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俺はそもそも対象外。
中々辛辣なセリアーナの言葉に反論したくはあったが、俺が昔メイドの真似事をしていたのは、正にそういった風に思わせるためだもんな。
ある意味狙い通りなのか……。
それに、俺が察知系の能力を発揮するのに必要な目玉もヘビも、加護と違い、どちらも隠したって外からでもちょっとよく見たらわかる事だ。
だから、ある意味フリーなのかもしれない。
今晩は巡回の兵たちの前でもモロに出していたけれど……まぁ、俺も騎士団の一員だったし、公爵家っていうちゃんとした後ろ盾があるからな。
「ぬぅ……」
「お前……本当に何かやらかしたの?」
「あ、いや……ちょっと帰って来る時に、貴族街もお散歩をね?」
唸っていると、コイツなにしたんだって声色でセリアーナが声をかけてきたので、慌てて答えた。
セリアーナはそれを聞いて、「はぁ……」と溜め息を吐いて、額を抑えている。
そして、ジロリとこちらを睨むと、口を開いた。
「ああ……。今日は仕事があったし範囲を広げていなかったから、貴族街全域を見ることが出来なかったけれど、お前がチラチラ範囲に入ったり出たりをしていたのは見えたのよね。何をしていたのかと思えば……」
そして、もう一度大きく溜息を吐いた。
「まあ。いいわ。その冒険者たちの事は、明日にでもリーゼルに伝えておきなさい。加護か恩恵品かはともかく、貴重な技量持ちが領地に興味を示しているのなら誘わない手は無いし、お前が言うように、そこまで身分や地位にこだわりが無いのなら、ウチはいくらでも狩場があるでしょうし、彼等にとってもいいかもしれないわね」
「だよね」
うむうむと頷く俺を見て、セリアーナは「フッ」と一瞬笑みを見せたが、またすぐに表情を引き締めた。
「ええ。それにしても、意外な所から情報が出てきたわね。弓と剣……。遠間から射かけて、その隙に接近して剣で仕掛けてくるか、あるいは、馬を先に潰して、こちらの足を奪ってからにするか……。色々考えられるけれど、厄介な者たちね」
「やっぱ厄介なの?」
ダンジョンでの魔物との戦いよりも、地上での護衛を専門にしている連中だ。
優秀なのはわかるし、実際先程も改めて見てきたが、高い能力を持っていることは分かっている。
だが、いくら高い能力を持っていようと、護衛を専門としている連中の襲撃がそこまで厄介なのかな?
「弓が厄介なのよ。遠距離の攻撃手段が魔法なら、襲って来ると分かっている以上どうとでも防ぐことが出来るけれど、弓はね……」
「そっか……。魔法だとある程度離れていても、撃たれたらわかるのかな?」
もちろん簡単な事ではないが、オーギュストがいるしな。
少なくとも彼なら、セリアーナの加護の範囲外からの不意を突いた攻撃だとしても、着弾までに魔力の流れ等から察する事が出来るし、襲撃を受けたとしてもそれに対処をすることだって可能だろう。
ところが、弓だと攻撃の予兆は何も無いからな。
精々近づいて来ているって事くらいだ。
セリアーナだって、馬車での移動している間中ずっと加護を発動しているわけにもいかないし、射かけられるまで気付くことが出来ないかもしれない。
近付いてきている事には気付けても、こちらから先制攻撃を仕掛けるわけにもいかないし、一手目は相手に譲らなければいけない。
だから、リーゼルたちはその一手目をしっかり防ぎきる事に力を注いでいたんだ。
賊側だって、全員が全員やる気に満ち満ちているってわけじゃないみたいだし、その一手目を防げば、やる気が無い組が投降するだろうし、それで十分対処出来るはずなんだが……。
「賊連中で連携はとって来るでしょうし、初手を防いだ後も接近戦を積極的に仕掛けてくる可能性が高くなるわ。もちろん、こちらも防ぐことは可能でしょうけれどね」
そして、瞼を閉じて何やら考え込み始めた。
対処法でも考えているのかな?
セリアーナの思案の時間は1分ほどだっただろうか。
彼女にしたらちょっと長かった気もするが、何かいい考えは浮かんだのかな?
「何か思いついた?」
そう訊ねると、セリアーナは肩を竦めている。
なんか、芳しくなさそうだな。
「いいえ。今から集めようとしても、少数で戦力になる様な者はいないでしょうね。お前が調べたことでしょう」
「ぉぉ……確かに。ダンジョンに行ってそうだよね」
「そもそも、当初の予定でも十分対処可能なはずだし、身辺を調べる時間が無いのに、無理に集める必要もないわ」
「そっか……。ウチの兵強いもんね」
今日は王都の兵や冒険者を色々目にしたが、その中でもやはりリアーナの兵は頭一つ抜けている。
ハードな土地だもんなぁ……そうなるのも無理はない。
んで、リーゼルたちに付いて王都に残っていた兵は、ウチの兵たちの中でも選りすぐられた連中だ。
多少無理してもらう事になるかもしれないが、まぁ……何とかしてくれるだろうな。
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冒険者ギルド前で出会った冒険者たちから得た情報を一通り話し終えて、再び中央広場に戻ってからの話になった。
もっとも、精々問屋街を上空から調べて、相手の戦力を多少把握する事が出来たってくらいで、さほど重要なものがなかったからってのもあるかな?
