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 多分複数の方向から、これまた複数の集団で仕掛けてくるんだろうが、それに乗じて問屋街にいた連中も襲ってくるんだろう。

 上手い事タイミングを合わせる事が出来たら、背後をつく事が出来るだろうしな。


 ……まぁ、セリアーナの加護がある以上、奇襲はほぼ不可能だし、仮に俺たちが襲撃する側だったら、まずそんな事はしない。

 奇襲するには戦力を分散させて、バレにくくしないといけないもんな。

 だが、セリアーナが相手にいるなら無駄になるし、それならバレることを前提に、戦力を集中して一気に急襲する方が望みはある。


 ただ、相手がセリアーナの加護の事を知っているかはわからない。


 それとなく知られていても、その気になればアホみたいな広範囲を探る事が可能な事だったり、【妖精の瞳】とのコンボも可能だったりとか、色々あるからな。

 その全部を把握出来ているって事はないはずだ。

 だから、こちらも全方位からの襲撃に備えなければいけない。


 単純に脅威として考えるなら、戦力を集中される方がおっかないが、色々な手間を考えたら分散されるのもやっかいだし……どっちもどっちだな。


 ともあれ、相手は分散してくるだろうってリーゼルたちは考えている。


 わざわざ無関係の商人に荷を運ばせたりしてまで、俺たちの予定と重ねようとしているんだ。

 あまり余力のない状態で、そこまで力を入れているんだし、むしろしてこなかったらビックリだよな。


 ここ数日のリーゼルたちの忙しさは、それに備えるためだ。


「そんで、オレたちは何かすんの?」


 諸々の説明はオーギュストから聞かされたが、それで俺たちはどうするのかってのはまだ聞いていない。

 とりあえず、元の予定だと周囲を適当な人数の護衛で固めて移動するってだけになるが……。


「まず襲撃は起きる。それを前提とするが、他所で待機している賊ともタイミングを合わせて来るはずだ。当初の想定よりも数が多くなるだろう」


「うん」


 元々周囲の村とかに分散していた連中が、タイミングを合わせて合流してってことだったけれど、数はそこまで多くないって考えていたんだよな。

 それが増えるとなると、今の備えだけじゃ対処出来……はするけれど、確実に無傷で切り抜けられるかはわからないし、どうすんのかなと、オーギュストを見た。


「だからといって、こちらも護衛の数を増やす事は出来ない。ミュラー家からも兵をお借りするが、各家が動員できる戦力に限りがあるからな。そもそも本来は王都での護衛が役割なんだ。あまり王都から引き離すのも良くないだろう?」


「そうだね」


 王都の屋敷が襲われるってことはちょっと考えられないけれど、だからといって、無防備にしていいってもんでもないだろう。


「それなら冒険者でも雇うのかしら? あまり人を増やすのは好ましくないのだけれど?」


 今まで黙って話を聞いていたセリアーナが、横から口を挟んできた。

 セリアーナ的に、十分防げるのに人を増やされるのは嫌なのかもしれないな。


「ええ、もちろんそれは考慮しております。3台の馬車で移動する予定でしたが、それとは別に2台追加して5台で移動する事になりました。要は囮ですし、人を乗せずに空馬車で奥様が乗る馬車を囲ませます」


 俺たちが行きに使った馬車は、荷物を積んだ分も含めて2台だった。

 今回は俺たちに加えてリーゼルも一緒だが、実は既に、こっちで買った荷物とかは商業ギルド経由で送らせているんだよな。


 さらに、船旅の間使う日用品や着替えなんかも、港に運ばせていて、向こうで拾うことになっている。

 馬車は2台もあれば十分なんだが、一応途中の事故なんかに備えて、予備を1台確保していた。


 領地と違って、こっちは馬車はそんなに大量に確保しているわけじゃ無いんだろうけれど……さらに2台追加か。


 俺とセリアーナは一緒に乗るとして、リーゼルは別だよな?


 そんで、オーギュストは外で馬に乗って移動するし……3台も空き馬車が出来るのか。

 そして、その囮の3台が俺達が乗る馬車の後ろと左右を守るんだろうな。

 囮兼盾ってわけか。


「流石にウチの紋章入りは用意が間に合わなかったからね。通常の馬車だが……君の加護の範囲外からの一撃を防げさえしたらいいんだ。それでも構わないだろう」


「3台ね……。貴方に壁は必要ないのかしら?」


「ああ、大丈夫だよ」


 リーゼルはニコリと笑って言い切り、そのリーゼルを見てセリアーナは「そう」と一言だけ呟いた。


 リーゼルが乗る馬車は俺たちの前を走ることになるだろうし、ピンポイントで狙われる事はないと思うが……それでも絶対安全って事はないと思うんだよな。

 それでも、大丈夫と言いきっちゃうあたり、凄い余裕だ。


「まあ、どれも断言はできないけれど、それでも元々戦力はこちらが上だし、相手の攻め気を削ぐ事さえ出来たら十分なんだ。この備えで問題はない。安心して、残りの滞在期間を過ごしてくれ」


