以外にも、セリアーナの寝室の棚に一緒に仕舞ってもらっている分がある。
そして、基本的にそちらをメインに利用しているんだ。
今着ている寝巻も、その棚に仕舞っていた分だし、それを着ているって事は、セリアーナの仕業だろう。
「……ふーぬぬぬ。マナー的には着替えた方がいいのかもしれないけど……ま、いっか。とりあえず出ればなんかわかるよね」
何のために、この屋敷にいるのかは結局まだわからんが、とりあえずじーさんかオリアナさんの部屋に向かえば、何かわかるだろう。
使用人の顔ぶれも、以前とは変わっているかもしれないが、流石に俺がここにいるって事を知らされていないって事は無いだろうし、怪しまれる事も無いはずだ。
この恰好で出歩くのはどうなんだろうという気がしなくもないが……、よくよく考えると、今更身だしなみだとかそんな事に気を遣う必要もないよな。
「よしっ! 行くか!」
俺は、ドアの前で一旦軽く髪を整えて、ドアノブに手をかけた。
そして、廊下に出ると、まずは左右の確認をすることにした。
ミュラー家の王都屋敷は、本館と中庭を挟んで南北に男女の棟が分かれている。
んで、俺が今いた部屋は北棟の本館すぐ手前にある、階段近くの部屋だった。
どこからともなくカンカンと音が響いてきているが……どこかの補修作業でもしているのかな?
まぁ、いいか。
廊下に使用人の姿は見えないし、予定通り、一先ず1階に下りて二人の部屋にでも行こうか。
「それじゃー下に行こう……お?」
階段に向かいながら、何となく窓から中庭を眺めたところ、中庭で何やら剣を振るう人影がいくつか見えた。
あのカンカン響いている音は、ここか!
一人はじーさんだ。
大きな木剣を手にして、正面の相手に対して構えを取っている。
んで、もう一人。
じーさんと対峙している相手だ。
2階の廊下からだと小さくしか見えないが、金髪のポニーテールで、乗馬用の服を着た変な玉に乗った女性……セリアーナだな。
通常サイズの木剣を手にしたセリアーナが、【浮き玉】に乗りながら、何故かじーさんを相手に剣を振っていた。
そして、その二人の周りにはミュラー家の兵かな?
彼等も一緒に剣を振るっていた。
「……何してんだ? いや、剣の稽古ってのはわかるんだけど……」
リセリア家の屋敷と違って、こちらの屋敷の中庭は今セリアーナたちがやっているように、ちょっとした訓練用に整備されている。
だから、この光景自体は別におかしいもんじゃないんだ。
昔ココに滞在していた時にも、何度か見たことがある光景だしな。
それでも、何でセリアーナが稽古をしているんだって疑問は拭えない。
とはいえだ。
「まぁ……でも、これで別に異常事態とかそんなんじゃないってのは分かったね」
セリアーナが、じーさんと稽古をするためにこっちの屋敷を訪問したけれど、その際に俺も一緒に連れて来たって事だろう。
それなら、何もコソコソする必要は無いだろうし、とりあえず俺もセリアーナの下へ行こうかな。
「ふんっ!! ふががががっ……! よいしょ……と。重いな……この窓」
自分で窓を開ける機会があまり無いので、ついつい忘れていたが、この世界の窓って結構重たいんだよな。
ステンレスなんてないし、頑丈な物はイコール重たいって事が多々ある。
窓を開けて、外に出て、そして窓を閉める。
たったこれだけの作業で汗をかいてしまった。
それでも、【祈り】を発動していなければ、ここまでスマートに開けられなかったかもしれない。
カギは……後でいいかな?
「さて……と。む?」
窓も閉めたし、下に向かおうとそちらを向いてみれば、先程まで剣を打ち合っていた二人が、手を止めてこちらを見ている。
加護で俺の動きを把握出来ているセリアーナはもちろん、じーさんも勘がいいしな。
普通ならわざわざ2階の窓なんて見ないだろうが、バッチリ見られていたか。
……どこから見られていたんだろう。
窓を開けるのに手こずってるところとか見られてたかな……?
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