中央広場に戻る前に知った、弓と剣を使うかもって情報以上のものは無いもんな。
「そして、貴族街に戻ってきたところで、真っ直ぐ帰って来ずに、色々と見て回って来たのね……」
「うん。途中巡回の兵たちに何回かあったけれど、特に何も言われる事は無かったよ。まぁ、身元もはっきりしてるからかな?」
俺の言葉に、セリアーナは頷くと補足するように口を開いた。
「それに、わざわざウチやミュラー家が揉め事を起こすとは考えられていないのでしょうね。騎士団も、全ての貴族家の関係までは把握出来ていないでしょうが、それでも王都に屋敷を持つ家の、他家との関係は把握出来ているでしょうね。貴族街を巡回する兵たちにもその情報は共有されているでしょう」
「あぁ……確かにそうかも」
「巡回の兵よりお前の方が身分は上なのだし、公爵家と伯爵家が後ろに付いている以上、貴族街を見て回る程度の事は咎められないでしょうね」
「それもそうだね。……そうだ」
「どうしたの?」
咎めるという言葉で、ふと思いついた事があり、ついつい言葉を出してしまった。
セリアーナは、何事? という表情で俺を見ているが、答えるか否か……どうしよう。
まぁ、いいか。
「いやさ……、今晩のオレが移動した場所ってさ、先日オレが昼間出かけた時に、ここまでなら好きに動いてもいいって言われた場所を越えてるんだよね。てっきり、何か言われるのかなー……って、考えてたんだけど。なんもなし?」
「なに? お前叱られたいの?」
「いや、そんな事は無いけど……」
呆れたような視線を向けてくるセリアーナに、そんな事は無いとしっかり伝えつつも、ちと腑に落ちない感じはしている。
セリアーナは数秒俺の目を見ると、小さく「はあ……」と溜め息を吐いた。
「確かに先日許可した範囲内で……とは言ったけれど、別に絶対にそれを守れという訳では無いわ。そもそも、エリアを区別した理由はちゃんとわかっているでしょう?」
「賊とか妙な連中に狙われたり、無駄な騒動に巻き込まれないように……でしょ? そりゃー、もちろん気を付けたけどね」
周囲を常に警戒していたし、万が一何者かに襲われても離脱する備えはしていた。
そういった襲撃が行えないようなルートを選んでもいた。
そもそも、俺が向かった先は冒険者ギルドだし、そこにいる以上は相手が冒険者しかいないのもわかっていたから、まず危険は無いだろうとはわかってはいたんだ。
「区別した理由も理解しているでしょうし、それなら多少はお前の判断で好きに動いても問題無いわよ。どうせ禁止していたって、結局何か気を引かれるようなことがあれば、無視するでしょう? それでも、自分の限界は把握出来ているから危険は避けるし……。その程度は信用しているのよ」
「うん。……うん?」
信用はしてくれているような気はするが……結局言う事を聞かない奴って思われているような気もする。
まぁ、いい……のか?
「それにしても……」
「うん?」
首を傾げて悩んでいると、セリアーナの溜め息交じりの声が聞こえてきた。
何事かな? と思い、彼女を見ると、困った様な表情でこめかみを指先で叩いている。
襲撃への対処に関して考えているのかな?
護衛の編成はリーゼルやオーギュストたちに任せるが、俺たちも何かあったら動く可能性があるもんな。
何でもかんでも丸投げってのは駄目なんだろう。
「……まあいいわ。これで話は終わりかしら?」
「うん? まぁ……そうだね」
元々ただのお散歩のつもりで出かけただけだし、何か情報を得ようと思って出かけたわけじゃないんだ。
冒険者と賊絡みのネタを除いたら……精々夜でも街に住民の姿がある事とか、街の設備が良かったなーくらいだもんな。
「結構。それならそろそろ外に出ましょう。お前は明日の予定は入っていないわね?」
「うん? うん。何も無いよ」
明日って何かあったかな?
と一瞬考えてしまったが、今晩のネタをリーゼルに説明する必要もあるし、その事だろうな。
明日の予定なんて、何も入っていない。
精々領地への帰還の用意で、【隠れ家】の中の荷物を少し移動させるくらいだ。
俺がそう答えると、セリアーナは、また「結構」と呟いて、玄関に向かって歩いて行った。
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