 しばらくセリアーナたちは意見を交わし合っていたが、最後にリーゼルの言葉で、今日の話は終わりとなった。


925


 リーゼルたちとの話を終えて部屋に戻ってきたが、寝るにはまだ少し早い。

 セリアーナは机で何か手紙を書いている様だが、俺はどうしたもんか……。


「あ!? ちょっと出て来てみてもいいかな?」


 なにしよーかな……と、考えていたが、部屋に戻る際に廊下の窓から外の様子が見えた事を思い出した。

 街は少しは見てきたけれど、アレはあくまで歩行者の目線の高さだったからな。

 折角飛べるんだし、上空から久々の王都を堪能してもいいんじゃないか?


 あまり王都の空を飛び回るのは良くないが、今は夜だ。


 街には街灯があって真っ暗って事はないが、前世の街の様にそこらにネオンが光っているわけでも無い。

 ちょっと飛んで回るくらいなら見つかる事はないだろう。


「……外を?」


 セリアーナは眉を顰めてこちらを見てきた。


「そうそう。今は夜だし、人も少ないでしょう? この間でかけた時は、人も多くてちょっと不十分だったからね」


「仕方が無いわね……まあ、いいわ。行ってきなさい」


「旦那様には言っておいた方がいいかな?」


 ついさっき別れたばかりだが、一応外に出るんなら彼の許可を得ていた方がいいかもしれないが、どうしよう。

 セリアーナの反応を待っていると、彼女は少し考えるような素振りを見せたが、小さく頷いて、こちらに向かって手を伸ばしてきた。


「そうね。少し待ちなさい……【妖精の瞳】を」


「お? はい」


 セリアーナの出してきた手に、耳から外して【妖精の瞳】を置いた。

 セリアーナは自分の耳に着けると、発動して、さらに目を閉じているし……これは彼女の加護も発動しているな。

 恐らく、街の様子を探っているんだろう。


「…………なんか問題ありそう?」


 待つ事1分弱。

 集中している彼女の邪魔をしちゃ駄目だとは思いつつも、何か問題でもあったのかを訊ねることにした。


「お前が先日移動した範囲を探ってみたけれど……大丈夫、問題は無いわ。確かに指摘した場所に腕の立つ者たちもいるけれど、今は私に対して特に敵意を抱いているわけでも無いようね」


「ほぅ……」


 それはそれで怖い気がする。

 プロフェッショナル的な意味で。

 連中が強いのは分かっていたけれど、リアーナとかで対峙していた賊とはまた違った類なんだろう。


 反面、それならそれで、何も無ければ手を出してくるような事も無いだろうし、夜のお出かけも安全なのかもしれない。

 俺自身は、少なくとも王都ではその連中と敵対するような考えはないもんな。


「リーゼルには私から伝えておくわ」


「うん。ありがとーう。一応上着は目立たないのを着ていくよ」


「ええ、そうしなさい」


 よし!

 それじゃー、準備しないとな!


 セリアーナに一言断って、俺は【隠れ家】を発動した。


 ◇


 屋敷を出発した俺は、昼間のお出かけと同じ様に、通りを進んで貴族街と街とを隔てる門へと出た。

 夜とはいえ、門を守る兵たちもしっかりと仕事をしているが、昼間とは少々顔ぶれというかなんというか……雰囲気が変わっている。

 やたら強面だらけだった。


 昼間の兵たちは、もちろんしっかり鍛えてはいるんだろうが、どこかお上品な雰囲気だったんだ。

 そりゃー検問とはいえ、貴族街に出入りする者といったらその関係者だもんな。

 あまり強面で固めているんじゃ、ちょっと相手を威圧してしまうのかもしれない。


 だが、余程の緊急事態を除いたら、夜にここを出入りするような者はそうはいないだろうし、むしろ余計な者を近づけさせないためなんだろうな。


 ともあれ、その強面のおっさん兵士たちに挨拶をして、貴族街を出た俺はすぐに上へと飛び上がった。


 春の2月とはいえ、夜はまだまだ冷え込む。

 それも、上空ともなれば風もあるし、なおさらだ。

 着ているコートの襟を、ついつい引き寄せてしまった。


「【風の衣】があるとはいえ、やっぱり着込んできてよかったかな」


 屋敷を出る前に、【隠れ家】から引っ張り出してきたこのコートは、黒地のロングだ。


 夜とはいえ、深夜という訳ではないし、人の多いこの王都。

 しっかりと通りには人の姿が見えている。

 だから、もしかしたら宙に浮いている俺に気付く者もいるかもしれない。


 ってことで、このコートを着たわけだ。

 あくまで目隠しのために用意したんだが、思ったよりも普通にコートとして役に立ってくれた。


「さて……と、ほっ!」


 とりあえず、これからどういう風に見て回るのか、改めて考えることにするかな?


【妖精の瞳】とヘビたちを発動すると、眼下の様子を探ることにした。

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